鬼畜提督与作   作:コングK

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色々と忙しく随分と間が空きました。秋イベ?もE4は凶悪だし。いやーE4ー3さすがに沼ってます。戦車第11連隊がもらえた時くらいの難易度かなと油断してました。ボス前の連合艦隊ってふざけんなと思う今日この頃です。グレカーレや春風などネタにする艦が今回のイベントで活躍していると嬉しく思いますね。

ボスの警戒陣はまじふざけんなと思います。

いつも誤字報告ありがとうございます。


第五十三話 「艦娘とは」

群馬県館林にある多々良沼。

冬には白鳥が飛来すると言われるこの大きな沼では、今3人の艦娘が訓練の最中であった。

「それでは、神鷹さん。まず陰陽式で艦載機を発艦させてください」

「ヤー。神鷹航空隊、どうかお願いします!」

陰陽式により発艦した艦載機が、気持ちよさそうにひとしきりとんだかと思うと、神鷹が下げたカバンの中へと収まった。

「続けて、短弓式でどうぞ」

「は、はい。神鷹改二!!」

神鷹は慌てて改二になるが、なぜか短弓を上手く引くことができない。

「す、すいません・・。せっかく鳳翔さんに見ていただいているのに・・・」

恐縮し、しょげ返る神鷹に鳳翔は優しく微笑む。

「艦載機妖精の皆さんは神鷹さんに協力的なようですから、安心しました。後は慣れの問題ですね。素引きを行ってみましょう」

「スビキ?」

横合いからアトランタが口を挟む。

「矢をつがえずに矢の引き方・構え方を教わる弓道の練習のことです。話によれば神鷹さんは建造されていきなり改二になれてしまうとか。それでは肉体を上手く使えないのは当たり前です。このように構えてみてください」

鳳翔が弓を引く姿勢をお手本として見せる。

凛としたその美しさに神鷹は思わず見とれ、促されてからようやく構えをとった。

「そうですね。正十字となるように。それでは、神鷹さんはまずその射形を体に覚えこませる必要があります。これより矢をつがえる必要はありません。繰り返し、弓を引きその形を刻み込みなさい。弓が重くなり、持てなくなった時にはなしでも構いません。続けなさい」

「や、ヤ―・・・」

震える声で答えながら神鷹は言われた通りに練習を始める。

鳳翔は時折神鷹の形を直したり、アドバイスをしたりした後、傍らで控えているアトランタを見た。

「お待たせしましたね。ふふっ。どうしたんですか」

「い、いや。なんだか楽しそうだと思って」

「昔を思い出しまして・・。こんなことを言うと、あの子にまたばばあと言われるでしょうけど」

懐かしそうに鳳翔は空を見つめた。どことなく寂し気に見えたのはアトランタの目の錯覚ではないだろう。

「その・・。あたしの訓練もお願いします・・」

「はい。それでは今から私が艦載機を発艦させますから、それを狙ってみてくださいね」

ごくり、とアトランタは唾を飲み込んだ。

目の前にいるのは世界の空母艦娘の母たる存在だ。

その発艦を見られるなど、その筋の艦娘達からすればいくら積んでもおかしくないと言えるだろう。

ゆったりとしていながら、一部の隙も見出せない動きだった。

ひゅっと風を切る音がしたかと思うと。

「えっ!?」

気付いた時には、己の脇を発艦した艦載機が煽るように飛び抜けていった。

「嘘でしょ?」

アトランタは愕然とした。

(いつ放ったっていうの?ま、まるで気が付かなかった)

