ポケットモンスターXY~あなたへ贈る百日草~   作:黒助2号

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第24話 弱者の道

 

 

1

 

先回りしたサナのフォッコが放った『目覚めるパワー』がグレーテルの進路を塞ぐ。

 

「追い詰めましたよッ!」

 

後になって追いついたそしてシトロンが息切れしながら鋭い語気で言い放った。

技術者であり、頭脳労働専門のシトロンは運動が得意ではないが、幸いにもグレーテルと名乗った女性の足の速さはシトロンと対して変わらないようだった。

 

「大人しく自首してくれるなら手荒なことはしません。ですが、抵抗を続けるのなら少々強引な方法で拘束させてもらいます」

 

事実上の降伏勧告を告げる。

追い詰められたグレーテルはゆっくりと振り向き、シトロン、サナと相対した。

相変わらず微笑を浮かべている。息を切らせることなく、まったく表情を変えない。

 

「追い詰めた、ねえ……」

 

グレーテルの品のある微笑が徐々に剥がれ落ちる。

 

「ふふ、はは……。あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」

「な、なに?」

 

けたたましく笑い出した。

その形相は先ほどまでの淑女然としていたグレーテルのイメージとはかけ離れ過ぎており、サナは身じろぎする。

 

「『追い詰めた』。確かに追い詰められたわね。これではプロフェッサーに命じられた任務は果たせない」

 

レアコイルの10万ボルトの照準がグレーテルに定まる。いつでも撃てるよう、彼女の一挙一動に最大限の注意をはらった。

 

「ですが、ここで最も厄介な貴方はここで釘づけにしなくては」

「レアコイル、10万ボルト!」

 

グレーテルがモンスターボールに手をかけた瞬間、シトロンは指示を飛ばす。

電光が閃き、余波でショートしたケーブルが火花のシャワーが飛び散っていく。同時に巻き上がった煙がシトロンとサナの視界を奪った。

 

「やったの!?」

「『地震』!」

 

地面に衝撃を伝導させ地に足を付けたすべての者の骨芯に衝撃を叩き込むという地面タイプの荒業がサナのフォッコを襲う。

 

「フォッコちゃん!」

 

弱点である地面タイプの攻撃を受けたサナのフォッコは倒れた。

 

「レアコイル、ラスターカノン!」

 

すぐさまシトロンの攻撃指示を受けたレアコイルが煙の向こうに鋼タイプのエネルギーを飛ばす。タイプ一致攻撃かつ高火力。レアコイルの高い特殊攻撃能力も手伝ってフェアリータイプ対策の第二のメインウェポンでもある。だが、倒しきること叶わず、レアコイルにも『地震』を叩き込まれる。

鋼と電気の複合タイプが苦手とする地面タイプの攻撃を受けたレアコイルは地に落ちた。

 

「何人たりともプロフェッサー・ヘンゼルの邪魔はさせません」

 

煙が晴れ、姿が見えなかったポケモンの姿が露わになる。

シトロンはレアコイルをボールに戻して歯噛みした。

攻撃を阻んだのは水魚ポケモンのヌオー。緩慢な動作と間延びした声。愛嬌を感じさせるその表情に反して電気タイプキラーとして名の通ったポケモンである。

そして、鋼タイプに抵抗力を持つ水タイプのヌオーならばレアコイルの『ラスターカノン』で倒しきれないことも道理である。

 

「私たちが貴方の膝元であるミアレシティで事を構えるのに何の対策もしていなかったとでも? ジムリーダーであるあなたへの対策は十分なのよ。投降すれば手荒なことをしないわ。でも、そうじゃなければ………わかるわね?」

「シトロンさん……」

 

サナが縋るような目でシトロンを見る。サナの手持ちはフォッコ1匹。もはや戦えるポケモンはいない。十分に対抗策を練られているシトロンが破れてしまえば2人はグレーテルに投降する他、選択肢が残されない。

 

「サナさん、下がって。ここは僕に任せてください」

「でも……」

「大丈夫ですよ。」

 

シトロンは穏やかな声色で告げる。

 

「この程度で『対策は十分』と言われるほど、ジムリーダーは甘くはありません」

 

グレーテルの表情が僅かに剣呑なものなった。

 

「あら、随分と余裕ね、坊や。それとも単なる強がりかしら」

「確かに僕は電気タイプのスペシャリスト。地面タイプのヌオーは僕のポケモン達に対して有効でしょうね」

 

シトロンはエレザードを繰り出しながら眼鏡の弦を直した。

 

「ですが、ポケモンバトルはタイプ相性だけでは決まるわけではありません」

「『地震』!」

「『草結び』!」

 

