鬼畜提督与作   作:コングK

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古参だった友人も提督を辞めると言うし、DMMのランキングもかなり落ちてるし人が確実に離れている印象。
やっぱりナ級が悪手だったと思う今日この頃。
この物語は作者が納得いくまでは続けるつもりですが。

今回のエピソードは裏設定から書き始めているため、見返すと色々ボロがありますが、そのまま続けていきます。


第六十七話 「ある秘書官の一日(前)」

海軍省ができたのは今から18年前。

 

かの鉄底海峡の戦いと前後して自衛隊内に提督候補生を募ったが、適合者が少なく断続的な深海棲艦との戦いが続く中で建前を言っていられなかったのだろうと当時人々は噂していたが、事情はやや異なる。

 

実際は政府自ら艦娘を喧伝、好待遇を保証し、その上で人類の脅威と闘う英雄像を作り上げ、提督業につきたいと願う人間を民間から募集した結果、提督候補生や艦娘の数は右肩上がりに増加した。だが、いつの時代のどんな組織でも急激な肥大化は質の低下と規律の低下を招く。御多分に漏れず多くの混乱が生じることとなり、そのためそれらを管理していた防衛省の部門が独立し、海軍省として日の目を見ることとなったというのが本当のところだった。

多くの非難の声に包まれながら出発した海軍省だが、艦娘達の活躍もあり、今や日本の国防を一手に担う存在となったと言っても過言ではない。

 

その海軍省の一角にある海軍大臣の秘書官室を訪れる者は、エレベーターを降りた瞬間から廊下に漂う圧倒的な紅茶の香りに驚くことだろう。部屋の主である金剛が英国から取り寄せた紅茶を水代わりに飲むのが原因と言われるそれは、嗅ぐと皆例外なくお茶をしたい気分になると省内ではもっぱら有名な代物だった。

 

「おや、今日は違う」

金剛に呼ばれてやってきた明石は、廊下に漂ういつもとは違う匂いに鼻をひくつかせた。

「おかしいな。いや、でも確かにこの匂いは・・・・・・」

くんくんと再度周囲の匂いを確かめる。大臣である坂上以外艦娘しか訪れないことから大奥などと揶揄されているくらい人の往来が少ないここに、まさか来客でもあるというのか。

「明石です。御来客中ならばまた改めます」

軽くノックをし、来た道を戻ろうとすると、中から呼び止められた。

 

「客などいないネ。入りなさい」

「失礼します」

 

固い扉を開けて中に入った明石を迎えたのは、香ばしいコーヒーの匂い。作業の合間によく飲む明石にとっては好ましいものの、彼女の主はその匂いを毛嫌いしていた筈だが、見るやカップを片手にコーヒーを楽しんでいる。

 

「どうしました。紅茶党に離党届を出されたので?」

「たまたまネ。ほんの気まぐれで飲んでみようかと思っただけデス」

 

くだらない冗談に付き合う金剛の様子にほっと明石は胸をなでおろす。

今日はそこまで機嫌は悪くはないようだ。

 

「それで?」

 

じっと金剛の目に捉えられた瞬間、明石は身を固くする。深い霧を思わせるその瞳からは冷徹な

鋭さが感じられる。

 

「例の物の調査はどうなりマシタ?」

「はい。こ、こちらが報告書です」

「Thank you」

 

ぱらぱらと受け取った報告書をめくる音だけが室内に響く。

やがてその音がぴたりと止まるや、己の出番が来たことを明石は自覚した。

「開発できない? どういうことデス。開発ドックは誰でも開発できる筈デス」

「はい。私もそのようなものだとこれまで認識していました。ですが、工廠の妖精たちに見せても首を捻るばかりで。あの開発ドックは開発ができないようです」

「それはおかしい。例の鎮守府から開発の報告書が上がっていた筈ネ。彼らに開発できて私達にできないなんておかしいヨ。開発失敗というだけでは?」

「残念ですが開発失敗とは思われません」

 

