ウマ娘が強すぎる。正直面白いからなあ。身近でも提督引退して乗り換える人多いです。
ホワイトデーネタで読者の方から教えていただきましたが、
万年筆は「貴女を仕事でもプライベートでも私のパートナーとしたい。」チョコレートは「あなたの気持ちは受け取れません」になるとのこと。
鹿島が上機嫌だったのが分かりますね。もちろん、おやぢは全く何も考えず贈っております。
空に打ち上げられた信号弾に、海鼠島海域周辺で戦っていた朝風と春風は一瞬我が目を疑った後、素直に戦闘行為を止めた。
「まさか神風姉がやられるとはね」
朝風はどことなくすっきりした顔で言い、
「やれやれ。意地を通されましたね」
春風は苦笑して見せた。
戦場で自らの思いに区切りをつけた神風型の艦娘達とは違い、砂嵐となった中央以外のモニターに映る光景に大湊の諸提督達は愕然とした。
最強を謳われ、大湊の象徴ともいえる神風型の二隻が、新設間もない江ノ島の艦娘達を打ちあぐねる様は、彼らのこれまでの常識を揺さぶるに十分であったが、止めとばかりに画面に映された神風からの敗北を伝える信号弾に、言葉を失い、顔面を蒼白とさせる者が相次いだ。
「じょ、冗談だろう・・・・・・」
そう口にできる者はまだよかったかもしれない。
多くの提督、艦娘が目の前で起きた出来事を信じられぬと首を振り、天を仰いだ。
強くなろうとこれまで自分達がしてきたことはなんだったのか。
艦娘を道具として扱い、ひたすらに腕を磨いてきた日々はなんだったのか。
どうしたらよいのだと戸惑う彼らに、青森からやってきたという憲兵隊の到着が知らされる。
「憲兵が来ただと? どういうことだ」
「榊原司令長官はどうした? どこに行った!」
もはや演習どころではない提督達は、それぞれの部隊の艦娘の動揺を抑えようと必死になった。それは審判役として派遣された海軍省から派遣されていた担当官もまた然り。
「何もするな!? 何もするなとはどういうことです。私は、私の立場どうなるのですか」
狂ったように携帯に叫ぶ彼の姿は周囲の喧騒の中でも殊更に滑稽に映った。
一方その頃、第四艦隊の艦娘達から逃げ回っていたジャーヴィスと浦波はどこへいたかというと、まさしくその第四艦隊の宿舎にいた。血相を変えて宿舎から出てくる艦娘達と入れ替わりに室内へと侵入したジャーヴィスはすぐさま司令官室に直行し、怯える浦波をなだめすかし、その調査を行うと言い出した。
「あ、ちょ、ちょっと!」
困惑する浦波をよそに、帽子の中から取り出したヘアピンで机の引き出しにある鍵穴をいじくっていたジャーヴィスは会心の笑みを見せた。
かちりと言う音と共に開かれた机の引き出しに、浦波は愕然とする。
「う、嘘・・・・・・」
「ね! 便利でしょう?」
引き出しの中からファイルを取り出したジャーヴィスはぱらぱらとそれをめくると、
「umm~やっぱりね」
小さく頷きながら顎を撫でた。
(装備使用に関するレポート。送り主は米国の兵器メーカー。日本国内にも研究施設はあるみたい)
「ど、どういうことですか」
「あまり言いたくないんだけど、浦波達の提督さんは上手いように使われていた可能性があるわね」
「そ、そんな!」
息を呑む浦波とは別な人物の声が室内に響く。
「嘘よ・・・・・・」
入口へとジャーヴィスが振り向くと、そこにいたのは叢雲だ。
「司令官が利用されていた? バカにするのもいい加減にしなさいよ!」
怒り心頭と声を荒げる叢雲に対し、ジャーヴィスはあくまでも冷静に対応する。
「Non、バカになんかしてないわ。あくまでも見た物からの判断だもの」
「そいつを元に戻しなさい。今だったら怪我せずに捕まえてあげる。浦波、あんた、どこまで司令官の期待を裏切るのよ!!」
