昨年の夏に書き始めてからこんなに続くとは思っていませんでした。
これもいつもご覧いただいている皆様のお蔭です。
本編と並行でIFというか、その後で書いております番外編ですが、2月ですので節分以外の例のイベントを書こうかなと思っております。ここまで根気強くお読みいただいている方々への感謝を込めまして、皆さんからのリクエストで書こうかなと思っております。アンケートにすると選択肢に限りがありますので、ご興味がある方は本日投稿の活動報告にコメントをいただけたら幸いです。
※なお、まるでコメントがいただけない寂しい事態になった場合には作者がいつも通り好みの艦で書きます。
初夏と思えぬほど、吹き付けてくる風は凍てついていた。
「・・・・・えっ!?」
爆風が晴れて後姿を現した雪風の姿に、ジョンストンは声を詰まらせ、様子を伺っていた神風は目を大きく見開いた。
「ゆ、雪風・・・・・・。あんた、それ、その姿・・・・・・」
味方である筈のジョンストンすら驚きのあまり、それ以上の言葉が出てこない。
「ちっ! 面倒な!!」
神風は慌てて、頭上を飛ぶ、無人哨戒機の死角に廻りこみ、叩き落とす。
「えっ!? な、何を!」
ジョンストンの問いに、神風は再度舌打ちし、
「あの様子を他の連中に見られて御覧なさい。ただじゃすまないわよ」
目の前に立ちはだかる雪風の方に顎をしゃくってみせた。
「・・・・・・シレエ」
ぽつりとつぶやいたまま動こうとしない雪風の姿はまるでその名の通り雪のように白く。
そして、青ざめていた。
まるで、彼女たちが倒すべき相手のように。
先刻までこの場にいたひまわりのように温かい笑顔を持った少女はいない。
「嘘でしょ・・・・・・」
艦娘が深海棲艦化する。強い恨みや怒りの念に支配されるとなる可能性がある、とは米国のと
ある研究機関からのレポートに出されていて知っている。だが、知っているからといって、そ
れが納得できるとは限らない。艦娘が深海棲艦化するなどオカルトの類だと信じていた彼女に
とって、理解の範囲をとうに超えている。
あまりの事態に絶句するジョンストンをよそに、神風は冷静に雪風の様子を観察する。
「深海化するなんてね。奥の手が通じなくて動揺したのかしら。その姿になってくれたからにはこちらも手加減なしでいけるわね」
「シレエ、ドコニイルンデスカ・・・・・・」
ぶつぶつと呟く雪風は心、ここにあらずといった感じだ。余程、自らの提督を守れなかったこ
とが悔しかったのだろう。
「鬼頭提督は無事の筈よ。会いたかったら、早くあたしを倒すことね」
艤装を展開し、神風は雪風を挑発する。
「アナタヲタオセバ・・・・・・、シレエニ、アエル?」
「ええ、もちろん」
「ジャア、ハヤクシズンデ?」
「な!?」
ジョンストンは思わず叫んだ。
純粋なまでの殺気。先ほどまで艦娘は心が大事なんだと叫んでいた者の姿はそこにはない。
禍々しいまでのオーラを放つ深海棲艦化した雪風の艤装。
そして、そこからあふれ出るプレッシャーは、彼女の全身をまるでその場に縛り付け、理解さ
せる。
(どう考えても、あれには勝てない。)
艦時代にその勇名を謳われた彼女は、どんな深海棲艦が相手でも臆するつもりはなかった。だ
が、目の前の存在は別だ。同じ駆逐艦というにもおこがましい。それほどの強さの開きがある
だろう。むしろ、平然と対峙している神風がおかしいのだ。
「あんた、何者?」
じっと雪風の方を見つめていた神風は、ほうっと息を吐く。その口から出たのは意外な言葉だった。
