前話にも書きましたが、ご都合主義全開・今回は独自要素全開ですので耐えられないという方は無理だと思います。今後の展開は人によっては胸糞展開に感じる恐れがあります。注意してお読みください。タグの男塾要素というのは荒唐無稽、学内戦でも刃物を持って死合う漫画の要素あり、ということです。分かりづらいとの知人の指摘から追加して書いときます。
いや、間が長く空いたのは完全にシロッコのせいです。戦力をけちったからか甲で結構掘ったけど出て来ず、乙に落としてようやく出てきました。100回くらいは行ったと思います。甲と乙の差が激しすぎますよね。
出てきたのを見てびっくり。あれ?これってル〇キーニっぽくない?というのが素直な感想。黒髪だし、眠そうだし。
今グレカーレの二隻目を掘ってます。
シロッコ来たのが嬉しくて番外編も書いてしまいました・・・。
※誤字報告いつもありがとうございます。
夏が近い陸奥湾の風は暖かく、並んで行く江ノ守府の艦娘達はお互いに気を引き締めようと声を掛け合った。
「方位九十、ヨーソロー!」
雪風の掛け声に合わせて、一斉に隊列を組む。
着任順に単縦陣。今日合流したばかりのジョンストンは姉のフレッチャーの後ろだ。
「あたしも一杯訓練してきたつもりだったけど、姉さんたちもすごい訓練したのね。さすがは偉大なる七隻がいる鎮守府だわ」
「ふふ。時雨さんたちだけではなくて、うちは提督が訓練をつけてくださいますから」
「えっ!?ヨサクが?人間がどうやってあたし達に訓練をつけるの?」
「ジョンストンの言う通りなんだよねー。普通はそう思うよ。あたしたちのテートクは普通じゃないから」
あははと笑うグレカーレはどこかぎこちない。
「大丈夫かな、テートク」
「きっとしれえは大丈夫ですよ。今頃起きてて、『がきんちょどもが!』とか言ってそうじゃないですか」
そう言ってから、雪風は大湊警備府の方を見た。
江ノ島鎮守府の艦娘は、今現在陸奥湾を航行中だった。大湊警備府の演習区域となっている陸奥湾には、海鼠島という人工島が作られ、島嶼防衛の訓練場所として活用されていた。
その海鼠島周辺に展開する神風率いる守備隊の艦娘を撃破するというのが、江ノ島鎮守府の演習勝利条件だった。
「それにしても、あれ、本当に受けてよかったの?」
一番後ろからジョンストンが心配そうに声を掛けた。
話は少し前に遡る。
初期の頃の艦娘同士の演習は実弾と決まっており、そのために大破した艦娘が入渠ドックに列をなすということが珍しくもなかった。
その流れが変わってきたのはここ数年のこと。いわゆる艦娘派と呼ばれる人々が艦娘の権利の拡大を訴え、それがため模擬弾やペイント弾を使った演習も増え、海軍の一部からは艦娘の弱体化を懸念する声も出ていた。
ここ大湊警備府では、創設以来一貫して実弾を使っての演習を行っており、そのことは演習を行う江ノ島鎮守府の面々も元大湊出身の秋津洲から聞き、織り込み済みであった。
ところが、だ。
「特別演習、受けてみる気ある?」
神風の一言で事態は一変した。
「応急修理員を使っての演習?」
何を言っているのかと思わず聞き返したグレカーレは、己の冷静さに賞賛を送りたくなった。
応急修理員。ヘルメットをかぶった作業員の妖精達。身に付ければ、一度だけ艦娘の轟沈を回避することができるという。その希少性は高く、手に入れるためには相当な予算を割く必要があるというこの装備をわざわざ出してきたその意図は明白だった。
「お互いに沈め合うつもりでやろうってこと?」
「ええ、そうよ」
朝風はさも当然だというように頷いた。
「そうじゃなきゃただの演習じゃない。そんなのやってもトレーニングとあまり変わらないし」
「あくまでも演習ですよ?殺し合いをする訳ではありません!」
フレッチャーの常識的な意見を、春風は否定した。
「これは異なことをおっしゃいますね。私たちが深海棲艦と行っているのは、つまるところその殺し合いです。そのために実弾を使い、実戦を想定して演習を行う。それほど妙なことでしょうか」