「どうしました?敵艦載機はまだ健在ですよ!」

鳳翔の言葉に、気持ちを引き締め対空戦闘に当たる。

「対空戦闘用意。そこっ!!」

狙いすました一撃。だが、鳳翔の放った艦載機はまるでそれを読んでいたかのように直前で回避行動をとり、悠々とそれを躱す。

何度も何度も叩き落とそうとやっきになるが、あざ笑うかのように自由に飛び回る艦載機にアトランタは舌を巻いた。

「Shit!あり得ないよ!何なのあの動き!!」

こちらが狙いをつけたのを即座に感じ取り、射線から逃れるよういち早く行動する。いくら装備妖精が動かしていると言っても、あの動きはまるで生き物のようだ。

「さすがは偉大な・・。い、いやSorry、ごめんなさい」

思わず口が滑ったという顔をしたアトランタに鳳翔は苦笑してみせた。

「ごめんなさいね。気を遣ってもらって。でもまあ、私も一応空母の母と呼ばれていますから」

 

それにしたってこれは想像の遥か上の存在だ。鎮守府近海で深海棲艦の空母相手にいい気になっていたのが恥ずかしい。

「もう一度、お願い。次はコツを掴んでみる。でないと提督に合わせる顔がない」

「あら。頼もしいですね。分かりました。お付き合いしましょう。ですがアトランタさん」

鳳翔はにこやかに微笑んだ。

「私もあの子にはいい所を見せたいんですよ。少しハードにいきますが、そこは覚悟をしてくださいね」

アトランタは不用意に提督の名を出した自分の迂闊さを呪った。

                  

                  ⚓

 

やれやれ面倒くせえことになったな。俺様に二度も頭突きをかました後、にこにこ笑顔でついてくるジャーヴィスの野郎はすっかり名探偵気分だ。あちこち見ながらふむふむと頷いてみせて、その度に俺様に話しかけてきやがる。

 

「あのなあ、お前。名探偵ってのはそう騒がしいもんじゃねえんだぞ。もうちょっと沈着冷静にだな」

「あら。でも、この間見ていた刑事コロンボはそうでもなかったわよ、ダーリン。二言目には『うちのかみさんがね~』と話して、犯人を油断させていたわ」

「そりゃ犯人がボロを出すようにするあのおっさんのテクニックだ」

 

このジャーヴィス。名探偵を目指すだけあっていい所ついて来るじゃねえか。俺はあのおっさんの犬に、『犬』と名付けるせんすが大好きなんだ。

 

「というか、お前どっちかというとコロンボタイプだろ。どう考えても、ホームズって柄じゃあねえぞ」

 

そもそもあの鹿内帽をかぶらされちまった名探偵は、そこまでおしゃべりじゃない筈だ。モルヒネをやったり、事件についてワトスンが訊いたりするから話しているだけであって、本質的には名探偵ってのは孤独なもんだと思うんだがねえ。

 

「そんなことないわよ。明智小五郎だって、少年探偵団を、ホームズだってベーカーストリート・イレギュラーズを使っているじゃない」

「お前らにはがきんちょ探偵団がお似合いだがな」

 

俺様の言葉にむくれたジャーヴィスがぽかぽかと叩いてくる。

どうでもいいがよお。何でうちの鎮守府にはこう、駆逐艦ばっかりしか来ないのかね。

これがアトランタの野郎が言っていたサラトガとかなら、喜んで俺様は助手役に立候補するんだが。

 

手早く携帯で連絡すると、うえええなどという慌てた声が聞こえてくる。

「俺様だよ、おれおれ」

「どこのオレオレ詐欺かも?提督、どうしたの?」

詰まらねえ野郎だな。少しは騙されたふりをするとかしろよ。北上なら喜んで乗って来るぞ。

 

「そもそも最初に俺様と言っている時点で提督って分かるかも」

そこはスルーしやがれ。

俺様がここまでの事情を説明すると、秋津洲の野郎、途端に慌て出し、

「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってほしいかも。き、切らないでね!二式大艇ちゃん、お願い」

とか言いながら、はあはあ走り出しやがった。どうも、外に出たらしい。

「それで、提督は平気かも?まあ平気だから電話してきてるんだろうけど。大丈夫?」

「はあ!?お前、わざわざ移動したのか?なんで?」

「提督が撃たれたなんて話、あの二人には絶対に聞かせられないかも!多分大湊に乗り込んじゃう!!」

「言っている意味がわからねえ。時雨の馬鹿は暴走するかもしれねえが、北上は大丈夫だろ」

「提督、それ本気で言っているかも?呆れた・・」

おい。かもかも野郎に呆れられたぞ。とにかく、そんなことはどうでもいい。

 

