鬼畜提督与作   作:コングK

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一応年内最後の投稿になる予定です。
以前より書いている通り、作者は鎮守府目安箱のノリが好きなので別に何か書くやもしれませんが。

7月の終わりから初投稿を始め、半年間結構なペースで書きまして、読み返すとすごい量だなとは思っております。拙いながらもお付き合いいただいている方には感謝いたします。ありがとうございました。





第五十五話 「激突!海鼠島海域!!」

いつ太陽がかげったのか。ふと神風は空を見上げ、耳を澄ませた。

「二隻か。意外ね」

目を瞑り、佇む神風の姿に、何かを感じ、現れた雪風とジョンストンは思わずその場に立ち止まる。

「よく分かるわね。随分と耳がいいことで」

こちらを見ずにそう断言した神風に、ジョンストンはぎょっとなり思わず軽口を叩く。

相手が強いのは分かっている。まずはペースに乗らないことが重要だ。

 

「ずっと戦っていれば、嫌でもできるようになるわよ。貴方もね」

振り返った神風は薄く微笑むと、じっと己の両手に視線を落とした。

「20年近く戦っていればそれぐらいできて当然でしょう?」

「に、20年近く?う、噓でしょ!?」

意外な告白にジョンストンは驚きの声を上げた。目の前の艦娘はとても建造されてから20年近く経っているとは思えない。

 

「いいえ、本当よ。原初の艦娘がこの世界に初めて顕現した艦娘なら、彼女達のデータを使い、初めて建造されたのがあたし達『始まりの出来損ない』」

「始まりの出来損ない?なんです、それは」

雪風とジョンストンは互いに見合うと、首を傾げた。

「まあ、知らないわよ。原初の艦娘のことはみんな知っていても、あたし達のことなんか知っている者なんている筈ないわ。そもそも、もう二隻しか生き残っていないもの」

「艦娘養成学校の一期生ということですか?」

「始まりの提督が考案してくださった養成学校のことね。一度通ってみたかったわ」

空を見上げ、どことなく遠い目で神風は語り出した。

 

始まりの提督の元に顕現した原初の艦娘達は一騎当千の強者であったが、彼一人にこの世界の全ての海を任せることはできず、自衛隊の中から見つけてきた提督候補者を育てることと並行し、行われたのが、新たな艦娘をつくる建造である。

艦娘達から提供されたデータを元に、多くの試行錯誤の末完成した初期の建造ドックは、失敗が多く、何度目かのチャレンジの後ようやく建造された初の建造艦が神風だった。

 

「今思えばとんでもない量の資材を溶かして、色々と調整したのに現れたのがあたしだったらしくてね。すごいがっかりしていたわよ」

 

レシピもなく手探りの状態、しかも不安定な調整の中での建造とあって、神風が建造されたのはその一回だけであり、その後様々な艦が建造されるも彼女の同型艦が現れることはついぞなかった。

「え?は、春風さんや朝風さんは違うのですか?」

「あの子たちは大規模作戦の時にドロップしたのよ。もう10年以上前になるかな」

「で、でも初めて建造で出てきたのに、出来損ないって・・」

「仕方がないわよ。比較相手が悪かったんだもの」

 

原初の艦娘並みの働きを期待し、資材がひっ迫する中で、何とかやりくりをしながらの建造だった。建造された艦娘達にかける人々の思いは生半可なものではなかっただろう。

 

ところが、いざその性能を確認するや、研究者たちは想像もしなかった事態に落胆せざるをえなかった。明らかに原初の艦娘に比べてスペックが劣り、練度に制限のある期待外れの艦娘達。莫大な予算をかけてしまった研究者たちは互いに責任を擦り付け合い、遂には建造してしまった厄介者たちを量産型、出来損ないと悪しざまに罵る有様だった。

 

今でこそ、それは当たり前のことであり、原初の艦娘達の方が特別であっただけだと認識されているが、艦娘建造の当初は、どうして同じように強くならないのか、何か重大な欠陥があるのではないかと、とかく問題視されたものだった。

 

「面白いわよね、人間って。自分たちで建造しておいて、出来損ないって平気で言うのよ」

まるで他人事のように語る神風の目は暗く鈍い光を湛えていた。

 

「人の役に立ちたかった。提督の役に立ちたかった。気持ちは貴方達と同じよ。でもね。建造されたばかりの頃はそりゃあ叩かれたわ」

 

