本編の方では夏なのでいつクリスマスになるか分かりませんが。
E4ー3ラスダン編成で沼ってます。いや、とにかく航空隊が当たらない。
間宮伊良湖を使ってもすぐ大破。あの先制雷撃5本はいやがらせでしょう・・。
時雨のカットインが当たれば・・・。
それは提督養成学校時代のこと。
駆逐艦時雨にとって、その日は来るたびに億劫な気持ちになる日だった。
クリスマス。自分が艦の時代には見られなかった風習。
着飾った男女が街へと繰り出し、束の間の楽しみを甘受する。
提督とペアを組む艦娘達にとっては、この日は特別な日であり、グループでクリスマス会をしたり、中には外にデートに出かけたりする者もいるくらいだ。
だが、時雨はそうではない。
彼女はこの提督養成学校に練習艦として配属されて以来、クリスマスにはいくら誘われても断り、一人で過ごすと決めていた。
なぜかと問われても、ごめんねという彼女に無理強いをする者はいなかった。
「クリスマスか・・・。思い出すね」
⚓
後に偉大なる七隻と呼ばれる彼女達も、原初の艦娘としてこの世界で初めてクリスマスを迎えた時にはどんなものか分からず戸惑っていた。
鎮守府にある艦娘寮では、駆逐艦達が寄ると触るとクリスマスについて、噂し合っていた。
「なんでも、赤い服を着たひげづらの、さんたっていうのが夜中に忍び込んで来るらしいわよ!」
雷の話に、電が体を震わせる。
「ええっ。夜中に忍び込んで来るなんて、ふ、不審者さんなのです?」
「不審者ではないよ。ロシアの方ではジェットマロースっていう青い服のおじいさんと雪娘がプレゼントを配るんだけどね」
響の言葉に、暁が一も二もなく食いつく。
「わ、私達のプレゼントはロシアの人にお願いしましょ!」
また、別の所では、
「朝潮姉さん、あたし達を呼びだしてどういうこと?」
「そうよ。忙しいんだから、用件は短めにお願いね」
朝潮型の長女である朝潮が満潮と霞を呼び出していた。
「用件は他でもありません。クリスマスではよい子の所にしかサンタさんは来ないらしいのです。このままでは、霞と満潮はプレゼントがもらえない可能性があります!」
「は、はあ!?な、なんであたし達だけ!!」
霞の反論に朝潮は深刻な顔をして肩を叩く。
「自覚がないようね。提督に対する態度が酷すぎますよ、二人とも。カスだのクズだのと」
「そ、それは提督が悪いのよ。いつまで経っても鳳翔さんの気持ちに気付いてあげないから」
満潮が言うも、朝潮は首を振るばかりだ。余程、二人の普段の姿ではプレゼントをもらえないだろうという危機感があるらしい。
「そこで、二人には大潮を見習い、提督に甘えるというのに取り組んでもらおうと思います!」
「「なんですって!?」」
どういう考えをすればこのような意味の分からない結論に達するのか。
理解ができないが、朝潮の中では、大潮のように素直にしていればよいのだという思いがあるらしい。
とんでもないことを言い出した長女を前に、霞と満潮は頷き合うと逃げ出した。
「あ、こら。待ちなさい!プレゼントがもらえませんよ!!」
「クソ提督に甘えるぐらいなら、もらえない方がマシよ!」
「そうよ。そんな恥ずかしいことできる訳ないじゃない!」
甘え方の特別講師として控えていた大潮はしょんぼりと肩を落とした。
「大潮は恥ずかしいんでしょうか・・」
そして時雨達はどうだったかというと、どうやら提督がプレゼントをくれるらしいというのは分かっていたが、それとクリスマスというのが何なのかがいまいち結びついていなかった。
始まる前は、
「くりすます?何それ。楽しいっぽい?」
などと半信半疑の様子だった夕立だが、その日が近づくにつれてそわそわとし出した。
「時雨!時雨は何が欲しいっぽい?夕立は最近はまっている、あしたのジョーが欲しいっぽい!」
「あはは。相変わらずだね、夕立は。そうだなあ。僕はもらえればなんでもいいかな」
