鬼畜提督与作   作:コングK

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ミステリーっぽく書いてみました。元々裏設定だったものを使って書いているので、伏線何それ状態ですが。後書きの登場人物紹介は今回はそれっぽく書きました。


第六十三話  「名探偵ジャーヴィスの冒険 鈍色の研究①」

世間を騒がせていた大湊事件から二週間余り。

私こと米国駆逐艦ジョンストンが江ノ島鎮守府に初めて訪れたのは、もう夏も始まろうとしている7月の最中であった。

その間起こった様々なことは、今更詳しく述べる必要はあるまい。演習時に発覚した大湊の悪しき因習(堂々とそれが当然とやっていたこと自体が問題だが)や、それに伴う大小様々な混乱は、世間を騒がせ、艦娘と人間の関係について一石を投じるものとなった。

 

 当初こそ新天地にすぐ慣れるかとの不安が私にはあった。それが杞憂だと感じられたのは、演習を通して接することのできた江ノ島鎮守府の面々とすぐ打ち解けることができたこともあるが、その後に怒涛の如く押し寄せた衝撃的な事実の嵐に翻弄されていたからに他ならない。館林で会った鳳翔、そして奇跡的に戻ってくることのできた雪風に続き、時雨、北上と偉大なる七隻のバーゲンセールかと思うばかりに現れる伝説的な艦娘達のラッシュに心が追い付かず、体面を気にする余裕さえない有様だった。

 

「そんな緊張しないでよ。普通に接してくれると嬉しいな」

時雨は優しそうな微笑みを浮かべたが、とてもつい先ほど自らの提督に強烈な平手打ちをかました艦娘と同じ艦娘とは思えない。

「そ、それは・・・・・・」

「あ~。ジョンストン、それは勘弁してあげて。あたし達と違って時雨は付き合いが長いからさ。提督のこと何でも知っていると思っていたのに、そうじゃなかったからねー」

 

そう言う北上も、提督に会うなりドロップキックをかましていたのを私は見逃していない。どう

も、提督であるヨサクが自分たちに隠し事をしていたのが気に食わなかったらしい。

 

 私にとっても驚きの総仕上げである、ヨサクが始まりの提督の義理の息子という衝撃の告白はあっけなく行われた。ぜかゆきと名付けられた原初の雪風をどのようにして助けたかの説明にどうしても必要だと判断したためだというそれは、当事者である提督が思うよりも遥かに大きな衝撃を持って迎えられた。

 

「なんで気づかなかったのでしょう・・・・・・」

姉のフレッチャーは帰りの車内で自らの不明を恥じ、他の者も多くが驚きを口にし、どう反応してよいのか分からず戸惑っていた。そんな中で唯一けろりとしていたのは初期艦である雪風だけだ。

「普通そんなの分かりませんよ。しれえの普段の態度からは」

「分かってたまるか。俺様はあのおっさんと違うんだからな、同じにするんじゃねえ」

「で、でもテートク・・・・・・」

言い淀むグレカーレに雪風が話していた言葉が印象的だった。

「しれえはしれえですから、別に気にする必要はありませんよ」

「わがままが減るなら少しは気にしろ」

何気ない二人のやりとりに他の者は皆一斉に安堵のため息をついた。これまでの提督との距離感が失われることを恐れていたのだろう。本人が意識するなと訴えても、艦娘養成学校の教科書に載るような人物の息子、それがヨサクだ。これまではなかった遠慮やどう接したらよいのかという不安が頭をもたげ、微妙な空気を醸し出していたのだ。

 

演習組や私達のような新参者にとってすんなりと受け入れられた衝撃の告白だったが、ヨサクとは養成学校からの付き合いであり、最も彼を理解していると思っていた時雨にとっては、その事実は寝耳に水どころの話ではなかったらしい。

「なんで、なんで言ってくれなかったんだい!!」

 

パーンと食堂に響いた大きな音に、居合わせた面々は息を呑むしかなかった。

提督の演習での無謀な振る舞いに怒り、その最中に起きた奇跡、原初の雪風との感動の再会を終えた時雨を待っていたのは、これまで知らされていなかった驚愕の真実。

口元を震わせた彼女は養成学校時代からの提督にしがみつくとそのまま泣き出し、その胸を叩いた。

 

「どうして、どうしてさあ・・・・・・。僕、僕の話は与作に全部伝えていたじゃない・・・・・・」

 

一年以上に渡り、共に過ごしてきた提督から真実を伝えられていなかった。

それはとりも直さず自分を信頼していなかったからではないか。

偉大なる七隻と謳われる彼女達であっても、いや初めてこの世界に人類を救うために顕現した彼女達だからこそ提督からの信頼は欲しいもの。ましてや、それが、かつて自らが仕えた提督の忘れ形見であるのならば猶更だ。