「ご、ごめん・・・・・・」
叢雲の怒気に押され、縮こまる浦波をかばうようにジャーヴィスが間に入った。
「彼女に無理を言って私が連れてきてもらったの。さっきも言ったけど。本当に尖りきってしまっているのね、あなた達。同じ艦娘として痛々しくて見ていられないわ」
「余計なお世話よ。演習の結果がどうだからと言って、あたし達のこれまでのやり方まで否定される謂れはないわ」
ぐっと叢雲は拳を握る。既に神風達の敗北の報は届いている。
自分よりも遥かに強い神風達がやられたのだ。今更何を言っても負け犬の遠吠えにしかならない。だが、頭で分かっていても、それを感情的に認めることができない。
「違うわ、叢雲。誰も貴方達の頑張りを否定しないわ。ただ、やり方は間違っている。首輪を使い艦娘に言う事を聞かせることを貴方は良しとするの?」
「そ、それは・・・・・・」
叢雲が言い淀んだ隙をジャーヴィスは見逃さない。
そっと顔の前で両手の指先を合わせると、じっと彼女を見据え、畳みかける。
「そして、ここに些細だけれど、とても大きな疑問があるわ。人間は艦娘を道具として扱いたく、艦娘はそんな彼らの気持ちを汲んで道具として行動したい。その方が人間のためだからというのがその理由。でもね、それって本当にそうなのかしら」
「何を言っているのよ、そうに決まっているでしょう!」
「そう。でもよく考えればそれはおかしいのよ。いくら人間のためになるからと己を律し道具に徹しても私達は艦娘。完全な道具にはなれない。意志に反する行動もある訳で、それを強制するために一部の人間が使っているのが首輪よ。でも、それが人間全体のためになるとはとても思えない」
「何が言いたいの」
「単純なことよ、叢雲。米国の例を見ても、強制的に言う事を聞かせようとする首輪は艦娘の反発を招き、艦娘派の人間にとっても許しがたいものよ。このことをとっても、人間のためになると言えるのかしら。なのに、なぜあなた達はそれが人間のためだと思っているの?」
「艦娘自身が道具だと思ってあげた方が人間は気楽でしょうよ!」
「いいえ。それは違うわ」
ジャーヴィスは叢雲の返答を切って捨てる。
「自分達が楽だからあなた達はそうしているのよ。人間だけじゃなくてあなた達も実は自分達を道具と思って欲しいのよ。その方が何も考えなくても済む。責任を負わなくていいし、全て提督に言われた通りにしたのだと言い訳もできるから」
「な・・・・・・」
叢雲は絶句し、反論できない己を自覚し驚く。
ジャーヴィスの指摘は、自分自身でも無自覚に正しいと信じてきたものが誤りだったと意識させるに十分だった。
「首輪がなければそういう考え方もあるかなと思ったけどね。でも、あれがある限りそれは危険な考えよ。首輪は人の善悪を求めていない。それは米国大統領の一件で明らか。艦娘という武力を悪人が自由にできるということだもの」
「ま、まさか、そんな・・・・・・」
「適性検査があるから大丈夫というのは反論として成り立たないわよ。すでに米国大統領のような人物がいるもの。彼の場合はそれが個人的な嗜好に向いたけれど、それだって許せるものではないわ」
ジャーヴィスの言葉は鋭い刃となって、叢雲に突き刺さる。
これまでそんなことは考えたことが無かった。だが、一連の騒動からそれは真実だと考える自分がいる。がらがらと音を立てて崩れていくのはこれまでの価値観。強固に固められ、絶対的な存在だったはずなのに。
