ポケットモンスターXY~あなたへ贈る百日草~   作:黒助2号

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第19話 ど根性ガエル

 

 

1

 

「何やってるんですか?」

 

プラターヌポケモン研究所にやってきたトロバは目の前の状況が理解できず口元をひくつかせた。

一緒に来たティエルノは横で笑い転げている。

 

彼の視界に入ってきたのは何故か静かに怒っているセレナ。彼女に対してDOGEZAをしているアトリ。その様子を面白がって動画撮影しているサナであった。

 

「アトリがね~、浮気したの」

「異議あり! 不適切な発言は慎んでいただきたい!」

 

《じゃあね、貴方なかなか素敵だったわよ》

 

ホロキャスターの動画機能を立ち上げて件の女性がアトリの頬にキスした決定的瞬間を再生する。流石、カロス地方が誇る大企業が開発したデバイス。3Dで映し出される動画の画質は他地方の技術の追随を許さない。アトリのだらしなく緩み切った表情までバッチリと再現されていた。

それを見たティエルノは笑いすぎて引きつけを起こし、トロバは「やってしまいましたね」という視線を送り付け、セレナの機嫌は更に悪くなった。

 

「何撮ってんだよテメーはァァァッ!!」

「思い出沢山出来るかな?」

「そんな思い出いらんわ! そもそもなんでオレ謝ってんの!? オレとセレナって別に付き合ってるわけじゃ――なんでもありませんすみませんごめんなさい」

 

ギロリと睨みを効かされた。とんでもないプレッシャーを放つセレナに対し、再び平身低頭。細かい理屈はさておき、この場は謝っておいた方がよさそうだ。

 

「やあ、お待たせー……ってどうしたんだい、アトリ。まるでミアレシティに到着して早々道に迷って、絡まれている女性を颯爽と助けた女性に道案内してもらい、別れ際にお礼としてキスされた現場を彼女に見られたようじゃないか」

「見てきたような予想ありがとよ! 大当たりだよチクショーめェッ!」

 

何処かの総統閣下の様な叫び声をあげたところで、プラターヌは困ったように肩を竦めた。

 

「セレナ、その辺にしてあげたらどうだい? 彼も反省しているみたいだし」

 

おお、とセレナの怒気に慄いて、傍観に徹していた3人から感嘆の声が上がった。

 

「流石博士! 僕たちに言えないことを平然と言ってのけるッ! そこに痺れる! 憧れるゥ!」

「浮気の一つや二つ、大したことではない。私が若い頃だったら、そのままホテルへ――」

「「少しは自制しろッ!!」」

 

アトリとセレナのツッコミが見事にハモった。

 

2

 

「よく来てくれたね」

 

叔父の言葉に背筋を伸ばした。無精ヒゲに見せかけて緻密に整えられた顎鬚を蓄え、やや癖のある髪をワックスで無造作にセットしたプラターヌを見て心の中で舌打ちした。

 

我が叔父ながら腹の立つほどイケメンである。イケメンこじらせて【検閲削除】ほしいくらいのイケメンである。

 

「これを君に」

 

プラターヌが差し出したのはモンスターボール。

 

「これは?」

「中に入っているのはカロス地方の御三家。泡ガエルポケモン――ケロマツだよ。この子の育成を君に任せたい」

 

泡ガエル、ということは水タイプのポケモンだろう。攻撃面でも防御面でも優秀な水タイプは是非手持ちに迎え入れたいポケモンである。だが、

 

「……いいんですか?」

 

伺うような視線をプラターヌに送る。

一度は断ったというのに、こんなにアトリにとって都合のいい展開があっていいのだろうか。タダより高い物はない、という。受け取ったが最後、手痛いしっぺ返しを食らうなんてこともありえるのだ。

 

「勿論、ポケモン図鑑のデータ集めは請け負ってもらうけどね。基本的には君の旅の目的を優先してもらって構わないよ」

「僕にとって都合よすぎませんか?」

「そうかもしれないね。けど、それでも僕は君にこの子を託したい、と思ったんだ。」

 

プラターヌから向けられる真っ直ぐな信頼。猜疑心が強く、八つ当たりの嫌悪を向ける自分は果たして彼の信頼に値する人物だと言えるのだろうか。

 

「それにね、甥っ子の夢を実現させる手伝いくらいはしたいよ」

 

悪戯っぽく言うプラターヌにしばらく呆気にとられ、黙って頭を深く下げた。

口には出せないが最大限の感謝を込めて。

ケロマツの入っているモンスターボールをプラターヌから受け取ってボールを開いた。

 

