鬼畜提督与作   作:コングK

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正直好きで書いてきたものですが、あまりにも時間がとられるのと、まだ設定が途中しか出してないのに、○○はどうなのですか等のネタバレに関する質問が多くなりこれを言うと分かるしなあと中途半端にお茶を濁すしかなく、困っておりました。作者自身のモチベーションの低下も激しく、途中で止めることも考えました。友人にそれはよくないと言ってもらった時に、このハンパもんがあ!と与作さんに言ってもらった気がします、ありがとう。

ご注意!! お読みいただいてから本編へどうぞ。
これからの展開は超ご都合主義です。始めから考えてはいましたが、んなあほなーーと思われて受け付けない方にはおすすめいたしません。細かい設定が気になる方は厳しいと思います。設定がぐだぐだでも続きが気になる方はどうぞ。

・七人の悪魔超人編の初回で出てきたプリプリマンが次回から全く影も形もないというのに耐えられる方
・谷底に落ちていった連中がいつの間にか復活しているという理不尽に耐えられる方
は平気かなと思います。

感想欄の方は時折読ませていただきますが、返信はいたしません。
しょうもない作品だわと思いつつお付き合いいただいている方はありがとうございます。イベント始まるのでとびとびになりますが、続けていきますのでよければお付き合いください。


第五十一話  「疑惑」

10:15。

 

定刻より15分遅れで行われることになった演習は一種異様な雰囲気に包まれていた。

いつも通りの様子を見せる神風型の3隻に比べて、緊張感の漂う江ノ島鎮守府の一行は、お互いに声を掛け合ったり、深呼吸をしたりしながら、艤装のあるドックへと向かっていた。

 

そんな中、一人マイペースに周囲に話しかけていたのが、英国からやってきた駆逐艦のジャーヴィスだ。彼女は江ノ島の面々に話しかけていたが、そのうちに飽きたのか、なぜか第四艦隊の艦娘達にも話しかけていた。

 

「あんた、随分と余裕ね。私たちと演習をやるってのに、どうなっても知らないわよ」

多くの艦娘がそっけない態度をとる中で、叢雲だけがその相手になったのは、己の艦隊を誇りたいという気持ちと、生来の面倒見の良さからくるものだろう。

「気遣ってくれて、Thank you!他の子は随分と無口だけど、あなただけは違うのね!」

「うちの艦隊では気持ちを抑えるトレーニングをしているからね」

「へえ。じゃあ、さっきうちのadmiralを撃った浦波なんかもその辺はばっちりなのかしら?」

「何ですって?」

叢雲の目つきが険しくなる。

「随分と皮肉を言うのね。それとも見てなかったのかしら。呆然としちゃってさ。前から決まってたらしいのに情けないわ」

「前から決まってた?すごい作戦ね!」

「偉大なる七隻と当たっても勝てるようにおたくの提督さんを狙うって策らしいわよ。でも、あの子や倉田提督を恨むのは筋違いよ。油断していた方が悪いんだから」

「勝つためなら何でもするってのが貴方達のスタイルなの?演習なのだからルールがあるんじゃないの?」

「私たちが船時代の訓練でも、相当本気になった結果お互いに衝突して沈みそうになるなんてことも起こしているし、深海棲艦を想定して演習するなら当たり前でしょ。負けられないんだから。中途半端に手を抜いて後悔するよりはいいんじゃないの?」

「なんとなく、貴方たちの扱われ方が分かったわ。ずっと研ぎ続けられてきた刃物みたい。他のことは考えるなと扱われて、尖っていっちゃったのね」

「何を言っているの?それが私たち艦娘の本来の役目でしょうが」

 きっぱりと言い切った叢雲を、ジャーヴィスは悲しげに見つめた。

 

艤装を身に着け、港内に改めて整列すると、審判役の海軍省の担当官がモニター越しに声を掛ける。

「それでは、演習メンバーの最終確認をする。大湊警備府神風型三隻、神風、朝風、春風。相違ないな」

「ありません」

 