「さっきあなたは首輪の話をした時に動揺した。その前に会った時には感情を抑えるトレーニングをしていると言っていたのにね。あなた達は事の善悪については分かっている。ただ、提督の言う通りに動いた方がいいと思いそうしているだけよ。自分達は道具だと逃げるのを止めなさい。あなた達は自ら判断して行動しているのよ」
先ほどまでの勢いはどこへやら。うつろな目をし、両手をじっと見る叢雲に、ジャーヴィスは淡々と告げる。
「だから、再度貴方の判断を聞くわ。首輪によって行動の自由を奪われて戦うのか、自ら覚悟して敵と戦うのか。艦娘としてどちらで戦いたいのかを」
「艦娘として?」
「ええ、艦娘として。自分のことは自分で決める。判断を他人に委ねるのは卑怯者のすることよ。道具としてありたいならそれで結構。でも、それは決して人間のためではないわ。あなたのためにすることよ」
「じゃ、ジャーヴィスさん・・・・・・」
ジャーヴィスのあまりの舌鋒の鋭さに浦波は言葉を失った。
可愛い駆逐艦だと思っていたが、それは彼女のほんの一面だったようだ。
冷徹な糾弾者の顔を見せたジャーヴィスに、さすがの叢雲も言葉を詰まらせる。
「そ、それは・・・・・・」
心の奥底まで見透かすようなジャーヴィスに、叢雲は我慢できず目をそらす。
ややあって、口を開いたのは浦波だった。
「私は、自分で考えて戦いたいです・・・・・・」
「浦波!?」
「どん臭いし、迷惑もかけているけど。でも、人間を守りたいんです」
なんだろう。そう口にした途端、浦波は心の中の重しがとれたような気がした。
叢雲は信じられないと首を振る。あそこまで蔑ろにされて、人間のために戦いたい、とは。
艦娘とは何と因果なものなのだろう。
「その判断でOK?」
微笑みながらジャーヴィスは浦波を見る。
「ええ。だって、そのために生まれてきたんですから。叢雲ちゃんもそうでしょう?」
「当たり前じゃない! でも人間を守るために必要だからと考えて、そう言い聞かせてっ・・・・・・」
「間違えることは誰にでもあるわ。人間にも艦娘にもね・・・・・・」
肩を震わせる叢雲の背中をそっとジャーヴィスは撫でる。
「私が読んだ探偵小説の犯人たちは多くの場合やむにやまれぬ事情で犯罪を起こしていたわ。ちょっとしたすれ違い、思い込み。それしか他に術はないという強迫観念。でも、犯罪が発覚した後、皆こう言うの。こんなつもりじゃなかった!ってね。他の道は考えなかったの? もっとコミュニケーションをとれば? そう言われても頭がかちこちで分からないのよ。さっきまでのあなた達みたいにね」
「随分言うわね・・・・・・」
「私が敬愛しているオールドレディはよく言っているもの。『優しさは常に万能な処方箋ではない』ってね。あなた達は言葉足らずよ。もっと提督や他の艦娘とコミュニケーションをとるべきね」
「コミュニケーション?」
「That`s right! コミュニケーション。提督とお話したりー、お茶したり―。後提督が間違えていたら頭突きしたりね!」
「え? ず、頭突き?」
おどけた様子で話すジャーヴィスに浦波がつい聞き返す。
「Yes! 日本の言葉でも顔を突き合わせるって言葉があるでしょ! 私もうちのダーリンのやり方が酷すぎるから、ついさっきキツイのをかましてきたばかりよ!!」
「え、そ、それって使い方が違う・・・・・・」
思わず突っ込んだ浦波に対し、ジャーヴィスはうんうんと嬉しそうに頷いた。
「できているじゃない、コミュニケーション! 道具は私に突っ込んだりしないでしょ?」
「わざとなのか素なのか。あんたって本当によく分からないわね」
叢雲は目の前の海外駆逐艦にはかなわないと静かに微笑んだ。
⚓
「さてと、これでいいかな」
神風は信号弾が上がったことを確認すると、雪風の方に振り返った。