『この役立たず!どうしてお前達はそう使えないんだ!!資材の消費量もあの原初の神風と同じなのに、まるで戦力にならないではないか!』

 

皆二言目には彼女達を出来損ないと扱い、ついたあだ名が『始まりの出来損ない』。

人類初めての提督とその艦娘をあてこすってのことであり、つけた人間のセンスの悪さが伺いしれるものだった。

 

「期待に応えようと、必死に努力したわ。でも、褒められたことはついぞなかった」

「なぜ、雪風達にそんな話を?」

「貴方たちがいかに恵まれているのかを教えたかっただけ」

「そう。でも、不幸自慢なら、あたしだって負けてないわよ!!」

 

挨拶代わりにとジョンストンの主砲が唸りを上げた。

期待されていない中での生活は確かに辛いものだろう。だが、戦いを否定され、籠の中の鳥と化すのとどちらがマシだろう。

 

「米国のお嬢さん、確かに貴方の境遇には同情するわ」

神風はわずかに身をひねっただけでそれを躱した。

「でも、いかにお人形さん扱いされようとも、生かしておいてもらえるだけありがたいのよ?」

「くっ!こいつ、素早い!!」

 

米国で散々猛特訓を積んだつもりでいたが、相手にとってそれは吹けば飛ぶようなものであるらしい。涼しい顔をして、動き回る神風からは余裕しか感じられない。

 

「ジョンストンちゃん!」

ジョンストンが正面で牽制している隙に動いた雪風が、挟み撃ちにしようと相手の進路を予測し砲撃するが、神風は常に位置取りを工夫し、容易に背後をとらせない。

 

「考えはいいわ。でも、それを実行させるほどあたしは甘くはないわよ」

 

まるで舞うかのような神風の航行術にジョンストンは舌を巻いた。

神風は旧式艦であり、明らかに自分の方が上の筈だ。それがここまで翻弄されるとは。

「あんた、どうしてそんなに強いのに、ヨサクを攻撃なんて馬鹿な真似をしたのよ!」

 

口をついて出てきたのは賞賛の言葉ではなく、純粋な疑問だった。これほど強いならばあんな卑怯な手を使って優位に立とうとする必要はないではないか。

 

「相手の指揮官を叩くのが最も効率的でしょ?偉大なる七隻が現れても、同じことをしたわよ」

「卑怯だとは思わないんですか!そんなことをしなくても貴方達なら雪風達相手に普通に勝てるでしょうに!」

ジョンストン同様に、雪風にとってもそれは大きな疑問だったのだろう。

立て続けに砲撃を行いながら、神風に問いかける。

 

「卑怯卑怯と、まるでお題目ね。卑怯なことの何がいけないの?伝え聞く話だと、あの天下の剣豪宮本武蔵も稀代の反則魔というじゃない。貴方達はルールが大事で、あたし達は勝負の結果が大事。それだけの話よ?」

「だからって、これは演習ですよ?いがみ合うためにするものじゃありません」

「あのねえ、雪風」

放たれた砲撃をまたも躱し、神風は雪風を見つめた。

水面に幾度目かの波紋が広がる。

 

「あたし達がやっているのはスポーツかしら?違うでしょう。今もこの海のどこかで深海棲艦と艦娘が戦っているのよ?貴方は深海棲艦相手にも卑怯だなんのと言うつもりなの?」

さらりと言ってのけた神風に、抑えつけていた雪風の怒りが爆発する。

「しれえを撃っておいて、よくも、よくもそんな台詞を!!あんな、あんなことが本当に許されると思っているのですか!!」

「詭弁でごまかしたって、あんた達が卑怯者なのは変わらないじゃない!」

雪風を抑えなければと思いつつ、ジョンストンも己の心の昂ぶりに抗しきれない。

 

「だから、言っているでしょう。卑怯上等だって」

神風はやれやれと肩をすくめた。

「みんな同じことを言うのよね。ルールが大事。それを守れと。遊びでやっているんじゃないのよ?戦うための訓練をしてるの。実戦に即してやらなければ、いつ沈むかわからないじゃない。