とにかく、この大湊の営倉の場所を教えてくれ。

俺様が現在地を告げると、秋津洲はそこからの行き先を教えてくれた。

「よし、助かった。それじゃあ、ちょっくら行ってくるからよ」

「あの、提督。無茶をしないんだよね?きちんと帰って来るよね?」

かもが抜けてるぞ、こいつ。あのなあ、そうフラグを立てるんじゃねえ。

もっとも俺様は純愛フラグと死亡フラグには無縁の男だがなあ。

 

「もう!真面目に心配してるかも!!大湊は非常識な訓練をするところだから、何があるか分からないかも!!」

「分かった分かった。とにかく、気を付ける」

「提督が戻るまではあの二人には伝えないつもりかも。その代わり、一日に一回、きちんと鎮守府に電話してくるかも」

「はあ!?」

お前なあ。初めて外泊して、家を任せた幼い子供を心配する母親か?俺様は。

「まあいい、そうする。時間がねえ。それで教えろ、営倉はどこだ」

「多分艦娘用の営倉かも。第二庁舎の近くの黒い屋根の建物だよ」

「OK。分かりやすくていい。それじゃな」

「提督・・、本当に気を付けてね。大艇ちゃんも心配してるかも」

艤装に心配されるってのもどうかと思うがね。

色々とうるさい秋津洲に閉口し、さっさと切ると真面目な顔をしたジャーヴィスが俺様を見つめていた。

 

「何だ?」

「ううん、何でも。やっぱりダーリンはダーリンなのね、ってそう思っただけよ!」

「意味が分からねえな」

「そお?分かろうとしていないだけじゃない?」

何の謎かけだよ。俺様は俺様ってよ。あ、成程。駆逐艦に呪われた提督ってことだな。

「呪いなんて失礼よ、ダーリン!」

またもポカポカと叩いてくるジャーヴィスに俺様はうんざりとした。

 

                   ⚓

入れられた営倉の中で浦波はうなだれていた。

「おまんには重要なポジションを任せる」

 

そう倉田に言われた時、普段満足に訓練ができていない浦波は喜んだものだった。

これで、提督の役に立てると。

 

だが、それが相手の提督を狙撃することと言われた時に躊躇が生まれた。

本当によいのか。自分達は人を守るために顕現したのではないのか。

そうした戸惑いを提督に見透かされ、精神を鍛える猛訓練と共にある物を渡された。

 

「それを使うとええ。迷いで体が動かなくなった時に動けるようになるきに」

その倉田の言葉を信じて行動した。

 

だが。

与作を撃とうとした瞬間に体の中の大切な何かが崩れていくような感触がした。

(まずい、ナニコレ・・ナンナノこレは・・・)

意識が何かに引きずられ、誰かが抱いている恨みや憎しみといった感情がわっと浦波に押し寄せた。どうしようと思った時には倉田の声が頭に響いていた。

 

「浦波いいいいい!!!目標、0-4-5じゃああああ!!」

その声と同時に自然と引き金を引く己の身体。

直前までのあの感触、悩みは何だったのかと呆然とするしかなく。

「営倉に連れていけ!!」

司令長官の榊原の声が頭のどこかで響いていた。

 

入れられてすぐに両手足を拘束された浦波は、周囲にある物が破壊したくてたまらず、力任せにそれを破ろうとして、体中傷だけだった。

 

「こんな、人ではないのに・・・」

傷ついた己の身体を見て、浦波はみじめになった。

大湊の艦娘はよりよい道具たれ。そのことを念頭において行動している。どんなに飾ろうと自分達は人にとって異質な存在で、恐るべき力を持った兵器だ。

 