すでに海鼠島から二人は移動している。
これまでの激闘が嘘のように海は穏やかだ。
「妖精さん、電話、貸してくれないかしら」
神風は自らの艤装の中にいるもんぷちに声を掛ける。
『ええ、構いませんが。どうしました?』
「せめて、最期はしっかり伝えないとね」
「え、神風さん。最期って・・・・・・」
神風の発言を聞きとがめた雪風の耳に、びきっと何かがひび割れる音が響く。
「ちょっと無理、しちゃってね。でも最期にお礼は言いたいから・・・・・・」
「神風さん!!」
足を止めた神風に雪風が駆け寄る。
「お、応急修理員は? 積んでいた筈でしょう!」
ふるふると首を振る神風の姿に、雪風がすっと目を細める。
「さっき、あの子。ジョンストンちゃんを守った時ですね」
「雪風さん? ええ、そうです・・・・・・」
「ど、どうして。どうしてそんなことを!」
同じ顔なのに表情が違う。苦笑しながら、神風は江ノ島の雪風に語る。
「柄にもなく、あんたにあの子を撃たせちゃダメって思っただけよ」
「じゃ、じゃあ。雪風のを!!」
ごそごそと艤装をまさぐる雪風だが、深海化した際に装備を下してしまったためか、応急修理員が見当たらない。
「そ、そんな!」
「いいの。私がそれでいいんだから」
神風はふうと小さくため息をつくと電話をとった。
「なんだあ、どうした。まだなんかあんのか」
受話器越しに面倒くさそうにするおやぢ提督の顔を思い浮かべ、笑みがこぼれる。
「鬼頭提督、神風よ。今回は色々と迷惑をかけたわ。ごめんなさい。そして、ありがとう」
「そんなことのために電話してきたのか? 律儀な奴だな。色々と面倒くさいことになりそうだからとっとと俺様は帰りたいんだがね」
「うちの司令官はどうしているかしら」
「ああ、俺様がぶちのめした。首輪はNGだ。胸糞悪い」
「強くなるために必要なことだと思っていたの。間違いだとも思わなかったわ」
「提督が言うからか? てめえの頭で少しは考えろ。いいか悪いかを」
「返す言葉もないわね。道具は考える必要がないと思って甘えていたわ」
「ま、精々責任をとるんだな。てめえ達のしでかしたことへの」
「そうね。朝風と春風には事故だったと伝えて?」
「何を言ってるんだ、お前・・・・・・」
突然TV通話に切り替わり、与作は驚く。
神風の周囲をきらきらとした粒子が飛びかい、段々とその姿が透けてきている。
「か、神風さん! 早く母港へ!!」
「満足しちゃったのよ、私。雪風さんとも闘えて、素敵な提督にも会えて」
出来損ないと言われ蔑まれてきた自分。大湊最強だと畏怖されてきた自分。
どれが本当の自分だったのだろうか。
原初の神風に憧れ、そうなりたいと願ってきた。そのためには道具として戦うのが最善と考えてきたのに。思いを持って戦っても辛いことばかりだと蔑んでいたのに。
「あなた達、とても強かったわ。武運を祈っている・・・・・・」
段々と薄くなる神風の姿に、雪風はパニックになる。
「ゆ、雪風さん! どうにかならないんですか!?」
「雪風でもどうにもできません。高速修復材も応急修理員も無ければ。後は見送るしか・・・・・」
ぐっと唇を噛みしめる雪風(原)。いくら規格外の能力を持つと言っても、彼女は工作艦ではない。去り行く僚艦を救う術がない。
「そ、そんな。こんなのって、こんなのってないですよ。しれえ! どうにかならないんですか!」
「ありがとう、雪風」
散々痛めつけ、精神的に追い詰めた自分に対し涙を流してくれるとは。何と心の優しい艦娘なのだろう。いや、江ノ島鎮守府の艦娘自体がそうだった。きっと自分達とは何もかも違うのだろう。