「むしろあたし達からすれば他の鎮守府の演習はそれで大丈夫なの?て感じなんだけどね」
深海棲艦との戦いには負けることは許されない。敗北は人類の終わりを意味するからだ。そのために日々厳しい訓練をするのは当然で、お互いに相手を沈めるつもりの気迫でいなければ狡猾な深海棲艦に足元をすくわれる。
はっきり言って、他の鎮守府は生温い。朝風はその甘さを指摘した。
「昨日のうちにあなたたちの艤装には補強増設を施してある。特別演習を受けるのであれば、そこに応急修理員を乗り込ませるわ。特別演習を受けなければ、受けなくても構わないわ。その場合はそうね。増設した部分はうちと演習した記念だと思ってちょうだい」
と神風。
「あたしがおかしいのかしら。勝手に他の鎮守府の艤装をいじくるってどうなの?」
ジョンストンが隣のフレッチャーを見るが、困惑するばかりだ。
「あたし達としては、最大限の歓迎よ。補強増設も応急修理員もこちら持ちだからね。で、どうする?よしておく?」
「他の鎮守府のように模擬弾を使っての演習でも構いませんよ。どれを選ばれてもお相手しますから」
朝風と春風はどちらでも構わないと言いたげだった。
ちょいちょいと雪風の袖をグレカーレが引っ張った。
「どうするの?雪風」
「普段ならしれえにどうするか訊くのですが・・・」
雪風は押し黙る。判断を仰ぐ相手はこの場にいない。任されたからにはしっかりしないとと真剣になるが、いかにこれまで判断を他人に委ねてきたのかと思い知らされる。与作や時雨の判断に誤りはなく、これまではそれに唯々諾々と従えば事足りた。だが、今は己が判断をしなければならない。困った彼女は、提督ならばどうするかと考えるしかなかった。
「本当にどちらでも構わないのよ、雪風。あたし達はどれを選んでも手を抜かないから」
じっと手の平を見ながら、神風は言った。
「怖くはないんですか?いくら応急修理員がいると言っても、沈む感覚を味わうのですよ」
ふと雪風は神風達の様子が気になった。
「もう慣れたわ。その感覚を克服しなければ、勝てないと思っているもの」
「どうして、そこまで勝つことにこだわるんです?」
「勝たなければ、負けて沈むだけよ。沈んだら何も守れないでしょう。違う?」
神風はじっと雪風を見た。
勝って、人類を守る。艦娘としてそれ以上に大事なことがあるのか。
「確かに勝つことは大事だと思います。雪風もみんなを守りたいです。でも・・・神風さんたちのやり方は違うと思います・・・」
雪風は何度も首を振った。
そして、決断する。この神風たちにはただ話すだけでは伝わらない。秋津洲が矢矧と拳を交えたように、荒っぽいやり方が必要だ。
「みんな、ごめんなさい・・。この特別演習、受けようと思います」
悲痛な面持ちで、雪風は皆に己の思いを伝えた。
嫌な人は抜けてください、と雪風に言われても抜ける艦娘は誰一人としていなかった。
沈むのは怖い。だが、それよりも一人ででも戦おうとする仲間を見殺しにすることはできない。
「さすがに、こんな距離じゃ見えないわね」
膝をがくがくさせながら応急修理員を載せていたグレカーレはふっきれたように、周囲を警戒する。
「敵艦隊より通信です・・。えっ!?」
フレッチャーだけでなく、皆が無線に耳を傾け、声を上げた。驚くのも無理はない。神風の艦隊からの通信は、それぞれの艦がいる位置についての情報であり、通常であれば偵察機を出して探らなければならないものだ。
「これは、どういうことでしょう・・・」
メモした神風達の艦隊の位置取りにフレッチャーが首を傾げる。
海鼠島のすぐ近くにいる神風を中心に、両翼に春風と朝風が広がり、ちょうど三角形を描いている。
「しれえがこの間やっていた『三国志』の鶴翼の陣、みたいですね」
「こんなの気にせず、一人ずつ倒していけばいいでしょ」
というジョンストンにフレッチャーはいいえと口を挟む。
