AK-12との何気ない日常   作:なぁのいも

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そして彼女らはサンセットを眺めた

 澄み渡る青い空、水平線が広がりどこまでも雄大な海原、その二つに染まることの無い自然の光を反射する真っ白い砂浜。

 

「あはは」

 

 先の大戦のせいで大部分が崩壊した筈の世界。今いる場所は壊れた空間からは切り離されたように思える楽園のような場所。

 

「こっちよ~」

 

 楽園の中心で、膝までを海面まで浸けて、女神が微笑みかけてくる。

 

 白い砂浜以上に清廉な銀色の頭髪を一つに纏め、彼女の美しい髪と同色の海水着に包まれた女神が。

 

 普段は隠された純白のおみ足は惜しげも無く晒され、胸部の露出こそ少ないが彼女の豊かなラインを浮き上がらせている。

 

 整ったボディラインは同性からの嫉妬を買ってしかるべき物。

 

 グラビアアイドルの様な過度な露出は確かに無い。それでも、異性同性の垣根無く注目を浴びるであろう魅惑な肉体。

 

 その姿に魅了され無い男が居るだろうか?そんな芸術的な神話に遺される女神のような存在に微笑みかけられ、あまつされ視線を向けられて堕ちない男が居るだろうか?

 

 否、居ないだろう。居るはずが無いだろう。

 

「…………」

 

 その女神、否、我が儘と自分勝手さと探究心の塊のような彼女――AK-12に普段から振り回されている上司――指揮官以外は。

 

 オレンジ色の海パン一丁、ビーチパラソルの下にあるが光で温まったビニールシートの上で体育座りをしている指揮官は、ある意味その例外的な存在だ。

 

「あら?ここまでしかないのね」

 

 いつの間にか全身を海に浸し、鼻歌を奏でながらクロールで泳ぎ始めていたAK-12の言葉が小さくなって指揮官に届く。

 

 指揮官は少しばかり物足りなそうに虚空を撫でる姿を光が伴ってない瞳に写し、言葉は右から左へと素通りさせた。

 

「もう、いつまでも拗ねてないで一緒に楽しみましょう?」

 

 いつの間にか海面からあがった女神のような美しさを持つ悪魔のような面をたまにはみせるけどやっぱり女神と言うのが合うのを認めざるを得ない存在が、指揮官に語りかけてくる。

 

 それは、明確な誘惑。じっくりと皮膚の表面を焼くような照明の光から逃れ、共に優雅な一時を過ごそうという魅力溢れる提案であり、共犯の証。

 

 指揮官は立ち上がる。一度瞬きをして瞳から消え失せた輝きをもう一度宿すと、口元を微かに――どこか引きつったように――持ち上げる。

 

 彼の表情がお気に召す物だったようで、AK-12は常に浮かべている笑みを一段深める。

 

 指揮官は大きく息を吸いそして

 

「ふっっっっっざけんなああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 溜まりに溜まっていた不満を大声に乗せて箱庭の中にぶちまけたのであった。

 

 

 

 

 何故指揮官が突如絶叫をあげたのか?誰しもが気になるところだろう。

 

 その理由は簡単、朝起きたら海パン一丁の姿でビーチに敷かれたビニールシートに寝っ転がっており、隣には水着姿のAK-12がさも当然のように「おはよう」と宣った、以上である。

 

 ちゃんと説明しろと思われるかも知れないが、指揮官の視点で語るとしたら本当に上記の一文の通りだ。

 

 朝起きたらAK-12と砂浜に居たという事実が、彼が目覚めてから得た殆どの情報である。

 

 なので、今度はAK-12の視点から経緯を語るとしよう。

 

「なぁに?せっかくサプライズで連れてきたのにご不満?」

 

 わざとらしく眉間に皺を作り、不満アピールをするAK-12。

 

 誰もが羨む美貌を持つ彼女は憂う姿も美しい、と言いたいところだが騙されてはいけない。

 

「これがちゃんとしたサプライズならよかったんだがな!?」

 

 指揮官が大きく頭を抱えまた絶叫を上げる。

 

 サプライズとは多くの人間の協力を得てこそ平和に出来る物である。

 

 協力を得ていないサプライズをなんというかご存じであろうか?

