鬼畜提督与作   作:コングK

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ガンビーのマークⅡに何とかレベルが足りました。いや、よかった。
ただ改装したまんまでデイリー任務くらいで放置しっぱなしですが。

とりあえず後二回で100回になるので頑張ります。
ここまで読み返してみてやたら鎮守府目安箱に出てくる艦娘が多い事に気が付きました。
特にポンポポンピペペとフレッチャーはまんま目安箱読んで出したいと思ったので。



第六十八話 「ある秘書官の一日(後)」

その日、金剛はいつもより早めに出勤し、片づけられるだけの案件を片付けると、午後の休暇を申請した。

常日頃休みなしの秘書官が休みをとることに、毎度口を酸っぱくして休みを取るよう主張していた事務の者達も戸惑いをもって彼女を見たが、本人はではよろしくお願いしマスと告げると、さっさと自らの部屋に籠り、迎えを待った。

 

「まだ時間まで大分ありマスね。やれやれ。とんだ手間ネ」

 

金剛からすればため息の一つもつきたくなるというものだ。

何の因果でまたあの忌々しいドックと付き合わなければならないのか。

念入りに壊しておいたというのに、なぜか使えていると言う事実。

その事実だけで許しがたいというのに、どういう運の巡り合わせかあの偉大なる七隻までしゃしゃり出てくる始末。愚痴の一つも零したくなるのは致し方ないことだろう。

 

「それもこれもあの男が江ノ島なんぞに着任したからデス」

 

手違いによるものか、それとも誰かの嫌がらせか。今となってはその原因はよく分からない。

だが、数年着任する者が無かった江ノ島鎮守府は当時廃墟同然で、跡地を何かに利用できないかという話が持ち上がっていたところだった。

 

普通の感性を持っている者ならばあの隙間風ふく建物を見た時点で、如何に海軍省から自分が冷遇されているか悟り、提督を諦めるか、話が違うと怒りこちらに抗議の電話を掛けてくるのが当然だ。そうすれば手違いに気づき、こちらも対処することができた。

 

ところが現実はそうはならなかった。

 

ボロボロの鎮守府をものともせず着任したあの提督は、魔法か何かのように鎮守府をきれいにしたかと思えば、長年の頭痛の種であった件のドックまで直してしまった。

 

「なんなんデショウ、あの鬼頭与作という男は」

 

鎮守府の運営が滞れば根を上げるだろうと、間宮や伊良湖、明石に夕張の江ノ島への着任を退けてもびくともしない。偉大なる七隻の北上が工作艦に、横須賀から引き抜いた秋津洲を給糧艦代わりに運用するという奇策を用い、急場を凌いでしまった。

 

それだけではない。

 

米国のフレッチャーの事件、横須賀の不正提督の一件、大湊警備府自体を揺るがすような事件。とにかくありとあらゆる所に首を突っ込みその名を売り、今や艦娘の救世主などと呼ばれる有様だ。

 

「艦娘にも救世主がいるんデスかネ」

 

じっと金剛は傍に置かれた本棚を見つめた。

そこにあるのは古今東西の哲学書、宗教書。人が著した神や真理への様々な問いと悩み、彼らなりの答えがそこには記されている。

神に救いを求め、終末の世界で救世主の出現を待ち望む。深海棲艦という未知の脅威に現れた艦娘達は、真実その当時の人々からすれば救世主だったろう。

だが、人とは厄介な生き物だった。世界を救ってくれる救世主でも思う通りに動いてくれねば癇癪を起す浅ましさを持っていた。自分たちが救ってもらっているという自覚を持たず、科学的な解釈と社会的な枠組みでそれを管理しようとした。その結果多くの悲劇を生むとは知らずに。

 

「艦娘には救世主などいまセン。必要ありまセン」

誰も助けてなどくれないのだ。来ることのない救世主などに祈るなど暇人のすることだろう。

感情の昂ぶりを自覚し、金剛はそっと首元を手で押さえた。

 

 

 

 

                    ⚓

ふわふわと海に揺蕩い、漫然とした意識の中。

微かに呼ばれた声に惹かれ、やってきたこの世界。

さぞ歓迎されるかと思い、期待に胸を膨らませていた自分。

けれど待っていたのは、こんな筈ではないと首を傾げ、ためいきをつく人々。

そんな中でおどおどとしながらもよく来てくれたと微笑んでくれた人の懐かしい顔が見えた。

 