 

「俺様は俺様だ。おっさんとは関係ない。おっさんとの約束も破っちまってるしな」

「そういう事じゃないよ! 与作、そうじゃなくって!」

すがる時雨をいなすように、提督は執務があるからとその場を離れ、姉を始めとした何人かの艦娘がその後に続いた。

残ったのは北上に時雨、雪風と新規参入組の私とジャーヴィス。

「ダーリンは本当に言葉足らずね」

「まあ、提督が何で伝えなかったかは分かるけどね。時雨ちんだって本当は分かってるんでしょ? あの人が一番嫌いそうなことじゃん」

「うん、まあね」

時雨は頷きつつも、寂しそうにヨサクが去って行った方を見つめた。

「でも与作には口にして欲しかった、教えて欲しかったって思ってしまうんだ・・・・・・」

ヨサクがどう思って真実を伝えないでいたのか、あれこれと意見を交わした後、自然と話題は原

初の雪風の話から、江ノ島鎮守府の奇妙な建造ドックの話になった。

 

これまで世界中で数限りなく艦娘が建造されてきたが、原初の艦娘の魂を持つ艦娘を建造できたという事例を聞いたことがない。ただでさえ、姉であるフレッチャーやグレカーレ、神鷹など珍しい艦ばかりを建造するドックだ。一体どういったものなのか興味がつきないのは当然のことだろう。

 

「ああ、すりぬけくんのことかい? 資材ばかり食うって与作は怒っていたよ」

時雨の着任前、調子が悪くなった建造ドックは資材を投入しても何も建造しないということを繰り返し、時雨が建造した際に出てきたのがフレッチャーなのだと言う。

「妙な話ね。通常建造ドックは失敗することなどあり得ないと言われているわ。レシピはどうなっているの?」

ジャーヴィスがメモを取り始める。

「あの時は戦艦レシピで回したね。でも出てきたのがフレッチャーだったから与作は微妙な表情をしていたよ」

「姉さんで微妙って、どれだけヨサクは理想が高いのよ!」

あの米国大統領が聞いたら卒倒するかもしれない時雨の爆弾発言だ。

「すりぬけくんについてはあたしの方で仮説があるんだよね~」

ヨサクに頼まれて、ずっと調査をしていたという北上はこれまでの調査の結果から分かったことを披露した。

 

建造ドックは正式には「海軍甲型艦娘招魂装置」と呼ばれ、投入した資材の量により呼び寄せやすい魂が存在する。この呼び寄せやすい魂を明記したものが所謂レシピと呼ばれるもので、艦娘の誕生当初は僅かな誤差で狙った艦娘とは違う艦娘が建造されることは多かったが、今や世界中の提督達からの建造報告によってそうしたことが起こりにくくなっているという。

ところが、北上曰く、すりぬけくんにはそうした常識が通用しない。そもそも一度入れた資材を貯め込むということができず、入れたからには建造をしなくてはならないのが通常のドックだ。

「ところが、すりぬけくんは力を溜める訳よ。思いきりね」

一見建造失敗に思えるそれは、資材を飲み込み特殊な建造に備えるためで、そのため通常建造ではまず召喚されることのない艦娘たちが現れるのだという。

 

「nmmm、もうその時点でspecialな建造ドックじゃない。大型艦建造ドックでもそんなことはできないわ。特殊建造ドックと言ってもいいわね。これじゃあ、本国のリソース達がやきもきして怒るのも当然よ。ドック自体が普通じゃないんですもの!」

「まあすりぬけくんを使っての建造はドックだけの問題じゃないみたいなんだけどね」

北上は、これまで個人的に考えてきたことが、大湊での演習中の金剛との会話からより確信に変わったと口にした。

「どういうことだい?」

「すりぬけくんでのとんでもない建造、うちの妖精女王が原因だと思う」

「え!? あの食い意地の張ったあいつが?」

私が眉を顰めるのも無理は無いことだろう。最初の印象はさほどでもなかったが、その後土産物を食い散らかし、散々ヨサクにお仕置きされる姿は、本当に女王かどうか不審がらせるに十分だった。

「そう。あいつが建造に関わったのが3回。グレカーレ、フレッチャー、神鷹。いずれの時もあいつは建造の時にドックに潜り込んでいる」

「え!? 雪風は違うんですか?」

「あんたの時が例外らしいんだよねえ。見ていただけって言うからさ。で、ここからが本題。金剛がすりぬけくんを奪いに来た時、奴は言ったんだよ。念入りに潰しておいたのに、って」