「江ノ島鎮守府、雪風、グレカーレ、フレッチャー、ジョンストン、ジャービスで相違ないか?」

ありません、と雪風が答える前に、ジョンストンが大きな声を上げた。

「はあ!?ちょ、ちょっと、ジャーヴィス。なんで、あんたあたし達を見送っているのよ!演習よ、演習!!」

「Sorry!!ちょっと主機の調子が悪いみたいなの。本国から運んできてもらった間に機嫌が悪くなったのか、ぐずっているみたい」

「ええっ!?あんた、本当に色々と事件に事欠かないわねー。ごめん、雪風。そういう事らしいわ。あたしがその分頑張るから!」

「Thank you!持つべきものは理解のある相棒ね!雪風、いきなりごめんさい・・」

「いえいえ。ジャーヴィスちゃん、仕方ないですよ。それでは雪風達を応援していてください!」

「うん。それと、あたしも自分のできることをやるわ!」

雪風達のやりとりを見た、大湊警備府の面々はやれやれと呆れたように首をすくめた。

演習前に主機の調子が悪くなるなど、肩透かしも甚だしい。

 

「すいません、お騒がせしました。江ノ島鎮守府はジャーヴィスを除く4名です」

「分かった。ジャービスを除く4隻だな。それでは、演習地点に移動せよ」

「みんな頑張ってね!」

 

ぶんぶんと手を振っていたジャーヴィスは、皆の姿が見えなくなると、先ほどまでの彼女と同じ人物とはとても思えないような冷たい表情でため息をついた。

「どうにも気になることがあってね・・。みんなsorryよ」

                     

                     ⚓

「ほ、本当によいのか・・・」

 

担当官の隣で榊原はうめくように言った。いくらこの男が、金剛の息がかかっているとは言え、明らかに状況が異常すぎる。相手の提督を行動不能にした振る舞いも厳罰ものであるし、その上倉田まで気絶し、営倉へと送った。本来ならば15分の休憩の間にこの演習を中止にし、上層部へ報告し、その処遇についての指示を待つのが上官としては当然の対応と言えただろう。

 

だが、実際には榊原にはそれをしなかった。演習の中止を告げれば、なぜと理由を問われることは分かっている。大湊の面々はどうにか言い含めることができるが、被害に遭った江ノ島鎮守府の提督は艦娘派の人間であり、その彼を狙った倉田の行為を元帥は決して許しはしないだろう。

神風が言った倉田に任せた自身の責任にも思いを馳せ、彼の思考は自己保身にと走っていた。

どうすればこの場を収めることができるのか、浦波に責任を押し付けようか、訓練中の誤射として済ませようか、などありとあらゆることが頭を駆け巡り、迷いの中でついには演習が始まってしまった。

「私は演習の審判をせよと言われて来ただけですので。それに、先ほどの朝風の話には納得です。私は艦娘を、AIを搭載した兵器と思っていますので、指揮官がいなくても最適な行動がとれるのであればそれはそれでよいかと。それにしても、提督同士がお互いに力の自慢をし合って喧嘩の末ノックダウンとは懲罰を免れませんな」

 

担当官がその場にいなかったのをよいことに、榊原は両提督の不在を喧嘩のためと告げたが、これはあながち間違いではない。その程度が喧嘩の範疇を大きく超えたものであり、その後、浦波が江ノ島の提督を撃ったということ以外は。

 

(私はどうすればいいのだ・・)

本来であれば自分の側の人間ということで、不始末の全てを担当官に打ち明け、相談するのが筋だろう。

艦娘達を生き残らせるために、過酷な訓練を課し、彼女達を道具のように扱う。その考えをこれまでずっと貫いてきた。大賀のように私腹をこやす外道は別だが、大湊の提督達はその方針に従っている。それは深海棲艦との戦いに負けぬためであり、この国のことを考えての彼らなりの言い分でもある。

