ポケットモンスターXY~あなたへ贈る百日草~   作:黒助2号

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第39話 コボクタウンの貴族サマ

 

 

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ポッポ、ビードル、コクーン、キャタピー、トランセル、ホルビー、コフキムシ、コフーライ、ヤヤコマ、ジグザグマ、三猿、ピカチュウ、ルリリ、シシコ、ビッパ、ノコッチ、コダック、リオル、ミツハニー、スボミー、レディバ、エネコ、ラルトス、トリミアン、ヤンチャム、メェークル、ケーシィ、ゴクリン、ホルビー、ドードー、プラスル、マイナン、ズルッグ、ゴクリン……。

 

 

ミアレシティの5番ゲートを抜けた先にあるベルサン通り。

特徴と言えばミアレシティから出て直ぐの場所にあるスケーティングパークなど若者が好みそうな遊技場にコボクタウン周辺に広がっているラベンダー畑。そんな環境のせいか生息しているポケモンは草タイプや虫タイプ、そしてノーマルタイプが多いように感じる。

 

このあたりのポケモンは結構捕まえたな……。と雲一つない青空を仰ぎながらボンヤリと考えていた。

 

思い返せば大変だったなぁ。

いや、もう…………。

ズルッグの群れに囲まれたときは本当に死ぬかと思った……。

思い返すだけでどっと冷汗が噴き出てくる。

しかし、のんびりしている時間はない。ここまで捕獲するのに2週間もかかってしまった。

 

アトリの捕獲したポケモンの数はトロバの捕まえた数には遠く及ばない。しかも彼は既にこの先にある化石掘りの名所である『コウジンタウン』周辺に生息しているポケモンまで同じように捕獲済であると言っていた。

 

このままじゃダメだ。

 

内心酷く焦っていた。

 

トロバは『ポケモンの生態系と環境の因果関係』という視点からデータの信頼性を高める為により多くのポケモンを捕獲が必要、という事であの数の捕獲を行っているのであって、何の考えもなく捕獲しているだけのアトリがトロバに勝てる道理はない。同じことをやってみて、改めてトロバの凄さを肌で感じる。

 

オレはオレでトロバとは違う方法で、成果をあげないと、博士の研究に貢献しているなんて言えないし、ポケモン図鑑を受け取った意味もない。とはいってもどうしたもんかねぇ……。

 

彼に並ぶにはアトリ自身それを考える必要がある。しかし、それはアトリにとって最も難しいことだった。

模倣は得意だが、自分から何かを生み出すことが出来ない。

模倣は悪手ではない。発展とは常に模倣することから始まるのだから。

しかし模倣は模倣でしかない。競争社会に身を置いている以上、自分で考えず真似だけに留まっていては先んじることなど一生出来ない。

 

くぅん……。

と、ボールから出ていたロコンが心配そうに前足を足に乗せて身を乗り出した。

 

「大丈夫だ、ロコン。大変なのは最初からわかっていたことだ」

 

頭を撫でると手の甲に顎を寄せてきた。撫でるならそこを撫でろ、ということらしい。

要望通り顎と首のラインを指でコショコショとさするとリラックスしたように体を預けてきた。ああ……、癒される……。

こうしていると後ろ向きな気持ちを前に向けようとする気力が湧いてくる。

 

得意じゃない、とか言っている場合じゃない。

 

出来るか、出来ないかじゃねえ。やるか、やらねえかだ。

 

そこまで考えたところでグウウウウウウウウウウウウッ! と腹の虫が鳴った。

 

「腹、……減った……」

 

やっぱりオレみたいな大飯喰らいがカロリーフードだけでもたせるのは無理があったか……。

時計を見る。時刻は14時ちょっと過ぎ。今食うと夜に腹が減って眠れなくなってしまう。

 

オレは今、絶賛金欠の真っ只中である。購入したモンスターボールは底を尽き残高も食費を除けば少々心許ない。

倹約家のオレがそんな事態に陥ったのには勿論深い訳がある。一言でいえばこの間の酒の席での狼藉だ。

家の壁に大穴を空けたのは負い目からかオレに少々甘い母も流石にキレた。修繕費はオレの貯金から全額支払う事が決定し、その損失補てんの為に本来予定していた路銀を大幅に減額する必要があった

酒の席とはいえ悪乗りしすぎたなぁ、と深く反省する。

 

次は外さない。一撃で始末する。

 

ぎゅるるるるるるるるる! とまた激しい自己主張をする腹の虫に拳を叩き込み、強引に沈黙させる。心頭滅却すれば火もまた涼し。

これくらい、昔の貧乏生活に比べれば屁でもないはずだ。

フラダリラボの給料日まであと1週間。それまではなんとしても耐えてみせる。

 