「誰って、雪風でしょう! この馬鹿風! いい加減に目を醒ましなさいよ! そんな姿になって勝っても、ヨサクは喜ばないわよ!」
「シラナイ・・・・・・」
「え!?」
「シラナイ、シラナイ、シラナイイイ!!」
ごうっと雪風を中心に爆風が巻き起こり、ジョンストンはその場に膝をついた。
「普通の艦娘が深海化したってここまでにはならないわよ」
大規模作戦で駆逐古姫と闘ったこともある神風はその強さを十分に理解している。今目の前にいる深海化した雪風は明らかにそれ以上の圧力を感じる。
「シレエニアイ二イキタイ!!!」
どうっと異形化した艤装から主砲が放たれる。大気を震わせるその一撃に、神風は驚愕せざるを得ない。明らかに普通の深海棲艦ではない。あの戦艦棲鬼ですら、ここまでの迫力はなかった。
「何なの、あんた・・・・・・」
神風にとってそれは久方ぶりの感覚だった。相手に脅威を感じるなどと。
大規模作戦の際に出会う深海棲艦達も強いとは感じたが、ここまでのものには早々出会ったことがない。それこそ、最終海域と呼ばれる場所に鎮座する深海の猛者達を凌駕するかもと思わせるほどの存在だ。
「この感じ・・・・・・。どこかで・・・・・・」
記憶の片隅にあった似たような体験を思い出す。
自分達とは根本からして違う、格が違うのだと問答無用で突きつけられる。
出会っただけでその差が認識できてしまう、圧倒的な存在。
遠い昔に一度だけ出会い、己が生涯賭けて乗り越えようとした者達。
そう。それは。
「まるで、原初の艦娘じゃない・・・・・・」
興奮に震えながら、神風はぐっと拳を握りしめた。
⚓
「どういうことだ!神風の所へやった哨戒機はどうなった!」
ざーざーと砂嵐になった画面を見ながら、副官が怒鳴り声を上げる。
雪風が何やら改二らしき現象を起こし、皆が見入っていただけに突然の中断に腹が立ったのだろう。
「分かりません。何がどうなっているのやら。流れ弾に巻き込まれたのでしょうか」
整備員達がお互いに顔を見合わせる。
「新しいのはないのか、新しいのは。せっかくの江ノ島鎮守府と演習を台無しにするつもりか!」
「そうは言っていませんが、他のは今点検中でして」
「それを使えばいいだろうが!」
「前回の大規模作戦の時に酷使し過ぎてがたが来てるんですよ!使う方はいいですな。気楽なもんで!!」
「なんだと、貴様!」
整備長の一言に、副官が殴り掛からんばかりに詰め寄ろうとすると、
「いい。そういうこともあるだろう」
間に入ったのは榊原だった。上官からの意外な言葉に、副官も整備長も思わず顔を見合わせる。苛烈で知られる司令官はこれまでならこうした場合、
「常在戦場という言葉を知らんのか。常に整備をしておけと言っているだろう!」
とまず間違いなく整備長を怒鳴り上げていた筈だからだ。一体全体どうした心境の変化なのか。司令官の態度の変化に副官は驚いたが、上官がそう言うからには、彼もそれ以上続けることはできない。
「使う方は気楽か・・・・・・」
「い、いや。申し訳ありません。単なる愚痴と思っていただければ」
釈明する整備長に無言で頷き、榊原はじっと砂嵐になった画面の方を見て、呟いた。
「確かに、そう思われても仕方がないのかもしれんな」
一方同じく港内にある艤装倉庫では、先ほどからささやかな口論が繰り広げられていた。
『突然やってきてなんです、あんた。勝手に乗り込んで、海鼠島に行けなんて!』
航空パイロットの妖精達は、突然やってきた猫を抱えた妖精の上から目線に閉口していた。
『いいから、行きなさい! 私の事を知らないなんて、これだからもぐりの妖精は!』