勝つという事に対して異様な執念を見せる倉田を重用してきたのも、自分達が負けるという事は、人類が負けるということであり、勝ち続けねばならないのが提督達の宿命だからだ。

 

圧倒的に演習相手を打ちのめし、叩き潰す。勝つためにあらゆる手を打ち、えげつないことも平気でする。その彼らのやり方を不自然とは思いもしなかった。

相手は人間ではなく、何でもありの深海棲艦だ。沈みそうになる駆逐イ級が特攻を仕掛けてきたり、味方もろともこちらを狙ってきたりすることもある。そうした敵を相手にしているというのに生半可な人間同士を想定した演習を行って何の意味があるのか。

 

(そう思っていた。今までは・・・)

これまでも艦娘達の表情はたくさん見てきた。苦悶・怒り・嘆き・悲しみ。それも人類を守るためと、言い聞かせ受け流してきた。だが、あの浦波の呆然とした表情を見た時に、彼の心の中に本当にこれでよいのか、という考えが初めて浮かび、彼女が江ノ島の提督を撃ったということを担当官に告げるのがためらわれた。

 

(私の考えは間違っていたのか・・。しかしどうすれば)

悩む榊原をよそに、演習が始まろうとしていた。

 

                   ⚓

ばっども~にんぐ。

いやあ、中々に最悪な目覚めだな。

 

『あ、お、おはようございます』

どことなく慌てるもんぷちに俺様は仏頂面をしながら、軽く伸びをしてみせる。

「うわっ、起きた!?ちょ、ちょっと待っていてください。上の者を呼んできます!」

俺様が起きているのに気づいて、医者らしい爺さんが仰天といった感じで部屋から出ていったが、そんなに驚くことかねえ。

 

事前に秋津洲の奴に話を聞いておいてよかったぜ。勝つためにはなんでもありの連中っていうから、そういうヴぁありとぅーどな連中なら、まず頭を潰そうと考えるよなと思ったら、やっぱりだ。

 

「俺様の補強増設にもんぷちを入れる作戦がビンゴだったがよ、お前なあ話が違うぞ・・」

提督を狙って潰すのなら、不意を装っての奇襲か、遠距離からの狙撃だと思い、どうしようかと頭を悩ませていた俺様にこの妖精女王(仮)はこう言いやがったのだ。

 

『お任せください、提督。私が懐に隠れていて、何かあればこの猫をバルジ代わりとしてガードします!!』

「ほお。そんな面白機能がその猫にはあったのか。そいつでいこう」

これまでのこの妖精女王のそこそこある実績を買った俺様の英断だったが、まさかそれが裏目に出るとは思わなかった。

「その猫がガードするって話だったじゃねえか。普通にぷすっときやがったぞ!どうなってんだ」

『す、すいません。受け止めにいったんですが、こいつがよけまして・・・』

もんぷちが手元で伸びている猫を持ち上げる。

『で、でもでもその代わりに寝ちゃった提督を起こしたでしょう?』

何かあったら頼むとは言ったが、こいつ、うちのぼろ鎮守府を立て直した例のぐるぐる技を使いやがったのか。

『いえ、それとは少し違いますね。ざめは!と言いながら、この猫を提督に叩きつけるんです!』

はあ?なんだ、そりゃ。お前、ただ普通に叩いて起こすのとどう違うんだ!?ふざけてやったんじゃねえだろうな。

『ち、違いますよ!これはちゃんとした妖精女王の技なんですよ!』

 

「ふん。まあいい。時間が惜しいから行くぜ」

どうもこいつの日頃の行いからして疑わしいが、それじゃあ、軍医のじいさんもちょうどいなくなったし、野暮用に行くかね、とベッドから立ち上がった時だった。

 

開けっ放しになった医務室に。

「ダーリーーン!!」

そう言いながら突っ込んできたのは見覚えがない金髪のがきんちょ。

だありん?誰が?え!?俺様?バカを言うなよ。俺様はロリコン友の会の会員じゃねえぞ。

 

