耳郎の幼馴染にスタイリッシュをぶち込んでみた 作:バージル兄
後半ベヨネッタのキャラがちょっと出ます。
自室の姿見の前に起ち、1週間程前から広げていたお気に入りの服らを眺める。
明日は久しぶりにバージルと二人で出かける。
高校も無事決まり、二人とも自由な時間が割と出来たはずなので誘ってみた。
それが2週間前の話。
それから、あぁでもないこうでもないと部屋の中を引っ掻き回し、
一応の最終候補を4点程選んでみた。
みたが、あのバージルが他人の服を気にするだろうか?
自慢じゃないが、何度か二人で遊びに行ったこともある。
上鳴と三人で一緒に遊びに行ったこともある。
そのたびにこうやって服を選んだのを今でも鮮明に覚えている。
そのどれでも、一度も褒められた記憶がないけども!
いや、そもそも子供の時から知っていて、服も好みも知っていて、
今更褒めてっておかしいかもしれないけど!
そこは乙女心的に褒めて欲しいし、見て欲しいと思う。
やっぱり、もっとスカートとか履いた方がいいのだろうか?
正直、余りヒラヒラしたものは好きじゃない。
今だって広げている服は所謂女の子の服ではない。
何せ一番初めに候補に挙がったのが、今回オオトリを飾るロックバンドのロゴTだ。
いや、行く場所的にこれが正解なんだろうけど。
本当に久しぶりに二人きりでデートなのだ。気合いも入る。
いや、一般的に言うデートとは違うのはウチでも分かる。
何せ行くのがライブだ。
バージルを誘ったら、面白そうだと言ったので、今回のデートの運びとなった。
当日のことを思い浮かべ、また顔がだらしなく緩む。
あぁ心臓がふわふわする。
身体が浮いて地面から離れてしまいそう。
ウチは今、幸せだ。
大好きな人と大好きな音楽で繋がれる。
明日が早く来ないかな。
明日は最高の一日になるといいな。
◆◆◆
あの後、結局ロゴTとショーパンを着ることに決め、ウチは服を片付けるためにほぼ一日格闘することになった。
今日は、ウチ的にはデートということでいつもの自宅スタートではなく
会場の最寄り駅前広場を待ち合わせ場所に指定した。
朝ご飯を食べながら、バージルに連絡を取ると同じく食事中とのこと。
それだけのことなのに何だか嬉しくて溜らない。
「今日はいつ頃帰ってくるの?」
お皿を下げながら、どことなく嬉しそうに聞いてくる母。
「今日は14時ごろには終わるし、そっから相談かな。帰るときはちゃんと連絡する」
「どうせなら、スパーダ君のところに泊まればいい」
うっさいおっさん。
こちとらもう花も恥じらう乙女なのだ。
そんな恥ずかしいことができるか。
朝ご飯が終わり、皿洗いを母親と一緒に済ませて玄関に向かう。
玄関に掛けてある、お気に入りの黒のショルダーバッグを肩に引っ掛ける。
履き慣れたスニーカーを足に通し、後ろを振り返り。
「じゃあ、行ってきます」
両親に一言声をかけ、弾むように駅を目指す。駅に向かい、電車に乗りこむ。
もう直ぐ愛しいあの人に会える。
◆◆◆
電車に揺られながら、バージルについて考える。
きっとウチより早い電車に乗って、いつもの様に面白くなさそうに本を読んでいるに違いない。
そして、きっとウチより早くウチを見つけて、こちらに軽く手を振ってくれるのだ。
その姿を想像しただけで胸が一杯になる。
興奮で心臓が早鐘を叩き、嬉しさに頬が緩む。
今日、会ったら何を話そうか。
取り敢えず、余りロックを知らない彼に、今日の会場のことを軽く説明してやろう。
あの大抵何でも知っている幼馴染も、絶対知らないだろうことを教えてやろう。
前々から、ロックを布教していたんだ。
これを機にハマって欲しい。
電車が最寄り駅に着き、逸る思いを何とか抑え改札を通り抜け階段を降りる。
目的地である広場がウチの視界に広がり、暖かい日差しが広場を歩いている人たちを包む。
何人かはウチと同じ様に、参加バンドのロゴが入ったグッズを持ち会場に向かって歩いている。
ウチの待ち人を見つけるために、視線を動かせばこちらに向かってくる見慣れた姿。
いつもの様に綺麗な銀髪をオールバックにして、黒のカーゴパンツに、
前に買い物に行った時に買ったTシャツ。
そして、肩にはウチとお揃いで色違いの青のショルダーバッグが。