さて、休憩終わり。ロコンの心底呆れきった表情に気付かない振りをして立ち上がる。

体を休めていると空腹でおかしくなりそうな為、歩きながら考えることにした。

アトリが歩き始めるとロコンもトテトテと短い脚を回転させて、同じように歩き始めた。

可愛い。

 

ポケモン図鑑を再び広げた。思案するのは最後の一匹の事。

このあたりには目当てであった地面タイプのポケモンは生息していないようだ。

最有力候補として狙っているのは身軽さと力強さを兼ね備えた『ガブリアス』だ。

ガブリアスは非常に気が荒い。

そういうポケモンの場合、手懐ける為に幼い『フカマル』から育成するというのが常套手段ではあるが、進化前の『フカマル』『ガバイト』はお世辞にも強いポケモンとは言えない為、育成には非常に長い時間と手間がかかる。

しかし、だからこそそれを乗り越えた『ガブリアス』とトレーナーの絆は強固であるし、力自体は言わずもがな。総じてハイリスク・ハイリターンな上級者向けのポケモンだと考える。

もし、ガブリアスが無理なら『岩』との複合というタイプ的に癖が強いものの圧倒的なパワーを持つ『ドサイドン』も悪くないな、と家にいる人懐っこい母のサイホーンを思い出していた直後のことであった。

 

「―――――ッ!」

 

久しぶりに脳を直接締め付けられるような頭痛に見舞われて思わず眉間を抑え込んだ。

 

まただ。またニンゲンが来た!

あの時みたいにぼくたちのナワバリを壊すつもりだ。

でていけ。でていけ、でていけ、でていけ、でていけ!!

 

まるで泣き喚いているような声が鼓膜を介さず大音量で響いてくる。気遣うロコンの声すらも遠い。

あまりの騒音にしばらくは動けずにいたが、やがて声は遠ざかっていった。

 

「んだよ、今の……」

 

アトリの袖を噛んで思いっきり引っ張った。

 

「待て、ロコン! これ本革なんだから噛まないでくれ、頼むから!」

 

フラダリラボから支給されたこのレザージャケットは間違いなく高級品だ。

最初着たとき動悸・息切れ・緊張などの症状がみられた為、間違いない。それをボロボロにされてしまったら確実にアトリの胃に穴が空く。

情けない声で懇願するもロコンは引っ張ることをやめない。何か訴えたいことがあるのだろうか。

 

「何かあるのか?」

 

問いの答えを示すようにロコンは駆けだした。アトリも少し遅れてそれに追随する。

本道から外れた小さな脇道。注意深く観察しなければ、そこにあることも気づかないだろう。舗装すらされていない細い獣道を駆け抜けた先で見たものは野生のズルッグに囲まれている壮年の男性と若いメイド。そして2人を守る為に懸命に奮闘しているプラスルとマイナンの姿があった。

二匹ともよく戦っているが、数の暴力ともいえるズルッグの連携を前にジワジワと劣勢に陥っていく。

男性のプラスルが倒され残ったメイドのマイナンもズルッグ達に取り囲まれた。

 

「旦那様お逃げください。ここは私が命に替えても!」

「駄目だロザリー! 君のポケモンはもう疲れ切っているじゃないか!」

「しかし、旦那様をお守りするのがメイドであるわたくしの使命! 貴方様に怪我を負わせてしまったらわたくしは御恩を受けた先代様に合わす顔がございません」

「……君を見捨てて逃げるくらいなら私は共に死ぬことを選ぶよ。……お願いだ。最後のその時まで一緒にいさせてくれ……」

「旦那様……」

 

現状把握だガネ。金の匂いを察知したアトリはコメカミを指で叩いた。

ロコンと目配せした後、モンスターボールを構える。

 

「火炎放射」

 

戦闘モードに入ったロコンは日輪を背負い、炎を投射する。

ズルッグは悲鳴を上げて避けた。危うく倒されかけて怒り心頭なズルッグ達は一斉にロコンに襲い掛かるが、それよりも早くアトリはロコンをモンスターボールに戻し、退避させる。

破れた包囲網からプラスルは脱出して主人達の前に立つ。その横にアトリが投げたモンスターボールからモココが飛び出した。

突然間に入ってきた乱入者にズルッグ達は距離を取る。体を帯電させた電気を少しずつ放ち、ズルッグ達を後退させた。

 

「よーし、そのまま戦況維持。まだ倒すなよ。……お困りですか~?」

「な、何者!?」

 

突然割って入ったアトリにメイドは顔をしかめて不信感を露わにしたが、男性の方は興味をひかれたように目を見開いた。

 