「でも、向こうも当然そのことは分かっている筈ですよ。なのに、なぜこんなにお互いが離れているのでしょう」
「テートクはあいつらが強いって言ってたじゃない。あたし達が一人ずつ狙っても倒されないと思っているんじゃないの?」
「わざわざ場所まで教えて挑発ってことね。上等じゃない!!」
「本当にそれだけでしょうか・・・」
相手が兵力分散の愚を犯しているのなら、それを上回る戦力でもって一隻ずつ各個撃破していくのが定石だ。だが、それが与作も認める強敵の場合、その前提は覆る。
「もし、これが時雨ちゃん達だったらと考えてみてはどうでしょう」
「時雨さんたちだったら、ですか?」
「そんなの決まってるじゃない。あたし達が4隻ががりで攻撃しても当たらないわよ」
グレカーレがうんざりして答えると、
「待ってください!」
突然フレッチャーがメモを見ながら叫ぶ。
「私たちが誰か一人に集中して攻撃している間、後の二人はどうしているのですか?時雨さん達ならば、ただじっとその場にいる訳がありません」
雪風が我が意を得たりと頷いた。
「雪風もそう思います。一人を倒しそびれている間に、他の二人がそのまま待っている筈がない。恐らくは数に勝る雪風達を逆に包囲しようとしてくると思います!」
「ありうる・・・。すんごくありうるわ・・」
「嘘!?こちらの方が数的に優位じゃない!」
「ジョンストン、時雨たちが相手って考えると、数の優位なんかないに等しいわ。・・・だからあいつら、わざと居場所を教えたのね」
「普通に考えれば、各個撃破を選びます。一人でさえ手に余る相手に不意を突かれては、混乱は必至です・・・」
「じゃあ、どうするっていうのよ、姉さん。今の話じゃ、中央に位置する神風を狙っても、両翼から囲んでくるでしょう?」
演習では、艦隊の損害率によってその勝敗が決まる。特にポイントが高くなるのは旗艦に損害を与えた時だが、当然相手もそのことは理解しており、旗艦をかばう行動に出るだろう。
「囮を出して誘い込むってのはどう?」
「多分乗ってきません」
グレカーレの提案を雪風は却下する。
「そもそも囮を出しても、他の二人が合流しては3対2。囮がやられるようなことがあれば、同数になってしまいます」
「難しい問題ですね・・・」
「じゃあ、どうすればいいのよ!」
じれったそうにジョンストンが叫んだ。
「テートクだったらどうするか考えてみたら?」
「しれえだったら、ですか?」
う~んと雪風は頭を捻り考える。
恐らく、己の提督ならば相手がどう動くかを考えて、柔軟に作戦を決めるだろう。
そしてそれは、きっと普通の人間ならば選ばぬものに違いない。
初期艦として与作の思考を頭の中でトレースし、やがて決める・
「これで行きましょう!」
フレッチャーのメモにそれぞれの動きを付け足すと、雪風は作戦開始を告げた。
⚓
海鼠島の神風からすると右翼に陣取る春風は、時折吹く風のいたずらに豊かな髪を揺らされながらも置物のように微動だにしなかった。
「おや、単艦ですか」
成程成程と小声でつぶやきながら、やってきた艦娘を見やる。
「当然!あんたにはさっき羽交い絞めにされた借りがあるしね!」
びしっと指をさしながら答えたのはグレカーレだ。
「この春風を陽動とはいえ一隻で相手しようとは・・。蛮勇は己の首を絞めますよ?」
「そんなのやってみなきゃ分かるもんかあ!!」
挨拶代わりの砲撃。
だが、春風はあらかじめそう来るのが分かっていたかのようにわずかに避けて躱す。
「分かります。今までそうした方々を見てきましたから」
続けて二発目三発目。
確実に当てようとして放つ砲撃だが、簡単に見切られる。
「う、嘘でしょ・・。何、こいつ・・」
「大したことではありませんよ。目は口ほどにものを言う。見たまま狙いをつけていれば、貴方の視線を追えば、どこを狙っているか分かります」
「なっ!?」
いつの間にかグレカーレの横に移動した春風は、
「お手本を見せましょう」