悪しざまに投げかけられる侮蔑の言葉のオンパレード。

そんな中でも自らの力の無さを、不甲斐なさを謝っていた優しい人が見えた。

 

こんな温かい気分になるのはいつ以来か。

その陽だまりに手を伸ばそうとして躊躇する。

 

気を緩めては駄目だ。

あちこちに気を配っていなければ駄目だ。

 

二度と役立たずと言われないように。

二度と提督の名を辱めないために。

 

そうでなければ。彼女達に。彼に。

どうして顔向けができると言えるのか。

                    

                    

「・・・・、姉・・・。姉さま・・・・・・」

ゆっくりと優しく己を揺り動かす声に金剛が目覚めると、傍らに立っていたのは比叡だった。

「Umm・・・・・。Sorryネ。寝てしまったようデス」

掛けられていたブランケットを丁寧に折り畳み、金剛は胸元から懐中時計を取り出す。

「ちょうど着いたばかりです。ご準備をお願いいたします」

運転席から霧島が声を掛ける。

「OK」

金剛は軽く頷くと、車から降り大きく伸びをした。

 

居眠りなどといつ以来のことだろう。

どうも先ほどの電話から気が緩んでいるようだ。

 

「こ、こんな所があるなんて」

助手席から降りた榛名が感嘆の声を上げた。

レンガ造りの建物と、蔦の絡まった外観が年月を感じさせる。

まさか東京の23区内にこんな洋館があろうとは。

「大正時代に建てられたそうデース。以前はある出版社の持ち物だったネ。今は別荘代わりに使っているヨ」

「こ、ここをですか?」

榛名は目を丸くする。いくら人口が減ったとは言え、未だに東京はこの国の首都だ。この大きさの物件ならば一体いくらすると言うのか。

「そんなに気にする程でもないネ。今度榛名も使うといいヨ」

 

重々しい扉を開け、中に入ると浦風たち第十七駆逐隊が待ち受けていた。

「お待ちしていました。つい先ほど、連中は大井本線の料金所を通り過ぎたとのことです」

浜風が代表して報告をすると、他の面々も次々に口を開く。

「約束の時間まで後30分といったところじゃね。見張りのもんからの話じゃ、提督以下駆逐艦が3隻じゃて」

「約束通り偉大なる七隻は連れて来ていないようだ。どうやら律儀な人物らしいな」

「だから谷風さんが言ったじゃないかい。あそこの連中は変わっているから、別に見張りなんざつける必要はないってさ」

のんびりとした様子の谷風に、磯風が非難の声をあげる。

「谷風。何度もしてやられているお前の言葉は信用できん」

「なんだい、谷風さんばかり。してやられたのはあんただって一緒じゃないか、磯風」

「あれは様子を見ただけだ」

「ったく、どの口が言うんだか」

「うるさい!」

 

揉める谷風と磯風をよそに、浜風と浦風は金剛の両脇に立った。

「それで、どうされますか」

「あの偉大なる七隻の響に頭を下げられマシタ。今回は待機ネ」

「かまわんのけ? 連中、油断がならんよ。前みたいに何か企んどるかもしれん」

「それならばこちらも遠慮なく仕掛けることができるというだけデス」

「はい。彼らが仕掛けてきそうなことについては事前に明石と打ち合わせ済みです」

「自信満々で裏をかかれないようにしないといけないヨー。すぐあれこれやらかす人物みたいだからネ」

「横須賀や大湊なんかでのやり方も踏まえて対策は打っとるけん。大丈夫じゃて」

「ですが、あの時雨や北上の提督です。油断できません」

「むしろ向こうの方が緊張している筈ヨ。敵地に乗り込むんだからネ」

「あ、姐さん。仮にも味方じゃろ? 敵地は言いすぎじゃ」

「浦風!」

余計な事を言うなと浦風を小突く浜風に、金剛は問題ないと手を振る。

「浦風の言いたいことは分かるヨー。考え方は違っても味方なのは間違いないからネ」

「了解しました。それでは先方が到着次第、ご案内します」

「OK。広間に通してほしいネー。それじゃあ支度しマス」

金剛は姉妹を引き連れると、二階の私室へと急いだ。

 