工作艦たる明石としては忸怩たる思いを抱かざるを得ない。

金剛の言うように通常開発ドックと言えば、開発失敗がつきものだ。艦娘の建造と同じように、狙いの装備を開発できるようレシピが存在するが、適正な資材量で適正な艦娘を開発担当に据えても、狙いの物が出てくるまで回数が必要となる。

だが、それは裏を返せば、回数をこなせば目当ての装備が手に入る可能性が高いということであり、資材の投入量が凄まじい割に出てくる艦娘のぶれが多い大型艦建造よりは確実だと言われている。

だが、例のドックは違う。

 

「資材量、開発担当、さらには気温等も考慮に入れてかなりの数行いましたが、上手くいきませんでした。もう少しお預かりできればさらに詳細な結果をご報告できると思いますが」

言外にまだ研究をさせて欲しいとの願いを明石は込めた。かなりの数、などとぼやかしているが実際には100はくだらない。10㎝高角砲+高射装置などという希少装備をぽんぽん開発したドックなのだ。試してみたくなるのが研究者の性というものだろう。

金剛の子飼いの部下である彼女は、大本営直属で様々な艤装を開発し名を上げている同じ明石に対抗心を抱いている。どうにかしてあの開発ドックの謎を解き明かし、一矢報いたいという思いは強かった。

 

だが。

 

「使えないというなら、さすがに無関係のドックまで取り上げるのはどうかと思うネ」

彼女の主の興味は使えなさそうな開発ドックになどなかった。

「それよりも、その開発ドック。すぐに返せるようにしておいてクダサイ。向こうが難癖をつける前に返してしまいマス」

「し、しかし。あのドックは何か妙なんです。根拠は工作艦としての勘としか申し上げられませんが」

必死になって食い下がる明石だが、金剛は小さく首を振った。

「STOPね、明石。私がいらないと言っているのデス」

「で、ですが・・・・・・」

「同じことを二度、言わせマスか?」

あまりに無機質な金剛の口調に明石ははっと我に返り、震えながら大きく頷いた。

 

「OK。分かってくれればいいデス。それよりも、例のドックが手に入るかが大事ネ。音羽にある屋敷を使うつもりヨ。浜風達と打ち合わせをしておいて欲しいネ」

「打ち合わせ、ですか?」

「Yes。何があるか分かりまセン。何しろ向こうはあの米国大統領を引きずり下ろした男だからネー。用心するに越したことはないヨ」

「りょ、了解しました」

ぺこりと頭を下げ、明石がいなくなるや、金剛はコーヒーカップを手にした。

 

「こんな泥水のどこがいいネ。理解できないヨ」

まだ半分以上残った中身をじっと見つめていると、何やらこみあがってくるものがある。

 

それは何の感情なのだろう。

心のどこかで何かが強く訴えている。

ずきずきと痛む頭を軽く振り、首元に手をやる。

「疲れているのかもしれないネ」

大丈夫。そう自分に言い聞かせる。

そもそも自分はどうしてコーヒーのような不味いものを飲もうと思ったのだろうか。

あんな物を好むのは余程の変わり者くらいなものなのに。

 

「インスタントではよく分からないとわざわざ散財して買いマシタが、とんだ大損ネ」

忌々しいと手にしたカップを室内でこぽこぽと音を立てるサイフォンに投げつけようとして、思い留まる。

「物は大切にしないとデス」

なぜそう思ったかは分からない。

だが、不思議と気分は悪くはない。

 

まだ痛む頭をさすりながら、金剛は残っている仕事を数える。

「お姉さま。お手伝いいたしましょうか」

よいタイミングで入って来たのは比叡だ。

Thank youと礼を告げるとびっくりしたような顔を見せる。

「そんなに驚きデスか?」

「いいえ。嬉しいんです」

にこにこと上機嫌になった比叡は手際よく金剛の仕事を手伝っていく。

「そう。よく分からないネ」

金剛に書類を渡しながら、比叡は小さく微笑んだ。

「そういうものですよ、お姉さま」

 