「君は、その紋章はフラダリラボの……」

「はい、フワ・アトリと申します。突然ですが商談と行きませんか?」

「商談ですって!?」

「ええ。私がズルッグ達を追っ払う代わりに貴方は私の旅の資金をほんとちょっぴり負担するというシンプル極まりない話ですよ」

「他者の危機に付け込んで金儲けとはなんて不謹慎な!」

「地獄の沙汰も金次第なんて言葉も別解釈が存在するくらいですし」

「くっ、この俗物が! あなたも金が命よりも大事だというクチですか!」

「そこまでは言いませんが、社会の輪の中で生きている以上は金がなければ明日を生きることも出来ませんからね。多少生臭くなるのは仕方のないことかと。それに……」

 

ズルッグ達の様子を伺った。出来れば退いて欲しいところではあるが。彼らは頭に相当血が昇っているのか、退く気はないようである。

 

「……私には貴方たちを助けなければいけない義理も道理もないですからね」

「いいよ。君の話、受けよう」

「旦那様!?」

「大丈夫だよロザリー。フラダリラボのトレーナーなら信用できる」

「交渉成立」

 

ズルッグ達に向き直った。

 

「モココ、お仕事の時間だ」

 

バチバチバチ! と更に激しく帯電し、青く光り臨戦態勢にはいった。

 

「事情はなんとなく察している。倒すのは本意じゃない。

ニンゲンを二度と襲わないと誓って退くなら追撃しないと約束する」

 

ウソだ。後ろを向いた瞬間に攻撃する気だろう!

 

「舐めるな。オレは約束は守る。このまま人間を襲えば、お前達は災害指定携帯獣として認識されれば、お前たちは問答無用で処分される。この意味が分かるな?」

 

騙されないぞ。いいように丸め込もうとしているだけだ!

そうだ。ぼくたちの縄張りを壊したニンゲンのいうことなんて聞けるものか!

怯むな。全員でかかればなんとかなる!

 

一斉に襲い掛かってくるズルッグ達。アトリは小さく舌打ちをした。

 

「モココ、突撃。包囲網に突っ込め!」

 

雪崩れ込むズルッグ達とモココが衝突する。四方から『だまし討ち』『けたぐり』『頭突き』と一斉に繰り出してくるズルッグ達を見てアトリはコメカミを二度叩いた。

 

「『放電』」

 

溜めていた電気を全方位に解き放つ。強力な電撃を受けて、弾き飛ばされたズルッグ達は悲鳴をあげる間もなく倒れた。腹の底から苦いものが込み上がって来るようだ。

 

「残念だよ……」

 

小さく呟いて男性とメイドの女性に向き直った。

 

「終了です」

「ありがとう。君は命の恩人だよ」

「いいえ、仕事ですから。それよりも約束の報酬を――」

 

ぐるるるるるるるるるるるるるるぅ!! とアトリの腹部がまたしても自己主張を始めた。

 

あ、やばい。なんか体調悪い。汗もすげえし、足が震えるし。めまいもしてきやがった。

 

「お腹が減っているのかい?」

「いいえ、別に。全く」

 

ドスドスドス!! と顔面蒼白になりながらも腹部に拳を叩き込み続けるその姿は非常にシュールな光景である。

 

メイドの女性は引いていたが、男性の方は微笑を浮かべた。

 

「よければ家に来ると良い。食事くらいはご馳走させてくれ」

「いいんですか!?」

「旦那様!? よろしいのですか?」

「いいではないか。彼は私達の命の恩人だ」

「…………かしこまりました」

「私はジョルジュ・ド・ショボンヌ。こっちのメイドはロザリー。

よろしく、フワ・アトリ君」

 

ショボンヌ……? どこかで聞いたような…………って、あ!

 

「もしかしてショボンヌ城の……?」

「うん。管理を任されている」

 

お貴族サマ!?

 

コボクタウンのショボンヌ城といえばカロス地方でもガイドブックに掲載されているほどの有名観光地である。かつてのショボンヌ城主はカロス地方を治めていた王の別荘『パルファム宮殿』の管理を任されていたことから貴族としての格が相当高かったことが伺える。

 

 

相手がブルジョワなら相当な額をふっかけても良さそうだが、それよりも彼には『有益な使い道』がある。

元貴族ならばメガシンカの情報を文献や古い伝承などが家に伝わっているかもしれない。

そういったものは大抵家宝として扱われ、流れ者相手に閲覧を許されることはあまりないかもしれないが、フラダリラボ専属トレーナーとしての社会的地位と個人的に恩を売れれば可能性はあるかもしれない。

 

やっと自分にもツキが回ってきた。しめしめとほくそ笑んだ。

 

 

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