八年間待ち望んでいた宗谷の実装。
この小説でも度々触れていたし、今でも宗谷詣でをしています。
運営Twitterが出た段階で宗谷かと疑っていましたが、まさか本当だとは・・・。感慨もひとしおです。感想欄で教えていただいた方々ありがとうございます。
今日まで艦これを止めないでよかった。本当によかった。
競馬場にウマ娘を放置したままイベント周回と任務消化に勤しんでいましたが、宗谷の話を聞き、完全に艦これ>ウマになってしまった。付き合い長いから仕方ないよね。
宗谷実装祝いにぶっつけ本番で無茶して書いたため、色々齟齬があるかもしれませんが、時系列的には大湊におやぢ達が演習に行っている間の話です。
くどいけど、まさか、まさか宗谷が実装するとは・・・・・・。
偉大なる七隻と名付けられた艦娘達の中で、最も有名な者は誰だろう。
その質問には多くの者がこう答えるだろう。
長門か、ウォースパイト。
それは他の者達と違い、二人が海軍の要職に残り、自ら積極的に活動していたからに他ならない。
後進の育成、深海棲艦への対応。洋の東西を問わず、することが同じな二人は、戦艦同士という事もあり、何度か比較の対象に上がることが多かった。
社交界に知己も多く、華やかなイメージが付きまとうウォースパイトに比べ、長門は武骨そのもの。ウォースパイトが女王の園遊会で華やかなドレスを披露したという記事が新聞に載り、世の男性たちにため息をつかせたかと思えば、長門は根も葉もない駆逐艦誘拐疑惑をかけられ、大衆紙をにぎわせる有様だった。
そんな好対照の二人だが、これまで頻繁にやりとりがあったかと言えば、そうでもない。
元々始まりの提督の鎮守府にいた時から、ウォースパイトは金剛型と仲が良く、長門は同じビック7のネルソンやコロラドと話すことが多かった。
鉄底海峡の戦いの後は、お互いに海軍の要職としてあり、忙しかったこともある。
連絡しようにもついつい連絡ができず、それが長きに渡ってしまった。
そう思っていたのだ。
それまでは。
確かに目の回るほどの忙しさで余人に代えがたい仕事をしている二人だ。
けれど、連絡ができないほどではない。
しなかったのはお互いにお互いを妙に避けていたからに他ならない。
迂闊に話せば、色々なことを思い出してしまうから。
思い込みに気付き、風向きが変わったのは、あの風変わりな提督のせいだ。
偉大なる七隻の時雨の提督となった胡散臭いおやぢ提督。
彼が起こしたフレッチャーにまつわる事件が起きた時、彼女達はお互いに相手を気遣うということを言い訳にしてきたことに気が付いたのだ。
「心が鉛のように重かったの。今思えばどうしてなのかわからないわ」
通信機ごしにウォースパイトは寂しげに目を伏せた。残された友との貴重な時間を、どうして自分はあたら無駄にしてしまっていたのだろう。
年をとった、嫌なことを思い出したくはなかった。理由は色々と考えられる。
今更ながらに湧き出てきた思いに、常に冷静を謳われる彼女もどことなく戸惑いを感じているようだった。
「ふむ。それは私も同じことだからな。お前のことばかりは言えない。どうも江ノ島のあいつが来てから驚かされてばかりでな」
「ああ、キトウのことね! 」
ころころと鈴が鳴るような声でウォースパイトは笑い声を上げる。
「そちらに送ったジャーヴィスは着いた頃かしら。あの子ならきっと役に立ってくれるわよ。とても優秀な子なの。あの子が解決した事件にキトウの動画がからんでいたのよ」
「事件だと?」
「ええ」
長門の問いに答える形で、ウォースパイトは「踊る艦娘」とジャーヴィスが名付けた事件の説明を始めた。
夜中に突然一部の艦娘が一斉に踊り始めるという奇怪極まりない事件が起こったのは、ちょうど時雨の会見に前後してのことだった。余りの騒がしさに寮監であるアークロイヤルが夜寝られないと文句を言いに行こうとすると、ぴたりとその騒音が収まるというもので、規律に厳しい彼女は犯人を見付けようとしたが、ようとして犯人は知れなかった。
