鬼畜提督与作   作:コングK

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第一部を見直したところ、文量が短い方が見やすい印象。もうすぐ書き始めて一年になりますが、文章を書くって難しい。
次回で百回になるので、とっておいたプリンツ・オイゲン編をと思ったら既に出していたこと忘れてました。


第六十九話  「名探偵ジャーヴィスの冒険 鈍色の研究③」

その日、私とジャーヴィス、そして雪風は提督の運転する車で音羽にある金剛の屋敷へと向かった。道中様々なことがあったが、詳しく述べるまでもあるまい。ジャーヴィスがうるさく、もんぷちが自由だったと書けば大半のことが説明できてしまうだろう。これから向かうのが大正時代に建てられた洋館だと聞いた時の名探偵の目の輝きときたら、10カラットのダイヤもかくやとばかりであった。

 

「そうこなくっちゃ! 謎解きには洋館と孤島は不可欠よ!」

「そうかあ。俺様からすりゃ寝台列車と崖なんだがね」

「崖? なんで崖が出てくるのよ、ダーリン」

 

持ち前の知的好奇心を発揮して崖のミステリーにおける必要性について質問攻めしてくるジャーヴィスに対し、ヨサクは面倒くさそうに火曜と土曜に行われていた二時間番組について説明した。

 

クリスティーやドイルの小説ならば〇○荘と名付けられたであろうその屋敷は、東京の一角、音羽にあった。その昔日本の有名な財閥の屋敷で、近年はとある出版社が所有していたのだという由緒正しきその場所は、折からの深海棲艦出現による混乱の最中様々な人間の手に渡り、現在は金剛の所有となっているのだという。

 

こんな屋敷を手に入れるなんてよほどあくどいことをしてきたに違いないと呟くヨサクを尻目に、ジャーヴィスはきょろきょろと屋敷を見回すと携帯を見てにんまりと笑みを浮かべた。

 

「どうしたの。鎮守府に連絡?」

私の問いにジャーヴィスはこれこれと携帯の画面を指差した。

 

「都内なのに圏外? 電波の谷間ってことかしらね」

「妨害電波よ。門の所までは正常だったから、恐らく屋敷とその周辺ってとこね」

「随分と警戒厳重ね」

「あら、別段珍しくもないわよ。小型の物も売っているし、コンサートホールなんかでも使うしね」

「フレッチャーさんの時にしれえがさんざんネットを使ったり、盗聴したりしましたからね。対策なのでは」

横から口を挟んできたのは雪風だ。

 

「ふん。用心深いこって。俺様、どこにでもいる健全なおやぢなんだがなあ」

ぶつくさと愚痴を言うヨサクだが、どこの世界に毎回騒動を起こす健全なおやぢがいるのだろう。

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

扉を開けてくれたのは銀髪の艦娘。

駆逐艦浜風と名乗った彼女に、ヨサクが首を傾げる。

 

「駆逐艦だあ? 嘘じゃねえのか」

「いえ、本当です。そちらの雪風と同じ陽炎型ですよ」

「ええ。雪風の方がお姉さんですがね」

「冗談だろう?」

「うんにゃ。本当じゃ。雪風はうちらのお姉さんじゃよ」

 

やってきた青髪の艦娘が人懐っこい笑みを浮かべる。浦風と名乗った彼女も、浜風同様駆逐艦とは思えぬ体つきで、姉であるフレッチャーのように艦種詐欺ではないかと思わず疑ってしまう。

 

「う~ん。どうも信じられねえな。うちのは栄養が足りてねえのか? どう見ても同型艦に見えねえんだが」

「しれえ、失礼ですよ!」

 

ヨサクの言葉に憤慨する雪風だが、それは仕方のないことだろう。私からしても同型艦と言われて疑問符が付く。よく姉と比較されてきた身としては、それをヨサクのように無遠慮に口に出すことはないが。

 

「貴方が噂の鬼頭提督か。私は磯風。お会いできて光栄だ」

「谷風さんは鬼頭提督とは初めてのこんにちはかな。よろしくお願いするね」

 

階段を上がった先で待っていたのは二人の駆逐艦。黒髪の磯風と、おかっぱ頭の谷風。

浜風、浦風と同じく雪風の同型艦だという二人は、先ほどの二人よりも幾分砕けた調子で話しかけてくる。

 