そう言うや、正面を向いたまま砲をグレカーレの方に向けた。
「くうううううう!!!」
慌てて回避を試みるが、艤装に当てられ、小破状態に陥る。
「おや、その程度で済みましたか。さすがは偉大なる七隻のいる鎮守府」
春風の感心したような呟きはグレカーレの気持ちを逆なでするに十分だった。
「どれだけあたし達を下に見てるのよ、あんた達!」
「いいえ、とんでもない。今のは艤装を撃ち抜くつもりでやりましたので純粋に感心していますよ」
「あ、あんたねえ・・・」
グレカーレは以前時雨が言ったことを思い出す。深海棲艦は艤装を撃ち抜き、動けなくなったところを嬲り殺しにすると。この春風、穏やかそうに見えてやることは相当えげつない。ここまでの言動から普通じゃないとは思っていたが、まさかここまでだったとは。
「演習だってのに、えげつないことするわね・・」
「仰ることがよく分かりませんね。えげつないことのどこがいけないことなのですか?」
春風は心底分からないと言った顔をする。
「先ほども神風姉さまが話をされていましたが、私達が負ければ人類の敗北なんですよ?勝つためにあらゆる手を打つべきでしょうし、それを常に心がけるべきです」
「だからって限度ってもんがあるでしょうが!テートクを撃つなんてふざけんじゃないわよ!!」
一度は胸の内に仕舞っていた激情が姿を見せる。元々グレカーレは仲間思いの艦娘だ。与作本人はガキだの児ポロリだのと常にからかってくるが、異国の地で建造された自分がこれまで楽しく過ごしてこれたのはそのおやぢ提督のお蔭だと、彼女自身は面と向かって敢えて口には出さないが強く思っていた。
その提督が倒れた時。
グレカーレは己の中で凄まじい怒りが渦巻くのが分かった。
これはよくない。何とかこの怒りを静めないといけないと、自分の中の理性がそれを押しとどめようとしたものの上手くいかず。
ジョンストン達が来なければ、きっと自分は一人でも第四艦隊に喧嘩を売っていたかもしれない。
目の前で怒りを沸騰させるグレカーレを見ても、春風は涼しげな顔をして言った。
「そういう作戦ですから仕方がありません。敵の指揮系統を乱すのは常套手段です。それを咎められましても」
「どうしてあんた達はそうなの?戦うことばっかりで、少しは心が痛まないの?」
グレカーレの精一杯の問いかけ。だが、返ってきたのは想像もできない言葉だった。
「心ですか?不要ですよ。戦闘になれば、相手を倒すことだけを考えるべきです。余計な感情は判断を鈍らせますよ」
「そんなの、ただの戦う機械じゃない!あたし達は艦娘よ!?」
「ええ。艦娘という兵器です」
距離を詰めてくる春風に、グレカーレは叫んだ。
「あたし、あんた達が大っ嫌い!!!」
⚓
「あなたの相手は私です!」
左翼に位置する朝風の前に現れたのはフレッチャー。
「へえ、単艦とはね。さすがはかのフレッチャー級のネームシップってとこかしら」
「そこです!!」
「挨拶もそこそこに撃つとはね」
砲撃を躱すや、朝風はぺろりと唇を舐めた。
「いいセンスしてるじゃない。今度はこちらから行くわよ!」
「くっ、速い!!」
旧型とされる神風型とは思えぬ朝風の速度に、フレッチャーは翻弄される。
「明らかにこちらの方が新しい筈・・・。なのに!」
「艦が古かろうが新しかろうが・・」
「うっ!!!」
「強い方が生き残り、弱い方が沈むだけよ!!」
一瞬で懐に入られたフレッチャーを襲ったのはほぼ零距離からの砲撃。わずかに身をよじり、幾分か直撃を避けたのは演習が決まってから取り組んできた格闘訓練の賜物か。
だが、しかし・・。
「へえ。やるわね。あの距離の攻撃を中破に留めるなんてね。訓練の成果かしら。それともただ運がいいだけ?」
「提督の訓練のお蔭です・・。それに、まだ私は戦えますよ!」
「上等よ!」
朝風は極上の獲物を見つけたと、にんまりと笑みを浮かべた。
⚓
モニターが3分割され、神風の前に雪風とジョンストンが現れたことが分かると、榊原は衝撃のあまりうめき声をあげた。
