不思議と温かい感覚に全身を包まれている気がしていた。
柔らかな毛皮に包まれているような、或いは上等な毛布に覆われているような。
それは温もりと共に何処か安心感や馴染みの様な、自分の気構えから来る不愉快さと言う物はなかった。
自分の酷くふわふわとして実態を感じられない触角を動かしてみる。
――ああ、なんだろうこの感覚。悪く、ないな
ぼんやりとした触覚が感じ取るのは滑らかな触り心地と、ふんわりとした感覚。
はっきりと口にしてしまえば、ずっと触れていたいたい心地よい感触。
輪郭も無く実感も無い触覚でもふしぎとわかるそれは、なんとも自分を惹き付けてくる。
不思議な空間の中で珍妙な感覚に安らぎを覚えていると、今度は触角が受動的に新たな感覚を受け止める。
今度の感覚は自分から感じようとするそれでは無く、断続的に与えられている気がする。
それは、滑らかなついたものが肌の表面を伝う感覚に似ている。
自分が感じていた感覚と違い与えられるモノには何だかぬるぬるとねとついており、若干の不快感を覚えはする。
それを振り払う程のモノかといえば、自分にとってはそうでは無い。まぁ、別に好きにさせてはおこうと言う気には不思議となる。
なので、自分にとって心地よい感覚を送ってくれたことへの返礼として、自分は滑ったそれを受け入れることにした。
自分は極上の触り心地に飽きてはいないのだが、その感覚の持ち主は滑ったそれを押し付けるのに飽きたらしく唐突にそれを感じなくなった。
少しばかりのモノ悲しさを覚えながら相変わらずふんわりとしたそれを楽しんでいたが、唐突にこの世界が真っ白になった。
それは――いや、例えるまでもない唐突に息が止まった時と同じ感覚だ。
自分の呼吸器を塞がれ、溺れた時のような息苦しさを感じる。
そのイメージを補強するのが先程まで自分が押し付けられていたぬるぬるとした感覚。それによって気道が塞がれ、自分の呼吸は乱れ始めていた。
白くチカチカと何かが点滅し、その点滅はやがて止んで、今度は世界を黒で覆い尽くされていく。
自分の触覚はこんな状況になっても柔らかく手に馴染むようなそれを触っていたいと急に重量を増したが今はそれよりも自分の命が優先だ。
ずっと詰めなかった自分の輪郭がはっきりし、急激に感覚と力を取り戻していく。生命の危機を感じ、持ち主の呼びかけに応えていくようだ。
だから、オレは全身の力を込めて、自分を包み、圧し掛かっていたそれを取り戻した手で掴み押し離す――
「だぁらっしゃあッ!!!」
威勢の良い掛け声とともにオレの意識は現実の世界へと戻ってきた。
一応、勘違いされたくないので言っておくが、オレは起きる度にこんな声をあげてない。産まれたての赤ん坊の様に、良い声をあげて目覚める癖はない……はず……。
こんな声をあげたのは先程自分まで見ていたよくわからない夢が悪い。そう、あのなんか吉夢なのか悪夢なのかよくわからない夢が悪いのだ。
取り得ず本能で感じた生命の危機は過ぎ去った。何となく安心出来そうだ。
身体を起こして寝床から発とうとしたのだが、何故か腕が緊張状態にあることに気付く。具体的に言うのであれば、腕の力がずっと入り続けているような。
寝起きで全身の感覚が完全に戻った訳ではないが、まだまだ気を抜いてはいけないと本能が訴え続けている。
――そう言えば、なんかちょっと薄暗い様な。
目は開いている。
が、急な覚醒であったためか視覚は追いついておらず、この世界にある像と結びついてくれない。
眼球に入り込む光の量は窓から差す朝日のもの。ならば、暗い理由は影に覆われているからか。
……寝込みの自分の上に影を作る存在と言ったらこの基地で指揮官を困らせた回数堂々の第一位、容姿は完璧だが正確に難がありすぎる無駄に高スペックな人形AK-12しかいないだろう。
像が結びつくより先に脳が結論を導き、その答えへの条件反射でため息が喉を通った。
「たく、なんだよAケ……」
オレの目が正常な機能を取り戻し、自分の生存本能で引っ捕らえた犯人を映しだす。
犯人の名前を口に出し、その罪を暴こうとしたところで、オレの唇は、舌は、その名を口にするのを止めてしまった。
「グルルルルル……」
自分の腕が捕らえたそれは、人と言うにはあまりにも毛が多くもふもふとしすぎていた。
大きく、柔らかく、肌触りがよく、そして頭の上に耳が生えていた。