 

「ちゃんとしたサプライズよ」

 

「勝手の間違いだろ!」

 

 そう、勝手である。

 

 この勝手というワードが、指揮官がAK-12とこの場所にいる大きなヒントである。

 

 指揮官を苦悩させる要因その一が今AK-12とビーチにいる状況であるが、それを深める要員はもう一つある。

 

 それは、指揮官の傍らに置いてある仕事用のタブレット端末に常にメッセージが送られている事である。

 

 送り主はAN-94。メッセージは、

 

『指揮官、今どこに?』

 

『無事ですか?』

 

『AK-12も基地に居ませんがいったいどこにいますか?』

 

 と言った、指揮官とAK-12の安否を確認するメッセージが文字、ボイス、手段を選ばず絶えること無く届いてくる。

 

 ここで指揮官が言った『勝手』と言う言葉が生きてくるのだ。

 

 そう、AK-12は昨夜指揮官の部屋に侵入すると眠りに落ちていた指揮官を連れ出しては基地を抜け出し、こうしてビーチに連れてきたわけである。

 

「本物のビーチは流石に寒いからここにしたのよ?」

 

 AK-12は首を傾げ、唇に人差し指を置いて悩むような仕草で惚ける。

 

 今の季節は冬。真冬の海は遊泳用の水着では楽しめるはずが無いし、そもそも汚染を逃れて無事な遊泳場は頭数が少ない上に料金もバカにならない。

 

 二人がいるのは本物のビーチでは無く、AK-12が見繕った高級ホテルにある海を再現した室内遊泳場である。

 

 それを完全貸し切りの状態にしているので、結局は本物の遊泳場と変わらない値段はかかると思われる。

 

 二人以外の人がおらず、AK-12が虚空に触れたようで景色の再現ディスプレイに触れたのも、指揮官が叫んでもリアクションする者も居ないのはそう言った事情からだ。

 

 疑似とは言え上質なビーチを独占するのは悪くは無い。けどその気分を得られるのは、正規の休暇手続きを得てからこそだ。

 

 今この結果が得られた経緯は、AK-12が休暇の為の手続きというコストを踏み倒して得たもの。

 

 コストを踏み倒して生まれたものは、指揮官の端末に絶えること無く送られてくる安否確認のメッセージ。指揮官とエースであるAK-12の不在という莫大なデメリットを生み出している。

 

 指揮官は通知を表示し続ける端末を手にとる。

 

 先程までAN-94のメッセージだけだったが、その中には他の部下と可愛い後方幕僚、更には上司からも届き始めた。

 

 通話が来ないのは、AK-12が細工したからだろう。画面が電話の表示に変わってないのに、不在着信も同時に大量に溜まっている。

 

「どう返事を返せば……」

 

 か細く長い息を吐き出しながらそれぞれに送る返事を考えていると、

 

「もう」

 

 AK-12が虚空を人差し指でピンッと弾き飛ばす。

 

 弾き飛ばされた空間にあった何かは指揮官の端末に飛び込み、

 

「あっ」

 

 指揮官の持っていた端末は正式な手順を踏まず再起動へと遷移し始める。

 

 ひとりでに電源が落ちる不良機を指揮官は取り扱った覚えは無い。

 

 それなら、原因は一つ。

 

「おまっ!!」

 

 反射的に振り向いた先には、自慢げに腰に手を当てる電子機器に強い最新鋭機のAK-12が口端を持ち上げて居るではないか。

 

「他の女の事を考えてたでしょ?」

 

「考えざるを得ない状況にしてるのは何処の誰だ!」

 

「そんなことはどうでもいいの」

 

「よかない!」

 

「どうでもいいのよ」

 

 そう言うな否や、AK-12は唐突に指揮官の手を掴み海面に向かって駆け出す。

 

「おわっ!」

 

 突如前のめりに力が働いた指揮官はバランスをとるためにAK-12に合わせて走り出してしまう。

 

 戦術人形の力は成人男性よりも強く逆らうことは出来ず、AK-12に連れられるまま二人は再現された海の中へと誘われる。

 

「冷たっ!」

 

 先程まで多少暑さを感じる浜辺に居た指揮官は急激な環境の変化に絶えられず身体を震わせる。

 

 そんな指揮官の姿にAK-12は口元に手を置いてクスクスと声を零す。

 

「あはは準備運動をしないからよ」

 

「する暇と状況があったか!?」

 

 指揮官からの苦言を含んだ突っ込みを無視し、AK-12は手で小さな器を作り海水をためて大きく振り上げ、指揮官に浴びせかける。

 

「うわっ!」

 

 指揮官からの文句が止み、表情が眉間に皺を刻んだ表情から、皺が失せた驚愕の表情へと変化する。

 