「大臣が出張とは意外でしたね」

ティーポットから薫り高い紅茶を注ぎながら、霧島は言った。

大臣の突然の出張が無ければ、こうして姉妹が4人とも海軍省を留守にするなど考えられない。

「あの狸は何を考えているかよく分からないデス。わざと泳がせて様子を見ているんだと思うネ」

普段、海軍省で身に着けている制服ではなく、巫女服のような金剛型の正装に身を包んだ金剛は、ティーカップから立ち昇る香りを堪能しながら言った。

 

「あの、今からでもあの鎮守府に建造ドックを差し出すようお話されてはいかがでしょう」

それまでじっと黙っていた榛名が意を決したように口を開く。江ノ島鎮守府襲撃の際の金剛の様子からのっぴきならない事情があることは承知しているが、それでも心優しい彼女としては言わざるをえなかった。

「何のために? どういう理由でデス?」

「その、調査のために必要だとかは・・・・・・」

「今思えばそうして回収するのがベストだったかもしれないネ。事を隠そうとして行動した結果が全て裏目のこの体たらくデスから」

「確かにお姉さまの仰る通りです。米国大統領相手の立ち回りから分析して、あの提督が色々と手を回しているだろうということを予測しておくべきでした」

霧島が悔しそうに親指をかむ。

「ですが、今更過ぎたことを言っても仕方ありませんよ!」

比叡が横合いから口を出す。金剛は彼女の方を向くと苦笑した。

「比叡の言うとおりネ。あの提督は建造ドックの秘密について知ってしまったに違いないデス。今更ただ差し出せと言っても、あの男の性格からして無理。時雨や北上も納得しないデショウ。忌々しいですが、響の提案通りのお話合いが一番双方にとって損害が少ないヨ」

 

「お姉さま、どうか手荒な真似だけはおやめください」

損害、という言葉が気にかかったのだろう。

祈るように自分を見つめてくる榛名に、金剛は小さくため息をついた。

随分と信用がないものだが、それはこれまでの己の行いの悪さゆえ。仕方の無いことだろう。

 

「手荒なこととは心外ネ。ここがどこだか分かっていマスか? 手荒なことなどしようものなら誰がやったかすぐ足がつくヨ? したくてもできないネー」

「お姉さま、お願いいたします」

ふるふると榛名は首を振る。

ここがどこだろうと関係ない。

金剛は、自分の姉は必要だと思えば躊躇なく実行する。

 

「私はこれでも約束は守りマスヨ?」

金剛の言葉に、榛名は心配そうにその手をとった。

言い知れぬ不安感が胸の奥からもたげていた。

 

「ですが・・・・・・」

「榛名の言いたいことは分かりマス。でも先方がどう出るか次第ネ。あの響の顔を立てて話し合うことまでは約束しマシタが、それが決裂しない保証はないデス」

人の世界で長く生きてきた金剛は、人がいかに欲望にまみれ、利己的であるか知っている。

「欲をかき、理不尽な要求をするのであれば、この話はなかったことになるだけヨ」

「し、しかし!」

「まあ私としては、欲深い提督でいてくれた方がLuckyだけどネ」

「お姉さま!」

「「榛名!!」」

尚もくいすがる榛名を霧島と比叡が引き留める。

 

「やれやれ。姉妹にも信用がないとは悲しいネー」

金剛は肩をすくめると、じっと虚空を見つめた。

「もっとも、信用されたことなどこれまで数えるほどしかありませんでしたがネ」

 

自分を信頼してくれたのは誰だったのか。

自分が信頼することを止めたのはいつからだったのか。

 

「色々と捨ててきてようやく楽になれたのに。今更になってこんなことを考えさせられるとはネ。つくづくとあの提督にも困ったものデス」

これから出会う相手のことをを思い浮かべながら、金剛は小さく呟いた。

 




登場人物紹介


浜風・・・・・・忠実に任務を遂行。最近の趣味は釣り。
浦風・・・・・・堅実に任務を遂行。最近の趣味はガーデニング。
磯風・・・・・・大雑把に任務を遂行。最近の趣味は料理。
谷風・・・・・・大体で任務を遂行。最近の趣味はクイズ作り。
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