それはまさに狼であった。
「……はい?」
朝起きたら狼が居た。灰色と白を基調とした毛並みの狼が小さく歯を剥きだしにして唸っていた。
オレの思考はパニックになる前に、一種の思考停止に陥っていた。
この基地には色んな動物を飼っている。それはもうハムスターからサーバルキャットまで様々だ。
飼ってる動物の数は把握し切れていないが、種類は把握している。
その中に狼が居た記憶はない。
だが、何処か見覚えがある。
あまりにも整いすぎた毛並みと犬に詳しくないオレでも整っていると感じる顔立ち。
その顔は、目をつむっているのが特徴的で、自分が抑えている箇所が偶々瞼の上でそれを持ち上げており、独特な赤紫の瞳孔が微かに覗く。
オマケにこの狼は何故かがっつり服を着込んでおり、とある人形がお気に入りと広言する黒のケープを羽織っている。
わかった。完全に誰かわかった。根拠のない自信が満ちあふれ、あまり余って喉を震わせる。
「……何してんだAK-12」
「わぅっ!」
顔立ちの良い狼は自分の名を呼ばれ、大きな声で吠えたかと思うと、オレの戒めを大きく顔を振って振りほどき、血色の良い赤い舌を伸ばしてオレの顔を舐めだした。
衝撃のモーニングコールから数時間後オレは布団を片して特に面白みもないワイドショーを見ていた。
『ですから我が国の特殊作戦司令部は現状に不満を抱いていて――』
キャスターに意見を求められた専門家がニュース映像を解説する、そんな特別感もないニュース。
最近は正規軍の特殊作戦司令部に関する話題が多めだ。
自分の勤め先は民間軍事会社。どのくらい自分に関係あるかはわからないが、注視しなくてはいけない話題だろう。
「~~♪」
オレの膝の上に頭を乗っけて背中をオレの手でくぐられて身をよじるこの美形狼はどのくらい気にしてるかは知らないが。
……本日の仕事はどうしたのか?
端的に言うと、この自由奔放狼に潰された。
朝はコイツに起こされ、適当に朝食をとって(その時、狼AK-12には冷蔵庫にあったハムを適当にあげた尻尾を勢いよく振って食べた。急に愛らしさをだすな)、悔しいながらも我が基地にとって貴重で重要な戦力であるAK-12が狼になったことをカリーナに報告し、ダメ元で経緯を聞こうとしたのだ。
カリーナは電話越しに『うぇいっ!?』と語尾を跳ね上げて驚いたのはよく覚えてる。
話を戻そう。カリーナも一時期何故かまん丸な可愛らしい猫になったので何か知らないかと思ったが、残念ながらわからないとのことだった。
AK-12をどうするかと聞かれ、流石に狼の姿で働きに出すわけにも行かないので、このまま自室に置いておくと伝えようとした。
「グルアー!!!!」
したのだが、それを察知したのかこの狼に飛びつかれ(立ったらオレと変わらん背丈してた。今思い返すとちょっと怖かった)、その時受けた物理的と精神的な衝撃で電話を手放しながらオレは尻餅をつくことに。
オレが電話を再び手に取った時に映った画面は通話状態のそれではなく、何故かメールのメニュー。
オレの上に乗っかろうとする狼を片手で引き剥がしつつ、直感的に送信済みを開くとそこには『AK-12が心配だから今日は休む』という、オレの意思に反するメッセージが親愛なる後方幕僚の元へ送られているではないか。
その原因であろう狼に目を向けてみると、何だか口元が持ち上がっている気がする。どうやら、狼の姿になっても自慢のハッキング能力は健在らしい。
これは先程のメールは手違いだと送ろうとしても、目の前の柔らか毛玉にどこかで止められてしまうだろう。
なので、今日の仕事は渋々休むことにした。
が、せめてもの抗議としてこの部屋からは出ないことにした。
そんなこんなで朝から無駄に美形な狼AK-12と部屋に居るわけなのだが、犬の習性か時折窓の外に行ってはコッチを見てきたがオレはもちろん知らん顔。勝手にこの部屋に入ってきたんだろうが。
カラダを寄せて触り心地のいい毛並みをオレの肌に触れさせたり、可愛らしく小さく舌を出してオレの手を舐めてきたり、オレの背中にのしかかって甘えてアピールしてきて思わず『散歩くらいいいのでは?』と言う甘やかす考えが頭を過ったが、そこは指揮官の必須項目である忍耐力で堪えた。
その結果、諦めたようでAK-12はオレの膝に顎を乗せたり頭を預けるようにしたわけだ。
数少ないAK-12に勝利した瞬間である。自分で言ってて悲しくなるが。