そういうことされるとホントに嬉しくて。
今日は頬が緩みっぱなしだ。明日ちゃんと戻るだろうか。
こちらを見つめる、切れ長の青い瞳はまるで宝石の様で。
両親がアメリカ人のためか、彫りの深い顔は一種の芸術品を思わせる。
それと最近、また大きくなったらしく身長は180に達したようだ。
お蔭で見上げるのも一苦労だが、それもまた楽しい。
手足もモデルの様な、というかそこらのモデルより綺麗でバランスの取れた体。
更に、スパーダさんとの訓練や自己鍛錬の成果か、鍛え上げられた体つきは美しい。
道行く人々が、何人も振り向き視線で追う。
当人はそんな視線を、全く気にした様子がないが。
ホントウチの愛しい人は、人の目を惹く人だ。
ただ歩いているだけで絵になる人。
そんな人が真っ直ぐウチに向かって歩いてきてくれるのは、ちょっとした優越感がある。
そのまま目の前、正確に2歩前に来るとこちらに軽く手をあげてくる。
「相変わらず早いね」
ウチが嬉しそうに微笑めば、頬を緩めてこちらの頭を撫でてくる。
「そうでもない」
今日は随分と機嫌がいいようで、優しい手付きで頭を撫でられる。
思わず目を細め、バージルに近付いて腰に手を回す。
「今回は、ロックバンドの集まりという認識でいいんだな?」
「うん。今回のはキャパが400人くらいだけど」
髪を梳く手をそのままにして、逞しい胸板から顔を見上げる。
反対の手で頬を軽く撫でられ、擽ったくて軽く身を捩る。
それが面白いのか、ゆっくりと愛でるようにウチの頬を指が這う。
彼の手がウチに触れるのが嬉しくて溜らなくて、目を閉じてゆっくり感触を味わう。
「多いのか少ないのか、分からんな」
軽く笑われ、手を離される。
それを名残惜しく思いながら、ウチもゆっくり腰から手を放す。
「それで、会場まではどれくらいなんだ?」
「ここからだと歩いて15分くらい」
表情に出ていたのか、目を細めながら手を差し出してくる。
珍しく今日の彼は優しい。
ウチにとっては嬉しいことなので、目一杯甘えることにする。
手を重ねれば、優しく握り返してくるどこか無骨な優しい手。
そのまま会場まで二人で歩いていく。
「荷物置き場はあるのか?」
「大丈夫。キャパを少ないけど、今回のはしっかりロッカーがあるし、警備員もいるから」
思わず胸を張り、質問に答える。
たまには、こっちが教える立場にならないと不公平だ。
「今回は、立ち見じゃなくてちゃんと席があるからね」
「上鳴が前に付いていった時は、席がなかったと言っていたが?」
不思議そうにこちらを眺める顔に、思わず口角が上がる。
「バージル初めてだし、あんまり表立って騒ぐタイプじゃないじゃん?」
ウチだって色々考えている。まあ、席と言ってもパイプ椅子がある程度だが。
どうせ、途中で立って応援するだろうし、何なら最初から最後まで立っておくつもりだけど。
でも、そのノリをバージルに押し付けるのは違うと思う。
だから、周りの邪魔にならないように、席もできるだけ後ろの方にしようと思う。
「誰が出るのか、当日まで聞くなと言ったのは?」
「こういうのも楽しみの一つだと思うから」
鞄からセトリを取り出し、バージルに手渡す。
それを受け取り、軽く目を通しこちらに返してくれる。
「誰も分からんな」
「何曲かは聞いたことあるはずよ」
何なら携帯に入れてるし、バージルにも何度か聞かせている。
「あ、着いたら物販でタオル買った方がいいと思う」
「何故だ」
「割と汗だくになるから」
「お前も持っていないようだが」
こちらの姿を上から下まで眺め、殆ど荷物を持ってないことを確認する。
「ウチは元から買うつもりだから」
「またタオルを増やすのか?」
「全部デザインが違うんだから、当然」
いいじゃん。何枚増えてもウチのなんだから。
「まぁ、お前の好きにすればいい」
軽く呆れた様に溜息を吐かれるが、今のウチには何の問題もない。
大好きな人がウチの隣に居て、ロックに興味を持ってくれる。
素敵で幸福な一日だ。
◆◆◆
会場に着き、物販に向かう。
流石に熱くなったし、恥ずかしくて手は離してもらう。
若干寂しく感じるが、帰りも繋げばいい。
