AK-12との何気ない日常   作:なぁのいも

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狼の呼び声にはよく耳を澄ましておきましょう

 AK-12は不満であった。先刻の出撃にてMVPを連発したのに、指揮官から「おー凄い凄い」と言うやる気のない褒め言葉しか送られなかったからだ。

 

 AK-12と指揮官は誓約をした仲である。指揮官にとって一番の存在とはAK-12のことであり、AK-12にとって最重要な人物と言えば指揮官の事である。つまり二人は高度に対等な関係なのである。

 

 それなのに指揮官といったらAK-12がふんすと鼻を鳴らしながら自慢げにした戦果報告を「がんばったなー」で済まし、「で、頑張ったからにはご褒美があるべきじゃないの?」と労いを求めたら「おー凄い凄いぞー」とやる気のない言葉と、適当な頭ぽんぽんで終わらせられてしまった。

 

 勿論そのことにAK-12は不満は募るばかり。最近はグリフィンの合同演習や特殊なサンプルを回収する任務のために東奔西走で忙しないのはよく理解している。

 

 でも、頑張った自分のパートナーには少しでもいいから時間を割いて上げるべきなのでは?と不満を感じてしまうのは、退屈や面白くないことを嫌うAK-12故に仕方がないことだろう。

 

「んー」

 

 AK-12は机に座って仕事に打ち込む指揮官に悩ましげな視線を送る。

 

 今の指揮官は資材の支出管理に忙しいらしく、AK-12の事など気に掛けてないようだ。

 

 こんなにも傍に居るのに無視されるのはAK-12としては面白くない。

 

「指揮官」

 

 だから、彼の事を呼んでみて反応を伺ってみる。

 

 呼ばれれば何かしらリアクションをしてくれるだろう。そうしたら、雑談にでも付き合って貰おう。

 

 指揮官の仕事を大きく邪魔しない程度に構って貰おうとする主人思いの雪狼は思案する。

 

 しかしながら、

 

「いや、違う。この日は確か建造に失敗しまくって何故か大量のAK-12が……」

 

 彼は集中状態にあるようでAK-12の言葉は届いてないようだ。

 

 一度だけなら偶然かも知れない。

 

 寛大なAK-12は一度のミスは許して上げるのだ。

 

 だから、もう一度彼の事を呼んでみる。

 

「指揮官」

 

「この日は……確かAK-12が変なことに資材を使いまくってAK-15にキレられてたな……」

 

 残念ながら二度の呼びかけでも自分の世界に囚われてしまっている指揮官には届かなかった様だ。

 

 AK-12の演算では二回目は確実に反応してくれる筈だったが、生物の行動とはAIが制御しきれる代物ではないのだ。

 

 AK-12の予想が外れることだってある。弘法も筆の誤りという物だ。卓越した演算能力を持ち、並み居る人形を圧倒する彼女も間違えることだってある。

 

 だから、三度目は確実なものにしよう。そう決心したAK-12は指揮官の腕をぽんっと叩きながら呼びかける。

 

「指揮かーん?」

 

 しかも今度は可愛らしく間延びした口調で。

 

 これなら指揮官も反応したことだろう。普段は凜と透き通ってる声色をかわいらしさに全振りしたのだ。並の指揮官なら、これだけでノックアウト。脳髄はよく煮込まれた果実のように溶け出し、AK-12と言うミツバチに弄ばれるままになるだろう。

 

「うん……。違う……。ここはAK-12が勝手に食べたプリンの分の経費も……」

 

 だが残念。今の指揮官の耳にはAK-12の声は届いてない様だ。しかも、身体にわざわざ触れながら言ったのに。

 

「…………あはっ」

 

 限界だった。AK-12の中にスタックされる我慢という番地は不満と、指揮官が全く反応を返さないという理不尽さに満杯となった。

 

 仏の顔は三度までと言うが、残念ながらAK-12の顔は一つだけだ。二度目と三度目はよく持った方である。

 

 指揮官が忙しいのは理解している。ある程度おざなりにされても我慢は出来る。

 

 けれど、いくらなんでも、何度も求められても気づかないのはあんまりではないだろうか?