「むーっ。時雨はそうやって、いつも自分の希望をきちんと言わないのがずるいっぽい!!」
怒る夕立に時雨はあははと笑ってみせる。
だが、本当になんでもよかったのだ。艦娘として顕現し初めてのクリスマスだ。
何をもらっても嬉しいことに変わりはない。
「そんなこと言っていると、後悔するかもよ?」
口を挟んだのは通りがかった白露型の長女。
「なぜだい?」
「あの提督が選ぶんだもの。センスがないに決まっているよ!」
「その辺は秘書艦の鳳翔に期待だね」
クリスマスまで後一週間となった時。
艦娘寮の白露型の部屋では、大きな靴下をこしらえる白露の姿があった。
「どうもプレゼントって靴下に入れるらしいわよ。だからあたしのはいっちばーん大きいの!!」
「欲張り過ぎだよ、白露。多分みんな同じものになるんじゃないかな」
「ええっ。そんなのつまらないっぽい。夕立は少年院に入れられたジョーがどうなったのかが知りたいっぽい」
「そこは個別に提督にお願いするしかないと思うけど」
「参ったなあ。どこから情報が漏れたか分からないんだ。どうにもサンタを信じる艦娘と、サンタの正体について知っている艦娘がいるみたいでね。それとなく皆の欲しいものを聞いて、驚かせてやろうと思っていたんだが」
頭を掻きながらぼやく己の提督に、鳳翔はくすりと笑みを浮かべた。
「大変な情報漏洩ですね。まあどこからか漏れたかはすぐにお分かりになると思いますが」
「知っているのかい?」
窓の外を見ていた、鳳翔が無言で指差した先には、
「何、ぬいぐるみが欲しいだと?分かった。私から提督に言っておこう!」
と大きな声で話す長門の姿があった。
「これはとんでもないおしゃべりがいたものだ・・。本人が駆逐艦の好みを聞くのは得意だというから任せたんだが、完全に人選を間違えたな」
「それで、どうされるおつもりですか?」
「事ここに至っては仕方がない。開き直ろうじゃないか」
そうして出来上がったのが、紀藤提督発案のプレゼントリクエストボックスだ。艦娘一人につき一枚。可能な範囲でプレゼントが用意され、本人の希望があれば、クリスマスに届けるとあって、鎮守府の中は色めきだった。
「よかった!これであしたのジョーがもらえるっぽい!!」
「もうっ!せっかく作った靴下が無駄になっちゃったじゃない・・」
「サンタに届けてもらえばいいんだよ」
「分かってないな、時雨は。何がもらえるかのドキドキ感がいいんでしょ!」
クリスマス3日前。みんな何を頼んだのだろうと、楽しみにしながら箱を開けた紀藤は、鳳翔が読み上げるリクエストの内容に閉口していた。
「まず、ポーラさんからですね。お酒一年分とあります」
「却下。そんなことをしたらザラに怒られる。ワイン一本と、呑みすぎた時用のドリンクを数本」
「続いて赤城さんです。高級バイキング食べ放題券」
「何だい、それは。この間の大規模作戦の時に食べ放題に行って、店の親父が泣きながら次からは来るときに連絡してください、事前に一週間店を閉めますからと言っていたのを忘れたのか。焼肉食べ放題の券に大食いチャレンジの店の情報をリストアップして入れておこう」
「青葉さんからはネタと書かれていますが・・」
「その紙にそのまま品切れと書いて、カメラと一緒にプレゼントとして送ってくれ」
さすがに在籍する100名以上の艦娘のチェックは厳しく、紀藤はふうと一息をついた。
「これで全員かな?」
「いいえ。一名まだ決まってません。時雨さんが」
「どういうことだい?リクエストは書いているんだろう?」
鳳翔は困り顔で提督に用紙を手渡した。
「『提督が選んでくれたら、何でもいいよ』って、こいつは随分とハードルが高いなあ」
「あまりご自分でそう言われるのはどうかと思いますよ」
「そうは言ってもねえ。私は昔からプレゼントのセンスがないって言われるからね」