今回参加のバンドの色々な商品が並び、あれもこれも欲しくなる。
「多いな」
量に圧倒されたのか、規模に圧倒されたのか感嘆とした様子で呟く。
「大きいとこだと、これの5倍とかあるよ」
取り敢えず目当てのタオルを手に取り、デザインを眺める。
同じデザインでも買うつもりだが、目当てのバンドはインディーズなのに毎回変えてきてくれる。
こういうちょっとしたことでも、嬉しい。
「それが、欲しいのか?」
「うん。後でTシャツも見たい」
「そうか」
本当に今日は声まで柔らかい。
暫くタオルを見比べていると、隣から溜息が聞こえてきた。
何時の間にかウチの手からタオルが消え、バージルがもう一枚掴み会計に向かう。
「え、待ってそれくらいウチが払う!」
てか、タオルウチに買わせて。
慌てて財布を取り出せば、買ったばかりのタオルを首に巻かれる。
「欲しいんだろう?」
自分もタオルを首に掛けながら、さっさと離れていってしまう。
「ほ、欲しかった…けど…」
ずるい。こういうことされるとホント困る。
ドンドン好きになる。
いや、もう好きなんだけど。
もっと好きになる。
あぁ心臓がうるさい。
店員さんの温かい視線を背中に感じながら、慌てて追いかける。
こちらを確認したバージルが、そのままホールまで入っていくのを慌てて追いかける。
何とか隣に追い付き、口を開こうとすると頭を撫でられる。
「席は何処だ?」
適当に奥に向かいながら、ホールを目指し足を進める。
その様子を横目に見ながら、軽く溜息が出る。
…これ今日ウチ、お金出せない奴かもしれない。
デートとしては正しいのかもしれないが、まだ両方中学生なんだから、無理しないでもいいと思う。
それにこっちが誘ったんだから、気にしないでもいいのに。
ホールに着くと、前の方に座ろうとするバージルを何とか宥め後ろの席を確保する。
怪訝そうな顔をされたが、何も答えず横に座る。
「後5分くらいで始まるから」
「そうか」
周りを見れば、徐々に客を増え席が埋まっていく。
一応、今回は立ち見が出ないように配慮したと書いてあった。
流石に最後尾は悲しいので、中央より少し後ろの一番端を確保した。
お蔭で舞台まで遠いが、ウチやバージルなら問題なく聞こえるので多分、問題ない。
緊張して、待っていると壇上に楽器が運び込まれる。
何度見てもこの瞬間がワクワクする。
今から始まる高揚感と、音楽だけが響く非現実感が癖になる。
「始まるよ」
「見れば分かる」
隣を見れば、我関せずと本を読んでいたらしく、鞄に仕舞うのが見える。
◆◆◆
ライブも佳境に入り、会場の盛り上がりも最高潮に達する。
周りを見渡せば、観客は皆総立ちで思い思いに声で、手でリズムを刻んでいる。
隣に座った彼も、途中からノッテきたらしく、座ったままではあるが、足でリズムを刻んでいる。
良かった。最悪、ずっと本を読まれている可能性だってあった。
バンドが捌け、観客が徐々に会場から去っていく。
興奮も冷めやらぬままに、ウチはバージルに支えられホールを後にする。
一端落着くために、会場の端に座り、人の流れを何ともなしに眺める。
足早に会場を後にする人、物販コーナーで買い物する人、適当に会場内で立ち話をしている人。
皆、一様に表情は明るく晴れやかに話をしている。
やっぱロックていいなあ。
何となく嬉しくなって、会場を一回り見渡せば、隣でカシュとプルトップが開く音がする。
チラリと横に視線を投げるといつの間に買ったのか、缶コーラを美味そうに飲んでいた。
缶を傾ける度に上下する喉に、目を引き付けられる。
先程までの興奮とは、別の興奮が身体を支配しそうになり慌てて視線を外す。
いや、ただコーラを飲んでいただけだ。
さっきの歌とか会場の熱にやられただけだ。
そんなことを考えていると。
突然、首元に冷たくて固いものが当たり、飛び上がりそうになる。
「要るか?」
軽く振られ、音からしてまだ半分以上残っているだろう缶をこちらに差し出してくる。
「…ありがと」
赤くなった顔を隠すために下を向きながら、両手で受け取り、熱くなった額に冷たい缶を押し当てる。
ひんやりとして気持ちがいい。
そのまま、口元に持っていき、飲み口から液体を流し込む。
…いまさら間接キスが何だ!