「あははっ!」

 

 驚く彼の表情は正直何度も何度も、それこそ彼女の四肢にある指の数が足りなくなるくらい拝んでは居るが、不思議と飽きないものだ。

 

「それー」

 

 かけ声を上げながら、今度は器を作らず手のひらで水面を押し上げ大きなしぶきを彼に向かってかける。

 

 暫し、指揮官はやられっぱなしだったが、段々とやられてばかりの状況とどう転んでもAK-12にとって美味しい展開になるのに痺れを切らしたようで、

 

「あーもー!それー!!」

 

 投げやり気味なかけ声と共にAK-12に水を掛け返す。

 

「やったわね!」

 

「こんのぉー!」

 

 二人の瞳には、置いてきた仕事への憂いや人員への謝意などは籠もっていない。

 

 いつの間にか掛け合う海水に雑念は溶けてなくなっていったからだ。

 

 ただ、目の前に居る相手を移していた。

 

 目の前に居る相手の表情の変化と、リアクション、火照った肌にかかる海水の心地よさを楽しんでいた。

 

「ふふ、ははっ!」

 

「あははっ!」

 

 指揮官が自然と浮かべている笑みは照明を反射する海水より輝かしく、AK-12は知らずにかけあいに夢中になり自然と目を開けてこの光景を記憶領域に鮮明に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 その後、二人はどちらが早く果てまで泳げるかの勝負をしたり、ビーチフラッグ、ビーチバレーなどの遊戯を堪能し、楽しい一時を送った。

 

 気がつけばビーチに映っていた青空はオレンジ色に焼け始め大型ディスプレイに映る太陽は沈みかけ、それに合わせて海辺の照明は柔らかなものになっていた。

 

 遊んでいる途中に薄々指揮官は気がついていたのだが、どうやら現実の時間と連動しているらしい。時刻は太陽が沈む映像の通り、夕方と言って差し支えない時刻だ。

 

「はぁ……運動不足はやっぱり敵だな」

 

「戦術指揮官なのにだらしないわね」

 

 一日運動しっぱなしだった指揮官の身体は倦怠感に包まれ、彼の頭はAK-12の弾力のある脚に置かれ、水滴がついた彼の頭髪はAK-12の柔らかく気温より温かい手にくしゃりと委ねられている。

 

「仕方ないだろ……。最近、デスクワークばかりなんだし」

 

「ええ、知ってる」

 

 指揮官の最近の仕事っぷりは他ならぬAK-12がよく理解している。だから、つまらないことだと言うかのように、当たり前だと言うように短く返す。

 

「……そう言うと思った」

 

 指揮官はAK-12を見上げるような体勢から、拗ねるように太陽が沈む方向へと向ける。

 

 鼻に当たる肌から漂う香りは擬似的な海水に含まれる成分のせいか、それとも彼女から分泌されるものなのだろうか?答えが分かりきった自己疑問は頭の片隅に追いやって、指揮官は目が眩みそうな沈む夕日の再現映像に意識を集中させる。

 

 二人は同じ夕日を見て、その景色に心を奪われて押し黙る。

 

 聴覚が感じ取るのは、人工的に立てられた波のさざめきに微かな空調から出る雑音、それと指揮官の髪から発せられるしゃらしゃらという景色に似合わないようでよく噛み合った心地よい音楽達。

 

 太陽が殆ど海面に隠れ、海での遊びもこれで終わりかと、指揮官が寂寥感を覚え始めた頃合いで、

 

「楽しかった?」

 

 AK-12が見計らったように疑問を提示する。仕事をさぼりさせて擬似的な海水浴に連れ出した張本人の声からは、不安や謝意と言った負の感情は全く感じられない。

 

 あるのは自信。仕事を疎かにしてでも、指揮官をそれ以上に楽しませる事が出来たという自信に満ちあふれていた。

 

「楽しかった……か……」

 

 指揮官は物思いにふけるように、AK-12が発した言葉を復唱する。

 

 楽しかったかどうか?仕事を疎かにし、同僚や仲間に迷惑をかけ、二人っきりで海を堪能し尽くしたこと。

 

 AK-12と違い、仲間や組織への罪悪感は感じてはいるが、それ以上に二人っきりで遊べたことは――

 

「楽しかった、よ……」

 

 指揮官はAK-12に表情を見られないように彼女の脚に顔を押しつけるようにして、ごちる。

 

 気恥ずかしそうに、認めたくないけど、認めざるを得ないと声を揺らがせて。

 