「ちょうど買い出しに行くときに、何か見繕うしかないかな。鳳翔、すまないがアドバイスを頼むよ」
「そう申されましても、時雨さんは提督に選んで欲しいんだと思いますよ。まあ、あまり変な選択の時にはお口添えいたしますが」
言いながらも、提督と二人の外出を鳳翔は喜んでいた。
そして、クリスマス当日。
「あしたのジョーが入っていたっぽい!!嬉しいっぽい!!」
大喜びする夕立に、リクエストに世界で一番のものと書いた白露が続く。
「うわ、なにこれ!世界一辛いチリソース!?これやばいって。いたずらには絶対に使わないようにって書かれてるけど、普通に誰かに食べさせたい!!」
と興奮する白露に挟まれ、時雨が箱を開けると、そこに入っていたのは、マフラーだった。
「あれ、時雨。マフラーにしたっぽい?」
「うん。提督の好みでってお願いしたんだよ」
「提督にしては気が利いているかなあ。ま、鳳翔さんのチョイスだと思うけどね」
「いや、提督が選んでくれたみたいだよ」
時雨は箱の中に入れられていた手紙を読み、微笑んだ。
そこにはこう書かれていた。
『これから寒い季節になります。これで、首元を温めてください。追伸もし柄が気に入らない場合は返品が可能なので、着ける前に提督に相談してください。 サンタ』
⚓
「ねえねえ。時雨はクリスマスはどうするっぽい?」
中庭で物思いにふけっていた時雨は突然声を掛けられ、はっと我に返った。
小さく手を振る夕立と瑞鶴に、時雨はふうと小さく息を吐いた。
どうしてもこの時期は色々と思い出してしまうようだ。
「どうしようかな。今の所予定はないけど」
そう言った自分に、時雨自身が驚いていた。これまでの自分なら、開口一番、
「その日は一人で過ごすよ」
と言っていた筈だ。どうした心境の変化なのだろう。
「夕立は新藤さんが、どこか行こうって誘ってくれたから一緒にボーリングに行くっぽい」
この夕立の発言に焦ったのが瑞鶴だ。
「ええっ。ま、まさか夕立に先を越されるとは思わなかったわ。あたしも散々織田さんを誘ってるんだけど、その日は忙しいって言われちゃったのよね・・」
「あれ?織田さんは、鬼頭さんとどこかに行きたいって言ってたっぽいよ。新藤さんがあらかじめ言ってくれればと愚痴っていたから本当だと思うけど」
「何それ!!あいつ、あたしを何だと思ってんのよ!!」
怒り心頭で、ずんずんと瑞鶴は教室の方へと歩いていく。
「時雨はどうするっぽい?鬼頭さんとどこか行くっぽい?」
「与作はそんなこと絶対しないよ」
ペアの性格は分かりきっている。常日頃時雨をがきんちょ扱いする彼のことだ。いくら言っても面倒くさいの一言で済ませるだろう。
「織田さんもそうだけど、与作は少し女心について学ぶべきだね」
時雨は言ってから苦笑する。
これでは、誘われるのを待っているみたいではないか。今まで散々誘いを断ってきたのに。
「そんなんじゃダメっぽい。時雨はもっと積極的にいかないと。自分の希望を言わないと分からないっぽい!」
「・・そうだね」
記憶の中の夕立と同じことを言う目の前に夕立に、時雨は思わず目が潤みそうになるのを必死でこらえた。
「あっ!!鬼頭さん!待って欲しいっぽい!」
通りがかった与作を見付けて、夕立が腕を引っ張って連れてくる。
「おいおい。引っ張るんじゃねえ。まるで犬だな、全く」
「ねえねえ。鬼頭さんはクリスマスはどうするっぽい?」
「くりすますだあ?そんなリア充どもの祭りなどどうでもいいぜ。あちこちクリスマス値段でぼられるだけだしよ。何の意味もねえぞ」
「ええっ!それじゃあ、これまでクリスマスは何もしなかったっぽい?」
「俺様から言えばがきんちょならまだしも、大人になってまで何をクリスマスを楽しんでやがるんだって感じだね。プレゼントを上げるんなら別に普通にやりゃいいじゃねえか。それをイベントごとにしやがるからホテルだのレストランだのが高くなるのさ」