「おい、誰だお前は。俺様はお前のだありんじゃねえぞ!」

「ダーリンはダーリンよ。だって、あなたキトウヨサクでしょ!あたしは英国から来たJ級駆逐艦のジャーヴィス! ジョンストンと一緒についさっき着任したわ!」

「ジャーヴィス?ああ、昨日大淀が言っていた奴か。本当に着任しちまったんだな・・」

 

ここまでのいい流れがぶつりと切れちまったな。短い間だが、いい夢見させてもらったぜ。

遠くを見る俺様に、面白くなさそうに頬を膨らませるジャーヴィス。

「むう!あたしは貴方の手伝いにやってきたのよ!もっとありがたがって欲しいわ!」

「ありがたがるって、がきんちょじゃねえか。何を期待すりゃいいんだ」

「そりゃ、もちろんあたしの名探偵としての能力よ!」

おいおい。英国だからって、シャーロック・ホームズがらみで自称名探偵ってかあ?随分と安直なキャラ付け設定だな、おい。

 

「ひっどーい!こう見えても、あたし知ってるんだから!」

ジャーヴィスは俺様を見ると、すっと目を細めた。

 

「ダーリンがわざと撃たれただろうってこと」

「何っ!?」

俺様としたことが余りの驚きで声を上げちまったぜ。見え見えの反応に、ジャーヴィスの野郎は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「だって普通に考えればおかしいわ。あたしたちは艦娘よ。銃弾如きではどうにもならない。なのに、ダーリンは雪風をかばいに行った。無意識の優しさかなとも思ったけど、米国とのやりとりを見ていた限りでは、何か備えがあったと考えるのが普通じゃない?」

『鋭い!さすがは、彼の国の出身ですね!そうです。私がその重大な備えを任された仮称もんぷちです』

何が仮称だ。こいつ、未だに自分の名前に不満を抱いてやがるのか。おまけにお前、その任務を失敗しやがったじゃねえか。だが、このジャーヴィス、なかなかに鋭いな。

 

「でも、一つ疑問があるわ。なぜその備えがあることを雪風達は知らないの?あの子達の動揺ぶりときたらないわよ。見ていて痛々しいくらい」

「それが俺様の狙いだからだよお。俺様自身がいなくなるのがな」

「え!?」

 

目を見開くジャーヴィスに俺様は説明する。

敵さんが俺様に十中八九何かを仕掛けてくると分かっており、それを都合よく利用して、この演習を始めから雪風たちだけで行わせるつもりだったと。

「ど、どうしてそんなことを?それって普通の状態じゃないわ!」

「お前が言うのは分かるんだがよぉ。こいつばっかりは俺様も悩んだ結果でそうしているからな」

 

ここの連中のように勝つために何でもありと考えるのが深海棲艦どもだ。そして、奴らはどんな形で襲ってくるかも分からない。大事なのは何かあった時にどのようにするかという対処の仕方。

駆逐ナ級や鎮守府近海での戦闘を終えて分かったのは、雪風達は俺様や時雨の指示を聞き過ぎるということだった。時雨や俺様とのトレーニングにより戦闘力は上がったが、戦況を読む状況判断を時雨や俺様に頼りすぎる。

 

「でも、それって普通のことでしょう。熟練の艦娘がいれば。その判断に従うのがベストじゃない?」

 

出た出た。こいつらの軍隊論理が。兵隊だからって、上の命令に唯々諾々と従ってい

ればいいってか?上の命令が間違えていたらどうするんだよ。そんなの第二次大戦の時に山ほどあったんじゃねえか。色々な仕事だってそうさな。大抵、上の連中の指示っていうのは現場を無視して突拍子もないことを言いたがったり、定石に走りたがったりするだろう。第一熟練の兵士だからって間違えることはない、と考えること自体がすでに誤りじゃねえか?