「初めまして、だな。オレはフワ・アトリ。よろしく頼む」

「ケロ♪」

 

某平面ガエルにそっくりな泡ガエルはニッコリ笑って右手を上げた。

 

「アトリ! ポケモンバトルしよ!」

 

サナがウキウキとした様子でモンスターボールを取り出した。

熱烈なラブコールにアトリは苦笑する。タキガワ・サナの実力は未知数だが、ブランクのあるアトリとしては勝負勘を取り戻す為に一戦でも多く受けたいところである。しかし、今回ばかりは時期が悪い。アトリがミアレシティに来た目的は強奪されたジョゼットのピカチュウを奪還することだ。優先順位をそちらに定めている以上、このバトルは丁重にお断りするべきであろう。

 

断ろうと思ったところで再び思案する。ここで断るとして、断る口実はどうする?

アトリのやろうとしていることは言うまでもなく逸脱行為だ。

今、この場で公言すれば絶対にプラターヌ博士にとめられるだろう。

適当な口実を用意するにしても、突発的についた嘘ではどうしても穴が出来てしまう。勘が良く聡いセレナなら絶対にアトリが何か隠していることを察する。下手を打てば巻き込んでしまう可能性だって考えられる。

ならば、選ぶべき選択肢は一つ。

 

「いいよ。ちょうどコイツの育成方針を決めようと思ってたところだし」

「今の間は何?」

「気にするな」

 

勘の鋭いセレナの追及を内心冷や汗を流しながら躱してサナに向き直った。

既に彼女はフォッコをボールから出しており、臨戦態勢に入っている。

 

「1対1でいい?」

「いいのか? フォッコとケロマツだったらこっちが有利だぞ」

「いいの。アタシのフォッコだってかなり強くなってるから! 負けないよ」

「いくぞ、ケロマツ。初陣だ」

「ケ~ロ♪」

 

アトリの言葉に応えるようにケロマツは勇ましくフォッコの前に立った。

 

「あの二人、博士を置いてきぼりで勝手に臨戦態勢入ってますけど止めなくていいんですか?」

「何が?」

 

我に返って慌てるセレナに対し当事者の一人であるプラターヌは「訳が分からないよ?」と言わんばかりに首を傾げる。

 

「だから! 研究機材とかその他諸々ポケモンバトルの余波で壊されちゃいますよ!?」

 

右も左も前も後ろも高そうな研究機材ばかりである。もし壊れてしまえば弁償。そうなればサナは勿論、アトリの借金スパイラルは更に深みに嵌ってしまうだろう。

 

「ああ、それね。多分まともな勝負にはならないと思うよ」

「え?」

 

あっさりと言い放つプラターヌの言葉に目を丸くする。バトルの経験値とトレーナーとの呼吸はサナとフォッコに、タイプ相性とトレーナーとしての一日の長はアトリとケロマツに、それぞれ分がある。セレナの読みではほぼ互角の勝負が繰り広げられると予想される。

だというのに、プラターヌはワンサイドゲームになると予測した。

よほどアトリとあのケロマツの相性がいいのだろうか。それとも、アトリが負ける、と考えているのか。

出来れば親友であるサナには勝ってほしい。だが、アトリが自分以外の誰かに負けるところも見たくない。

矛盾している考えを自覚しつつ、目の前で繰り広げられるバトルを目に焼き付けるべく両者を凝視した。

審判を買って出たトロバの手が上がる。試合開始の合図だった。

 

「フォッコ、『ニトロチャージ』!」

「ケロマツ、全力で回避!」

 

炎で体を包むフォッコを激流の様な速さと、流水のように滑らかな方向転換で自在に翻弄する。

肉眼で捉える事すら難しいスピード。空中でひるがえりケロマツは背中に張り付いた。――――トレーナーであるアトリの背中に。

 

「…………………は?」

 

プラターヌ以外の誰もが状況を理解できず目を点にする。破れかぶれで突撃してきたフォッコのニトロチャージがアトリの股間を直撃する。アトリはたまらず撃沈。青い顔でピクピクと痙攣している。

トロバとティエルノは痛そうな顔で股間を押さえて、目を背けた。

 

「「スタイリッシュ逃走~~ッ!?」」

 

セレナとサナの叫びが研究所中に響き渡る。

ポケモンがトレーナーを盾にするという前代未聞の奇行をやらかしたケロマツは「危なかったZE☆」と言わんばかりに額の汗を爽やかに拭った。

 

 

 

 




ケロマツ   ♂ 特性:激流
臆病な性格。逃げるのが早い。
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