「前言撤回だ。同型艦って言っても色々いるらしいな」

谷風を見ながらぽんと雪風の肩を叩くヨサク。雪風が思い切り彼の足を踏んだのは言うまでもない。

 

第十七駆逐隊に連れられ案内されたのは、豪奢な調度品が並ぶ応接室。

部屋の隅に控える比叡に榛名に霧島、金剛型の艦娘達に気を配りつつ中へ入ると、中央に座りじっとこちらを見つめていた艦娘と目が合った。

 

「ようこそ、我が屋敷へ。私がこの屋敷の主の金剛デス」

 

微笑みながら着席を促す彼女に、伝え聞く話との違和感を感じざるを得ない。

海軍大臣の秘書官にして、今回の一連の騒動の黒幕と言われる金剛。

北上への仕打ちからして、もっと厳しい顔つきをした艦娘だと思っていたのだが、今目の前にいる人物は柔和な表情を浮かべ、まるで仲のよい友人のようだ。

 

「忙しい中わざわざすまないネ。ちょうどお茶にしようと思っていたところヨ」

「Oh! アフタヌーンティーね!!」

反応したジャーヴィスに金剛が意外そうな顔を見せる。

 

「おや、あなた英国の駆逐艦ネ。だったら美味しい紅茶の淹れ甲斐もあるもんだヨ~。英国から取り寄せた茶葉だから楽しんで欲しいネ」

「へえ~。金剛は本格的なのね。そう言えば、英国で建造されたって聞いたわ~」

「Yes、その通り。だからかネ。なんとなくあなた、親近感を感じるヨ」

 

やがて薫り高い紅茶と共に、スコーンやらケーキやらが供されると、場の空気がいくらか和らいだ。

一流ホテルのパティシエの手によると言われるそれらの魅惑の甘味の前に、騒ぎ出したのはこれまで静かだった我が鎮守府の妖精女王。

 

『な、なんです。この量は。私に対する挑戦でしょうか!』

「あ、ちょっと! 行儀が悪いわよ!!」

私の制止も聞かずに手近のケーキからどんどんと食べていくその様は、この間鎮守府で観た大食い番組を思わせる。

「こら、もんぷち! ったく。うちの意地汚い大食い女王が申し訳ねえ」

「構いまセン。美味しいものに目がないのはいいことヨ」

ヨサクと金剛。何気ない会話の後、お互いに目を合わせると、図ったかのようにカップを同時に置いた。

 

「それで、例のドックの件デスが」

がらりと空気が変わる。

先ほどまでとは打って変わって厳しい表情をし、金剛が口火を切った。

 

「どうしマスか?」

 

返答次第でいかようにもする、とその目は語っていた。権力を手にしている彼女からすれば、力業で押し通すこともできた筈だ。それをしなかったのは、偏にあの響との約束によるものだろう。

だが、ヨサクは、我らが提督の答えは単純明快だった。

 

「渡すぜ。別れは寂しいものがあるがな」

「ほう・・・・・・」

金剛が意外そうに眼を丸くする。

 

「しれえ・・・・・・」

悲しそうにヨサクを見る雪風だが、その決定に異を唱えることはしなかった。恐らく鎮守府に残った皆も同じ気持ちだろう。響との会話を聞いた時から、皆彼がどうするかは分かっていた。

 

「それは話が早いネ。こちらとしてもありがたいことデス。ならばこちらも手違いで持っていってしまった物をお返ししマスが、他に何か希望はありマスか?」

 

ごくりと喉を鳴らす。ヨサクがすりぬけくんを金剛に渡すのは予想通りだ。だが、見返りに何を要求するかは聞かされていない。彼曰く始まりの提督ならば散々恩を着せて色々なものをふんだくるだろう、とのことだが、あまり欲をかきすぎては、金剛相手に悪手だろう。

 

「希望ですかい。まあ、資材と代わりのドックを融通してもらえれば」

 

ヨサクの返答のあまりのまともさに金剛だけでなく、私達も驚いた。

「随分と無欲だネ。あなたのことですから、とんでもない要求をすると思っていマシタが」

「そりゃ、正直を言えばがきんちょばかりのうちの鎮守府なんで、あだるてぃな艦娘の着任を希望してえ。でも、そういうのはてめえで探してこそ意味があるんで。ガチャってのはてめえのIDで引かなきゃ意味がない。他人の垢を買うような真似してもねえ」