 

 AK-12は激怒した。怒りというトリガーで彼女の代名詞である深度演算モードが発動し、指揮官をこっちに向かせる方法を模索し始める。

 

 ――銃を向ける……論外。

 

 ――身体を叩く……もう一度無視される可能性あり。

 

 ――ハグする……そういう雰囲気じゃないからやだ。

 

 ――チューする……恥ずかしいから今はやらない。

 

 ――94に手伝って貰う……なんか負けたする気がするから却下。

 

 何十、何百、何千と案を出し、シミュレートし、彼女が出した結論は――

 

「はむっ」

 

 指揮官の耳に甘噛みすると言うなんとも摩訶不s――効率的で確実な方法であった。

 

「いっひっ!?」

 

 突如耳に感じた違和感に指揮官は甲高い悲鳴を上げる。

 

 ようやく反応したことに気を良くしたAK-12は、唇で指揮官の耳を挟んで揉み込んだり、耳の外周や窪みに舌を這わせたりとやりたい放題。

 

「いひっ!?や、やめい!!」

 

 耳を甘噛まれた事と暴れた耳を食い破られそうな恐怖感、生暖かい舌と彼女の吐き出す吐息によって与えられるこそばゆさ。彼女が耳へと与える刺激によって、指揮官の耳はどんどん熱を持っていく。

 

「んふふっ」

 

 ようやく反応を見せたことと、弱々しく抵抗する姿がAK-12の加虐心を刺激してしまうと言うもの。

 

 AK-12は指揮官への耳責めを十分近く堪能するのであった。

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 AK-12が指揮官の耳を堪能してから少々時間が去った頃。

 

 指揮官とAK-12は二人用のソファで隣り合って座っていた。

 

 AK-12は指揮官の肩に頭を預け、指揮官は彼女の頭を優しく撫ぜ続ける。

 

 ずっと塩対応をされた仕返しが出来てAK-12はご満悦のようで鼻歌なんかを奏でている。

 

「たく……あんなことしなくても……」

 

「反応しないあなたが悪いのよ」

 

「いや、絶対呼ばれたら反応――」

 

 指揮官は反論しようとしたが、AK-12が瞳を見せて上目で睨み付けてきたので、一つ息を吐いて彼女の頭を撫でる作業に戻る。狼にロックオンされて怖じ気づかない人間などこの世界に10%も居ないことだろう。生理的な反応であって、AK-12に怖じ気づいたわけではないと、指揮官の名誉のために言い訳しておこう。

 

 彼女の頭髪は手入れが行き届いており、髪を撫でる度に上質な弦楽器のようにしゃらしゃらと音を立て、指揮官の指に引っかかることなく通り過ぎていく。

 

「んんっ」

 

 それに、AK-12が擽ったそうに身をよじり、微かに頬を赤くしている姿を見れば、彼女への恐れは吹き飛び、その隙間を埋めるように愛情がわきでてしまうと言うもの。

 

「はぁ……しょうがないやつ……」

 

 今回ばかりは指揮官が悪いのだが、AK-12の素行的に彼が信じてくれないのもしょうがないことだろう。

 

 けど、そう言ったときへのカードの用意できている。否、出来てしまった。

 

「また反応してくれないことがあったら、耳をなぶるから」

 

 新たに発見したウィークポイントを責めるという手札が。

 

「心臓に悪いからもう止めてくれ」

 

「あら、かわいかったのに」

 

「そういう問題じゃないわ!!」

 

 指揮官からの心地よい突っ込みに満足したのか、AK-12は指揮官の胸に頭を寄せて微かに頬を持ち上げる。

 

 我が儘で突拍子もない事をするかけがえのないパートナーの頭を胸に抱き留め、指揮官はAK-12の呼び声には反応しようと固く決意するのであった。

 

 

 

 




 数日後、仕事中の指揮官が奇っ怪な悲鳴を上げたらしいのだが、この件とは多分関係ないことだろう。 
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