1
「ハッサム」
モンスターボールから飛び出た瞬間、 180度回転してアトリに殴りかかってきた。
アトリは次々に繰り出されるハッサムの拳を避ける。避ける。避けまくる。
攻め手を止めたハッサムの舌打ちが脳に直接響いた。いつもの偏頭痛に思わず顔が歪む。
『外したか』
「外したか、じゃねえ! 何しやがるッ!」
『お前の残念な顔をリフォームしてやろうかと思っただけだ』
「余計なお世話だ。つーか言うほど残念じゃねえ!」
と、思いたい。
少なくとも不細工ではないはずだ。
『何の用だ?』
「単刀直入に言うぞ。力を貸せ」
やはりと言うべきか、ハッサムは鼻で笑った。
『そういうことは他の奴に言え。俺は寝るのに忙しい』
「そうはいかない。今回ばかりは是が非でもお前に働いてもらわないと」
『ざけんな。何故この俺がニンゲンなんざ助けるために動かなければならない』
「ニンゲンの為だけじゃない。ポケモンの為に、だ」
ハッサムは剣呑な表情を浮かべて、アトリの首に手をかけた。
『ポケモンの為? 報酬の為にニンゲンの犠牲になったポケモンを始末したお前にそんなことを言う資格があるとでも思っているのかよ?』
「…………」
今度は一切の抵抗をしなかった。自分の言葉の何がハッサムの逆鱗に触れたのかをよく理解していたからこそ、逃げるわけにはいかなかった。
『そのよく回る舌、首ごと切り落ちしてやろうか』
「お前がやるべきだと思ったならそうするといい」
毅然と言い放ったアトリにハッサムは右目を細めた。鋭利な眼差しはアトリの覚悟を試すかの様に注がれる。
「…………許せないんだ」
囁く声は氷点下まで冷え込んだ。
「昨日のズルッグ達を見ただろう。住処を奪われた怒りのままニンゲンを襲い、結果――オレが始末した。やりたくなかったのに……ッ!」
血を絞り出すような声をなけなしの理性で押さえこむ。
気を抜くと怒りが溢れそうにだった。怪物は檻の中で荒れ狂っていたが、大丈夫だ。
手綱はまだ握られている。
「このまま放っておけばジョルジュさん達だけじゃなく、そこで働いているポケモンもあいつらの様に行き場を無くす。策はある。
今だけでいい。オレをトレーナーと認めて、力を貸せ、ハッサム」
鋏に力が篭る。首筋から一筋、血が流れた。
それでもアトリは身じろぎせず、ただ身を委ねた。
重苦しい沈黙が訪れた。
『嫌な奴だ……』
やがてハッサムは矛を収めた。
『善人と呼ぶにはあまりにも汚く、悪党と呼ぶには甘すぎる』
「清濁併せ持ってこその人間だ。お前の人間像は極端すぎるんだよ」
フン、とハッサムは不愉快そうに鼻を鳴らした。
『いいぜ。お前の喧嘩、助太刀してやる』
信じることに理由はいらないとロコンは言っていた。
だが、ハッサムは彼ほど素直にアトリを慕うことなどできない。
彼は聖人君子ではない。強欲で、自己評価が異様に低く、敵と認識したものには冷酷で、やるべきと判断したなら激しい感情を腹の底に収め、最も合理的な方法で事態の収束を図る。
一方で、その気性の荒さとは裏腹な秩序を重んじ、自分が不利になろうとも最低限の筋は通そうとする。
矛盾だらけ、欠点だらけな人間だ。しかし、だからこそ――
『お前がこれから何をして、何者になっていくのかこの目で見届けてやる。その代り俺の主に相応しくないことをしやがったら即ぶっ殺してやるからな。よく覚えておけ』
「応とも! そんじゃあ大いに頼りにさせてもらうぜ!」
モンスターボールの中でロコンが静かにほほ笑んだ気がした。
2
フェルナン・M・パルファムから招待を受けたアトリは6番道路の長い並木道を抜けた先にあるパルファム宮殿を前にして固まっていた。
でかい。兎にも角にもでかい。ジョゼット・ジョースター宅よりもでかい。
その上所々にあしらった金色の細工がライトアップされており、夜でも眩しさに目が眩みそうだ。
なんだろう、この胸の高鳴り。キュンキュンしちゃう!