 

「大切なのはてめえで考えることだろうが。俺様や時雨に頼る?何かあって自分達で考えなきゃいけなくなった時に途端に詰むぜ、そいつらは」

 

判断を他人に委ねるのは簡単だ。てめえで考えなくていいし、責任もねえから。

だが、今後の戦いではそんなことも言っていられない筈だぜ。幸か不幸かうちの鎮守府には偉大なる、なんて大層な名前で呼ばれているのが二人もいる。だが、それは裏を返せば今のうちに矯正しておかないと、ずっとそいつらに頼っちまう環境だってことだ。そりゃ、相手はその筋では有名な連中だからな。その指示に従っていると言えば聞こえはいいだろうがな。

 

「つまり、ダーリンは雪風達を強化したくてこうしたってこと?」

「まあな。多少スパルタだが、ちょうどいいタイミングだとな。相手の提督をどうしようかと思ってたが、ちょうど都合よく襲いに来てくれたんで動けなく出来て手間が省けたぜ」

「成程。ねえ、ダーリン、ちょっとちょっと」

 

なんだ、こいつ。手招きなんかしやがって。腹でも痛いのか?まさか、おんぶしろとか言わないだろうな。

俺様がジャーヴィスに合わせてかがんだ時だった。

ごちん!!

 

「痛ってええええ!!」

この野郎、俺様の頭に向けて、頭突きをかましやがった。

 

「何しやがる、この野郎!!」

「あたしの灰色の脳細胞が詰まった頭突きはどう!?反省よ、ダーリン!!いくら雪風達のためと言っても、やりかたが悪すぎるわ!!」

ごちん!!!!

二発目だと!?なんだ、こいつ。すげえ石頭だぞ。

「だから、痛いっていってるだろうが!」

どういう頭の造りしてるんだ。まるでうちのばばあの拳骨じゃねえか。

 

「どう!?反省した?雪風達が戻ってきたら謝るのよ!!」

「はあ!?なんでだよ。あいつら、俺様がいないからノビノビしてるんじゃねえか。そりゃ、提督がいなけりゃ、不安だったかもしれねえがよ、それはあいつらが乗り越えなきゃいけねえこった」

 

ジャーヴィスは深く大きなため息をついた。

「ねえ、妖精さん。うちのダーリンってトウヘンボクー?ってやつかしら。これって本気で言ってるの?それとも照れ隠し?」

『提督はご自分に対する他人の気持ちにとても疎いんですよ!時雨さんがしょっちゅう愚痴ってます!』

「やっぱり。ねえ、ダーリン。みんな貴方に危害を加えた第四艦隊の艦娘に対してすごい怒ってて、大丈夫かって気の毒なぐらい心配して泣いてたのよ。ジョンストンが励ましてくれなかったら、きっと立ち直れなかったと思うわ。今だって無理してるけど、大分引きずってる」

「はあ!?なんで、またそんなことになってやがるんだ。自分達の提督がやられたってのはわかるがよお。雪風の奴に後は任せるって言っといただろうが。」

「その雪風自体がすんごいショックを受けてたわよ。少しはみんなが貴方を思う気持ちを自覚しなさい!!」

「あの初期艦め・・。後は任せるって言ったろうが・・・。おい、もんぷち。お前例の通信機持ってきてるだろう?演習会場に行って、一方的すぎてやばそうなら連絡してくれや。ったく、がきんちょどもが」

『了解ですが、提督はどうするんです?さっきの野暮用ですか』

「ああ。それじゃな、ジャーヴィス。俺様はこれからちょいと行くところがあるから、お前はもんぷちと会場に行っているといいぜ」

 

俺様の提案をジャーヴィスは拒否した。

「Non、あたしもダーリンについて行くわ!営倉に行くんでしょう?」

なんだ、こいつ。どうして俺様が行こうとするところが分かるんだ。

 