指示が飛んだのはほぼ同時。だが、ヌオーが動くよりも速く、エレザードの技が決まる。

水タイプと地面タイプ。

その両タイプの弱点である草タイプの攻撃によりヌオーのダメージは甚大だ。

これ以上の戦闘続行は困難だと判断したグレーテルは直ぐ様ボールにヌオーを戻し、次のポケモンを繰り出した。

 

「いきなさい、グライガー!」

 

地面タイプでありながら飛行タイプでもあるグライオン。

草タイプの技は半減され、その上、ここは地下。エレザードが唯一使える水技『波乗り』は使えない。完全に詰みだ、とほくそ笑んだ。だが、シトロンは余裕を崩さない。

 

「『破壊光線』!」

 

エレザードが隠し持っていた『ノーマルジュエル』が光り出す。ノーマルタイプの技の増幅効果を持つ宝石の力を受け、オレンジ色の極太のエネルギーが迸った。圧倒的な光の奔流はグライガーを呑み込み、隔壁を抉り込み、その名の通り破壊の限りを尽くしていく。

当然、そんな超火力の攻撃を受けたグライガーは意識を失い、地面に墜落した。

 

「僕は電気タイプのエキスパート。ならば、その弱点タイプである地面タイプへの対策は念入りに行っています」

 

嫌な汗が一筋流れた。

強すぎる。

手持ちを地面タイプで固め、電気対策は万全にしていたというのに、既にグレーテルの手持ちはあっという間に壊滅状態である。底の知れないジムリーダーの実力に深い戦慄を覚えた。

だが、同時に安堵する。ヘンゼルがシトロンと戦わずに済んだことを。

 

無名の一般トレーナーにグレーテルの敬愛するヘンゼルが負ける道理などあるはずがないのだから。

 

2

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

勇ましい掛け声をあげながらアトリは走る。ドサイドンと逆方向へ。

彼の背中に張り付いているケロマツは振り落とされまい、と更に強くしがみついた。

 

――今日はこの辺で勘弁してやるぜ。命拾いしたな!

 

「なんで台詞だけは超強気ィィィッ!?」

 

いつもよりひどい偏頭痛と共に頭の中に直接響いてくる幻聴に思わずツッコミを入れる。

ドサイドンは怒りの咆哮をあげた。そして、明らかにアトリごとケロマツを狙った一撃を放つ。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおッ! 借金返すまで死んでたまるか――――ッ!」

 

死に物狂いで遮蔽物に身を隠し、タッチの差で岩石砲をかわす。

岩石の弾丸は遮蔽物のすぐ上を通り過ぎ、背後の隔壁を大きくひしゃげさせる。

 

「かすった! 今、髪にかすったって!」

「ふははははは! カエル煎餅にしてあげるのであ~~るッ!」

「何が『ふははははは!』だ! 芝居がかってんじゃねえよ、この劇団ひとり!!」

 

悪態をつきながら、指でこめかみを叩き続ける。

 

ロコンの『鬼火』は確かに決まった。

火傷を負ったポケモンは攻撃力が大きく落ち込むのが、普通だ。

だというのに、出鱈目なこの威力。

素の攻撃力が優れているだけでは説明がつかない。だとすれば、

 

「『チーゴの実』か『ラムの実』あたりの状態異常を治療する木の実を持っていたのだろうね」

「やっぱりか。迂闊だった……」

 

思わず天井を仰いだ。

物理アタッカーを火傷状態にして攻撃力を封じ込める、というのは定石だ。

定石であれば、対策が立てられているのは考えて然るべきことだ。ましてやドサイドンのように物理攻撃が生命線のポケモンならば、尚更である。

 

「ところでN、なんでアンタここにいるんだよ?」

「キミがどんなバトルをするのか、見てみたくてね」

 

シトロンと共に逃げたグレーテルを追った筈の連れは逼迫したこの状況に関わらず相変わらず穏やかな表情を浮かべてドサイドンを見た。

 

「どうやら彼はキミのトモダチよりもレベルが遥かに上の様だね。ボクの手は必要かい?」

「いいや、間に合ってるさ」

 

成り行き上変態プロフェッサーと戦っているが、Nの叩き潰したい相手は別にいる。

ここで余計な戦力を投入するわけにはいかない。それに、

 

「オレ達にも一応意地ってモンがあるからな」

「それはキミのポケモンならこの局面を切り抜けられるっていう信頼? それとも個人的な拘りかい?」

「両方だ」

 

Nの問いかけに即答して鞄の中を徐に漁りはじめる。そして、とあるアイテムを一つ取り出した。

 