 ガチャとか垢云々というのは意味が分からないし、がきんちょばかりというのもむかむかして理解したくないが、とにかく彼はそれ以上の要求をするつもりはないらしい。

 

「OK。そう言う事なら渡す日にちだけ決めて、後はアフタヌーンティーを楽しんで欲しいけど。重ねて訊きマスが、本当に資材とドック以外何もないんデスか?」

「ああ、そういや一つだけありましたな。欲しいもんが」

やはりあったかと、ヨサクの言葉に金剛が目を細める。

 

「用心深いネ。言ってみるといいヨ」

「これは俺様と言うより、ここにいるジャーヴィスが欲しがっているんですがね」

「OH。Pretty girlが?」

目の前にちょこんと座るジャーヴィスに金剛が視線を向ける。

 

「Yes。確かに私、欲しいものがあるわ!」

きらきらと目を輝かせるその様は一見すると無邪気な海外艦が戯れにおもちゃをねだっているように見えるだろう。

「何のリクエストかネ。できれば叶えてあげたいデスが」

何も知らない金剛は不用心にそう言ってしまう。

だが、私は知っている。英国出身の彼女は確かに駆逐艦であり、無邪気だが、一面とんでもない才能を持っていることを。

 

「真実を聞かせて欲しいわ!」

「真実?」

何のことかと問い返す金剛に対し、ソファから立ち上がったジャーヴィスは嬉しそうに告げる。

 

「ええ。私は名探偵ジャーヴィス! ダーリンからすりぬけくんの調査を依頼されたの」

「すりぬけくん!? What`s that?」

「例の建造ドックのことよ。ダーリンの命名なの」

「随分とcuteな探偵がいたものネ。その名探偵があのドックを調査したと?」

「Yes。このジョンストンと一緒にね!」

「あ、ちょっと!」

突然肩を組まれ、慌てる私とジャーヴィスを交互に見つめ、金剛は口を開いた。

 

「それで、調査が上手くいかないから私に答えを聞きたいと? それはできないヨ、名探偵。探偵なら答えは自分で探すものだヨ」

「その通り。だから、私の希望は貴方に答えを聞くことじゃないわ」

「と言うと?」

おかしそうにジャーヴィスを見つめる金剛。きっとお子様の探偵ごっごがいつまで続くのかと思っているのだろう。それこそが、彼女の油断だと知らずに。

 

「私の希望はね、金剛。貴方に私の答えが合っているか訊きたいの!」

じっと目の前の金剛を見つめ、ジャーヴィスは不敵に言い放った。

 

「答え? あなたはあれが何か、答えに行き着いたというのデスか? 鬼頭提督ではなくあなたが?」

「ええ。ダーリンはあくまでも依頼人。調査したのは私とジョンストンよ。それで、あなたにお願いしたいのはその採点なの。で、どうかしら私のリクエストは。受けていただける?」

無邪気さを押し込め、挑戦的な台詞を吐くジャーヴィスに場の空気が一瞬固まる。

 

「これは困ったネ。本当にそれでいいのデスか?」

じゃれついてくる子どもの遊びに付き合うだけでよいのか。言外にそう言いたげな金剛だったが、

「ああ、構わねえ。それでいい」

真剣な表情でヨサクが頷くと、その雰囲気に冗談ではないと悟ったのだろう。紅茶を一口すすると、静かにカップを置いた。

 

「OK。伺いマショウ、名探偵。あなたの推理とやらを」

         

 




登場用語紹介

洋館・孤島・・・・・・洋館でしかも孤島だった場合、何か起きない可能性の方が少ない。大体ボートが流され、無線は使えなくなる。
崖・・・・・・なぜかいつも出てくるレギュラーメンバー。犯人が落ちたり、被害者が落とされたりする。同じ仲間に温泉がいる。
寝台列車・・・・・・・今や日本にほとんどない絶滅危惧種。寝台急行や特急列車もミステリーで大活躍。時刻表が謎解きのお供。

登場人物紹介
金剛・・・・・・・・・屋敷の女主人
比叡、榛名、霧島・・・その妹

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