「じゃ、じゃあ。僕をいつもがきんちょ扱いするんだから、クリスマスを祝ってくれてもいいじゃないか」
突然の時雨の発言に、隣にいた夕立は目を丸くする。
「はあ?なんだ、お前。俺みたいなおやぢとケーキを突いたり、プレゼントを交換したり、きゃっきゃうふふしたいってのか?」
「きゃっきゃうふふというよりは静かに過ごしたいけどね」
「本気かよ、お前。よっぽど友達いねえんだな」
意外そうに見つめる与作に対し、時雨は内心どきどきだった。
どう考えても与作が断るのは目に見えている。
なぜこんなことを言ってしまったのだろうと言う後悔が襲ってきた。
ふーっと深いため息をつきつつ、口をへの字に結び、与作はいいだろうと頷いた。
「俺様の師匠である鬼作さんも言っていたからな。料理のように物事ってのは下ごしらえが大事ってよ。その代わり、お前。知り合いにいい艦娘がいたら紹介するんだぞ」
「分かったよ。いい艦娘がいたらね」
⚓
そしてクリスマス当日。
「なんで、瑞鶴と織田さんがここにいるんだい?」
若干おしゃれをしてきた時雨が不機嫌そうに言うと、瑞鶴が申し訳なさそうに耳打ちしてきた。
「ごめん。どうしてもあいつ、うんと言ってくれなくてさ。それなのに鬼頭さんが一緒に来るかって誘ったら一発でOKでね。あたしも連れてってと鬼頭さんにお願いしたの」
「はあ・・・。そういうのは事前に言っておくれよ」
「言ったら別な日にしようっていいそうじゃない。そしたらあたしがあぶれるでしょ!」
道々言い合いをする艦娘二人をよそに提督候補生二人は実に忌々しそうにクリスマスのカップルを見つめていた。
「鬼頭氏。どうにも歳を食った連中はヤルことしか考えていない猿ですな。日本の未来は危ういですぞ」
「どう考えてもお前のような奴が増える方がやばいと思うんだが、風紀の乱れはいただけねえなあ。これは夜の風紀委員が活躍する必要があるかもしれないぜ」
傍から見れば、彼らこそリア充そのものであったが、当の本人達は全くそのように思っていなかた。
「で、どうして焼肉なの?」
せっかくおしゃれをしてきたのに、臭いがつくじゃないと文句を言う瑞鶴に与作は冷たい一言を返す。
「ふん。文句がある奴は帰んな!毎年恒例の男祭りを開催しているだけだ」
「拙者は時雨ちゃんと焼肉が食べられればそれでいいのでござる」
「あんたねええ!!少しは、少しはあたしに気を遣いなさいよ!!」
「おいおい、店内だぞ。ただでさえ、周囲には男祭りを開催中の連中が多いんだ。殺気だっているから気を付けな」
「そう言えば、男の人ばかりだね・・・」
時雨が周囲を見回すと、いくつかは家族連れがいるものの、男同士で来ているグループが目に付く。
「当然よ。俺様達にとってはくりすますじゃねえ。くるしみますだ。リア充どものあほな宴を見せつけられるくだらねえ日よ」
食が進み、段々と時間が過ぎた頃。
「ねえ、ちょっと時雨。この後別々に帰らない?」
瑞鶴が小声で時雨に提案した。
今年一番の萌えアニメについて熱く語っている男二人はまるで気付いていない。
「まあ、いいけど。織田さんは大丈夫かな?」
「そこは無理やりにでも引っ張るわ。そっちもよろしくね」
「了解。瑞鶴は本当に彼が好きなんだね」
「ち、違うわよ!帰りぐらいペア同士の時間を作ってもいいじゃない?」
「はいはい。そういうことにしておくよ」
⚓
「おい、てめえ。何しやがる!」
勘定を済ませ、焼肉屋から出るなり、時雨の野郎が腕をとり、ぐいぐいと俺様を引っ張る。
「何のつもりだ、お前!」
「いいから、こっちに来てよ。瑞鶴が、織田さんと一緒にいたいらしいんだってさ・・」
時雨の野郎の耳打ちに仕方ねえなあとされるがままになってやる。
「ちょ、ちょっと、鬼頭氏!?おい、こら。引っ張るんじゃない!お、お巡りさん、助けて!」