無駄に気合いを入れて、缶の中身を一息に飲み干していく。
「ごちそうさまでした!」
見事に空にした缶を突き出せば、無言で受け取りこちらの頭を軽く撫でてくる。
そのままゴミ箱の位置を見もせずに、手首の返しだけで見事に放り込む。
相変わらず無駄に器用なことを。
「ナイスシュート」
軽く拍手をして、一つ気合いを入れて立ち上がる。
「んじゃー。買い物と行きますか」
バージルの腕に手を絡め、そのまま物販コーナーに足を向ける。
二人で物販を眺め、ウチは早々に目当てのロゴTを何枚か買い求め。
彼の横を付いて歩き、ウチと同じロゴTを手に取ったので横目でサイズを確認する。
一度彼シャツとかいうのをしてみたいけど、ウチがしたら肩からずり落ちるな。
いや、ペアルックでロゴTというのも中々捨てがたいものが…
きっと似合うんだろうなあ、でも部屋着だろうなぁ。外で着てくれないかな。
色々な妄想が広がり、止まらなくなる。
◆◆◆
その後、会計を済ませた荷物をウチの分も纏めて持っていかれた。
大した重量ではないし、そもそもウチの趣味丸出しのものだから、気にしないでもいいのに。
「この後どうする?」
手を繋ぎ、適当に駅に向かいながら、軽く顔を見上げて問いかける。
「何もないなら、父親の要件を済ませたい」
お、スパーダさんの用事?
「何するの?」
珍しい。あの人割と動きたがりだから、何でも一人でこなすのに
「母親に送る指輪のカタログを、貰ってきてほしいだと」
肩を竦めながらも、何とも楽し気なご様子。
えーと母親にってことは
「エヴァさんに指輪?また渡すの?」
思わず笑ってしまう。
前に一度、見せてもらったことがあるエヴァさんの指輪部屋。
スパーダさんが事あるごとに、指輪やら何やらを送るから部屋を一つ潰したそうだ。
一つ一つの品を愛おしげに撫でていたエヴァさんの姿は、まるで一つの絵画のようだった。
でも、指輪の箱だけで100近くあったのは流石に引く。
「お店てこの近くにあるの?」
「正確な位置は知らんが、まあ行けるだろう」
?随分と曖昧な言い方をする。
バージルに付いて、駅に入りそのまま改札を通り抜ける。
そのまま奥へ奥へと、段々と人気のない場所へと歩いていく。
「あったぞ」
てけてけと後ろを付いて歩いていて、いきなり声を掛けられ慌てて前を見る。
そこには、物資搬入路と書かれた扉が一つある。
「…これ?」
酷く疑わしい気持ちで彼を見ると、さも当然だという風に扉を触り。さっさと開けて中に入っていく。
中からは随分と陽気な音楽が流れている。
意を決して、彼の後に続けば倉庫があるはずの風景が徐々に変わっていき、音楽も段々と大きくなっていく。
前を見れば、光が段々と大きくなり周りの風景を包みこんでいく。
余りの眩しさに目を閉じてしまう。光が弱くなりだして、徐々に目を開くとウチは一軒のバーに立っていた。
「え?…え?」
どういうこと?