「提督・・・、提督・・・」

浦波はそっと首筋に手を這わせる。

気持ちが沈まれと。

今の思いを提督がかき消して欲しいと願う。

 

階段を下りる音が聞こえる、誰かが入って来たのだろう。

「提督!?」

思わず扉にすがりつこうとした浦波に、扉を開けて入ってきた男はにやりと笑ってみせた。

「提督は提督だが、お前の提督よりはいけめんだぜえ?」

                  ⚓

風が吹きつけていた。

頬に当たる風の心地よさに朝風はぐいっと伸びをする。

目の前では、肩で息をするフレッチャーの姿があった。

 

「確かに強いわね、貴方達。この短期間でよくやったと思うわ」

江ノ島鎮守府は4月に提督が着任したばかり。もっと言えば、このフレッチャーは先の米国中を巻き込んだ事件の前に建造されたのだ。わずかな間にどれだけの訓練をしたというのだろう。

その健闘は評価に値する。

けれど。

 

「健闘じゃ、ダメなのよ。相手を倒さないと」

倒すか倒されるか。深海棲艦との闘いは究極的にはそれしかない。戦略的な撤退もあるだろう。負けることもあるだろう。だが、一隻でも深海棲艦を沈めれば、その分だけこの海が平和になる。

「一つ、質問をいいでしょうか」

艤装から黒煙を上げ、うずくまるフレッチャーが煤で汚れた顔を朝風に向ける。大破はしていないが、限りなくそれに近い。ここまで闘い抜いてこれたのは驚くほかない。

「構わないわよ」

生来の気のよさから朝風はそれに応じた。

「秋津洲さんから貴方達の話は聞いています。過酷な訓練をし、艦娘を人とは思わない・・・。大湊の艦娘は皆そうなのですか?」

「立場の問題よ。人間の中にはあたし達艦娘を道具だって言う人と、そうではない、人間だって言う人がいるのは知っているでしょう?大湊では道具、兵器として扱ってるってだけの話ね」

 

艦娘が誕生して以来、多くの議論がなされる艦娘は人か否か。初めに艦娘が顕現し、艦娘大国とも言われる日本では艦娘の権利についてもこの20年で大分保障されるようにはなってきているが、未だに艦娘は兵器であると考えも根強く残っている。艦娘の在籍はあくまでも船としてであり、その給料は特別艦船修理費という名目で各鎮守府への予算としておりている。

 

「貴方達はそれで平気なのですか?道具として扱われて」

「もちろん。提督に勝利をもたらすよい道具になりたいと思っているわよ」

「そのためにはどんな手も使うと?」

朝風は大きなため息をついた。

「そうよ。逆に聞きたいくらい。勝ち方にこだわっても負けたら仕方がないでしょう?勝てば官軍という言葉はその通りだと思うわ。相手は勝つためには平気でえげつないことをやってくる。それに対処できるようにすることのどこが悪いの?」

「空しく、なりませんか?」

ぎゅっと胸を押さえ、フレッチャーは朝風を見た。

「苦しく、なりませんか?」

「そう思うのはあんたが若い証拠よ。10年近く同じことをやっていれば、そんな気持ちはとっくに無くなるわ」

「そんな・・・」

「いい道具ってどんな道具だと思う?安くて丈夫、そして長持ちなものじゃない?あたし達は良い道具だって自覚があるわよ」

「自分で自分を道具だなんて!!」

「あのねえ、アメリカのお嬢様」

 

朝風は内心まるで、駄々っ子に言い聞かせるようだと呟いた。

「そもそも艦娘は何のために生まれてきたのよ?深海棲艦を倒すためでしょう?そして人を守るためでしょう?負けたら後がないのよ。」

「それは分かっています」

「だったら、そのためにいかに効率的に敵を倒すかが大事なことぐらい分かるわよね。そのため

に感情が邪魔なら捨てる。深海棲艦どもを倒せるように腕を磨く。簡単なことだと思うけど?」

 

朝風が言っていることは何となく理解はできる。理解はできるが、フレッチャーには納得はできない。感情を捨ててただ闘うだけというのなら、それはまるで機械そのものではないか。