「それは?」

「一発逆転するためのとっておきさ。結構値の張った貴重品だが、この際仕方ねえ」

「いつまで隠れているのであるかッ! 出てくるのであ~るッ! 『ストーンエッジ』!」

 

鋭利な石の塊が地面から隆起し、遮蔽物を吹き飛ばす。

無防備を晒したアトリにドサイドンは岩石砲の照準を合わせた。

轟音と共に撃ちだされた巨大な石礫。アトリはケロマツを抱え地面を転がり、どうにかやり過ごした。

すぐさま起き上がり、ケロマツをボールに戻し、新しいモンスターボールを掲げる。

ケロマツ、ハッサム以外に状況を打開できる正真正銘、最後の砦だ。

 

「ムックル!」

 

ロコンとスピードのツートップである鳥ポケモンは室内でも構わずその翼をはためかす。

縦横無尽に飛び回るムックルにアトリは取り出したアイテムを投げ渡す。

嘴で受け取ったムックルはドサイドンに向かって一直線に特攻する。

 

「岩タイプに鳥ポケモンをぶつけてくるとは愚かなり、名も知らぬトレーナーよッ! この一撃で沈むのであ~るッ! 『ストーンエッジ』!」

 

タイプの相性が悪く、耐久力のない鳥ポケモンを屠るのに十分すぎる大技。

その強烈過ぎる一撃がムックルの体に直撃する。

強烈な一撃にズタボロにされながらも、確かに墜ちずに羽ばたいている。

 

「バカなッ!? 飛行タイプに岩タイプは――」

 

確かにムックルの耐久力ではドサイドンの放つ岩タイプの技はダメージキャパシティを超えるのに十分すぎるだろう。だが、だからこそアトリがムックルに渡した道具が真価を発揮する。

 

『気合のタスキ』。

如何に強力な一撃であろうと、如何にタイプの弱点を突こうとも自身が無傷であれば一撃だけ耐え忍ぶことのできる逸品の力を借りて、ムックルは最後の力を振り絞る。

道具の力を頼るなど、と情けないといえば、情けない話だろう。

だが、力の劣るものが自分よりも強い相手に勝利する為にはいつだって策が必要なのである。

なにも王道だけが道ではない。舗装されていない獣道とて、貫き通せば自分の道なのだ。

才能で劣るなら他の何かで。

泥臭くても、なりふり構わず自身が望む結末をもぎ取るために。

可能性が1パーセントでもあるのなら、その1パーセントを引き寄せる為に出来ることは全てやり尽す。

弱者には弱者の闘い方や意地があるのだがら。

 

「左捩じり込み!」

 

ムックル得意のマニューバを生かし、ドサイドンの懐に一気に飛び込む。

この間合いならば小回りの利くムックルの独壇場である。

 

「『がむしゃら』!」

 

自身のダメージを相手に共有させる使いどころの難しい技だが、彼我のレベルに関係なくダメージを与えられるムックル唯一の技が決まる。

 

「こ、こんな小細工! 認めないのであ~るッ! 先生、その蚊トンボを叩き潰してしまうのであ~るッ!」

 

ドサイドンが破れかぶれに放った拳をムックルは難なく躱す。

 

認めてやるよ、変態プロフェッサー。

アンタのドサイドンのレベルはオレの手持ちポケモンの強さを遥かに凌駕している。

アンタはオレ達よりも強い。けどよぉ――

 

「勝つのは、オレ達だッ!!」

 

――その通り!

 

叫びに呼応するようにムックルがその姿を変えていく。

 

「電光石火!」

 

ムクバードはムックルの頃とは比べ物にならないスピードで静かにドサイドンにトドメの一撃を見舞い、ついにドサイドンの巨体は崩れ落ちた。

 

3

 

「この扱いに不服を申し立てるのであ~るッ!」

 

ロープでグルグル巻きにされたヘンゼルは仁王立ちするアトリたちに向かって言うがその声は当然のように無視された。

 

「まあ、色々ツッコミたい事はあるけどよ……。まずコレはなんだ?」

「勿論我輩の作り出した偽札であ~るッ!」

 

絵柄。質感。感触。透かし。ありとあらゆる偽造防止技術が再現されており、守銭奴のアトリを以てしても本物と区別がつかない程の出来栄えである。

ただ、一点を覗いては。

 

「何故、フクザワ・ユキチじゃなく、貴方の肖像画がお札に印刷してあるのですか?」

「プロフェッサーの偉大さはフクザワ・ユキチなみですから違和感はありません」

「そういう事じゃないと思うよ……」

 

