何も間違ってないです
バレンタインディ。
それは2/14にとある国では女性から男性にチョコレートやお菓子を贈る日とされている。
贈る先の相手は日ごろからお世話になっている相手や、自分の上司に当たる人物、或いは――自分の意中の相手であったりと、甘いお菓子に包まれた思惑は様々だ。
その由来は様々あるが、長くなるので今回は割愛させてもらう。
何せ今回重要視すべきなのは、バレンタインに繰り広げられる物語の方だから。
そのイベントは発祥から百年近く経った2062年の世界でも残り、指揮官が所属しているグリフィンの基地でも行われている。
指揮官は同僚や後方幕僚、自分の部下である人形達から絶えずチョコレートを受け取ってある者は喜び、ある者はお返しで給料が吹き飛ぶことを悲しみ、ある者はチョコレートの食べ過ぎで緊急搬送されたりと愉快なことになっている。
今回の物語は、とある指揮官とある戦術人形がバレンタインに繰り広げたゆか――微笑ましい物語を取り上げたものである。
「指揮官」
「なんだ?」
「ゲームをしましょう?」
「はっ?」
それは唐突に提案された。
机で書類仕事の相手をしている指揮官に提案したのは、彼の対面で頬杖を突いた月光を束ねたような美しい銀髪を一つに纏めた整った顔立ちの戦術人形、AK-12。指揮官にとって一番の気の置けない存在である。
そんな彼女が、書類とにらめっこしている指揮官に、次の作戦指示と補給の収支に頭を使い糖分が不足してきたなと思い始めた隙に付け込むように言ってのけたのだ。
「今忙しいんだが」
「見たらわかるわよ」
「ずっと居たもんな」
「ずっと観察してたわ」
「何もしてないけどな」
「観察で忙しいかったから」
「ソレハタイヘンダナー」
AK-12とのやり取りを軽く受け流す指揮官。
その間にも彼女の視線は指揮官から外れておらず、気楽そうに何気なく提案されたそれを彼女は本気で実行に移そうとしているのを肌で感じ取った。
ピリピリと空気がひり付く。
指揮官は書類から目を離さずAK-12の視線をなんとか交わそうとし、AK-12は指揮官から視線を外さず『いつ始めるの?』と言わんばかりのオーラを放っている。
「……」
「……」
お互いに沈黙をし始める冷戦状態。
ただ、こんな雰囲気になると、最後にはどうなるかは他ならぬ二人がよくわかっている。
「…………」
「………………」
「…………………」
「…………………………そのゲーム、すぐに終わるのか?」
最後に折れるのは指揮官の方だ。いつだって。
ため息を吐き出しつつ乗ってきた指揮官に、AK12は頬杖でたわんだ柔らかい頬を緩めた。
「ええ、すぐ終わるわよ」
AK-12の深まった笑みに指揮官は背筋に冷や水を落とされたような緊張を覚える。
彼の経験則が、彼の本能が心に語り掛けている。絶対に碌なことにはならないと。
指揮官がまた一つため息をつきながら書類を整えている内に、AK-12が後ろポケットから黒いリボンで留められた小さな袋を取り出す。
指揮官の眉が引きつり怪訝そうに表情がゆがむ。
そんな風に警戒する彼を他所に、AK-12はシュルっと音を立てて留め具のリボンを外すと、中に入っていたものを指先で摘まんで一つ取り出した。
「チョコレートかそれ?」
「そうよ。今日が何の日かご存じかしら?」
試すように首を傾げながら問いかけるAK-12に指揮官は顎に手を置いて考えこもうとしたが、本日の日付を思い出してすぐに答えに行き着いた。
「バレンタインか?」
「正解よ」
常に浮かべている笑みを深くするAK-12。とりあえず正解したことに指揮官は内心で安堵した。
「で、それとゲームは何の関係があるんだ?」
バレンタインは男性、或いは女性から異性に贈り物を渡す文化だ。
どこぞの島国ではチョコレートを贈るのが一般的というが、AK-12はそれに倣った形だろうか?