 

「よく訓練された傭兵は、機械みたいっていうのがうちの提督の話よ。同じことだと思うけど?」

立ち上がったフレッチャーが己に向ける眼差しに朝風は戸惑った。

これまでここまで追い詰められた相手は恐怖に震えるか、手加減を媚びるか、最後まで意地を張るかのどれかだった。

ところが、フレッチャーの瞳にあるのはそのどれでもない。

「憐れんでるの?あたし達を。随分と余裕ね」

「悲しいだけです。私も提督のような方に巡り会えなければそうだったかもしれません」

ぐっと両手を握る姿勢は祈るようにも見えた。

「提督が私を建造して下さり、そして色々なことから守って下さいました。感謝をしてもしきれず、貴方の言うように、提督を守るためなら私は何でもするかもしれません」

 

ぐっと力を込めて。

フレッチャーは朝風を見据えた。

「でも、きっと提督はそんなことは喜ばないと思います。艦娘のためにいつも命を賭けてくれる、そんな優しい方なんです」

「そうかもしれないわね。あんたんとこの提督さん、神風姉のことも褒めてくれたしね。普通は旧型ってまずバカにされるのよ、あたし達」

どこか遠くを見るような目で朝風は答え、

「それじゃあ、無駄話はここまでとしましょうか」

と、主砲を向けた。

 

けれど、フレッチャーは動じない。この一撃が当たれば確実に轟沈判定となる筈だ。

「まさかとは思うけど、米国とのあれこれを気にして、あたしが撃たないと思ってないでしょうね?甘いわよ、それは」

妹の春風ならば色々と考えそうだが、朝風にとって演習に登録してきたからには、それ相応の覚悟をもってくるべきだ。接待で演習を行っているのではないのだから。

「提督・・・」

ぐっと胸に手をやり、フレッチャーは己の提督を思う。

 

自らの安全を確保するために開いた記者会見で、与作は何と言っていた?

艦娘は兵器だ。だが、意志がある道具だ。艦娘は大事にしなきゃいけない。いつもぶっきらぼうに自分たちに接する提督の、普段は決して見せない本音がそれだ。

 

そして、彼はその言葉を裏切らなかった。

相手が例え米国大統領だとしても、己の意思を貫き通した。

 

艦娘が強くなるためには感情が邪魔だと、目の前の朝風は言う。

だが。

「それは違う。感情は邪魔なんかじゃない!!この、この気持ちが大切なんです!!」

フレッチャーを中心に爆風が起き、大破していた艤装が元通りになる。

 

「改二?なるほどね」

朝風はさして驚かず、やや距離をとると、じっとフレッチャーの様子を観察した。

外見自体は先ほどとほとんど変わらないが、耳にイヤホンのようなものを付けている。

「火力が上がったかな?でも関係ないわ!!」

すっと動いた朝風に、フレッチャーは狙いをつける。

「Fire!!」

うなりを上げる主砲だが、その弾筋を見切ったかのように朝風はどんどんとフレッチャーに近づく。

「狙いをつけてからの動作が遅い。いくら装備が最新式でも、それでは宝の持ち腐れよ」

朝風の放った雷撃を躱そうと舵をきった瞬間を砲撃で狙われる。

「ああっ!!」

当たったのは主砲だ。どうやら、時雨が言っていたようにえげつない深海棲艦と同じ攻撃をしてくるらしい。

「砲塔は?まだいけますか?」

主砲の妖精が何とか大丈夫だと合図をよこす。パワーアップしたというのに、まるで距離が縮まらない。

雪風が、時雨たちが相手と思えと言ったのに今更ながら納得する。当てると思った攻撃がすんでで躱され、相手はこちらの嫌な所をピンポイントで狙ってくる。

 