「さ、3か所同時攻撃だと?いや、中央突破作戦とも言うべきか?」
中央を突破しようとする本体が囲まれぬように、左右の兵力が敵の両翼を分断し、その意図をくじく。その隙に、槍の穂先となって本体は敵本陣を突破する。古代ローマ時代より続く戦術の教科書のお手本のような戦い方だ。
だが。
「相手はあの神風達だぞ?正気なのか!」
伝え聞く偉大なる七隻は、一隻で連合艦隊に匹敵する強さだという。
神風達がそこまでいっているかは分からない。
けれど確実に言えるのは、一隻で通常艦隊に勝利したことは何度もある、ということだ。
それほど一騎当千の彼女たちを。
「一隻で引き受けるだと!?ありえない!」
これまでも腕自慢の艦隊を幾度も同じやり方で神風達は叩きのめしてきた。数で劣る神風達だが、その強さは折り紙付きだ。分散した様子を見せつければ、餌に食らいついたかのように多くが各個撃破を選ぶ。そこを他の二隻で囲めば、元々一隻でも強い彼女たちが負けるわけがない。
「成程。それぞれ両翼に囮を出し、残りが旗艦を狙うという作戦ですか」
担当官は面白そうに言うが、榊原はそれどころではない。
(囮だと?馬鹿が。あいつらを相手にだぞ。囮というより覚悟を決めての足止めに決まっているだろうが!)
先ほどの波止場での様子から、江ノ島鎮守府の艦娘達が神風達の強さを正確に把握しているだろうことは明白だった。
「それにしても、いくら優秀な兵器にするためだと言っても、轟沈ありの特別演習とは・・・。やりすぎなのでは?」
苦い顔をする担当官に対し、榊原の傍にいた参謀が手元の端末を使ってデータを見せる。この五年あまりで使ったのは四回。他の鎮守府と同程度であり、規模が大きく多大な戦果を挙げている大湊からすると、決して多いとは言えない数だ。
「そのことによって上がっている戦果にこそ注目していただきたいものですな。轟沈するかもしれないという恐怖と戦うことによって艦娘は成長します」
「・・・・」
参謀の語る言葉は、これまで榊原が信じて行ってきたことだった。
艦娘の権利が拡大していると言っても、あくまでもこの国での書類上の艦娘の扱いは船、道具だ。それを人として扱うか、道具として扱うかは各鎮守府、各提督によって異なる。
倉田程極端ではないが、大湊警備府全体が艦娘を道具として扱う提督の集まりだ。有事において動揺することのないよう、艦娘達に徹底的に精神的・体力的なトレーニングを積ませ、優秀な道具となるように仕立て上げる。
それは全てこの国のため、ひいては艦娘のためとの榊原の思いがあってこそのことで、これまでの彼はそのことを微塵も疑いもしなかった。
(口先だけで国防を語る者の何と多い事か。俺はそうはならない!)
20年前。鉄底海峡より帰還した7隻の姿を見たときの衝撃は未だに榊原の脳裏に焼き付いている。見目麗しい、中には幼子のような姿をした原初の艦娘達。当時海上自衛隊に所属していた榊原にとってその時の何もできなかった己への無念さは計り知れぬものがあり、今後同じようなことを繰り返してはならないという並々ならぬ決意がそこにはあった。
勝たなければ人類は負ける。艦娘達も沈む。
情け容赦のない訓練をしようと道具扱いしようと、全ては同じ悲劇を繰り返さないため。
(そのためには例え人非人と呼ばれても構わない。)
それほどの思いをもって進んできた20年なのだ。
それなのに。
どうして、あの江ノ島の艦娘達を見ると、頭がずきずきと痛くなるのだろうか。
「おや、春風とあのイタリア駆逐艦は決着がつきそうですよ」
担当官の呟きに、榊原はモニターに目を向け、そして驚いた。
⚓
黒煙を上げ、その場にうずくまるグレカーレに対し、春風は傷一つ負っていない。
「もう十分でしょう。それでは、他の方のお相手を致しますので、失礼します」
去ろうとする春風に体ごとぶつかるようにそれを押しとどめるグレカーレ。
「行かせないわよ」
