紫なる人物が音もなく背後に現れ、声を上げたことに得体のしれない恐怖を感じる二人。
勢いよく振り向いた先には、孫が入り込んだ裂け目と同じものから上半身を乗り出し、妖艶な笑みを浮かべる美女であった。
「貴様が紫か!! わしらをここまで連れてきたというのは本当か!?」
「ええ、本当よ。なんならまたこの中に入ってみる?」
「そ……それは御免です……」
「で、紫。こいつらを連れてきた理由、さっさと教えてくれないかしら?」
急かす霊夢。紫と呼ばれた人物は、どこかつまらなそうに(・3・)みたいな顔をして不貞腐れる。
「あまり結論を急いではダメよ? そういうのはつまらないじゃない。ねえじーさん、あなたほどの歳ならそう思うでしょ?」
「知らん! さっさとわしらを返せ!!」
「……つまらないわねーホントに。まあいいわ。教えてあげる」
「!」
その場にいた全員が息をのむ。一体彼女の口からどんな言葉が飛び出すのか。
「………………暇つぶしよ♡」
「「「「…………はい?」」」」
思わぬ言葉に唖然とする一同。しかし一足先に我に返った霊夢が追及する。
「ちょ、ちょっと! こいつは魔法の森の一部を吹き飛ばしたのよ! そんなやつを遊び半分で連れてきたって言うの!?」
「あ、あれは私も予想できなかったけど! でも、面白いでしょ?」
妖しさ満点の雰囲気から一転、急にうろたえだした紫と取っ組み合う霊夢。
残された三人はそれを呆然と眺めている。
しかしそれを見かねたじーさんがついに手を出す。
「いい加減にせんかーーーっ!!!」びたーん!
「「あぎゃーーっ!!」」
「なんじゃありゃーーっ!?」
文字通り手の形に変形し、伸びた頭を二人に叩きつけるという方法で。
それを目撃してしまった魔理沙は驚きのあまり眼球が飛び出た。
すいません、こんな漫画ですいません、と心の中で謝る孫であった。
紙の如くぺらぺらになった二人にじーさんが怒鳴りつける。
「お前ら、二人だけで勝手に争ってんじゃねーよ! 話が進まねーじゃねーか!!」
「なんで二人があんな体になってるんだぜ……!?」
すいません、ホントすいません。繰り返し心の中で謝る孫。
すると身体を元に戻した紫が改まって話し始める。
「改めて、私があなたたちを連れてきた犯人、八雲紫よ。ゆかりんって呼んでもいいのよ?」キャピ
「断る!! てめーなんか“しなちく”で十分だ! 馬鹿!!」
「(なんか意味の分からない罵倒された……)」ずーん
「ほ、ホントに暇つぶしで連れてきたのか!? 何か、幻想郷の危機にこいつらが必要だとかじゃなくて!」
「え? あぁ、そうよ。ほんの出来心よ。彼らは人畜無害なただの人間…………のはずなんだけどねえ……」
改めてみると全くそんな気がしない。
これはもしかしなくてもやらかしてしまったのでは? 紫は訝しんだ。
しかし終わったことをウダウダと考えていても仕方がない。紫は前向きに考えることにした。
「紫、暇つぶしにしてもこいつらは常軌を逸しているわ。早いところ送り返しなさい」
そう考えようとした矢先、霊夢から痛い指摘を食らう。
ついでに「うぐっ!」とも言ってみる。
プルプルと震えながら振り向きざまに紫はこう言った。
「…………無理☺」
「(#^ω^)ピキピキ」
グワーーッ!
神社の奥で紫の悲鳴が響き渡る。
そこでは一体何が行われているのか……。あまりにも恐ろしいのでここでは描写を控えることにするが。
さて、ひと段落済んだところで。
「いいか二人とも? 幻想郷は迂闊に出歩くと危険なんだぜ? こいつみたいなナリしていても立派な妖怪だぜ? 襲われるたびにあんなことしたいか?」
すっかり忘れられているが、そこにはルーミアも横たわっていた。魔理沙はルーミアを指さしてそう言った。
フルフルと首を横に振る孫。その横でじーさんはボケ~っとしながら鼻をほじっている。
そんなじーさんを無視して魔理沙は話を進める。
「話が通じるからと言って油断しちゃいけないぜ? 妖怪は基本的に人間の敵だからな。特にお前たちみたいな外来人は命の保証がされていないから、怪しいやつと出会ったらもう半分は終わったようなもんだ。できるだけ人気のないところは立ち歩かないようにしろよ」
「わ……わかりました……」
「大丈夫よ。流石にいきなり連れてきてそこのところ保護しないのは可哀そうだと思って……じゃ~ん! 『
「えっ!? あ、ありがとうございます! こんなものまで頂いちゃって……」
「……言っておくが、こいつも妖怪だぜ」
「えぇっ!?」
衝撃の事実を知り、後ずさる孫。紫は不敵な笑みを浮かべたままだ。
すると神社の縁側に人の気配を感じた。
「やっほー霊夢ー! 遊びに来たわよー!」
障子を勢いよく開け放ち、神社に上がり込む幼い女の子の姿が。その後ろにはメイドが日傘をさして佇んでいる。
女の子は見知らぬ二人の異邦人を認識すると、動きをピタッと止め、仕切り直しと言わんばかりに咳き込む。
