ネルフの清掃係、エヴァに乗る   作:黒猫のハロ

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おっさん襲来

 柳館信義(のぶよし)──人呼んでネルフの掃除屋ノブ。

 

 年齢は30。親子二代に渡って清掃係を務めてきた。

 

「ふぅ……今日もピカピカだぜ」

 

 額から流れる汗を腕で拭い、ノブは鏡のように反射する床を満足げに眺めながら、一つため息をついてその顔に影を落とした

 

「……いいのかなぁ……俺の人生、このままで」

 

 漠然とした不安。

 

 清掃係も立派な職務の一つである事はノブ自身も理解している。

 

 しかし、清掃係を務めて10年。ネルフに職場を移して早一ヶ月。正直少しだけ飽きてきたなぁ、とノブは感じていた。

 

 その時だった。

 

「おっとっと」

 

 突然、大地を震わせるが如く、大きな揺れがノブを襲った。

 

「なんだぁ? 地震か? なんか赤いのピカピカしてるし。やべぇな」

 

 ノブは本能的に危険を察知し、用具箱にタワシをぶち込むと──

 

「逃げるが勝ちだぜ!」

 

 脱兎のごとく、逃走を開始する。

 

 それからしばらく元来た道を引き返していると。

 

「ありゃ、こんな道あったんだ」

 

 普段は入る事のできない通路がなぜか開いていた。

 

「……いってみっか」

 

 ノブは30歳ではあったが、心はまだ少年である。普段は侵入できない謎の道が目の前にあったのならば、冒険するのが男であろう。

 

 しかし、それから数分ほどの時間が経過した時、目の前に広がっていたのは、今まで見た事の無い光景だった。

 

「……なんじゃこりぁ」

 

 紫色の巨大な何かがそこにはあった。

 

「ロボット? ぱねぇな。写メッとこ」

 

 パシャリ、パシャリとカメラのシャッター音が響き渡る。

 

「にしてもどこよ……ここ」

 

 ひとまず数十枚の写真を撮り終えたノブは周囲を見渡してみた。

 

「ロボットに……なんか水と……」

 

 指を指しながら、一つ、一つを口にだしてみる。

 

 そしてノブの人差し指が、その場所へと向けられた。

 

 ──『EVA格納庫』

 

「いーぶいーえー?」

 

 なんだかよく分かんねぇな……と、ノブが思ったのと同時だった。

 

 ガシャン

 

 機会音と共に、周囲が暗闇に包まれる。

 

「やっべ……停電じゃん」

 

 そうぽつりと呟き、一歩足を前に進める。すると、体が浮遊感に包まれた。

 

「……おろ?」

 

 バシャんという水しぶきと共に、気づけばノブは水の中に落下していた。

 

「……くそ、真っ暗じゃ何もみえねぇな……」

 

 ノブは一人、水の中でひとまず体を浮かばせながら電気の復旧を待つのであった。

 

 

 

 

「む……だよっ……!」

 

「……ん?」

 

 生ぬるい水温に睡魔を助長され、半ば眠りこけていた時の事だった。

 

 ふと、誰かの叫び声を聞いて、ノブは意識を覚醒させた。

 

「……明るくなってんじゃん」

 

 気づけば電機は復旧していた。

 

「できる訳ないでしょ!」

 

 木霊する少年の絶叫。それが何度も続き、たまらずノブは苛立ちを募らせた。

 

「……うっせーな」

 

 視界がクリアになった事により、上へとあがる為の階段を見つけたノブは、ひとまず平泳ぎでその下へと進行を始める。

 

「なんでだよ父さんっ、ぼくっはいらなかったんじゃないのっ?」

 

 そんな声が聞こえてくるものだから、ノブの脳みそが勝手に状況を理解していく。

 

(親子喧嘩か……絶叫具合からいって中々の熱戦みてぇだな)

 

 ノブはその顔に笑みを浮かべながらカエルのように水の中を進んでいく。

 

 水泳が彼の得意なスポーツの一つであった。

 

「俺もよく親父と喧嘩しったけなぁ……うんうん。たまにはぶつかる事も良い経験になる」

 

 少しだけおっさん臭い事をブツブツと呟きながら、階段の最下段に腰を下ろした──その時だった。

 

「ならば帰れぇ」

 

 ふと、今まで響いてきた甲高い声とは別の男の声が聞こえてくる。

 

 その出どころ探そうと周囲に視線を走らせていると、ノブの濁った瞳が、それを捉える。

 

「……激マブ」

 

 視線の先には、腕を組み、眉間にシワを寄せる黒髪の美女がいた。

 

 いいや、それだけでは無い。

 

「……ダブルリーチ」

 

 黒髪の美女の隣には、脱色された金髪の美女。その色気のある姿に思わず頬が緩む。しかも──

 

「白衣とか……最高かよ」

 