「こ、こんな・・・。ここまでだなんて・・・」

鎮守府近海の深海棲艦相手にいい気になっていた自分が恥ずかしい。今だ向かったことのない新しい海域ではこれぐらいの相手は日常茶飯事だと言うのだろうか。

「どうしたの?気持ちが大切というから貴方の様子を見ているけど。正直肩透かしよ。そんな程度じゃあたし達は何とも思わないわ」

気持ちの高ぶりによって強くなることはあるだろう。だが、冷静な判断がなければそれはただの蛮勇にしか過ぎない。

いくら気持ちがあっても、実力が伴わなければ何の意味もない。

「それじゃ、これで終りね」

死角からの朝風の一撃を、フレッチャーはとらえきれず、再度大破する。

 

もくもくと煙を上げ、足が止まった相手を見たまま、朝風は動かない。

「くっ!!」

「主機の方も調子が悪いんじゃない?さすがにあたしも考えなしではないから沈めないであげるけど、すぐ助けを呼びなさいよ」

さらりと言ってのける朝風に、フレッチャーは情けなさで胸がいっぱいだった。

もっと訓練をしていれば。もっと自分が強ければ。

目の前の艦娘に、その考えは違う、と教えてあげることができたのに。

「やっぱり、気持ちだ何だと言ってもこんなものね」

 

朝風のその一言に、フレッチャーは悲しくなった。

艦娘は確かに深海棲艦と戦うために生まれてきた存在だ。

だが、艦娘を愛する人があり、人を愛する艦娘がいる。

だから、戦っていけるのではないか。

 

先の大戦の際に。

相手を殺さないと自分達は生きていけない。

そう思って戦った人達もいただろう。

だが、多くの人は国のため、もっと言うなら、そこに住んでいる自らの愛する人のために戦った筈だ。負ければ愛する人達がどうなるか不安で、戦うのが嫌だと思いながらも、歯を食いしばって戦った筈だ。

 

その人たちの思いを背負っているからこそ。

朝風の気持ちを捨てる、という言葉には納得できない。

 

この思いを捨てれば強くなる?

否。この思いがあるからこそ、強くなれるのだ。

皆を、提督を守りたい。

その思いは決して無駄なものではない。

ここで、朝風を見過ごすということは。

己の思いがそこまでだと否定されるようなものだ。

(違う。私の思いはそんな程度じゃない。)

すでに奥の手のmod.2は破られた。

これ以上、自分に何があるのだろうか。

だが、何かあるならばそれをひねり出さなければならない。

提督のためにも。目の前にいる朝風のためにも。

ぎりりと歯を食いしばり、フレッチャーは願う。

人を守りたい。そのための力を。

このままでは、思いが。人の愛を分からぬまま朝風は行ってしまう。

 

「それじゃね。あたしは行くから」

手を振ってその場を離れようとする、その時。

朝風は耳にした。

一人の艦娘の魂の叫びを。

「愛は、愛は負けません!!!」

先ほどとは、比べ物にならないぐらいの爆風が巻き起こり、朝風は慌ててフレッチャーの方を見る。

金色の粒子に包まれて現れたその姿は、先ほどのものと違い、大人びた容姿を見せている。

「に、二段階改装?さすがに驚いたわよ。何でもありね、あんた達」

ぽりぽりと頭を掻きながら、冷静に状況を朝風は分析する。

「フレッチャーmk.Ⅱ!近代兵装の力、存分にお見せします!!」

「言ったわね!上等じゃない。あんたがいう愛とやらがどれほどのものか確かめてあげようじゃない!」

「望むところです!!」

どことなく嬉しそうに叫ぶ朝風を見て、フレッチャーは微笑んだ。

 




登場人物紹介

神鷹・・・・・鳳翔さんは優しくていい人です、と固い表情で語る。
アトランタ・・対空戦闘は得意です、なんて調子にのってsorryと凹む。
鳳翔・・・・・ひたむきに上達しようとする神鷹の姿に、在りし日を思い出す。
秋津洲・・・・「どったのー秋津洲ん?」「誰かから連絡かい?」という勘のいい二人をどうやって誤魔化そうかと二式大艇ちゃんと相談する日々。


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