「やっていいことと悪いこともわかんない訳!!」

ジョンストンは再度雪風と合流し、二隻で集中砲火を浴びせる。

だが、当たらない。

あらかじめ、こちらの行動を読んでいるかのように、その砲撃がことごとく躱される。

「逆にあたしは感謝して欲しいと思っているわ。これで、あんた達は提督に何かあった時に自分たちがどうなるか学べたでしょう?あたしが深海棲艦なら確実にまずどうやって提督を潰そうかと考えるわ。提督がいなくなれば艦娘は所詮烏合の衆だもの。うち以外にこんなえげつないことしてくれるところなんてないわよ」

「正気で言っているんですか・・・。どうして、どうしてそんな考えになってしまったんですか!」

 

悲しみが怒りを上回り、雪風は叫んだ。

己の提督を傷つけた神風達、そしてあの倉田という提督は絶対に許すことはできない。

せっかくジョンストンが落ち着けた気持ちに、黒いもやがかかっていくように感じる。

だが、同時に神風の考え方があまりにも悲しすぎると感じている自分がいた。

言っていることは分からなくもない。だが、余りにも極端ではないか。

どうして、そこまで考えが歪んでしまったのか。

 

「そりゃ、20年近く戦い続けていれば、そうなるわよ」

 

すっと手を伸ばしたかと思うと。

「ああああ!!」

神風の砲撃が正確にジョンストンの主砲を潰した。

「こんんのう!!!」

「ジョンストンちゃん!」

ジョンストンに近づこうとする神風に、雪風が砲撃で牽制し、ジョンストンはお返しとばかりに雷撃を放つ。

 

その瞬間。

恐るべき場面をジョンストンは目撃した。

 

側面からの雪風の砲撃をわずかにかがんで躱した神風は、続けて自らに向かって放たれた雷撃に対し、魚雷同士のわずかな間隙を見抜き、その間を何事もなかったかのように進んだ。

 

「噓でしょ!」

「隙間を見つけて、冷静に対処すればこれくらいは普通よ」

目の前に現れた神風に一撃を食らい、ジョンストンは大破に追い込まれる。

 

「うああああ!!」

「ジョンストンちゃん!!」

「今回が初めてなのかしら?連携がお粗末ね。精進なさい!」

「上から目線でいつまでも!!!」

かっとなったジョンストンがこれでも食らえとパンチを放つも。

ぶんとその拳が空を切る。

「大破になっても諦めず、相手に掴みかかるその意気やよし。でもね・・」

神風の掌底が腹部にヒットするや、水面を木の葉のようにジョンストンが舞った。

「があああ!!!」

「相手の強さを考えてやるべきよ?お嬢さん」

 

「よくも、ジョンストンちゃんを!!」

向かってくる雪風の砲撃を神風は難なく躱しながら接近し、雪風の鼻先に指を突きつけた。

 

「そうそれ。味方がやられると、すぐ感情的になる。だからやられるのよ」

「貴方にだって感情はあるでしょう!!先ほどだって、自分たちが出来損ないと言われて悔しそうだったじゃありませんか!」

「そう見えたのなら、あたしの修業が足りないわね。そもそもの話。人間はあたしたちが道具であってくれた方が都合がいいのよ」

 

突然の神風の言葉に雪風は戸惑った。艦娘は人と同じように扱うべき。いや、そうじゃないという議論があるという話は聞いている。だが、道具であった方が人間にとって都合がいいとはどういうことなのか。

 

「演習中におしゃべりし過ぎかもしれないけれど。まあ。後学のために教えてあげるわ。人は弱いの。だから、道具だと思わないと、あたし達艦娘を運用することに耐えきれない」

「ど、どういうことです!各地には提督がたくさんいるじゃないですか!!」

「そりゃいるわよ。わざわざ軍が見つけて来てるんですもの。でもね、人間の立場で考えて御覧なさいな。少女のような姿をしているあたし達を化け物と闘わせているのよ。おまけに中には海防艦のように明らかに幼い容姿をした子たちもいる。まともな神経をしていたら耐えられないじゃない。今はあたし達をまるでアニメのヒーローみたいに扱うことによって、その心理的な負担を抑えているみたいだけど、初期の頃の提督さん達はそりゃあ酷いもんだったわよ」

 

少女のような外見をした艦娘を使わねば人類の後がない。だが、彼女たちの外見は人の罪悪感を刺激するに十分だった。ただでさえ、この国は物に魂が宿ると考えているのだ。他国よりも、艦娘にかける気持ちが強く、それに対する贖罪の念は艦娘道具派にすら存在している。