もんぷちの剣幕に呆れかえる妖精達の中で、青いオーラを纏った熟練パイロット妖精が二人進み出る。
『俺は知ってますよ。妖精女王(仮)でしょう?』
『はあ!? グーで殴りますよ。仮じゃなくて真!むしろ神です、神様!』
『ええ・・・・・・。さ、343空の熟練パイロットさんになんてことを・・・・・・』
『そんなの知りません!とっととこの彩雲で、海鼠島に向かわないと!我二追イツク敵機ナシと謳われた快速は嘘なんですか!?』
あまりの言い草に閉口する妖精達の中で、さすがに熟練パイロット妖精はにやりと笑うと、嬉しそうに頷いた。
『了解。それじゃあ、妖精女王(震)を空の旅にエスコートしますか。』
あっという間に乗り込んだかと思うと、出撃準備を整え、
『ほいほい。ほんじゃあ、妖精女王(紙)。しっかり捕まってくださいよ!!』
『え? ちょ!? なんかアクセントがおかしくないですか? って、ひょえええええ!!』
艤装倉庫から、今一機の彩雲が飛び立った。
⚓
目の前で倒れる浜風と浦風を見、磯風は忌々し気に目の前でふうと息を吐く艦娘を睨みつけた。
偉大なる七隻時雨。その戦闘力は駆逐艦の中でも折り紙付きだとは聞いていた。自分達とは次元が違うとも。だが、建造されてから特殊訓練を積んできた自分たちがこうも簡単にあしらわれるとは思ってもみなかった。
「化け物が・・・・・・」
「随分な言われようだね。ただ単に先に産まれただけだよ」
「それだけでこんな違いができるものか! 我々を侮辱しているのか!」
「そんなつもりはないさ。それで、どうしてこんなことをするのか聞いてもいいかい?」
時雨の問いに、磯風は皮肉な笑みを浮かべる。
「さあな。敢えて言うなら、谷風の敵討ちか?」
「おいおい。谷風さんはまだ完全にやられてないだろう? 何だい、その言いぐさは!」
「鏡でその有様を見てみろ!普通それでやられてないなんて、よく言えるものだ!」
見事に服までボロボロになった有様の谷風を横目に、磯風は通信機を取り出す。
「申し訳ない、失敗した。そちらに後はお任せする」
「そちら・・・・・・。 君たちを指示している者がいるのか。まあ、大体は見当がついているんだけどね」
「おろっ? 本当かい!? 誰だと思う?」
「僕たちにちょっかいをかけるくらいだから、高杉元帥とは別の派閥。反艦娘派と言われる大臣の下の者たちかな」
「・・・・・・」
途端に黙る谷風に時雨は苦笑してみせた。
「あはは。図星みたいだね」
「この馬鹿!」
「じゃあどうすりゃよかったんだい!!」
仲間割れを始める磯風と谷風の側でうずくまっていた浜風が体を起こす。
「偉大なる七隻時雨。悪いことは言いません。あの建造ドックを破壊させてくれるだけでいいのです。それ以上は何もしませんし、替わりのドックもこちらで用意します」
「そもそもどうしてすりぬけくんにそんなにこだわるんだい。ああ。すりぬけくんとは与作、僕の提督が勝手につけた名前なんだけどね」
「あはは。面白い名前じゃねえ。でもねえ、その理由はうちらも知らん。知っているのはあれはあっちゃいけないということだけ」
息を荒くしながらも、浦風が首を振る。
「なあ、時雨さん。浜風が言っているのはあながち嘘じゃないんじゃ。うちら、確かにここの建造ドックを壊すために来たけど、時雨さん達やその提督さんに何かしようとは思ってないんじゃよ? 大人しく渡してくれん?」
「意味が分からないね」
時雨は肩をすくめてみせた。
「君たちの話の通りならそもそも与作がいる時にきちんと話をすればいいじゃないか。それを演習に行った隙を狙って押し込み強盗みたいなことをしている訳だろう? 信じろという方が無理じゃないかな」