あれは絶対本物の金だ。黄金だ。ゴールドだ。
不景気だ、就職難だ、とはいっていても金はある所にはあるのだな、と思う。
同時にあの金ぴかをこっそり合法的に頂いて借金の返済の足しにならないだろうか、とせこい上に不穏なことを考えていた矢先だった。
「フワ・アトリ様、ですね」
モノクルをかけた老紳士が優雅に一礼した。執事だ。
モココが「ファー……?」と首を傾けた気がした。
違う。羊ではない。執事だ。
「私はルータス・クルザント・メルルギアット・バンフェム・キンヴァリー。パルファム家にお仕えさせて頂いている執事にございます」
「ル、ルータス・クル……?」
あまりにも長すぎる名前にアトリの残念な脳細胞は早々に職務を放棄した。
「どうぞ親しみをこめて執事のルーたん。または魂の名であるセバスチャンとお呼びください」
一切合切表情を変化させずそう告げる執事のルーたんを前にアトリはもしかして自分はとんでもない場所に足を踏み入れてしまったのではないか、と戦慄した。
「おや、如何致しましたか? 顔色が優れませんね。ルーたん心配ですぞ」
「い、いえ少し……胃が……」
「左様ですか。医者を手配いたしましょうか?」
「おかまいなく……。それよりも」
「はい。では、我が主の元へ案内いたしましょう」
巨大な門が開いた。ルータスに連れられ屋敷へ通され更に愕然とした。
目の前に鎮座していたのは、またしても黄金像。ミロカロス像がアトリを迎えた。
長い廊下の側面にはこれまた黄金のキリキザン像と金銀細工が規則正しく配置されている。
高い天井にはこれまた値の張りそうなロココ調のシャンデリアがこれでもか! というくらいに吊るされていた。
アトリは並々ならぬ怒りを覚えた。
これだけの財を持ちながら、まだ不足か。まだ他者から奪おうというのか。
ジョルジュさんは自分が貧しくても、他の誰かの為に自分の身を削っているというのに、何故お前のような奴が……!
強く握った拳で掌から血が滲んだ。
一呼吸置き、気持ちを平静に保つよう努める。
落ち着け。
あの銭ゲバには利用価値がある。キレたら負けだ……。これはそういう喧嘩だ。
最初から厳しい交渉になることはわかっていたはずだ。短気を起こすなよ、オレ。
「こちらで主人がお待ちです」
そう言われて通されたのは2階のバルコニー。先が見渡せないほど広い庭園を臨んでいる一人の男がいた。
「やあ、待っていたよ。私はフェルナン・M・パルファム。このパルファム宮殿の管理を任されている者だ。君の名前を聞いておこうか」
高そうな高級スーツを身にまとい、腕にはブランド物の時計や金銀細工のアクセサリーをジャラジャラと光らせている。整ってはいるが、何処か一癖ありそうな顔立ちにアトリは一層気を引き締めた。
「フラダリラボ直轄トレーナー、フワ・アトリと申します。本日はお招きいただいて恐悦至極に存じます」
一礼しながら心の中で舌を出した。アトリの心中など知る由もないフェルナンは上機嫌に笑った。
「いいね。礼儀正しい人間は好きだよ」
礼儀正しいのは表面上だけで、本性はチンピラに近い気がするが、この場であえてそんなことを言う必要はないだろう。
「今日はよく来てくれたね。粗末なところだけどゆっくりしていってくれ」
『粗末』という単語に気付かれないよう小さく鼻で笑った。
貧乏人の僻みかもしれないが、過剰な謙遜は嫌味にも聞こえる。
「昨日の君の活躍はフィリップから聞いたよ。すごく強いそうじゃないか」
「失礼。その『フィリップ』という方はどなたでしょうか?」
「刺青のスキンヘッドの男さ。あれでも私の部下の中で腕の立つ方なのだが、そんな彼を全く寄せ付けなかったそうだね。ぜひ一度君のポケモン捌きを直に見てみたいと思ってね」
ルータスはシルフカンパニーの刻印が打たれた革製の箱を開いた。中に入っていたのはまたもや金色のモンスターボールが6つ。その中に1つを手に取り、フェルナンは構えた。
「私と1対1のポケモンバトルをしてくれないかね」
「……いいのですか? 私は末端とはいえ、フラダリラボのトレーナーです。社の名前を貶めない為に、手を抜くことはできませんよ」
「構わない。むしろそれでこそ意味がある」