「だって話を聞いていて違和感があったんだもの。第四艦隊の叢雲はこう言っていたわ。元々は偉大なる七隻を相手にするときのために、ダーリンを撃つ策だったらしいって」

「ほお。そんなことを考えてたのか。そいつは実行されなくてよかったな。何となくだが、時雨の野郎がぶち切れそうだぞ」

「あたし達艦娘が人を狙う?その時点で何かおかしいとは思ったわ。みんな動転しちゃって気付いてないみたいだけど、大変な問題よ?人類を守りたいと思い顕現した艦娘が、人間を害することなど通常ありえはしないもの。それこそ、提督の横暴が過ぎ、心理的なストッパーが外れた、いわゆるブラック鎮守府ならばそれも分からなくはないけどね」

 

いつか、北上が言っていた艦娘の魂論を思い出すな。あいつの考えを元にするならば、人を守りたいという善き魂が怒りや恨みで汚れ、悪い方に引っ張られるということだろう。人類を害す深海棲艦側に魂が行くという事は、当然人を害することも可能という訳か。

 

「でも、あの第四艦隊の艦娘にはそうした様子は見られなかった。彼女たちはある意味望んで道具足らんとしている。だからこそ、おかしいのよ。なぜ、浦波は提督を撃った後呆然としてたの?」

「問いかけが名探偵っぽいな。俺様もミステリーは嫌いじゃねえ。それがあり得ない事態だったからじゃねえか」

「雪風めがけて撃ったのに、提督がかばいに出たから?でも、ダーリン。それは元々予定されていたことなのよ?シチュエーションが違っただけ。だったら呆然とするのはおかしいわ。」

偉大なる七隻がいるか、いないか。そして、提督同士が戦っていたという状況。

違いはそれだけだとジャーヴィスは言う。

 

「成程。じゃあ名探偵よぉ。お前はそれは何が原因だと思うんだよ」

我が意を得たりとジャーヴィスはにっこりと微笑んだ。

 

「ダーリンを撃ったのが、彼女、浦波自身の意思とは無関係だったからよ」

「確信めいて言うもんだが、あてはあるのか?」

「ええ。ひょっとしたらというのはあるわ。つい最近、あたし達はそれを目にしたばかりだもの」

さすがの俺様も純粋に感心しちまったぜ。なんだ、こいつ。本当に名探偵じゃねえか?俺様だって以前経験があるから、撃つ時の浦波の表情から何となくそうじゃねえかと察したってのに。推理だけで考えたんだとしたら、こいつは結構使えるかもしれねえぞ。

「いいだろう、名探偵。一緒に謎ときに向かおうじゃねえか」

「OK!あまり気分はよくないけれど・・・。」

 

部屋を出ようとして、いきなりジャーヴィスは立ち止まった。

「あ、そうだ、ダーリン。ちょっと気になったんだけど、その額の文字はおしゃれなの?」

「額に文字だあ?」

『ぎくっ!!そ、それでは提督。私は会場に行っていますよ!』

 

ぴゅうといなくなったもんぷちをよそに、ジャービスが出したコンパクトで確認をして俺様は驚いた。

「なんだ、この中ってのは!おい、もんぷち。てめえ、俺様が寝ている間に悪戯しやがったなああ!!ぶっ殺す!!」

「あはっ!あの妖精さん、随分お茶目ね!」

よくある肉じゃなくて中にする辺りは書いた奴のこだわりを感じるが、この俺様相手にやるとはいい度胸だ。演習終了後覚悟してろよ。お前の顔面でねぷた祭りを開催してやるからなあ!!

 

ごしごしとタオルで額をこすりながら、俺様は気持ちを新たにした。

 




次回予告(仮)
「遂に始まった演習本番。神風型春風の猛攻になすすべもないグレカーレ!!己の無力さに無念の臍を嚙んだ時、彼女の身に変化が起きる!!

   次回鬼畜提督与作第52話『見よ、北東の風は吹く!!』
グレ「あたしのことを無視するなあああああ!!」
君は艦娘の涙を見る・・・」



※予告は変わることもあります。

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