「その通り!」
大きな声で同意を示したのは谷風。
「谷風さんもよしといた方がいいって言ったのに、汚名返上したいからってやることになったんだよ!浜風もあの人もどうにも頭が固くってさあ・・・・・・」
「こら、谷風! ええ加減にせんかい。なあ、時雨さん。うちらの言うとること、確かに滅茶苦茶かもしれん。でもな、本当のことなんじゃ。うちらの上にいる人はな、本当にえげつないんじゃけ・・・・・・」
⚓
「し、信じられない・・・・・・。貴方、本当に雷巡ですか?」
工廠内の換気システムがフル稼働する。もくもくと上がる黒煙の中、そう榛名に言われた北上は顔をしかめた。
「今は工作艦だけどね。そんで、あんた達金剛型がいるってことはやっぱり裏で糸引いてやがったのはあいつか。秋津洲がちょろちょろ艦娘や人間があちこち動き回っているって言ってたけど」
「想定外ですね。いくら演習と言えども、小さな鎮守府です。数名の留守番を残して出る筈。ましてや演習に参加できなくとも、偉大なる七隻の提督とあればそれを誇りたい筈だと思っていましたが・・・・・・」
「成程ねー。あたし達を見せびらかしたいから提督があたし達を大湊に連れて行くと思ってたと」
霧島の言葉に、北上は吹き出した。
「何がおかしいのです?あなた方程の方を従える提督ならば当然でしょう!」
「だからおかしいって言ってんのさ。提督がそんなこと考えてたらあたしや時雨ちんが提督として認めてないよ。むしろなぜ連れてってくれないんだってむくれる時雨ちんが大変だったんだから。提督はその陰でのびのびできるって言ってたのを知ってるけどねー」
「余裕があるなあ。まあ、仕方がないけど」
片膝をつきながら、比叡は苦笑した。高速戦艦として、大規模作戦で何度も活躍してきた自分達が赤子の手をひねるかのように簡単にねじ伏せられているのは事実だ。すでに何度目かの攻防を繰り返したが、被害が出るのは戦艦である自分達の方で、あの自称工作艦には焦りの色も見えない。
「どうしましょう」
榛名が姉妹に問いかけた時だった。
「では、その余裕を崩しマショウ」
工廠内に入ってきた人物がいた。
あくまでも優雅にまるで散歩にでも来たかのように悠然と歩く姿に、北上はすっと目を細める。
「あんた、仕事が忙しいんじゃないのかい? 大臣の秘書官なんだろう?」
「残念デスが、大臣閣下は色々あってお忙しいみたいデス」
大げさに首を振り、顔をしかめてみせる。
その芝居がかった振る舞いに北上はふうとため息をついた。
「止めな、金剛。あんたのそれ。ものすごく鼻につく」
「お姉さまになんてことを!」
比叡が抗議の声を上げるが、北上は止まらない。
「この間は谷風。その後も人間、艦娘問わずちょろちょろとさせてたのは、まさかあんたなじゃないよなとは思っていたけど。図星とはがっかりだね」
「おや。かの偉大なる七隻に期待されていたとは! 嬉しい限りデース」
そんな風には微塵も思っていないという金剛の空々しい態度に、北上は舌打ちする。
「散々うちの鎮守府に嫌がらせをしていたんだ。誰の差し金か、考えてみれば分かるだろう?」
「本当に予想外デシタ。まさか潰れたここに誰かが着任するなんて思いもしまセン。普通は呉や横須賀に行くんデスヨ。貴方達の提督はよっぽど問題児だったようデース」
おかしそうにころころと笑う金剛に、北上は内心それはその通りだと言わざるを得ない。
「そんで? 親玉が出てきたからには大詰めってこと?」
金剛はああとわざとらしく頭を抱えてみせた。