「承知しました。では――仕事の時間だ。いくぞ、ハッサム!」
「マリー!」
マリーと呼ばれたポケモン、トリミアンは咆哮をあげた。
その打たれ強さと忠実な性格からカロス地方で高貴な身分の人間の護衛として働いてきたポケモンで、ミアレシティでは長い体毛をカットすることで様々な姿にすることが流行っている。そして、フェルナンのトリミアンもその例に漏れずレディカットと呼ばれる帽子を模したトリミングをされていた。
品種改良や研究が進んだ現代ではどちらかといえばバトルよりも鑑賞・ペットとして人気が高いポケモンだが、侮ることはできない。マイナーなポケモンは戦略の予想がつかない。その不確定要素は十分な脅威だ。
「くれっぐれも物は壊すなよ。そこら辺の装飾、1つでもぶっ壊そうもんならオレの借金スパイラルが更に加速すること請け合い。やあ、無情……」
半笑いでがっくりと肩を落とすアトリにハッサムはヘッとシニカルな笑みを浮かべる。
『態とぶっ壊してやるのも面白いかもな』
笑えない冗談だ、と心の中で笑って蟀谷を指で叩き始めた。
羊のルーたん、もとい執事のルータスがゴングとハンマーを持ってハッサムとトリミアンの間に立った。
「それではお二人ともよろしいですかな? ポケモンファイト、レディーゴー!!」
「マリー、『ワイルドボルト』」
トリミアンは咆哮をあげて全身に電光を纏った。そのままハッサムの死角に回り込み突撃してくる。それをハッサムはまともに受けた。
ハッサムの体が衝撃で大きくよろめく。トリミアンはすぐさまハッサムの間合いの外へ離脱し、再び右側に回り込む。
「いけるか!?」
『余裕ッ!』
「よし! 舞えッ!」
ハッサムは『剣の舞』を使い、力を研ぎ澄ます。その間隙を縫ってトリミアンは再び激突した。交錯する一瞬を狙ってハッサムはトリミアンを捕まえよう鋏を伸ばす。しかし、見えない右側ではそれも叶わず空を切った。
「ふふ、うちのマリーもなかなかやるだろう? 一流のポケモントレーナーが手塩にかけて育てた自慢のポケモンだよ」
「……………」
「ふっ、会話を楽しむ余裕もないかい。それではマリー、もう一撃!」
三度目の『ワイルドボルト』を見舞ったとき、フェルナンは違和感を覚えた。
「何故倒れない?」
『ワイルドボルト』は『ボルテッカー』に次ぐ電気タイプの上位技。その威力は折り紙付き。最初の一撃で大きくよろめいたことから効いていないはずがない。
「もう一回だ!」
突撃してくるトリミアン。アトリは蟀谷を叩いていた指を止めた。
「そこだッ!」
ハッサムは直線的に突っ込んでくるトリミアンを躱し、鋼の挟を首にぶつけた。
鋭い一撃はトリミアン特有の柔らかく衝撃を吸収する『ファーコート』をも突き抜ける。
ハッサムは一歩下がり、残心をとった。しかし、倒れたトリミアンが起き上がってくることはなかった。
「そこまで、ですな」
「素晴らしい、期待以上の腕前だ!」
トリミアンをモンスターボールに戻したフェルナンは手を叩きアトリを賞賛した。
「マリー、ご苦労だったね。ルータス、マリーを労わってあげなさい」
「かしこまりました」
ルータスはトリミアンの入ったモンスターボールを受け取ると一礼をして退出した。それを見届けた後、フェルナンはアトリに歩み寄った。
「客室へと案内しよう。そこで少し話をしようか」
3
通された客間は酷く居心地が悪かった。
いい加減見慣れてきた金銀細工の装飾や派手な甲冑をオープン・ザ・プライスな場所に持っていったらどれだけの値が付くだろうか、などと想像しただけでもトキメキの導火線が体中を駆け巡りそうだ。
「そう緊張することはない。楽にしたまえよ」
曖昧にほほ笑みながら、ブルジョワアレルギーなアトリは心の中で人様に聞かせることの出来ない罵詈雑言を並べ立てた。
フェルナンの入れた紅茶を口に含んだ。不思議と深みのある味わいに少し緊張が和らいだ気がした。
人格や趣味が破綻している人間がこんなうまい紅茶をいれるなんて詐欺じゃなないか。
「本当はジョルジュにも一緒に来てほしかったのだがね、あることを境に疎遠になってしまったんだ。寂しいことだね」
「昨日のような取り立てをしていれば当然のことかと」