そんなこんなで適当にテレビを見つつ、AK-12の頭を撫でてやりつつ、尻尾を掴んで握手するように振りつつ、お腹を見せてきたのでお腹の柔らかさとふかふかさを堪能しつつ撫で擽ったりを繰り返したり、狼AK-12が着ていたジャケットに入ってたボールを投げては取りにいかせてを繰り返してのんびり時間を過ごしていたのだ。
今度こそ今のことに話を戻そう。
オレはAK-12の頭を撫でるのを止める。手が離れたことに反応してピクリと反応し、尻尾が床を叩いてる音がしたがそれは無視。携帯のスリープを解除し時間を確認する。画面に表示された時刻はもうすぐ正午だと直感に訴えかけてきた。
「昼にするか」
何もしてないとは言え、朝ご飯は本当に適当に食べたのと、色んな心労でお腹は空く。
そんなオレの思いなど欠片とも慮ろうとしない自由の擬狼化AK-12は嬉しそうに尻尾を立てて大きく振って。
「ワン!!」
と大きな声で反応する。
なんとなく察していると思うが、この状態のAK-12は人間の言語をしゃべれない。
どうしてその姿になったのかと問いただして見たが、目を細めて何処か笑っている表情のまま肉球を額に押しつけてきた。少し硬めのプリンのような柔らかさで中々悪くなかった。何でそんなことをしたのかはわからないが例え人語をしゃべれても話す気はないという証拠だろう。
AK-12にはモデルが存在してそれは銀狼だと聞いたことがある。何者にも縛られず雪原を駆け回る銀狼。確かにコイツのイメージによく合う。と言うことは、先祖返りでもしたのだろうか?……バカなことを言った。
ともかく、欲張り狼AK-12が昼食と聞いて興奮したように大きな声で返事をした理由はなんとなくわかる。
普通に昼食が食べられて嬉しいと言うのも在るかも知れないが、今日の昼食は豪華なのだ。
オレはシンクで洗って乾かしておいたホットプレートの残った水気を拭き取ってローテーブルの上に置き、コンセントを差し込む。
電源を入れて予熱するとまたキッチンに戻る。狼になったとは言え、今のAK-12がホットプレートの危険性がわからない程知能の低下はないと思う。あったら、オレの電話をハックしてメッセージを勝手に送ったりしないだろう。
冷蔵庫に手をかけると本日のメインに登場して頂く。
オレがキッチンから持ってきた物に狼AK-12は背筋を正し待ってましたと言わんばかりに手に持ったそれに熱い視線を閉じられた瞼越しに向けてくる。
持っていたモノを置くとAK-12はそれを覗き込む。
ほどよくサシが入り、純白の光沢を放つ赤身肉達を。
狼ながらAK-12が興奮するのも仕方ないだろうし、オレも内心ワクワクしている。何を隠そう今日の昼食は焼き肉なのだ。今夜は焼き肉っしょー!という名言があるが、今のオレ達はそれを超える昼焼き肉だ。興奮してもおかしくないだろう。
最初は適当に食べようと思ったのだが、想定してなかった来訪者が食べるにちょうどいい物がなかった。
ただ、ソーセージが残ってたので『そのまま食えるか?』と来訪者に聞いてみたのだが、オマエはいったい何を言ってるんだと言わんばかりのジト目を繰り出したので流石に止めた。狼もその顔できるのかと感心して待ったのは本当に余談だ。
狼が食べることが出来るのは肉類のイメージな上、生肉はイヤだとこのグルメな狼は申す。
それにプラスして思ったより冷蔵庫の中には何もなかったので、自分の部下である人形達に依頼してカリーナの所の殆ど何でもある購買で買って貰うことにした。職権を乱用したドールズイーツである。
いっそ二人で同じモノが食べられる献立を考えてみたら何ともシンプルに焼き肉に決まったわけだ。
中々良い肉を見繕って貰ったので、このグルメ狼も満足してくれるだろう。
テーブルの上にそれぞれの皿を置きながら腰を下ろすと当たり前と言わんばかりにAK-12は隣に移動し、お座りの姿勢をとる。……危ないし隣に来ると思わなかったので隣に置いてなかった皿を移動させた。
ペーパーに油を染みこませ鉄板の上をコーティングしていく。軌跡となった油が景気よく弾けて準備の完了を告げる。
生肉の包装を剥がし、プレートの上に敷き詰めていく。肉に入った油が溶けジュー、ジューとなんとも食欲を誘う音を奏でながら色合いが赤から茶色へと変化していくていく。
オレの判断で裏返し、もう片方にも焼き色をつけたら完成だ。