 

艦娘が建造されて間もなくは提督の多くが自衛隊出身者で占められており、彼らは国を守るためという強い意志を持っていた。だが、己の命は掛けられても、他人の命を預かるのは訳が違う。深海棲艦との戦いは明日をも知れぬ戦争であり、負ければ日本が、世界が終わる。そうした重圧の中で精神を病み、薬物に手を染める者も少なくなかった。

 

「あたし達が自ら道具よ、と言ってあげるだけで提督さん達は安心するのよ。自分たちが使っているのは人ではない。道具なんだ、ってね」

神風は言う。艦娘の存在に人は悩んでいる。その存在が無ければ、深海棲艦というより大きな脅威と闘えぬために、仕方なしに使っているが、それは彼らとしては不本意ながらそうしているだけだ。

「その証拠に未だにあたし達を船として扱うか、人として扱うか。あっちゃこっちゃしてるじゃない」

在籍時の扱いは船として。

艤装を解体し、退役したら人として。

まるでこの国の人の迷いがそのまま表れたかのように、彼女たちの扱い方は矛盾に満ちていた。

 

「だから、あたしは道具でいてあげるのよ」

艦娘自らが、道具として己を律しているのならば、扱う側もその使い方に悩む必要はない。

「そんな・・・。人が艦娘は道具でいて欲しいと願っているだなんて・・・」

「信じられないかしら。でも、あたしが見てきた提督さん達はそうだったわよ」

「世の中、そういう人ばかりじゃありません!しれえはそんなことは思っていないです」

言い切る雪風に、神風は苦笑する。

「鬼頭提督は強いもの。でも、世の中はそんな人ばかりじゃない。心が弱い提督もいるのよ」

面白くもなさそうにいってのけた神風の態度に、雪風はひっかかるものを感じた。

「あの、心が弱いって、どういう・・・」

神風は返答代わりに雪風に主砲を向けた。

「ちょっ!」

慌てて避けるが、これ見よがしに狙いをつけた所から会話を打ち切るためにした攻撃だったとみるべきだろう。

 

「おしゃべりはおしまいよ、雪風」

「神風さんは、そのままでいいんですか?」

「ええ、もちろん。少なくともあなたのように提督に守られる情けない艦娘ではないもの」

「・・・・」

 

ざわりと。雪風の雰囲気が変わる。

「ゆ、雪風!落ち着きなさいったら!!」

その様子に不安を抱いたジョンストンが声を掛けるが、雪風の耳には届かない。

「しれえはすごい人なんです。普段は雪風達をがきんちょ扱いしますが、料理を作ってくれたり、遊びに連れてってくれたり・・・」

「そうね。確かにすごいと思うわ。だから、真っ先に潰しに行った。そして、貴方達はそれに気づけなかった」

神風の何気ない一言に、自らの前で撃たれる与作の姿がフラッシュバックし、雪風は固まった。

「そうです・・・。し、しれえは雪風をかばって・・・」

守るべき提督に、自分が守られてしまった。

今まで決して倒れる姿を見たことがない提督が、自分のせいで倒れた。

(一緒にいると約束したのに・・。約束を果たせなかった・・・。)

 

「あ、ああ・・・・・」

「ちょっと、雪風!!しっかりなさい!!正気を保って!!」

 

胸元を抑えながら、その場に立ち竦む雪風に、神風は落胆の表情を浮かべた。

「ジョンストンの勇ましさに比べたら興覚めもいいところね、雪風。感情を制御もできないのかしら。鬼頭提督も運はなかったみたい。あんたみたいのが初期艦なんて」

 

酷い侮辱の言葉だった。雪風は射殺すような目つきで神風を睨んだ。

「司令を馬鹿にしないでください・・・」

「事実を言っているだけよ。提督が艦娘を守らなければいけないなんて。そんなやり方は間違っている。いくら鬼頭提督が強くてもね」

「司令を、しれえを撃っておいて、どの口が言うんですか!!」

「守られた者が偉そうに。やった者を卑怯と責める暇があるなら、自分たちの油断を反省なさいな!」

「これ以上、しゃべるなああ!!!」

雪風は遮二無二なって、狂ったように砲撃を繰り返す。

「馬鹿!!雪風、落ち着きなさいったら!!!」

幾度となくジョンストンが呼びかけるも、頭に血が上った雪風には届かない。

 