「落ち着け。コイツの個性だ」
先に着いていたバージルが、カウンターで何かの作業をしている人物に親指を向けている。
カウンターに座るバージルの元に慌てて駆けていく。
「ほれ、カタログ」
バージルの目の前に丁寧に置かれたカタログには、店名だろうか『The Gates of Hell』の文字が躍っている。
「で、そっちの嬢ちゃんは誰だ?」
微妙にバージルの背中に隠れながら、店主?を見る。
褐色の肌に禿頭で見上げんばかりの巨体。パッと見2mはあるだろうか。
妙な威圧感もある。はっきり言ってかなり怪しい。
そんな人物に見つめられ、落ち着かない気分になる。
「ロダン。余り恐がらせるな」
カタログをパラパラと捲りながら、こちらを落ち着けるように頭を撫でてくれる。
「じ、耳郎響香です」
バージルの隣の席に恐る恐る座りながら、店主、ロダンさん?に挨拶する。
「…あぁ、お前が前に話していた幼馴染ってこの子か」
何かを思い出すように首を捻っていたロダンさんが、ポンと一つ手を打つと納得したようにこちらを眺めてくる。
待って!何の話!?
「よく覚えていたな」
我関せずとカタログを読んでいたバージルの手が止まり、不思議そうに首を傾げている。
「一応客商売だからな」
二人の話を聞いていたら、ウチの心臓が持たなそうなので横からカタログを盗み見る。
ウチだって女の子なのだ。アクセには興味ある。
見ているのに気付いたのか、見えやすいようにカタログをこちらに寄せてくれる。
「ありがと」
軽く礼を言って、開いているページを眺める。
一つ一つの商品が、輝いて見える。
例えば、翡翠だろうか?緑色に輝く蝶をあしらった髪飾りに、
これは黒真珠?だろうか?中央に月をあしらい、小槌の形をした指輪がある。
中には髑髏をあしらったものもある。
変わったデザインも多いが、所謂普通の指輪も多く描かれている。
値段もアクセとしては、そこまで高くないのだろうか?上が20万程なので中学生にはとても買えないが。
熱心に見ていると、頭に2人の計4つの視線が刺さるのを感じて、おずおずと上を向くと面白いものを見たと顔に書いてある二人の姿。
「随分熱心に見てくれるじゃねえか」
高らかに笑いながら、こちらを見る眼は優し気で、実はいい人なのかと思ってしまう。
「どれが気に入った?」
指でカタログを指し示しながら、一つ一つ商品を見てくれる。
「どれもホントに素敵で、ウチ感激しました!」
あぁ言葉がうまく出てこない。
それを受けて、照れたように頭を掻いたロダンさんがバージルを呆れた様に眺め。
「この子、本当にお前の幼馴染か?」
とても信じられないと言いたげな視線をバージルに向けている。
「何が言いたい?」
殺気だったバージルが、応じた様に刀を手に持つ。
慌てて腕を持てば、冗談だったのか直ぐに刀を消し、頭を軽く叩かれる。
「気にするな」
気にするなと言われても。
ロダンさんを見やると、何事もなかったかの様にグラスを磨いていた。
何か常連というより、仲のいい親戚同士の様な感じで彼の知らなかった一面を知れて嬉しく思う。
その後二人して、ロダンさんに飲み物と軽食を頼み、二人でカタログを見ながら、ウチが一方的に話した。
ふと壁にかかった時計を見ると、5時を回っていた。
「あ、もうこんな時間」
つられた様にバージルも時計を見、腰を上げる。
「帰るか」
また来るとロダンさんに一声かけて、カタログを持って店から出ていく。
「お邪魔しました」
ロダンさんの背中に声をかけると、おーと気のない返事が返ってきた。
バージルと二人で並んで歩き、扉を開けたら駅構内だった。
「個性てホント何でもありねー」
思わず感嘆として溜息が出る。
「父親の馴染みの店でな。何でも子供の時から通ってたとか」
へースパーダさんの馴染みの店なんだ。
そのまま特に会話もないままに電車に乗り込み、バージルの横に座りゆったりと過ごす。
「ねえ、今日どうだった?」
不安な気持ちが外に出ないように慎重に口を開く。
「面白かった」
ただ、一言だけ。そう言ってまた本を読み始める。
でも、それが彼の照れ隠しだとウチは知っている。
「そっか。よかった」
何だか嬉しくなって、バージルの肩に頭を預ける。
「寝るなよ」
彼の眉間に皺が寄るのが、見える。
彼の鼓動が匂いが、ウチを包み込んでいくのを感じる。
ゆっくりと深呼吸を繰り返し、瞼がゆるゆると落ちていくのが分かる。
ウチの意識は、あっという間もなく心地よい眠りに落ちた。
◆◆◆
「…きろ、着いたぞ」
軽く体を揺すられ、何故かウチの下からバージルの声がする。
「…何処に?」
割とがっつり寝ていたらしく頭が回らない。
「寝るなと言っただろう」
眼を開けると、いつもは見えない彼の旋毛が見える。
どうやら、ウチは彼に背負われているらしい。
瞬間、ウチの脳味噌が覚醒する。
「お、降ろして!」
めっちゃ恥ずい!絶対駅から背負われて家まで来た!