 ノブのドストライクである。

 

「乗りなさいシンジ君」

 

 そして黒髪の美女が、一人の少年に向かってそう口を開いた。

 

「あのガキ、シンジって名前なのか……良い名前じゃねぇか」

 

「無理ですよっ! いきなりこんなことになってってわけわかんないですよっ」

 

 再び木霊する少年の甲高い絶叫に、ノブは思わず眉をひそめる。

 

「声ったっけーなおい……」

 

 そんな事を呟いた時だった。

 

「予備が使えなくなった」

 

 再び木霊する男の低い声。

 

 その姿をノブはようやく捉えた。

 

「……高っ! あれが親父さんか……素敵なグラサンだ……」

 

 遥か頭上にあるガラス張りの空間で一人の男が通話している。

 

 その姿をしばらく眺めていると、ガチャガチャとした物音と共に、人を乗せた病院でよく見るアレがやってくる。

 

 そして──

 

「うおっ!」

 

 再び揺れる大地。それによって病院でよく見るアレが横へと倒れる。

 

 そしてノブは──目を見開いた。

 

「……天使かよ」

 

 台車の上から転げ落ちてきたのは、白銀の髪の美少女だった。

 

 体の至る所に包帯が巻かれ、少女の儚げな容姿が、痛々しく鮮明に映る。

 

「……美女二人に……親子喧嘩と……包帯少女……そしてロボッツ」

 

 ノブの偏差値48の頭の中がフル回転を始める。

 

 そしてノブは一つの覚悟を固めた。

 

「俺が……乗りましょうか?」

 

 キリリとした表情を浮かべて、ノブが階段を登っていく。

 

 その水浸しの怪しい男の出現に、その場にいる誰もが息を飲んだ。

 

 

「「「「……誰?」」」」

 

 シンクロ率100パーセントのそんな問いに、ノブは低い声で、言葉を紡いでいく。

 

「人呼んで……ネルフの掃除屋……ノブ!」

 

「「「「誰?」」」」

 

 ビチャビチャと水を滴らせながらノブは進む。

 

「……なんで……濡れてるの?」

 

 そんな黒髪の美女の問いに、ノブは答える。

 

「水も滴る……いい男ってね」

 

「「「…………」」」

 

 だだスベリである。

 

 しかし、負けじとノブは言葉を続ける。

 

「俺には全て……分かってる。状況も全て理解した……」

 

 芝居じみた声色と動きでノブは進む。

 

 そして少年──碇シンジの肩に手を乗せると薄く微笑んだ。

 

「怖いよな……でも、もう大丈夫だ」

 

 そう言ってノブは黒髪の美女に視線を向け、それから金髪の美女に視線を流すと、最後に鋭い眼光を頭上の男──シンジの父へと向ける。

 

「……理解できないか? 俺は……こう言ってるんだぜ?」

 

 ノブの腕、人差し指がゆっくりと正面へと向けられる。

 

 指の先には紫色のロボッツ。

 

 そしてノブは、決め顔でこう言った。

 

「いーぶいえーに、俺が乗る……ってな」

 

 氷点下の空気の中で、掃除係ノブの新たな物語が──幕を開ける

 

 

 

 

「あ、これ深い……オボボボボボ、深い……死ぬて!」

 

 モニターではエントリープラグ内を満たしていくLCL。そしてその中で今にも溺れそうな一人の男が映し出されていた。

 

 男の悲痛な叫び声が指令室に木霊していく。

 

 それを眺めながら絶句する葛城ミサトをよそに、赤木リツコは何かを諦めるようにため息をつくと、口紅の塗られた赤い口を小さく開いた。

 

「肺がLCLで満たされれば、直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐに慣れるわ」

 

「はぁ!? エルシーエル? エスオーエスの間違いだろ! ……あれ? 喋れる」

 

「ふんっ!」

 

 赤木リツコは一度マイクのスイッチを速攻切ると、碇ゲンドウを咎めるような視線を送る。

 

「……指令。本気ですか?」

 

「ああ。一つの例として見せておくのも悪くはない。結果がどうなるのかを分からない君では無いだろう」

 

 その言葉を聞いてリツコはミサトの隣で小さく震える少年──碇シンジを流し見る。

 

(事前に分からせるつもりね。初号機……いいえ。エヴァを動かす事は、一般人では不可能な事を)

 

 汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン。通称エヴァを動かすには資格が必要だった。年齢は14歳。母親のいない思春期の少年少女が対象であり、そもそもEVAのコアに適合するには必要不可欠な条件がある。

 

 だが、そんなリツコの考えをあざ笑うように、ネルフ本部のオペレーター伊吹マヤの驚愕に満ちた声が指令室に響き渡った。

 

「す……すごい!」

 




脳死プレイ。別に書いてるエヴァSSの息抜きで書こうと思ってます。続くかは分かりません。

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