「ふむ。てっきりあなたを囮として、他の方が私を囲むのではと思っていたのですが、どうやら違うようですね」
通信で現在の状況を確認すると、呆れたように春風は呟いた。
「両翼を足止めしている間に中央突破を仕掛けるというのは、よくある戦術ですが、両翼に向かう戦力が弱ければ数の少ない中央が結局は囲まれるだけですよ?」
「そうよ。あたしはあんたより弱い。悔しいけどそれは間違いない」
「でしたら、この辺りで抵抗を止めたらいかがですか。無理をして怖い思いをする必要はないでしょう」
「あんた達にしてはお優しいことね・・。どういう風の吹きまわしかしら」
「グレカーレさんはイタリアの駆逐艦です。あまりやり過ぎて国同士の関係が悪くなってもいけません。それにもう艤装は使い物にならないでしょう?」
春風の言う通りだ。主砲は潰され、魚雷も打ち切った。誰が見ても分かる大破状態。背負っているのは艤装ではなく、もはやただのスクラップだ。
「艤装が使い物にならなくたって、あたしはまだまだやる気よ」
近づいてくる春風に対し、ファイティングポーズをとるグレカーレ。
「格闘技ということですか。深海棲艦相手に打つ手がなくなった際の判断としては正解です。が、艦娘同士の演習ではそれは悪手ですよ」
「はいはいそうですかっ!!」
グレカーレの拳が空を切る。
瞬時に主砲を収納した春風はそのままグレカーレを掴もうとするが、躱され、意外そうな目をする。
「おや、どうやら格闘経験は本物のようですね」
「うちのテートクはすごいんだから!」
基本のワンツー。囮のフック。アトランタが提督と訓練するのが羨ましくて始めた格闘技の訓練だが、それが驚くほど活きていることにグレカーレは驚いた。
「これなら、まだっ!!」
「いけると思いますか?それは慢心です」
大振りになったアッパーをすかされた直後にグレカーレの腹部に掌底が叩き込まれる。
「ぐあっ!!!!!」
水しぶきをあげて体が二転三転し、仰向けに倒れる。
幸い主機はまだ動いてくれているが、もう大破どころではない。沈む寸前だ。
「よい素質を持っていると思います。その感情を捨て去ってしまえば、いい艦娘となるでしょう」
春風からすればそれは賞賛の言葉だったが、グレカーレにとっては酷い侮辱にしか聞こえなかった。
「・・・ざけんな」
「それでは私はこれで。他の所を応援に行きますので失礼します」
「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな、ふざけんなあああああ!!」
行きかけた春風はぴたりとその場にとどまった。
「あらあら。これは困りましたね。そんなに沈みたいのですか?」
「・・沈むのは怖いわよ・・」
駆逐ナ級との闘いのとき。絶体絶命のピンチで、時雨が来なければ恐らく雪風と共に沈んでいただろう。沈むという感覚は船時代のグレカーレにはない未知のものだ。ゆえに怖い。想像もしたくない。
けれど。
「あたし達の気持ちを不要と切り捨てるあんた達には負けられない。負けてやんない!」
ぐっと拳を握り、グレカーレは立ち上がる。
「やれやれ。駄々っ子のようですね。それでは遺憾ながら沈めさせていただきます」
ふうとため息をつき、春風はそんな彼女の方へ向き直った。
(あれ、やってみるしかない。)
かつてアトランタとの闘いで与作が見せた技、神速。艦娘である時雨も使えたという技。
限界以上の性能を引き出すまさに奥の手。
話を聞いて己の力不足を痛感していた彼女は、自分もできないかとこっそり夜中に何度も訓練した。
「一か八かで・・やってみる!!」
ゆったりと向かってくる春風に合わせて。
意識を集中させる。
かちり。
世界が灰色に包まれる。
一撃。そう、一撃だ・
素早く飛び込み、ありったけの力で拳をふるう。
「イタリア水雷魂を思い知れえええ!!!」
顎を狙った渾身の一発。
ゆっくりとそれを迎え撃つ春風は先ほどまでとその動きは変わらない。
(違う。おかしい!!)