「そんなことありません!! 雪風は分かっています。今回の演習の神風さんは変でした。煽るようなことを言ったかと思えば、止めるようなことも言って。本心は止めようと思っていたんじゃないですか?」
「それは私にとって都合のいい解釈ね」
透き通るような笑みを浮かべる神風に、雪風の焦りは最高潮に達する。
このままではいけない。何とかならないのか。
「しれえ、何とかしてください! お願いします、しれえ!!」
喚き続ける雪風に、小さく首を振り、
「もう一度お礼を。鬼頭提督、ありがとう」
神風が電話を渡そうとしたときだった。
「バ~カ」
電話の向こうから心底呆れたと言った声が返ってきたのは。
「しれえ!?」
「何がありがとうだ。俺様は責任をとれと言った筈だぜ? 何勝手に沈もうとしてんだよ」
「ごめんなさい。でも、体が限界で・・・・・・」
申し訳ないと謝る神風におやぢ提督は予想外の一言を告げる。
「そんなこったろうと思って保険をかけてあるんだよなあ」
「保険?」
雪風が首を傾げる。何を言っているのだ、己の提督は。
「いや、雪風。何か聞こえない?」
耳をそばだてるのは雪風(原)。
カーンカーンカーン。
聞こえてくるのは神風の中から。
「え!? ちょ、ちょっとどういうこと?」
神風自身も驚くが、その様子を見ていた雪風は驚愕に目を見開く。
「か、神風さん! 体が戻ってきてますよ!!」
「そんな・・・・・・、なんで?」
意識を集中させた神風は、自らの艤装の中で必死に動く何かの姿に気付く。
「え!? あ、あなた!」
『ひい~~~~~~~。水が、水があ!!』
何だろう。誰かが、必死になって自分を修理しようとしているようだ。
艤装の妖精はそんなことができないし。一体誰なのだろう。
『何が保険ですか、提督!! ちょ、ちょっとちょっと洒落になってませんよ!!』
そこにいたのは江ノ島が誇る妖精女王。なぜかヘルメットをかぶった彼女は必死になって手にしたハンマーであちこちを叩き、補修している。
「え!? さっきの妖精さん? あなた工廠妖精なの?」
『私をあんな腐れ連中と同じにしないでください!! 由緒正しき羅針盤妖精上がりのこの私を!』
「ぐずぐず言わずに手を動かしな、もんぷち!」
『て、提督。図りましたね。何が「帰りも神風に乗っていった方が安全だぜ、びーばーは危険だからな」ですか!!』
「ふん。お前ならやれると思ってな。以前散々親方に迷惑をかけて働かされてたからな」
『ぐぎぎぎぎぎぎ。自分の器用さが憎い!! これではまんま都合のいい女ではないですか!』
悔しがりながらも、沈むのは嫌だと必死になるもんぷちの甲斐もあり、粒子が止まり姿を留める神風。
「鬼頭提督・・・・・・」
「神風よ。俺様は甘くないぞ。沈んで逃げるなんて許す訳ないだろうが」
「・・・・・・そうね」
神風はふと自らのリボンに手をやる。
「え・・・・・・」
原初の神風から受け継いだリボンから、微かに溢れる力が感じられた。
応急修理をするもんぷちを後押しするかのように。
頑張んなさいよと神風を元気づけるかのように。
空を見上げ、神風はぽつりと呟いた。
「神風さん・・・・・・。ずっと、見ていてくれたんですね」
⚓
電話を切った与作を待っていたのは、倉田の人の悪い笑みだった。
「聞いたぜ、おっさん。特大のネタをのう。おまんがあの始まりの提督の関係者というのも驚きじゃが、まさか深海化した奴を元に戻すとは驚きじゃ」
「呆れたしぶとさだなあ。それで?」
「察しが悪いの。首輪をわしによこせ。それで忘れちゃる」
「あん? よもやと思うが、俺様相手に脅迫してんのか? 別に忘れる必要もねえし、言いたきゃ言いな」
「脅しやないぜ。この事が広まったらどうなるかのう。おまんの鎮守府も無くなるやもしれんぞ」