「すりぬけくんが壊れていたってことかい!? でも雪風は建造されたんだろう?」

「雪風が建造された時にしれえが言っていましたよ。もんぷちさんがボロボロの鎮守府を直したって」

何気なく話す雪風の言葉に、皆がぎょっとした表情を見せる。今自分達が使っている鎮守府がボロボロだったと言うのも信じられないが、あの自称妖精女王が鎮守府を直したというのも信じがたい。どんな魔法を使ったというのか。

「なんか、猫をぐるぐる回す奴らしいです。マッサージチェアは直せないのか、使えない奴だとしれえは怒ってました!」

「OK。その時に、本来は壊れていた筈のspecialドックが直された、と。そういうことね? 北上」

「そういうこと」

北上の返答に、メモをぱらぱらとめくっていたジャーヴィスは帽子を脱ぐと頭を掻いた。

「よく分からないことがあるわね」

「すりぬけくんが妙なドックで、昔は壊れていたってことでしょう? どこがよく分からないのよ」

私の言葉に、ジャーヴィスはぱちぱちと瞬きをする。

「分からないかしら、ジョンストン。確かにすりぬけくんは妙なドックで金剛によって壊されていた。それは事実でしょうね。だからこそ、疑問があるのよ」

「疑問? もんぷちが鎮守府をどうやって直したかってこと?」

「それは今雪風が言ったじゃない。妖精の魔法かどうかわからないけど、とにかく彼女が直したことは確かよ。そうじゃなくてもっと根本的なことね。当たり前すぎてみんなスルーしているのかしら」

「もったいつけないでよ! あんたの悪い癖よ!」

つんと頬を突くと、ジャーヴィスはにっこりと微笑んだ。

「あはっ。名探偵ってそういうものよ、ジョンストン。怒らないでね。この場合、私が気にしているのは一つ。誰があのすりぬけくんを作ったか、よ」

 

                      

呆気にとられる面々を尻目に食堂を辞したジャーヴィスはすぐさま執務室に向かうや、ヨサクにことの次第を話し、調査の必要性を問いた。

「すりぬけくんを誰が作ったか、だと? そんなの海軍の連中だろうよ」

「Non、多分違うわ」

ヨサクの答えをジャーヴィスは勢いよくかぶりを振って否定する。

「建造ドックには通常のものと大型のものがある。もし、海軍が作っているドックから突然変異でできていたのなら、もっと前に話題になる筈よ。資材を多く使うけれど、大規模作戦だけでしかお目にかからない貴重な艦娘と会えるのだから。金剛が壊したというのだから、その前は壊れていない状態だったはずだもの、ところが、この20年余り、そんな話題はどこにも出てきていない」

「何らかの事情ありか。確かにお前の言う通りだな。頭突きだけが取り柄のがきんちょじゃねえってことか」

ヨサクは笑いながら、すらすらとペンを走らせるとジャーヴィスに紙切れを渡した。

「excellent! よく分かっているわね、ダーリンは」

何だろうと横目で見ると、そこには依頼書と書かれている。こういうところの冗談は私も嫌いではない。思わずくすりと笑みを浮かべると、ヨサクはニヤリと笑い返した。

「俺様から名探偵に依頼だ。すりぬけくんの謎を解き明かしてくれ。ジョンストンは相棒役を頼むぞ!」

「え!? なんで、私が!」

「こいつの相棒はお前って散々聞いているぜ」

「よろしくね、ジョンストン!」

ひらひらと手を振るジャーヴィスに頭が痛くなるのを感じる。

「構わないけど、あんた、まさか飛行機の時と同じようにしゃべりまくらないわよね?」

「それはご想像にお任せするわ!」

「嫌な予感が一気に確信に変わったわ・・・・・・」

ぶつくさと文句を言う私の手を引っ張り、ジャーヴィスは執務室を後にした。

 

                     ⚓

名探偵を自称するジャーヴィスは英国のJ級駆逐艦。乗り継ぎに訪れた英国の空港からの付き合いになるこの陽気な艦娘は、先の大湊の事件でも、裏に隠された資料の数々を発見する活躍を見せ、本人の語る冒険が単なるフロックではないことを思わせるに十分だった。

お日様のような笑顔に、抜群の人当たりの良さを誇る彼女だが、その大きな欠点は何と言ってもおしゃべりで、日本までの飛行中に散々その被害にあった私は、今回もまた同じような目に遭うのかと気が気ではなかった。

 