「本当は全然そんなつもりは無かったんデース。でも、貴方達の提督ときたらどんどんそのドックで建造して、またそれを馬鹿正直に報告するものデスから・・・・・・・」
「やはり狙いはすりぬけくんか。あんたみたいなお偉いさんが、どうしてこの建造ドックにこだわるのさ。そりゃ確かにすりぬけくんは嘘みたいな建造実績を誇るチートドックだけどね」
「チートドック?」
心底おかしそうに金剛は笑い声を上げた。
「それはそんな夢のあるドックではありまセンヨ。そもそももう二度と世に出て来ないように念入りに潰しておいたんデスガネ」
「潰しておいた!? すりぬけくんを?」
北上は慌てて建造ドックの方に振り返る。常日頃その機嫌に悩まされている彼女からすれば、それは信じられない話だった。
「そうデス。それなのにどこかのお馬鹿さんがそれを直してしまったんデスネー。今まで誰にも直せなかったのに。本当にあなた達は驚きデス。完全に使えなくしていた物をどうやって使えるようにしたんデスカ?」
「さあね」
素っ気なく答えながら、北上はぐるぐると考えを巡らせる。今の金剛の話が本当なら、元々すりぬけくんは建造ドックとして壊れており、使えない代物だったということになる。だが、現実には最初の雪風はまだしも、グレカーレ、フレッチャー、神鷹と大規模作戦の海域でしかドロップ報告がないようなレア艦をほいほいと建造している。
(じゃあ、誰が直したっていうの? 提督? いや、それはあり得ない。だったらあたしにすりぬけくんの調整を頼む筈がない。だとしたら、もしかしてあいつが?・・・・・・。)
脳裏に浮かぶ該当者の普段の素行にあり得ないと思いつつも、それ以外の選択肢が考えられず、北上は思い悩む。
「まあ、誰が直そうと構いまセン。直すことができぬよう、それを貰って帰ればいいことデス」
「あたしがそれをすんなり呑むと思ってんの?」
「Yes! あなたはそうしないといけない筈デス」
金剛は笑みを浮かべながら、北上に携帯電話を手渡した。
「何さ。どういうこと?」
「今ちょうどつながってマース。どうぞお話して構いマセンヨー!」
怪訝な顔をしながら、耳をあてた北上に聞こえてきたのは叫ぶ女性の声だった。
「ちょっと! 誰よ!! こんな所にあたしを押し込んで!! 九十三式酸素魚雷を喰らいたい訳!? いい加減にこの縄を解きなさいな!!」
「・・・・・・まさか」
ぞわりと、その場にいた金剛以外の者は、肌が泡立つのを感じた。
「金剛、お前・・・・・・」
「本当はこんなことしたくありまセンデシタ。せっかくお膳立てしたのだから、大湊に行ってくれていればよかったんデス。でも、貴方達の提督は勘がいいのか貴方達を残してしまいマシタ。非力な私達では、貴方達偉大なる七隻に敵う筈がありまセン。そうすると、色々な手を使うしかないんデス・・・・・・」
よよよとわざとらしく泣いた真似をする金剛に心底苛立ちを見せる北上。
だが、そんなことはどうでもいい。彼女は、大井は無事なのか。
「大井っち!? 聞こえる? あたしだよ、あたし!」
「ちょ!? き、北上様? 北上様ですか! 今どちらにいらっしゃいます? ご無事ですか!」
「あたしはぴんぴんしてるよ! 大井っちは無事なの? 今どこ?」
「よかった。 私、車で会社に行く途中だったんですが、そこから意識が無くて・・・・・・」
大井の返答にぎゅっと北上は唇を噛みしめる。手の中の携帯電話を怒りの余り割らぬよう、大きく息を吐いた。
「お前達の仕業か? どこまで腐ってんのさ。たかが建造ドックのためにここまでやるなんて!