「そうなったらそうなっただな。最近がきんちょばかりしか来ねえし、他のことでもするか。四の五の言ってくる奴らとは闘うしなあ」
「おまん、本気で言っちょるのか? いくらおっさんが化け物みたいに強くても人やぜ?」
「まあ、向こうがやる気なら別に相手するってだけだな」
「く、狂っとる・・・・・・」
「俺様をいきなり撃つてめえに言われたくねえ」
与作は頭をかいた。
「そんで、どうすんだ、お前。くそみたいな道具を使っていた時点で俺様は許す気はねえぞ」
「しゃらくさいわ!!」
ぐっと倉田が靴底を捻ると、そこからガスが漏れ出し、辺りが白い煙に包まれる。
「毒霧だけが奥の手やないぜ!」
倉田は入口に向かって逃げようとする。
と・・・・・。
ふわり、その体が浮いたかと思うと地面に叩きつけられた。
「なっ、お、お前は!!」
自らを投げ飛ばした人物を見、倉田は唖然とする。
大湊警備府の司令長官である榊原。倉田が常日頃から馬鹿にして止まない上官の姿がそこにはあった。
「おい、おっさん。どういうつもりじゃ」
格下と侮っていた相手に隙を突かれたとは言え、投げ飛ばされ、倉田は不機嫌さを隠さない。
「もう止めろ、倉田」
どう猛な倉田の目に普段の榊原なら委縮している筈である。
だが、この時は逆に倉田をじっと射すくめるように見つめていた。
「原初の艦娘達のような悲劇を出したくない。その一心で強さこそ何よりも大事としてきた。その結果失うものがあることも知りながらな」
「失う? 捨てるの間違いじゃろう。戦場に女を連れて行くな等という連中と同じことを今更ぬかすんかい! わしらは戦争をしているんじゃぞ!?」
「そうだな。そう言い訳をして、彼女達の思いを敢えて見ないようにしてきたのだ。あれは兵器だ、道具だと言い聞かせてな。同じように見えて、それぞれに違った思いがあるのを知りながら。鬼頭提督と艦娘達のやりとりを陰ながら聞いて今更ながらに気付いたよ。我々が何を間違えていたのかを」
「江ノ島の連中に感化されて日和ったんか! わしらは強くなければいけない。深海棲艦を倒すためにのう。きれいごとを言う連中の言葉などどこ吹く風。戦ってからぬかせ。そうだったんじゃないんかい!」
「そう。戦ってない人間に言われる筋合いはない。奴らは安全な所から批判するだけの存在だ。だが、共に戦っている者たちの言葉に耳を傾けては来なかった」
「この期に及んで宗旨替えか、おっさんよ。艦娘を道具として考え、上手に運用していくことこそが勝ちへ最高の道筋じゃろうが!」
いいや、と榊原は静かに首を振る。
「演習に負けた以上、それは最高とは言えん。ならば、最善の道を探すしかない」
「仲良しこよしが最善か? 今日までのここのやり方はなんだったんじゃ!」
「そうだな。強かったら何をやってもいいと、そうお前に思わせたのがそのやり方の末路だろう。それは私の責任だ。何か裏でこそこそしていると気付いてはいたが、まさか首輪まで使うとは思っていなかった」
「おっさんの監督不行き届きだな」
口を挟んできた与作に、榊原は頭を下げる。
「すまない。その通りだ。見ないふりをしてきた」
「ふうん。おっさんの方が、そこの坊やよりまだマシみてえだな」
「何じゃと! 色々やらかしとるおまんに言われたくはないわ!」
「はて、俺様何かやったっけ」
「いいや、何も。」
榊原はきっぱりとそれを否定する。
「君は、いやあなたは艦娘のためになることをしただけだ」
「艦娘のためじゃと・・・・・・。榊原のおっさんよ。おまん、本当に気でも狂ったんか!」
道具と位置付けてきた艦娘に対する思いを口にする榊原を信じられぬと倉田は眉を顰める。