まずジャーヴィスが訪れたのは工廠で、妖精達と打ち合わせをする北上をよそに、すりぬけくんへと近づくとべたべたと触り始めた。

「材質は通常と変わらないようね。見た目も通常のドックそのもの」

こんこんとドックを叩きながら言う私に、

「いいえ、ますます怪しくなったわ」

ジャーヴィスは、ここよ、ここと指を差して見せる。

「どういうこと?」

「おっ。すりぬけくんの調査かい?」

よく分からないと首を捻る私の横から顔を出したのは北上。

通常重雷装巡洋艦である彼女は、なぜかこの鎮守府では工作艦として活躍している。

「ええ。北上なら分かるんじゃないかしら。この下、ちょっと見づらいけれどある筈のものがないわ」

「ある筈のもの?」

「ほうほう。北上様に挑戦ねえ。ある筈のもの・・・・・・って、ああ、そうか。海軍省マークとシリアルナンバーか!」

ぽんと北上は手を打ち、目を見開く。

「迂闊だったよ。見かけが通常と変わらないから中身の方ばかりいじくっていて、こんな簡単な見逃しがあるなんて!」

「どういうことよ、ジャーヴィス」

「建造ドックは通常のも大型のも各国の海軍省が一括で厳しく管理していてね、その国の海軍省のマークと、シリアルナンバーをドックの右隅に付ける決まりになっているのよ」

「きちんと製造されたものならあって当たり前。無いなんて怪しい限りじゃん。勝手に建造ドックを作るなんてとんでもない罪だよ?」

それはそうだろう。資材を揃えれば、艦娘を気軽に呼べてしまうということだ。実際には提督

の適性と妖精が必要だから、これだけではどうにもならないがそれでも悪意のある人間がそうした条件を叶えてしまったらと想像するだけでぞっとする。

「とすると、誰かがこの建造ドックを勝手に作ったってこと?」

「恐らくは。何らかの目的があってね」

「目的って、建造ドックなんだから艦娘を建造することが目的でしょうよ」

私の問いにジャーヴィスは目をキラキラさせる。

「やっぱり、ジョンストンは最高ね! 相槌の打ち方がナイスタイミングだわ! ジェーナスもいいんだけど面倒臭がるのがたまに傷なのよ。艦娘を建造するのが目的というのは賛成だけど、付け足しが必要ね」

「付け足し?」

「ええ。ただの艦娘ではないわね。普通はお目にかかれないような強力な艦娘を建造しようと考えたのではないかしら」

「大型艦建造があるのに?」

口を挟んだのは専門家でもある北上だ。

「ええ。確かに大型艦建造ドックはあるけれど、あれは大きな鎮守府にしか設置されていない上に、使うのに申請が必要だもの。ここのように小さな鎮守府で強力な艦娘を建造したいとなると色々と不便よ」

「それじゃあ何、この鎮守府で誰かがすりぬけくんを使って強力な艦娘を建造しようとしていたってこと?」

「That`s right、その通りよ、北上」

「でも、だったらなぜ金剛はこれを壊したのよ!」

思わずどん、とすりぬけくんを叩いてしまい、私は反省しながらその部分をさする。

「それに関する考えはいくつかあるわ。正式なものでないから廃棄した、これが世に出ると困るから始末したとかね。でも、今の所一番しっくりきているのが、扱えなかったからでは? というものよ。さっきの北上の言葉を思い出して。建造の成功の際には必ずあの妖精女王が関わっているわ」

「雪風の時には中に入ってないらしいけどね」

「条件がその場にいること、なら合致するわよ。恐らくあの妖精女王は自分でも意識してないけれど鍵なのよ。あの子がいるために、ダーリンは建造に成功し、見知らぬ誰かは失敗した」

「成程、不良品な上、正規なものでもないドックを廃棄するのは当然よね」

私が頷くと、ジャービスは顎をなぜながらじっとすりぬけくんを見た。

 

「あるいは、それだけではないかもしれないわ」

「と言うと?」

「単なる不良品の処理にわざわざ忙しい金剛が来るかしら? ひょっとすると彼女はドックを使おうとしていた者を知っているんじゃない?」

 




登場人物紹介

ジャーヴィス・・・・・探偵。
ジョンストン・・・・・その助手。
北上・・・・・・・・・江ノ島鎮守府の工廠担当
時雨・・・・・・・・・江ノ島鎮守府の艦娘。提督の元ペア艦。
鬼頭与作・・・・・・・江ノ島鎮守府の提督
フレッチャー・・・・・ジョンストンの姉。江ノ島鎮守府所属。
グレカーレ・・・・・・江ノ島鎮守府の艦娘。
雪風・・・・・・・・・江ノ島鎮守府の初期艦。
ぜかゆき・・・・・・・雪風の中にいるもう一人の雪風。

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