「初めまして、外来の者よ。私こそはツェペシュの幼き末裔、スカーレット・デビルとも呼ばれる吸血鬼、レミリア・スカーレットよ」
「今外見相応の幼さで飛び込んできましたよね……?」
孫が恐る恐る突っ込みを入れる。
レミリアは赤面して後ろに控えていたメイドに泣きつく。
「さくやぁ~~!! あいつあんなこといった~!! 初対面なのに!!」
「お嬢様の自業自得です」
「咲夜ぁ!?」
秒で主人を裏切るメイド、咲夜。
そんなやり取りを見かねた魔理沙がレミリアに尋ねる。
「お~~い、一体何の用なんだぜ? 代わりに私が聞いてやるからさ……」
「魔理沙に用なんかないわ! 私は霊夢と遊びに来たのよ! 霊夢ぅ~!!」
「呼んだかしら? ってレミリアか……」
紫をシバき終えた霊夢が部屋に戻ってくると、来客の姿を見て露骨に嫌な顔をする。
「生憎今はこいつらの相手で忙しいのよ。面倒だから帰ってくれない?」
「むー……霊夢のケチ!」
「ケチで結構。ついでにお賽銭でも入れてくれれば遊んであげないこともないわよ」
「……そういうこと言って、どうせまともに遊んでくれないんでしょ」
「よくわかってるじゃない」
二人のやり取りを横から眺めていると、今度はレミリアの矛先がじーさんたちに向かう。
「ところでこの外来人は誰?」
「むっ! わしか? わしはでんぢゃらすじーさん! 世の中の危険から助かる方法を教えるプロじゃ!」
「ほう……デンジャラスじいさんだと? そこまで言うなら私の館、紅魔館にある様々な危険をどう切り抜けるか答えてみるがいいわ!」
「その勝負受けて立ったーっ!!」
唐突に始まったこの勝負。果たしてじーさんはレミリア・スカーレットを唸らせることができるのだろうか!?
というわけで。
じーさん、孫、レミリア、咲夜、とついでに魔理沙は紅魔館へ向かい、館にある危険に立ち向かうという内容で勝負を始めたのだった。
霊夢は面倒だからという理由で。紫は未だに悶えているのでついてこなかった。
「きれいな景色だね、おじいちゃん」
「そうじゃの~。わしらがいた時代にはこんな自然はすっかり少なくなってしまったからの」
「くくく……そんな余裕でいられるのも今のうちよ……なぜならあなたたちはこれから超絶に危険な場所に向かおうとしているのだからね……」
「それほど危険か? 紅魔館」
一応悪魔の館でして。普通の人間が近寄るにはやはり危険な場所なのだ。
すると。
「むっ!? 止まれ孫よ! 早速危険その1じゃっ!」
「えっ? もう?」
じーさんが指さす先には。
「水たまりじゃーーっ!!」
「それがどーした!」
いつもの如く、孫が突っ込みを入れる。
「水たまりを甘く見るな! 水たまりは魔界につながってるって友達のひろしくんが言ってた☆」
「「「(ひろしくん嘘つきすぎーーっ!!)」」」
「…………」
突っ込みは入れていないものの、咲夜も呆れ気味である。
「よーし! 安全な水たまりの避け方を、わしが教えてやる!!」
すると、屈んだじーさんは勢いよく上空に飛び上がる。
「ちょりゃああぁぁぁぁ!!!」
飛び上がったじーさんは、跳躍の頂点に達し、間もなく落下を始める。
「ぬりょおおおおぉぉぉぉっ!!!」
スタッ、と着地し、おもむろに起き上がると……
「……」スタスタ
水たまりを迂回して歩いた。
「「「普通ーーーーっ!?」」」がびーん
「あのジャンプは何だったんだよ!?」
「なんか素敵やん♡」
悪びれもせずそうのたまうじーさん。しかしレミリアはこう思った。
「(もしかして……こいつバカ!?)」
関わったのを若干後悔し始めたレミリアであった。
「おー! 紅魔館が見えてきたぜ!」
「あら本当。二人とも見てごらんなさい。あれが私たちの住む館、紅魔館よ」
「う~む、痛々しい見た目じゃなぁ」
後で殺しとこ。
心の中でそう決意するレミリア。
しかし一同が紅魔館を眺めていると、横から飛んでくる物体があった。
「孫! 危なーい!!」
「え? うわあああ!!」
その物体は孫目掛けて飛来し、押しつぶしてしまうほどの大きさを持っていた。
万事休すか!? と思ったその時。
ズズウゥゥン……
「……あれ?」
物体落下地点にいたはずの孫が、瞬間移動していた。
「なに!? 何が起こったんじゃ!?」
「フフフ……これが咲夜の能力、『時間を操る程度の能力』よ」
「何じゃと!? とすると……」
「そう、今のは時間を止めて押しつぶされそうになったあなたの孫を助けたというわけよ」
驚異の能力であった。じーさんは信じられないものを見たというように驚いた。(お前も大概だがな)
助けられたと理解した孫は、咲夜にお礼を言う。
「あ、ありがとうございます! 助けてくれて……。えっと、咲夜さん?」
「はい。私の名前は十六夜咲夜です。どうぞお見知りおきを」
「して、一体何が降ってきたんだ?」
「む? そうじゃな。一体何が……」
そこには氷漬けにされた校長がいた。
「「校長(先生)ーー!?」」