「この、この、この、このおおお!!」

狙いをつける。躱される。

再び狙いをつける。その瞬間、相手は素早く動き、死角から砲撃をしてくる。

フェイントを織り交ぜ、砲撃と雷撃を組み合わせる。頭を掻きながら、これも躱される。

かちかちと主砲が弾切れを起こしても、雪風はなおも神風を狙い続ける。

 

「全く・・・」

呆れた表情を見せる神風は、少しずつダメージを与えていき、中破まで持ち込む。

ぜいぜいと肩で息をする雪風をよそに、まるで息の乱れを見せぬ神風に、ジョンストンは寒気を覚えた。

「で、気は済んだかしら?」

「うぐ・・・ひっく・・・」

雪風は悔しさに顔を歪ませた。初期艦として、与作の役に立ちたいと思った筈の初の出撃での苦い思い出。あまりにも遠すぎる時雨や北上の背中を追いかけ、必死に食らいついてきたつもりだった。

(それが・・。こんな・・・。)

今までしてきた努力がまるで意味をなさない。

それはそうだろう。積み上げてきたものが違う。向こうは20年近く。こちらはたった3か月だ。いかに濃密な3か月を過ごそうと、どうにもならないことはある。

 

だが。負けるのは何としても我慢がならなかった。目の前の相手は、提督を撃って平気だと言う。艦娘は提督のために道具になれと言う。

 

ここで負けるということは、そのやり方を認めるようなものだ。

「しゃべれるように敢えて中破に留めたのよ。雪風、ギブアップなさい。甘いけど、貴方達、演習が初めてだって言うから、沈めないでおいてあげるわ」

 

神風は勝者の余裕を見せていた。

まるで負けると思っていないらしい。

それはそうだ。二隻でかかったというのに、ジョンストンは大破。自らも中破されたというのに、向こうはかすり傷も負っていない。

「嫌です。ギブアップしません・・・」

涙で顔をくしゃくしゃにしながら、雪風は神風にはっきりと告げた。

「諦めもしません」

肩を抱きながら、声を震わせる。だが、その艤装は半ば壊れており、中破といっても、攻撃する術がないのが現実だった。

 

ぐっと拳を握り、肉弾戦を挑む雪風に、神風は律儀にも主砲を収め、相対する。

だが、当たらない。初期艦である雪風は、アトランタが与作に稽古をつけてもらっていることに焦り、自分も鍛えて欲しいと頼んだ。

それだけではなく、時雨や北上にもアドバイスをもらいながら、そこそこの強さになったと自負していた。

けれど、目の間の相手にはそれがまるで通じない。過ごしてきた年月の違いとばかりに習ったコンビネーションも、フェイントもそれはすでに知っていると意味を為さない。

「くうう!!!」

攻撃の手を緩めない雪風を軽く神風はいなす。

「よく持つわね。その根性だけは買ってあげるわ」

 

繰り出す攻撃の全てが見切られている。

そもそも、この神風は船時代から逸話の多い艦娘だ。

旧式などと本人は卑下して言うが、かつての艦隊演習では大和や矢矧、雪風などの新型艦を相手に一泡ふかせ、対潜戦では、己に放たれた16本の雷撃を全て躱したという経歴を持つ歴戦の艦で娘である。その彼女に普通の攻撃が通用するはずがない。

 

(神風さんの予測の範囲外の攻撃を・・・。)

雪風の脳裏に閃いたのは、かつて横須賀鎮守府に忍び込んだ際に、時雨もできたという技、神速。限界を超える速度を生み出すと言うあの技ならば、神風の意表をつけるかもしれない。

 

「目の前に意識を集中するんだ。何倍も速くなった自分をイメージするといい」

時雨のアドバイスに耳を傾けていた雪風に、己の提督は

「がきんちょが余計なことを考えているな!10年早い!!」

そう言ってぐりぐりをしてきたっけ。

「艦娘は見た目と年齢は違うんですよ、しれえ・・・」

小さく微笑み、雪風がぐっと腰を落として構えをとった時。

 

「もしかして、アトランタ戦で鬼頭提督が使っていた技を使おうとしている?通じないわよ」

絶望を告げる言葉が神風から発せられた。

「な・・・」

「嘘じゃないわよ。あたしも使えるもの」

「嘘です・・・。時雨ちゃんだってこの間ようやく・・・」

「あの人たちが戦っていたのは正味一年程度。あたしはその何倍も戦い続けているのよ?」

 