当初深海棲艦の新たな攻撃かとも思われたその事件だが、ジャーヴィスが調査に乗り出すと何のことはない、どこぞの江ノ島の提督が上げた、踊ってみた動画が原因だった。
画面の中で一生懸命に踊るフレッチャーと、不気味な程陽気な笑顔で踊るおやぢのハイテンションなダンスの前にクールで評判のシェフィールドがなぜか食いつき、深夜に隠れて踊っていたところ、段々と他の艦娘にも広まっていったというのがその真相だった。
「貴方に先ほど話してもらったネルソンなんかは『なぜ隠れて踊るんだ? 余には理解できない』なんて言っていたのよ」
「ふむ。それは私も同意だな。駆逐艦達のダンス、是非に見たかったものだ」
「貴方、本当に変わらないのね。鎮守府にいた頃から、駆逐艦や幼い子達を可愛がり、よく彼女達をかばっていたわね。高貴なる者の義務という奴かしら」
「ああ、無論だ。それは我々の使命だからな」
感嘆の声を上げるウォースパイトにさも当然だと鷹揚に頷く長門だったが、当事者たちの理解に齟齬があることにいち早く気が付いた大淀は我慢ができず、飲んでいたお茶を思い切り吹き出した。
ぶうっ。
霧のように飛び散ったお茶は、そのまま正面に座っていた鹿島に襲い掛かり、突然の不意打ちに新任の秘書官は躱すことができなかった。
「うわっ。お、大淀さん!? 汚い! 私にかかりましたよ!」
「ご、ごめんなさい。我慢できなくて・・・・・・」
怒る鹿島をなだめながらも、内心しょうがないじゃないかと大淀は言い訳をする。
(どこをどうとったら長門さんの病が高貴なる者の義務となるのかしら。信じられない。)
大淀の中で、偉大なる七隻のウォースパイトはいい人と認定された瞬間であった。
秘書二人のやりとりを気にもせず、その後も雑談を交わした長門だが、時計を見やるとそろそろ失礼すると席を立った。
「あら外出の予定があったのね、ごめんなさい。つい楽しくて、時間を気にしていなかったわ」
「いや、私もこうしてお前と話せてよかった。今日はお台場に行く日でな」
「あ・・・・・・」
お台場という言葉にウォースパイトは反応する。
お台場にはあるのはかつて船の科学館と呼ばれ、現在は艦娘資料館として存在する施設。
それと、艦娘達の慰霊碑だ。
「本当はadmiralのご冥福を一刻も早く祈りに行きたいのだけれど、残念ながらそうもいかないの。私の分もお願いしていいかしら」
「承ろう」
「それと、確かそこには宗谷がいる筈よね。彼女にもよろしく伝えて」
ウォースパイトの言葉に長門は微笑んだ。
「ああ、それも任せてもらおう。ウォースパイト、そちらの海を頼む」
「ええ。任せて、My friend!」
どことなくおどけた表情で話し通信を切ったウォースパイトに、長門は目を細めた。
一緒にいた時は気付かなかったが、あんなに表情の豊かな艦娘だったとは思いもしなかった。きっと自分と同じように彼女の中で何かが変わったのだろう。
未だに揉めている秘書二人に外出するよう伝えた長門は、一路お台場へと足を向けた。
⚓
「何だ、いないのか。残念だな」
駐車場の中にあるテントの中を覗き、そこに外出中と書かれた札を認めると、長門は残念そうに肩を落とした。
艦娘資料館近くの大きな駐車場。
そこには偉大なる七隻である響がテントを張っていて、時にボランティア、時に釣りと気ままな生活を楽しんでいた。昔馴染みの長門は、艦娘慰霊碑に行く際には必ずここに立ち寄り、彼女と何気ない雑談をするのを楽しみにしていたのだが。
「宗谷の方か? だが、そうなら外出中などと書かないか」
響にとって宗谷のボランティアは既に生活の一部になっている。いるのが当たり前で、外出などとは書きはしないだろう。きっと急な用事でもあったのではないだろうか。
「そうでなければ、あいつが宗谷から離れるとは思えない。それにしても、もう20年近くになるか」
しみじみと長門は昔を思い出す。
あの地獄の鉄底海峡から生還し、傷が癒えて後。