 そんな指揮官の逡巡は微かに染まった頬を見てしまえばわかる。

 

「ふふっ」

 

 AK-12は笑みを漏しながら平時より上の熱が灯った頬を突っつく。

 

「最近、休暇が取れてなかったから。いい休みになったでしょ?」

 

「休暇申請をちゃんとしてたらな」

 

「ちゃんとしてるわよ」

 

「はぁ!?」

 

 AK-12から放たれた衝撃の言葉に思わず上半身を持ち上げてしまう指揮官。指揮官は正式な許可を得て休みを得ていたというのだ。

 

 確かにそうだ。AK-12の口から、『休暇の許可』に関する文言は出ていない。

 

「あのメッセージは私が作ったbotから送られたものよ」

 

「なんでこんな事をして!」

 

「あなたの焦る表情が見たかった」

 

 だが、一つ疑問がある。それは、一人だけメッセージがずっと来ていることだ。

 

『指揮官!AK-12!いったいどこに!!』

 

 送り主はAK-12のもう一人の大事な相棒であるAN-94である。

 

 ボイスメッセージも届いているが、もう涙声で何を言ってるかわからないレベルであった。とりあえず、『指揮官』と『AK-12』はなんとか聞き取れたのだが……。

 

「……AN-94には伝えたのか?」

 

「たまには自分で考えることもしないとね」

 

 AK-12からの答えはこの始末である。つまりは、伝えてないのだろう。

 

 その理由はAK-12が語ったものが半分、もう半分はからかいだろう。

 

 付き合いが長いおかげでわかってしまう。

 

「そろそろ、私からメッセージを送っておくわ。反応が楽しみね」

 

 今度、AN-94のためにプリンを買ってあげようと、指揮官は心の奥底で決意した。

 

「私のもお願いね」

 

 偶然か、それとも必然かAK-12に思考を読まれてしまったので、自分のも含めて三つ買うことに決めた。

 

 心の中でAN-94に合掌をしていると、太陽は完全に沈み、海辺は温暖な闇が一面に広がった。

 

『遊泳施設ご利用のお客様 閉館の時間となりましたので――』

 

 同時に退出を願う館内放送がかかる。施設内の明りはロマンチックさを演出していたそれから、出口への道を最低限度のものへと切り替わった。

 

「……帰るかー」

 

 指揮官は立ち上がると、AK-12に手を差し伸べる。

 

 この時間を提供してくれた彼女に対する礼を込めて。

 

 楽しい時間は終わり、これからは帰路につかないといけない。

 

 そう思っていた指揮官だったが、AK-12は口元を緩めると、彼の腕に抱きついた。

 

「んっ?!」

 

 驚愕する彼の反応を他所に、AK-12は耳元で囁く。

 

「休暇は今日と明日の二日よ。このホテル自体の予約を取ってあるの」

 

 口元に人差し指を置いて自慢げに片目を開眼する彼女。

 

 ああ、またしても一本取られた。指揮官は締まりが悪そうにそっぽを向いて頬を掻く。

 

「せっかくの休暇だもの簡単には終わらせないわ」

 

 指揮官の腕から離れたAK-12は一歩前へと踏みだし、彼へと手を差し伸べる。

 

「行きましょう」

 

 どうやら本日の主導権は完全にAK-12にあるようだ。

 

 楽しい時間はいつかは終わるもの。何事も終わりからは逃れられない。

 

 だが、そうであっても楽しい時間が続くのであれば――文句など出るはずがないだろう。

 

「ああ、オマエに任せる」

 

「はーい」

 

 指揮官の期待が籠もった眼差しにどこか気の抜けた返事で返す彼女。

 

 指揮官は彼女の手をとり、彼女は込められた期待を嬉々として握りしめる。

 

「夕食はフルコースですって」

 

「腹が減ったから楽しみだ」

 

 次の楽しみに期待を膨らませ、二人は寄り添って一つの影を作りながら二人は海辺をあとにするのであった。




後日
AN-94「本当に本当に心配しました……」グスグス
AK-12「あらあら、かわいそうに。誰がAN-94を泣かせたのかしら?」
指「オマエが気まぐれで報連相を絶やしたからだろうが!」
AK-12「ほら、文句言わない。プリン買ってきたから一緒に食べましょ?」
指「買ったのオレだぞ」
AN-94「ありがとう……いただきます」
AK-12「ほら、指揮官もたべるわよ」
指「……はぁ」
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