アトリの軽いジャブのような嫌味にフェルナンは怒るどころか苦笑して受け流した。
「誤解しないでほしい。あれはフィリップが勝手にやったことで私としては穏便に事を済ましたいと思っているのだよ」
「なら、そのように指示を出せばいいでしょう」
「それがそうもいかないんだよ。困ったことに彼は頭に血が上るとすぐに暴力に訴えるからね。制御が効かないんだ」
「上司なら部下の教育くらいちゃんとしてください」
「ははは、耳が痛い」
一体その言葉の何割に真実があるのだろうか。政治家と金持ちはたいていが二枚舌だ。
「さて、今日は君を招待したのは他でもない。君の腕を見越してお願いがあるのだよ」
きた。本題。
「私のもとでその力を存分に発揮してみる気はないかね」
リアクションはとらず紅茶を飲みこみながらその提案を咀嚼した。
「貴方のもとには既に荒っぽい連中がいるでしょう。わざわざ私を雇う必要はないのでは?」
「フィリップのことかね? 彼は頭が悪い。むやみに事を荒立てるから、揉み消すのに随分余計な手間をかけさせられた。事実、昨日もジョルジュのところのメイドに狼藉を働こうとしたらしいじゃないか。その点、君なら安心だ。相応の礼節を心得ているし、何よりもフィリップよりも腕が立つ」
「それはつまり、フィリップの後任として私が
「誤解しないでほしい。私は彼を追い詰めたいわけじゃないんだ。こう見えて彼を高く買っているのだよ。あの料理の腕はまさしく至高の宝。その気になれば、あの3つ星レストラン『レストラン・ド・キワミ』以上の名店にだって出来る。
だが、悲しいかな。彼は自分の才能を生かす術を知らない。毎日毎日彼の料理の価値がわからない従業員の賄い食を作るだけなど、才能の無駄使いにもほどがある」
その理屈はわかる。
才能というのは世間に評価されることで初めてその価値を認められるものだ。
「賃金は月に40万円出そう。君の働きによっては更に増額もあり得る。どうだね?」
やけに喉が渇く。ちびちび飲んでいた一気に紅茶を飲みほした。
「…………ジョルジュさんと友達だったんですってね」
「なんだね、藪から棒に。……『だった』ではない、今でも彼は私の大切な友人だよ」
「だったら何故こんな回りくどい方法をとるのですか? あの人なら『一緒にやろう』と言えば、『NO』とは言わないでしょうに」
ほんの一瞬だが酷く不愉快そうな表情を見せた。
「なんということはない。ちょっとした行き違いさ」
「というと?」
フェルナンは紅茶を飲んだ。
アトリにはそれが苦い感情を一緒に押し流しているように見えた。
「……かつて私はジョルジュと世界一のレストランを作ると約束をしていた。私は経営で、ジョルジュは厨房で。2人で組めば、あの『ズミ』とかいう若造の構える店よりも大きな――このカロスを代表するレストランにさえできただろう。彼が私の経営方針に異を唱えさえしなければ……」
「差支えなければ、何があったのか聞かせていただけませんか?」
深いため息と共に首を左右に振った。
「私はVIPを相手にした高級レストランとして売り出すことにしていた。ジョルジュの家が経営している木の実畑でとれた最高級の食材を最高のシェフが料理する。私の家のコネクションがあれば、客足のきっかけは作れる。食べてさえもらえれば、どんな大金を積んででも食べたいという客が殺到する。……事実、始めて3年間はとても順調だったよ。
あと少し、あと少しで2つ星に手が届くところだった。それを――ッ!」
カップを持つ手に力が入り、目を強く瞑る。眉間には深い皺を刻まれており、強いストレスを感じているのがわかった。
「彼はある日急に情熱を失った。
より多くの人に食べてもらえる大衆食堂でなければ嫌だと言ったんだ! 『限られた僅かな人よりも、多くの人に自分の料理を食べてもらいたいと』。私は『バカな』といった! 当然許さなかったさ。有名にするには知名度が必要だ。知名度を上げるには格の高い顧客を呼ぶしかない。そして、そんな舌の肥えた顧客に満足してもらうには相応の値段をつけなければならない。彼を世界一の料理人にプロデュースする為には、貧乏人にかまけている暇などないのだよ!