仲間を失い、その無念さを晴らそうと鬼のような形相で執務をこなしていた時だ。
響が彼女を頼ってやって来たのは。
「宗谷を見捨てるのか、だと?」
大声で聞き返す長門に対し、響は切々と現状を訴えた。
お台場地域の人口は減少しており、かつてのような賑わいはない。
そのような所に置かれた宗谷に対し、人間が予算を組むとは思えない。
何か策を講じなければ朽ちるに任せるに決まっており、最悪解体される危険もある筈だと。
「だからお願いだ。私を宗谷のボランティアとして働かせてくれ。そして、今や施設として稼働していない船の科学館を艦娘資料館としてはどうかと各方面に掛け合って欲しい」
響の熱意は本物だった。無給で働くだけではない。偉大なる七隻として、彼女に支払われる恩給すら辞退し、宗谷の維持に当てて欲しいとまで言うほどに。
「なぜ、そこまで・・・・・・」
長門の問いに、響は自らの体験を語った。
傷つき、ボロボロになった自分を宗谷が慰めてくれたのだと。
きっと、まだ顕現していないだけで、あそこに彼女はいるのだと。
「そうか。それはいい。私も宗谷については知らぬ仲ではないからな」
そう、響の提案を快諾した長門ではあったが、彼女のした体験についてとなると話は別だった。
そもそも船として沈んだものが艦娘になると言われているのに、沈んだことのない宗谷に意識があるのだと言われても信じがたいものがあった。
(私自身、確認してみるしかないな。)
その日の午後、急遽休みをとった長門は、電車を乗り継ぎお台場へとやってきた。
そこにあったのは白とオレンジを基調にした船。
かつて特務艦としてあの大戦に従事し、ミッドウェー・ソロモンなどの苛烈極まる作戦にも参加をしながら、ただの一度も沈まなかった「帝國海軍最後の生き残り」。
敗戦国たる日本にその資格はなしと、各国が反対する中で割り当てられた観測地点は、米国海軍をして接岸不可能とされたプリンスハラルド海岸。その絶望的な現実を前に屈さず、多くの人の夢と希望を背負い、ついには不可能を可能にした船。
南極観測船宗谷。
その名は長門にとっては懐かしいものだった。
『灯台の白姫』『海のサンタクロース』『北の海の守り神』等様々な二つ名を持つ彼女と共に、横須賀のドックに入っていたのが誰あろう長門だった。
横須賀を襲った大空襲の際に、火の気がなく難を逃れた宗谷に対し、長門は砲塔を吹っ飛ばされて中破した。大きな彼女が標的となって宗谷を庇ったのだとも言われていると知り、長門は嬉しくなった。
(それによってこの国の人に大きな夢を見せられる船が生き残ったのだ。こんなに嬉しいことはない。)
思わず口元に笑みを浮かべた己に気付き、長門は驚いた。
提督や皆の仇を討たねばならないと躍起になっていた自分。
そんな自分が笑みを浮かべることなどこの一年余りの間あっただろうか。
たまたまその場にいた海上保安庁の職員に頼み、特別に中へと入れてもらう。
すでに開館時間は過ぎ、人気がない船内はひっそりと静まり返っている。
軍艦時代の事しか知らない長門は、宗谷の船内にある南極観測の展示を見ながら大いに感慨にふけっていた。
そこに書かれていたのは長門が知らない宗谷の歴史。
あの戦争に敗れ、混乱する中で必死に復員輸送船として働き。
灯台補給船として、各地の灯台へと物資を輸送し。
過酷な南極への船旅を成功させた後、さらには巡視船として日本の海を守ることとなった。
「随分と苦労しただろう。私達の分まで、ありがとう」
自然と長門の口をついて出た言葉。
船時代の自分よりも遥かに小さい宗谷。
だが、その積み重ね、起こしてきた数々の奇跡は、かつて連合艦隊旗艦を務めた彼女からしても頭が下がる思いだった。
「だが、お前は本当に幸せ者だよ」
解役し、誰もがスクラップになるだろうと思った中で各地からの嘆願が相次ぎ、遂に博物館船として海に浮き続けることになった宗谷。
今にして思えば、次々と人々が宗谷に仕事を与えたのも、彼女を守りたかったからではないだろうか。