「ほらよ」
焼き上がった肉をオレの皿と、狼AK-12のお皿の上に置いてやる。
しかし、舌を出し興奮真っ只中であっても、この狼はオレと皿の上の肉を交互に見やるだけでかぶりつく様子はない。
……何をして欲しいか察した。食べさせろと言うことだろう。このわがままプリンセスウルフめ。
コイツ、今朝のハムは皿に置いたらガツガツ齧りついてやがったのに。
いつもの姿でもよく食べさせろと催促されて基本的には無視してるが、何だかんだ不毛な問答に発展し仕方なーーーーーく食べさせてやってるのだ。
……本気で拒否ったらコイツはかなりシュンとするからちょっとばかし罪悪感が湧く。オレは血も涙も善良な心もある人間なもんで、そんな姿をされたら流石に良心の呵責が生まれる。オレの良心を守るための処置だ。仕方ない。
が、今日はその相手は人間の姿をしていないし共通の言語は存在しない。拒否ったらなんとなく噛まれる気がするし、犬となった相手に問答を行うのもしょうもない。
それに急に馴れない姿になったから不便もあることだろう。何処ぞの基地の人形は一時期素体がダイナゲートになり、元に戻っても丸一日四足歩行をしようとしたそうだ。ご愁傷。
ともかくオレとて無慈悲な人間じゃない。良心も優しさも素直さも兼ね備えてる人間だ。
だから、
「あーん」
肉を箸で摘まみ食べさせることにした。
「はぁーー」
狼AK-12は大きく口を開け、一息に肉を口に含んだ。
狼AK-12は顎を動かし、数度咀嚼していたのだが、
「べっ」
皿の上に肉を吐き出した。
「……あっ?」
思わず言葉になってない声を出してしまった。
確かに口に含んだ。そこまではよかった。
「……不味かったか?」
即座に思い当たる要因は味。
カリーナが仕入れるモノの品質は基本的にはどれも高い。たまに外れを引くが、カリーナに仕入れを任せて公開したことは無いに等しい。一見金にがめつく見えるが着服などはしたことが無い本当に良い仕事をする部下だ。
もしかしたら、その『外れ』を引いたか?
そう訝しんだオレだが、狼AK-12が吐き出した肉に口を開けて息を吹きかけるような仕草をしていることに気がついた。
あーなるほど。
「熱かったのか?」
オレの質問に狼AK-12はオレの膝を叩くことで返事をした。抗議のつもりらしくズボン越しに軽く爪を立てられて痛い。
どうやら狼になったことで口内が敏感になっているようだ。普段のAK-12なら何ともないだろうが、そこは素体によって性能が違うと言うことか。
狼AK-12は前足を使って皿をオレの方に持って行く。冷ませと言うことだろう。
……噛み後が残った肉をまた箸で摘まむのは少々抵抗があるが、グルメ狼が困っているし勿体ないし仕入れてくれたカリーナに悪いのでコイツにはちゃんと食べて貰う。
「ふーふー」
狼AK-12の肉を箸で摘まみ、自分の息を数回吹きかける。
少なくとも肉から湯気は上がらなくなったのでこれで大丈夫だろう。
「ほーれ、あーん」
狼AK-12の下顎を支えてやると自分で上顎を持ち上げ受け入れ体勢を整える。そこによく冷ました肉を放り込むと口を閉じ、顎をよく動かして咀嚼を始める。やがて喉付近の毛が波を立てたのでなんとなく飲み込んだのだと察した。
肉を味わったコイツはご満悦とばかりに尻尾を風車の羽のごとく忙しなく動かし、舌を出して荒い気遣い。どうやらお眼鏡に叶う味であったようだ。
狼AK-12が食べれそうなことに安心しつつオレも肉を食す。
焼き加減は完璧、口の中で脂がじんわりと融けて甘みを口内にばらまき肉質は柔らかく噛んでる内に溶けて消えてしまった。
「うんめぇなぁ~!!!!」
オレは自然と横を向き、こちらを向いていた狼AK-12と見つめ合う形となる。そして、示し合わせてないのに、お互いに抱いた感想を共有するように口角を自ずと上げた。
不思議と温かい感覚に全身を包まれている気がしていた。
柔らかな毛皮に包まれているような、或いは上等な毛布に覆われているような。
それは温もりと共に何処か安心感や馴染みの様な、自分の気構えから来る不愉快さと言う物はなかった。
――ん?なんかこの感覚、覚えがあるような。
だが前と違うのは、柔からかな感覚だけでは無く、まるで舐められているかのような感覚、こちらに毛を押しつけるような感覚、今朝の夢で得た感覚を同時に受けているようなのだ?