また近所のお母さん方からニヤニヤ笑われる奴だ!
「暴れるな」
そう言いながら、ウチが危なくないようにゆっくり腰を降ろして離してくれる。
「ありがと」
後、ごめん。結局寝ちゃった。
「気にするな」
軽く頭を撫でられ、ウチのショルダーバッグと荷物を渡され、手を伸ばすと見知らぬ何かが指に嵌っていた。
鞄と荷物を受け取り、しげしげとウチの左手薬指に嵌った物を眺める。
一見するとただのシルバーアクセサリーだ。何の飾り気もないただの指輪に見える。
何でこんなものがウチの指に?
「なにこれ」
指から引き抜き、裏表と無遠慮に眺めていたら、頭を撫でられた。
「今日の礼だ」
そう言って、箱を手渡してくれる。
何だか指輪を入れるのは勿体ない気がして、また薬指に嵌めたり、外したりして遊んでみた。
「こんな高そうなもの受け取れないよ?」
嬉しいけど、絶対釣り合ってない。
「お前が気にする必要はない」
頭を撫でる手がいつの間にか頬に落ちてきている。
それに気づかない振りをして、彼を真っ直ぐ見つめる。
「どうしたの」
いつもの触り方と違う。
「指輪の意味くらい調べておけ」
大きな溜息が彼から零れ、彼の顔が近付いてくる。
何か声を出す間もなく、唇を塞がれた。
「また明日な」
そう言って、体を離し、最後にいつもの様に優しく頭を撫で、背中を向けられた。
体温が2度は上がった気がする。
最初何をされたか分からなかった。理解できた瞬間、体が沸騰した。
体中の血という血が凄い速さで流れ出した気がする。
「…ホントズルい」
ウチは玄関前で蹲って悶えていた。
あの近付いてきた時の彼の顔が目に焼き付いて離れない。
そう言えば、薬指に指輪って結婚…
そこまで考えて、慌てて首を振る。
「あー!もう!?」
一息に立ち上がり、バージルの背を追いかける。
彼が家の玄関に着く直前に後ろから声をかけ、その勢いのまま飛びつく。
彼の首に手を回し、そのまま顔を近付け唇を塞ぐ。
「どうし…何をする」
そのまま抱き留められ、彼の顔の高さまで抱えられる。
「ウチも大好きだよバージル!」
満面の笑みで、それでいて真っ赤な顔でしっかりと彼に告白すれば、虚を突かれた様に眼を瞬かせている。
「そうか」
こちらを抱き締める腕の力が強くなり、若干苦しくなる。
それでも嬉しくて、彼の首に手を回して額にキスをする。
「後で、鎖を送ろうと思っていたが、今でいいか」
こちらの指に嵌った指輪を見ながら、愛おしげに頬を撫でてくれる。
「別に邪魔にならないよ?」
楽器弾く時は外せばいいし。箱にずっと仕舞っておくのは嫌だけど。
ウチを抱えたままバージルは、玄関を潜り家に入っていった。
何か戦闘してない兄さんて誰お前感すごいな