「あのねえ、あんた。ごめんなさい。連れです連れ。気にしないでください」
騒がしく店から離れていく瑞鶴と織田だが、見解の相違があるみてえだがいいのか。
「その辺は向こうに任せようよ。こっちはこっちで帰ろう」
「ったく。大体なんだ、お前のその恰好。いい所に連れて行ってもらえると思ったのか?がきんちょがませやがって」
いるみねーしょんがきれいな並木道でも歩くと思ったのか?誰があんな寒い所好き好んで行くかよ。風邪引いちまう。
「おしゃれについて気付いたのは合格だけど、発言でアウトだね。何度も言っているじゃないか。艦娘は見た目と年齢が違うって」
「ふん。全くバカの一つ覚えみてえに言いやがって。おらよ、がきんちょ」
俺様がぽんと投げた袋を見て、時雨の野郎がぽかんとする。
「えっ?えっ?何これ」
「何ってお前、今日はクリスマスだろうがよ」
何だ、お前のその信じられないって表情は。
「よ、与作が、僕にくれるの?嘘じゃないよね。ごめんね、僕用意してないや」
「嘘なもんか。開けてみな」
「う、うん」
おいおい。涙ぐんでやがる。そこまでありがたがってくれたら、用意したこちらの面目も立つってもんだな。
「箱だ。中に何が入っているんだろう・・。」
「俺様からの心からのプレゼントだぜ」
「ありがとう。あ、開けるね・・」
どきどきしながら開けた時雨の顔面にびよーんと伸びたグーパンチがヒットする。
「な、な、何だいこれ!!」
プンプンと怒り出す時雨に笑いが止まらない俺様。
「中にメモが入ってるだろう?『まず疑ってかかれ』がきんちょのお前に俺様が送る最高のプレゼントよ!」
「期待した僕がバカだった。本当にバカだった!!」
びりびりと俺様が書いた格言メモを破り捨てる時雨。お前なあ、がきんちょじゃないっていうのならこれぐらいのゆうもあを解さないと駄目だぞ。
「全く、与作は全く!」
そんなに怒るなら別行動で帰ってもいいんだが、時雨の野郎はなぜかついてくる。
「びっくり箱なんて冗談じゃないよ!!」
ぶつくさと文句を言う時雨が次は箱を潰そうとしたとき、ふとその手を止めた。
「ん?カラカラと何かが・・え・・これは」
おそるおそる箱の中から時雨が取り出したのは百合の花の髪飾り。
「よ、与作・・・」
「あのなあ。一応俺様、義理堅い男だぞ?」
唖然とする時雨を放っておいてすたこらと先を歩く。
「あ。ま、待ってよ、与作。それにしてもどうして髪飾りなんだい?」
「うるせえ野郎だ。そんなもの教えねえよ」
「いいじゃないか、少しくらい」
「やなこった!」
うちのばばあが昔もらってすごい嬉しかったと耳にタコができるくらい言ってたから、だなんて、恥ずかしくて言える訳がねえだろうが。
後日時雨の野郎が手袋を寄こしたのはいいが、事あるごとになぜしないのかと問われ、非常に面倒くさいことになった。やかましい野郎だな。もらったもんを使うか使わないかはその人次第だろうが。捨てないでおいてやってるだけ、ありがたいと思いやがれ。
青葉新聞 12月26日号
『提督、鳳翔さんに髪飾りを贈る!二人の仲は進展か?』
常日頃周囲の艦娘をやきもきさせている提督だが、去る12月21日のプレゼント買い出し日に、鳳翔さんに月下美人の花の髪飾りを送っていたことが、関係者の取材によって判明した。普段あまり着飾ることのない鳳翔さんのイメージチェンジに気付いた某空母曰く「あんなに上機嫌な鳳翔さんは見たことがありません」とのことで、二人の関係改善が大いに期待される。
<記事訂正に関するお詫び>
昨日発行の『提督、スクープのために体を張る』との記事につきまして、本紙記者のプレゼントの要望を聞き入れ、パフォーマンスを行ったのではとの記事を掲載しましたが、その後関係者への取材から全くの偶然であることが分かりました。ここに提督及び鳳翔さんに謝罪し、読者の皆様にもお詫び申し上げます。
(軽空母鳳翔よりの提供)