限界を超えた世界では相手はいつもよりも遅く感じられるはず。
それが変わらないということは・・・。
すっと、素早く春風が動き、
「お見事。ですが、その世界は私も知っています」
無情にもグレカーレ最後の一撃が空振りとなる。
春風が先ほどと同じように掌底を叩きこもうとした時だった。
突然グレカーレの左側の主機が爆発し、海面に叩きつけられた。
「ううっ!!」
掌を突き出したまま、春風は倒れ伏すグレカーレに声を掛ける。
当たれば沈んでいたはずだ。限界を超えた挙動に主機が耐えられなくなったのか。それとも天が味方したのか。
「どちらにせよ運がいいですね。その様子では自力航行は不可能でしょう。助けを呼び回収してもらいなさい」
「行かせない。あんた達は間違っている」
「貴方は既に負けています。勝者が敗者の言うことを聞く必要はありません」
「ちょっと、待て!!待ちなさいよ!!」
まるで戦いなどなかったかのように涼しい顔で行こうとする春風の後ろ姿を見つめながら、グレカーレは悔しさに涙が止まらなかった。
時雨や北上とどんどんと強い艦娘が増え、負けないようにと雪風と共に訓練に励んだ。提督の役に立ちたくてアトランタのついででもいいからと格闘訓練まで行った。
でも足りない。目の前の艦娘はあまりにも強く、死ぬ気で取り組んだ時間など吹けば消えるようなものなのかもしれない。
だが、そのまま行かせる訳にはいかない。己の提督が何を一番大事にしていたのか。心を大切にしろと言っていなかったか。その提督の思いを踏みにじるような者たちを許すわけにはいかない。
(動きなさいよ、あたし。このままあいつを行かせたら、テートクが嘘つきになるじゃない!そんなの耐えきれんの?根性見せろっての!!)
グレカーレは自身に問いかける。
指一本でも動かせる。
沈むのは確かに怖い。だが、それ以上に我慢がならないことがある。
だったら、立ち上がるだけだ。
震える足に力を込めて。
立ち去ろうとする春風をにらみつける。
「それでは」
「待て、待ちなさいよ・・・」
「ごきげんよう、グレカーレさん」
「あたしの、あたしのことを無視するなああああ!!!」
グレカーレの体が光に包まれ、辺りに爆風が巻き起こり、轟音が大気を揺らす。
「何と」
光が収まった後に現れたのは軽巡並みに成長した姿のグレカーレ。
ロングだった髪はサイドテールに整えられ、これまでのワンピース姿から白を基調とした礼装軍服風の姿になっている。
そして何よりもボロボロになり屑鉄と化していた艤装が元通りだ。
「この状況で、なおも改二となって私の行く道を阻みますか」
「これが、これがあたしの改二・・・」
手の平を見つめ、グレカーレは呟く。
忌々し気に口元を歪める己に気づき、春風は言った。
「おかしいですね。不要だと思って捨てた感情なのに、私は今、明らかにあなたを見て苛立っています」
「ふふん。成長したあたしを見て、羨ましくなったんじゃない?」
「大人っぽく見えても、中身までは変わりませんね」
主砲を出現させ、戦闘態勢をとる春風。
「お相手します。貴方の意地とやらがどこまでか私も知りたくなりました」
「心を捨てただなんて言ってさ。全然そんなことはないじゃない・・」
どこか嬉しそうなグレカーレに春風は肩をすくめてみせる。
「そんなことはありません」
「じゃあそれでいいわよ!」
艤装の動作を確認し、新しくなった主砲を春風に向け、グレカーレは叫んだ。
「あたしはグレカーレアルトロ!!イタリア水雷魂、その目に刻んでいけえっ!!」
登場人物紹介
Grecale altro(グレカーレ アルトロ)・・・大戦を生き残ったグレカーレが、近代化改装され、対空性能の強化・最新レーダを積み込んだその後の姿。4スロ。
装備は
120mm/50単装砲改二A,mod,1940×2
Bofors 40mm四連装機関砲
SG-3レーダー
※装備はwikiとか見て調べてのなんちゃって。altroはイタリア語でその他の意味。戦後改装されたのと、ゴトランドのアンドラがその他って意味もあることから。
髪型は作者的には多くの議論を経てサイドテールにした次第。他候補はポニテ。服装は鹿島をイメージしてもらえれば。考えてたところで、イタリア駆逐主砲に変更があり、これ改二フラグじゃねと思ってます。でもそこは二次創作オリジナルで通す所存。だって早くパワーアップさせてやりたいのだもの!