そこまで人々に愛されることができるなんて。
「羨ましい。心からそう思う」
連合艦隊旗艦として人々の尊敬を一心に集めていた長門。
そんな彼女が船として最後にできたのは、忌まわしい核兵器の実験台としての役目だった。
「あの終わり方に悔いはない。だがな」
艦内には誰もいない。そう思い、気が緩んだのだろう。
彼女の脳裏に思い出されるのは、あの鉄底海峡の前日のこと。
「戻ったらしたいことなど特にないな。私は軍に残る」
そう言い切った長門に対し、姉妹艦の陸奥はやれやれと肩をすくめてみせた。
「軍に残るのはいいけれど、おしゃれもしないとダメよ? 長門は素材がいいんだから、もっと服とかお化粧とかに気を配るべきだと思うわ」
「そんなものに気を取られていては戦えまいって、おい!」
むすりと返した長門の口の端をつまみながら、陸奥は言った。
「そんなにむっつりしないの。笑顔を大事にしないと、貴方が大好きな駆逐艦の子達にも怖がられるわよ」
「そ、それは困る!」
「だったら、少しは気を付けなさい、全く」
そうして、軍に残ると言う長門に対し、陸奥は私も付き合うわ、と笑ったものだった。
「それなのに・・・・・・」
鉄底海峡の激戦の最中。長門のいる本隊を援護するために陽動を買って出た陸奥と、長門は遂に再会することはできなかった。
「陸奥だけではない。大和に武蔵、金剛達・・・・・・・。みんな、みんないなくなってしまった」
戦友たちは倒れ、今や数えるほどしか残っていない。
「それでも、私は戦うと決めた。ああ、決めたんだ。だが・・・・・・」
艦内に置かれた椅子に腰を下ろし、長門は背を丸め、目を瞑った。
これ以上弱音を吐きたくはない。
せめてもの矜持として口をつぐんだ彼女の背に。
そっと何かが触れた気がした。
「なっ!?」
それはかつての仲間たちと話していた時のような懐かしさ。
明日を夢見、必死になって働き、笑い合っていた時のようだ。
疲れ果て、弱音を見せた長門を励ますように、そっとその背を押すように。
温かい空気が長門を包んでいた。
「本当に、いるのか? 宗谷、お前・・・・・・」
ぽかんと口を開けたまま長門は船内のあちこちを探し回るが、やはり人影はどこにもない。
「気のせいか? いや、そんなことはない」
自分だけならまだしも、響も同じような体験をしたと言っていたではないか。
意識があるだけで、艦娘として顕現していないだけなのだ。
今はまだ。
冷えた心が急速に熱を帯びてきた。
弱音を吐いていたのがまるで嘘のようだ。
「そうか。お前はまだここにいて頑張っているんだな」
うんうんと頷くと、長門はどんと胸を叩く。
「だったら、私も弱音など吐いている暇はあるまい。連合艦隊の旗艦としての意地を見せなければな」
そう宣言し、長門は響との約束通り、艦娘資料館の設立と艦娘慰霊碑の設置に奔走することとなった。
(昨日のことのようだ。ふふ。私としたことが、感傷に浸るなんてな。)
駐車場を抜け、見えてきた船体。そして、その傍らに建てられた艦娘たちの慰霊碑。
共に戦い、帰らぬ人となった多くの戦友と、未だ相まみえぬ小さき戦友に向かい、長門は笑顔で叫んだ。
「久しぶりだな、友よ。元気にしていたか?」
登場人物紹介
長門・・・・・・響にお土産にとミカンジュースを置いていく。
響・・・・・・・帰宅してからジュースよりウォッカの方がいいんだけどね、と言いつつジュースを飲む。
ウォースパイト・実は踊ってみた動画を見て踊ってみたのは内緒。お茶目なウォー様。
シェフィールド・実は密かに英国おやぢファンクラブを設立する。
ネルソン・・・・念願だった長門との対面が叶いご満悦。「やはり、偉大なる七隻でも長門は特別だな。あ、いや、ウォースパイトもだぞ」とは本人の弁。
鹿島・・・・・・謝る大淀に対し、江ノ島に着任させて欲しいと駄々をこねる。
大淀・・・・・・それとこれとは別と、クリーニング代等を払い、鹿島の要求に応じず。