サナはげんなりとした様子でツッコミを入れた。

偽札とはそもそも本物に似せた偽造紙幣であるからこそ脅威になるのであって、明らかに偽物だとわかる代物は精々人生ゲームか子供もお店屋さんごっこにしか使い道のない玩具でしかない。

 

「お年寄りや子供が間違って使ってしまったら大変であろ~ッ!」

「お前、実はいい奴だろ!?」

「プロフェッサーの魅力をわかって頂けて私も嬉しいです」

 

その場にいた誰もが脳裏に「本末転倒」という言葉を思い浮かべつつも、誰もその言葉を口に出すことはなかった。なんとなく口に出してしまったら疲労が更に詰み上がるような気がした。

 

「ねえ、この人たちどうしよっか?」とサナ。

「放っておいて問題ないんじゃない?」とN。

「こいつ等バカだし、野放しにしても実害少なさそうだよな」とアトリ。

「わ~~ッ! ダメですよ!」

 

三者がそれぞれやや投げ槍な意見を発する中、シトロンは慌てて彼らの話をぶった切った。

 

「一応ここまで大掛かりな違法建築をやっちゃってるんですから、ちゃんとしかるべき措置をとらないと!」

「けどなぁ……。ここが空振りだった以上、ポケモン強盗はもう一回手がかり集めるところから始めねえと。正直ここで余計な時間を喰ってる暇はないだろ。さっさとムクバードの治療もしてやりてえし。……ぶっちゃけこれ以上こいつ等に構って余計な体力消耗したくない」

「ぶっちゃけすぎです!」

「我輩には見え~~るッ!!」

 

そんなアトリとシトロンのやり取りにヘンゼルは陸に上がったコイキングのようにビチビチと跳ね回った。

 

「何が?」

「知れたことッ! ポケモン強盗の鯵と鯖! 失敬失敬ノーカンであ~るッ!」

「手短にな。さもねえと水車に張り付けて大回転させてやる」

「わ~おッ! 脅迫上等!? まさか我輩のナウでヤングな言い回しに嫉妬の炎がメラメラと燃え盛っているのであるな? フッ、天才とはいつも時代も羨望と妬みに晒されるものであるなッ!」

「お~い、水車の準備だ。死なない程度に痛めつけるぞー」

「抑えてアトリ! 気持ちは痛い程! 本当にわかりますけど! 貴重な情報源なんですッ!」

 

静かに激怒するアトリとそれを必死に抑えるシトロンとゴーイングマイウェイに脱線していくヘンゼル。このままでは埒が明かないと判断したNがドサイドンの入っているモンスターボールを拾い上げて小さな声で囁きかけた。

 

「彼がポケモン強盗のアジトを知ってるって言ってるよ」

「マジか!?」

 

アトリ、シトロン、サナの視線が一斉にNに集まる。

 

「サウスサイドストリートにあるレストラン・ド・フツー横の路地裏。そのあたりを根城にしている赤いスーツの集団がこの事件の犯人だって」

「おい、そうなのか? っていねえ!」

「あそこ!」

 

サナに促される方向に視線を向けるとヘンゼルとグレーテルのコンビは緊急脱出用のエレベーターに乗り込んでいた。

眼を離したとはいえその早業にその場にいた誰もが怒るより先に舌を巻く。

ちゃっかりNの拝借したモンスターボールも忘れずに持っていっている辺り間抜けなのか、抜け目がないのか判断に困るところだ。

 

「今日はこの辺で勘弁してやるのであ~るッ!」

「逃げるのか変態プロフェッサー」

「紳士な我輩をよりにもよって『変態』扱いするとは失敬であ~るッ! 逃げるのではないのであ~るッ! これは勇気ある撤退なのであ~~るッ! そうであるな、グレーテル」

「その通りです、プロフェッサー・ヘンゼル」

「それでは紳士淑女諸君! ついでにチンピラ! さよなら、さよなら、さよなら!」

 

捨て台詞まで残して、ヘンゼルとグレーテルは基地を放棄していく。

アトリ、N、シトロン、サナの誰もが空いた口が塞がらなかった。

 

「なんかよぉ……、どっと疲れた気がする……」

「こんな疲労感と徒労感……。滅多と味わうことはないでしょうね……」

「サナ、思い出づくりしたいけど、あの人たちのことはわすれよーっと……」

 

ポケモン強盗の情報を仕入れるという大きな収穫はあったが、なんとなく労力とつりあっていない気がするのは決して気のせいではないだろう。

 

「カロス地方には変な人がたくさんいるんだね」

「「「一緒にするなッ!!」」」

 

Nの発言にアトリ、シトロン、サナが一斉に喚くようにツッコミを入れた。

 

 

 

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