                    ⚓

「それならばよかった。一応心配はしていマシター。ふふ、意外とは失礼ネー。相変わらずはっきり言うネ」

「貴方がそこまで言うならそうに違いないネ。でも実際に見てみないと分からないヨ?」

「本当に珍しいこともあるものネ。貴方がそんなことを言うなんて。明日は雨に違いないヨ~」

 

夕方、海軍省に戻って来た榛名は、秘書官室から聞こえてきた穏やかな会話に一瞬声の主が誰かと疑い、そっと中を覗き見ようとして比叡に腕を掴まれた。

 

「え・・・・・・」

無言で首を振り、有無を言わせず己を引っ張る姉に榛名は抗議の目を向けたが、

「よしなさい」

普段明るい次姉はそれ以上語ろうとせず、控室へと妹を連行した。

 

「どういうことです、比叡姉さま」

釈然とせぬ様子の榛名に、比叡は常日頃の彼女らしからぬ固い表情で言った。

「榛名、あなたはここに来て何年になる?」

「はい。4年になりますが・・・・・・。それが何か?」

海軍省事務方の花形として有名な金剛型四姉妹であるが、それぞれの着任日は異なっている。金剛、次いで比叡。妹の霧島がその次で、榛名は姉妹の中では一番新しく配属されていた。

 

「だったら分からないのも無理は無いわね。あの場に立ち入ることは誰にも許されないわ。私達はもちろん、例え大臣であっても」

「そんな・・・・・・」

言葉に詰まった榛名の様子を見て、比叡は寂しそうに頷いた。

「お姉さまの、数少ない心を許せる方からの久しぶりの連絡なの」

 

比叡の言葉に榛名の中の好奇心が刺激された。

海軍省にやってきて以来、長姉である金剛は何くれとなく榛名に気を配ってくれていたが、それはどこか距離を感じるものだった。多くの鎮守府に所属する金剛は明るく陽気に振る舞い、艦隊のムードメーカーたる存在だが、彼女の姉はそうではない。名は体を表すとばかりに鉄よりも固いと思わせるその意志と、何者をも寄せ付けないその態度は、姉妹であっても時折恐ろしさを感じさせるもので、事実榛名は金剛が敵と判断したものに対してはいかに冷酷かどうかよく知っている。

 

だからこそ気になってしまう。

そんな金剛が心を許す相手とは誰なのか。

 

「さあ。古い知り合いとだけ聞かされているわ」

比叡は首を傾げてみせた。

「それ以上のことは私も知らないの。お姉さまは昔のことは語りたがらないし」

「比叡姉さまでもご存知ないのですか・・・・・・」

 

比叡の物言いに、榛名は肩を落とした。

それぞれ生まれた時は違えどもこれまで姉妹として曲がりなりにもやってきた。

だというのに、自分たちは金剛のことをまるで知らない。

 

「比叡姉さま。榛名は寂しいです。お姉さまのあんな楽しそうな声、聴いたことがありません。榛名達ではダメなのでしょうか」

「そんなことはないわ。人間もそうだと言うけれど、家族以外に本音を言える相手が私達にも必要というだけよ」

「そういうものなのでしょうか。榛名にはよく分かりません」

それっきり押し黙る榛名を無視し、ちらりと比叡は秘書官室の方に目をやると、席を立った。

比叡にとっても、あんなに楽しそうに話す姉の声を聴くのは久しぶりだ。

ならば、少しでもその楽しいひと時を過ごさせてあげるのが妹の甲斐性というものだろう。

「さてと、明日の分もお仕事しときますか。お姉さまがするもので、私達でできるものは極力消化しておきましょう。お客さんの接待でそれどころじゃないものね」

 




登場人物紹介

明石(大本営)・・・・・・筋金入りのマッド。時雨の艤装を散々いじった張本人。口癖は「限界を見ようじゃないか!」

明石(金剛派)・・・・・・金剛付きの工作艦として活躍。勤務態度は大本営明石よりよほど真面目。秀才肌。

まじめくん・・・・・・・・早く帰してくれないかなあ。
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