ふっと。

神風の姿が雪風の前から掻き消えた。

「積み重ねてきた年月を、舐めるんじゃないわよ」

背後からの一撃を受け、雪風の頭部の測距儀が砕け散った。

 

「そんな・・・・」

奥の手が出す前に潰されてしまった。

何をどうしても勝てない。まるで、あの駆逐ナ級を前にしていた時のようだ。

 

またあんな風にはなりたくなくて。

少しでも与作の役に立ちたくて。

必死に訓練をしてようやく芽生えてきた自信が。

あっという間に砕けてしまった。

守りたかったのに守られて。

今は己の提督が一番大事にしていたものまで踏みにじられようとしている。

(負けたくない!負けたくない!!)

強く思い、力を引き出そうとすれど。

圧倒的な神風の力と、先ほどの目の前で倒れる与作の姿に、己の無力感ばかりが思い出される。

 

「他にあるのなら、付き合うわよ」

 

神風はそれ以上、攻撃をせず、じっと雪風の様子を伺った。

呆然としている雪風は一歩も動く気配がない。

 

完全に戦意を喪失したと判断した神風は、

「そう。貴方の判断を尊重します」

機械的にそう言うと、主砲を雪風に向けた。

「では、容赦なく沈めます。恨まないでね」

「ま、待ちなさいよ!!」

 

ぐいと、その射線に割り込むようにジョンストンが立ちはだかった。

すでに自力航行ができるかぎりぎりの所だが、主機はまだもってくれている。

「雪風。ここはあたしが引き受けるから、あんたは一旦逃げて態勢を整えなさい!!」

「駄目です、ジョンストンちゃん。ゆ、雪風は放っておいてください・・逃げて・・」

「大丈夫。あんたも知っての通り、あたしは一回沈んだことがあるから。怖くないわよ」

どんと勢いよく胸を叩き、笑顔を見せるジョンストンだが、その足は震えている。雪風を安心させようという空元気なのは明白だった。

 

「さすがはその勇ましさを謳われる武勲艦ジョンストンね」

「歴戦の勇士から言われると照れるものね」

両手を広げ、雪風を何としてもかばおうとするジョンストン。

「駄目ですよ、ジョンストンちゃん!!しれえはそんなことは喜びません!!」

「早く逃げろって言ってんの!!!」

大声で叫ぶジョンストンに、雪風はびくりと体を震わせる。

「ジョンストンちゃん!!」

 

「貴方の勇気に敬意を表します」

神風が主砲をジョンストンに向けるのが見えた時、雪風は頭が真っ白になった。

 

このままでいいのか。いや、よくない。何かないのか、自分の中には。既に弾は底をついている。奥の手も何ももはやありはしない。

強い思いは自らを改二へと至らせると時雨は言っていた。

ジョンストンを助けたい。しれえの役に立ちたい。

いくら願っても、逆にお前には無理だと嘲笑う自分がいる。

 

(雪風には無理なんですか・・・。そ、そんなことは・・)

(無理です。雪風は前にも失敗しました。約束を守れませんでした・・・。)

(絶対大丈夫です!自分を、自分を信じないと・・)

(しれえを守れなかった雪風を信じろと?無理です・・・)

相反する二つの声がせめぎ合い、雪風を責める。

 

それでも、雪風は探す。この戦いに勝つために何かないのかと。

探せ。探せ。探せ。探せ。

焦る意識の中で、ふと底の方に淀んだものに気づき、手を伸ばす。

 

触れてはいけない。そう、自分の理性が押しとどめるが、今必要なのはあの力だ。

(これでもいい。とにかく、とにかくジョンストンちゃんを助けないと!)

雪風は迷いの中で決断し、それを手に入れた。

 

「うわああああアアア!!!!!」

今しも神風が主砲でジョンストンを撃とうとした時。

雪風を中心に、黒い光が爆発し、はじけ飛んだ。

 




次回予告
『己の不甲斐なさを悟った雪風は、弱った心でその力に手を伸ばした。それは希望の光か、はたまた絶望の闇か。次回鬼畜提督与作五十六話「希望の風、絶望の嵐」』

ジョンストン「この馬鹿風がああ!!しゃっきりしなさいよ!!!!」


※予告と本編は変わる可能性があります。
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