「始まりの提督の思いを聞いたら、昔を思い出してね。彼女達と共に海を守ろうと、そう思っていたことを」
ぽりぽりと頬をかく与作に再度頭を下げた榊原は倉田の腕をとり、立ち上がらせる。
「先ほどからひっきりなしに副官から連絡が入っている。行くぞ、倉田」
⚓
群馬県館林。
「お~い、神鷹! そっちは大丈夫かも?」
秋津洲の明るい声を聞き、訓練でくたくたになった神鷹はわずかに顔を綻ばせた。
江ノ島にいる時から二式大艇ともども気を遣ってくれていた秋津洲は神鷹にとって話しやすい存在だった。
「ヤー。な、なんとかやっています。そちらはどうですか?」
「もう色々あって大変かも! 鎮守府が突然襲われたり、ドックが奪われたり!」
何だろう。聞く限りでは随分と物騒なことになっているようだ。
「ええっ!? だ、大丈夫なんですか?」
「そっちは提督が知り合いに頼んで何とかなりそうかも。でも、肝心の提督もちょっと心配なんだけど」
秋津洲の台詞に、神鷹は表情を曇らせる。
「えっ!? て、提督に何かあったんですか」
「うん。時雨達には伝えてないんだけど、実は大湊で撃たれたらしいかも」
「そ、そんな!!」
「麻酔銃だから、てんで大丈夫って本人は言っているんだけど、帰りに寄ったときにそれとなく様子を見てくれないかも?」
「わ、分かりました。心配です・・・・・・」
おっかない外見には未だに慣れないが、気を遣ってくれている提督を神鷹は信頼している。その提督が撃たれたとあっては気が気ではない。
電話を切った後どうしたものかと室内をうろうろした神鷹が、とりあえず鎮守府の先輩であるアトランタに相談をすることに決めたのは自然の流れだったろう。
「Why? どうして提督さんが?」
あたふたするアトランタに、神鷹も分かりませんと動揺を露わにする。
「あら、お二人とも。どうしたのですか?」
そんな二人の前に現れた鳳翔に、アトランタはたらたらと冷や汗を流す。
「い、いや。その。ちょっと・・・・・・」
さすがに空気が読めるアトランタは、鳳翔に知られてはならじと口をつぐんだが。
「どうかしましたか? 神鷹さん」
素直な神鷹は、空母の母の迫力に抗せず、秋津洲からの話をそのまま伝えることになった。
「ほうほう。あの子が撃たれたと。それはそれは」
ゆらりと笑顔のまま立ち上がり、身支度を整えようとする鳳翔。
その無言の迫力にこりゃあかんと彼女の両腕をがっちりと固めるアトランタと神鷹。
「いや、大丈夫って話だから!」
「ほ、鳳翔さん、落ち着いてください!!」
「いえいえ、落ち着いています。落ち着き過ぎてちょっと体を動かしたいくらい」
「NO! 目が座ってる!!」
「ごめんなさい、神鷹さん。ちょっと出てまいりますので、その後に訓練をしましょう」
「出ちゃダメです! 鳳翔さん!!」
涙目になりながら、神鷹が鳳翔を止める間、アトランタが慌てて与作に連絡をとり事の次第を話す。
「あんの、かもかも野郎~。余計なことを言いやがって!!」
携帯越しの罵声と共に、与作は鳳翔に事情を説明するために骨を折るのだった。
登場人物紹介
与作・・・・・人生で5本の指に入るほど説得に手間をかけたとぼやく。
秋津洲・・・・おしゃべりかも野郎と与作に怒られ、二式大艇に慰められる。
神鷹・・・・・自分のせいで秋津洲が怒られたとしょんぼり。
アトランタ・・ちょっと待って。鎮守府にまだ偉大なる七隻が二人いるんだけど、と戦々恐々。
鳳翔・・・・・与作の説明を受け、大湊への旅行は思いとどまるものの、バカ息子のやり方のまずさに怒り、どうやって叱ろうかと、一緒に行った駆逐艦達のケアをしないとと頭を巡らせる。