しかし、それに我慢が出来なかった彼は辞表を出して、実家に引っ込んでいった。ジョルジュという柱を失ったレストランは一気に客が離れていった。……こうして私たち2人の夢はあっけなく崩れていったよ……。いや、『私たちの』と思っていたのは私だけかもしれないな……」
フェルナンはカップに温かい紅茶を注ぎ、一口飲む。そして立ち上がり日の落ちた庭を臨んだ。
「些か喋りすぎたね。すっかり遅くなってしまった。ルータスに部屋を準備させよう。返事は明日でいい。今晩はゆっくり休んでいってくれたまえ」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「なに、客人をもてなすのは当然のことさ」
4
「うおー……、終わらねえ……」
あてがわれた部屋でアトリはホロキャスターのアプリに文字や数値を打ち込んでいた。
終わらない例の計画のプレゼン用資料作成。
貧乏時代、中二病を患っていたときの黒歴史妄想がこうして役に立つなど、正直夢にも思っていなかった。今、見ると酷い内容だ。内容の稚拙さが実に恥ずかしい。
しかし、そのおかげで今回のプランを思いつき、パルファム宮殿を訪れるまでにプレゼン資料の骨格が出来上がったのも、また事実。
人生というセーブもロードもないクソゲーはどんな装備が役に立つのかわからないものである。
しかし気がかりなのは、先ほどのフェルナンの言葉。
彼の話を真実だとすると、先に裏切ったのはジョルジュの方だ。しかし、と少し思案する。
会って間もないが、自分の知るジョルジュは『たくさんの人を笑顔に』とかお花畑なことはいいそうではが、無責任に投げ出すようなことはしない人だ。むしろ背負わなくてもいい余計な責任まで背負うタイプだ。
……どうにも解せない。フェルナンの語ったジョルジュ像とアトリの考えているジョルジュ像に乖離を感じる。まだ語られていない真実があるような……そんな気がする。
そして、もう一つ。フェルナンの目的は木の実畑の権利を得て、利益を貪ることではない。
ならば、何故?
「……ああ、そういうことか」
もし、フェルナンの目的が想像通りだとすれば、今回の問題は驚くほど簡単に決着が尽きそうだ。
「大人が拗らせるとこうも面倒くせェことになるんだな」
オレも気をつけよう、と決心するアトリだったが、横で欠伸をしていたロコンは「手遅れだよ」と既に拗らせている主人に失笑していた。
というか、そんなものどうでもいいんだよ。
ジョルジュとフェルナンの間にどんなわだかまりがあろうと関係ない。
そんなもんは今回の計画達成後に当人同士で何とかしろってんだ、大人なんだから。
それよりもプレゼン資料が終わらねェ……。
型落ちのホロキャスターでは処理能力が遅すぎる。
もっとスペックの良いパソコンが欲しい……。
頭を抱えて考え込んでいたその時だった。
「動くな、であーる」
唐突に後ろから声をかけられた。
首筋には何やら鋭利なものがチクチクと刺さってくる。
「そのままゆっくり振り向きな、であ~る。少しでもアクセス数を爆上げするような行お動をすると吾輩特性光る! 回る! 音が出る! 『クルクールーまーわーるーこのドーリールー♪(バリトンボイス)』が貴様を大変なことにするのであーる!」
聞くものの疲労感と徒労感を煽るこの声は物凄く聞き覚えがあった。
言われた通りゆっくりと振り向くと目の前にいたのは期待を裏切らない(裏切ってほしかった)あの2人組。
「お、お前らはヘンデスとグレテル!」
「ヘンゼルと!」
「グレーテルです」
自称・今をときめく秘密結社『ふらんだーすの犬』が擁する一億五千万年に一人の大天才プロフェッサー・ヘンゼルとその助手グレーテルは決めポーズを決めながらアトリの前に姿を現した。が、次の瞬間―――――出オチ感溢れる二人組はロコンの炎で爆散。黒焦げにされた。無常である。
続けて46話冒頭を更新します。