大井っち、大丈夫だからね!きっと・・・・・・」
助けに行く、と言い切る前に通話が切れた。焦った北上がいくらリダイヤルのボタンを押そうともそれは変わらない。
「どうしマス? ドックのために見捨てマスか?」
「金剛・・・・・・。あんた、本当に艦娘なのか? 退役して普通に暮らしている元艦娘相手にどうしてここまで酷いことができるんだい!」
「まあ、貴方達の関係者だからデスネ。あ、長門サンや警察を頼っても無駄デスヨ?」
さらりと言ってのけた金剛に、北上が噛みついた。
「あたし達の関係者? 江ノ島鎮守府ってことか? それとも偉大なる七隻関係ってことか? どっちにしろあの子は無関係だろ!!」
「どちらにも当てはまりマスネ。私はこの鎮守府も、貴方達、偉大なる七隻も大嫌いデス」
「こんなやり方でよく大臣の秘書官などと言ってられるね! これがこの国を、人間を守る艦娘のすることなの!」
「ええ、もちろん。私はこれが人間のためだと思ってやってマスヨ。で、どうしマスカ? 私はどちらでも構いマセン。そうですね。関係があるとすれば、もし、貴方が断った場合、OIの株が近いうちにストップ安になるぐらいデショウカネ」
「あんたを潰して居場所を吐かせてやってもいいんだよ?」
一瞬のうちに肉薄した北上が、金剛の顔面を捉えた時。
「後2分して連絡がなければさっき言った事態になるデショウネ」
金剛の呟いた一言にうなりを上げた北上の拳が止まる。
「何だと?」
「後1分50秒。さすがの貴方でもその間に私達を倒すのは不可能では?」
金剛は楽し気に北上を見つめた。
「金剛!! お前えええええ!!!!」
「お姉さま!!」
掴みかかろうとする北上と金剛の間に比叡が割って入る。
「邪魔するな!」
怒りに任せての一撃で比叡は吹っ飛ぶが、金剛の表情は変わらない。
「1分40秒。時間いっぱいまで考えますか?」
金剛との間に榛名と霧島も立ちふさがり、北上の焦りも増してくる。
「て、提督に連絡するまで待ちなって!!」
慌てる北上に金剛はNOを突き付けた。
「さっきも言ったように、私はこの鎮守府が嫌いデス。それは提督も同じ。わざわざ留守を狙ったのもそのためデス。後1分20秒デスヨ?」
(提督・・・・・・、ごめん。ごめんね・・・・・・。)
北の方角を見ながら、北上は壊れるかと思うほど拳を強く握りしめた。
⚓
神風と深海棲艦化した雪風の戦いは熾烈を極めていた。
それはジョンストンにとっては未知の領域。
頂点とも思える者達の戦い。
嬉々として戦う神風の顔に憂いは無く。
ぶつぶつと時折呟きながら戦う雪風もまた涼しい顔をしていた。
「これよ、これ。この感覚よ!」
かつて己が追った彼女たちの背中。
今目の前にいるのは、その背中と同じものではない。
だが、20年余りの時の中で未だかつて味わったことのない高揚感に神風は包まれていた。
己の攻撃が見切られる。相手の攻撃をぎりぎりで躱す。
今や大湊一と言われる彼女にとって、それは願ってもやまない瞬間だった。
自分はまだ強くなれる。もっと役に立てる。
積み上げてきたものは無駄では無かった。捨ててきたことは正しかった。
「神風さん・・・・・・。あたし、あなたに!!」
続けざまに己に向かって放たれた攻撃を躱し、反撃にうって出ようとした時だった。
どおん!!
「え!?」
予想外の反撃の速さに躱しきれず、小破状態となる。
「う、嘘でしょ!? こ、このあたしが?」
これまでの幾度の戦いで、ふいを突かれて攻撃を受けたことはあれど、完全に反応仕切れなかったのは始めてだ。
「ハヤクシズンデクレナイト、シレエニアエナインデスヨォ!!!!」
雪風から放たれる圧力が更に増す。
「ズット、ズットイッショニイルッテイッタンダカラアア!!!!」
狂ったように砲撃、雷撃をまき散らす雪風
「な、なんなのコイツ! どんどん強くなっている!?」
寸でのところで躱しつつも、その猛威の前に神風は追い込まれていく。
「雪風! バカ!! 正気に戻りなさいよ!!」
その余りの変貌ぶりにジョンストンが大声で呼びかけた時だった。
「ウルサイ!!」
雪風はジョンストンの方に主砲を向けた。
「え!?」
その行動に呆気にとられ、ジョンストンは動くこともできない。
無慈悲な砲弾が彼女を襲おうとした時。
「それは駄目!!」
力強く引っ張られ、ジョンストンは海面に顔面から叩きつけられた。
登場人物紹介
浜風・・・・・・バリバリの武闘派
磯風・・・・・・バリバリの武闘派
浦風・・・・・・そこそこの穏健派
谷風・・・・・・ちゃきちゃきの江戸っ子(似非)
偵(四)熟練妖精・・・・・本来は3人いるが、もんぷちのせいで1人が置いてきぼり。暇を持て余していたのでちょうどいいとニヒルに笑う歴戦の勇士。