――まさか、夢の続きでもみているのか?
夢を夢だと認識する現象はなんていうのか、そんな場違いなことを考えつつ、押しつけられるモフモフを楽しんでいたのだが、またもや少しずつ息苦しくなってくる。
その理由は今朝とは少々毛色が違う、
――濃い!モフモフの密度が濃すぎる!!
簡単に言うともふもふしたそれが自分の呼吸器系全てを堰き止めているのだ。
なんというか、手っ取り早く起こそうとするかのように。
これは今日の来訪者のせいか?と思いはしたのだが、オレは結局モフモフデモンズウォールに敗れ息をする自由を求めて瞼をこじ開けた。
目に入ったのは自分の部屋の天井と常夜灯だけがついた電灯、それと白い毛並みと映える黒い鼻先が…………三つ。
オレは自分の腕の中をみる。そこには美女狼が相変わらず瞼を閉じてオレに身体を預けていた。
オレ達は一緒に昼食を食べた。それで、オレだけが片付けをし、お互いにお腹いっぱいになって睡魔に囁かれ寝ることにしたのだ。
普段なら簡単には許しはしないが今日はそのモフモフの抱き心地に免じて抱き枕になることを正式に許可したのだ。
いつもはAK-12が勝手にやってくるのでそこは間違えないように。
そこまではあり得る流れだ。
それで狼AK-12が寝るもしくは寝たふりに飽きて起こした、と言うのなら想定していた通りだ。
が、現に犯人候補は腕の中に居るし息づかいも感じる。ただ、細めでは無く普段から目を閉じてる人物なので寝てるのか寝てないのかはわからない。
目の前のわがまま狼が犯人では無いのなら、他の候補は?
オレは再び天井方面に顔を戻す。
三つの鼻先はオレの顔と向き合う形になっていた。
一匹目は銀というよりかはブラウン、それと白の毛並みでヘアバンドのようなモノをつけた凜々しい狼。
二匹目は、銀と白の毛並みと言うAK-12と似ているがそれより体格が大きくがっしりしたようなイメージを受ける無表情な狼。
三匹目は、真っ白で他の二匹、いや美形狼AK-12よりもなんだか毛並みがよく全体的な毛量が一番多い狼。いや、狐か?ともかく凄いモフモフしてみたいそれ。
――ああ、なるほど。無警戒だった。
オレは自分の至らなさを後悔する。想像力の低さを恨む。第一波しかないだろうと決めつけていた自分に唾棄する。
そうだ。AK-12が狼に変わってるなら他の三人だって――
物思いに耽ろうとしたその時、頬にひんやりとした感覚を受ける。
いつの間にか三匹に倣うように立ち上げっていた狼AK-12がオレを舐めていた。
他の三匹も狼AK-12に続いてオレの顔を舐めだした。
「ちょい!!」
四匹から同時に舐められるととてもくすぐったい。だが、しかし不思議と抵抗しようとは思わないししなかった。四匹からは悪意を感じはしなかったからだろう。
多角的な舌舐め攻撃をされながら悟ってしまった。
――あぁ、今日は本当に長い一日になりそうだ……
四匹を纏めて抱きかかえるように腕を広げ、四匹の後頭部に腕を回す。四匹もオレの力に従うように身を委ねた。
「まぁ、退屈しない休日にはなりそうだな」
オレは重い息を吐き出して――何故か口元はかるくなったことをかんじつつも――四匹の極上ふわふわ毛並みを腕の中に収めた。
もうそろそろAK-15とRPK-16も実装ですかね。
銀髪美女部隊の皆が揃う日を楽しみにしております。
それでは、評価やご感想をお待ちしております。