ただ、指揮官の知識にあるのはどこぞの島国はチョコは贈りはしても特別なゲームのようなモノは無かったということ。
指揮官がAK-12から目を離し、少しでも先に対策を立てようと思い当たる知識を漁っていると――
「ふんふぃふぇひぃふぁふぁよ」
AK-12から気の抜けた返事が返ってきたので、指揮官は視線を彼女へと戻す。
そこには、ハート形のチョコを咥えた顔のよい戦術人形ことAK-12の姿があった。
状況が理解できず、指揮官が固まっていると、AK-12が急かすように顔を動かす。
「んっ!」
「……まるで意味が分からんぞ」
AK-12が何を急かしているのか、何をさせたがっているのか理解できず、疑りの視線を向ける指揮官。
そんな彼を見兼ねた様にAK-12は口にくわえたチョコレートを外し、溶けたチョコレートでデコレートされた唇で意図を説明する。
「なにって、本命か義理かを当てろゲームよ」
「なんだその酒の勢いでやるようなゲームは」
「とある島国は2/14に全国民がやる有名なゲームでしょ」
「その国で一部はやるかもしれんが、絶対全国民は対象になってないと思うぞ」
「聞いたことない?女の子が咥えたチョコを男の子が食べて本命か義理かを当てる有名なゲームよ」
「自分だけで話を進めるな」
「じゃあ、やるわよ」
「こっちの話を聞け」
指揮官の話は全て受け流し、AK-12は再びチョコレートを唇で咥える。
指揮官としてはやると言った以上逃げるつもりはないし、逃げたという弱みを得たAK-12のことを調子に乗らせたくないのでやらざるを得ないのだが。
だからと言って、このゲームは何なんだろうか?AK-12が素で考えたのだろうか?それとも酒の席で何となく思い浮かんでやってみようと思ったのだろうか?考え付いても普通はやろうとは思わないだろうがそれを実行に移すところは流石と言えるが、このゲームを実行に移そうとして実際にやる時点でそれはもう義理じゃなくて本め――
AK-12の目の前で現実逃避をするように思考を巡らせる指揮官。
そんな彼に痺れを切らせたのか、AK-12は身を乗り出して指揮官の後頭部に腕を回し、
「んっ」
考え込んでいたせいか微かに開いていた指揮官の口腔に、咥えていたチョコレートを押し込むように唇を合わせたのだ。
「っ!?」
AK-12の柔らかい唇の感覚、舌に触れるチョコレートの硬さが指揮官を強制的に現実に連れ戻す。
予想だにしていなかった展開に指揮官の体はピクリと跳ね、思わず硬直する。
このままでも指揮官にとって十分以上の衝撃的な状況なのだが、油断していた方が悪いとばかりにAK-12は攻めの手を緩めない。
後頭部に回していた手を彼の頬に回し、角度を変えながら血色の良い自分の舌を奥へ奥へとねじ込む。
指揮官の口の中にあるチョコレートを味わいながらも、彼の口内をチョコレートでコーティングするように舐め回す。
角度を変えて奥の歯に向かって舌を伸ばし、チョコレートが足りなくなったら彼と自分の舌で溶かし、チョコレートが無くなってきたら最後まで味わい尽くすように彼の舌に残ったチョコレートを踊るように貪っていく。
まるで狼の捕食のような乱暴さで、けれども遊戯を楽しむような無邪気さで指揮官の口腔を味わいつくす。
二人の湿った息遣いと水音だけがBGMとなって数十秒。
自分のやることに満足したようにAK-12はふぅと楽しそうに息をつきつつ唇を離した。
「美味しいわねこのチョコレート」
目まぐるしく変わる状況の処理に忙しい指揮官とは対照的に、AK-12は愉快そうに声を跳ねさせる。
「あなたの赤い顔をずっとみてても良かったけど、そのまま待ってても日が暮れそうだったから」
悪戯が成功したことを喜ぶ子供のようにAK-12は小さく舌を出す。
情報処理が追い付かない指揮官としては、その姿にどこか愛らしさを覚えてしまった。
「何も反応なしは酷くないかしら?」
あくまで自分のペースを崩さないAK-12だが、指揮官からリアクションが返ってこないことは流石に面白くはない。
指揮官の頬を指で突っついて反応を伺う。
「答えはどうしたの?」
二度ほど突っついたところで指揮官の思考能力が戻ったのか小さく口を開いた。
「なぁ……」
「なにかしら?」
「今、何が起こったんだ?」
顔から蒸気が漏れるほど真っ赤にした指揮官から絞り出された呆けたような言葉。
彼の頭は理解できてないが、彼の体は理解しているのだろう。彼の視線は移ろい、唇は震えて気恥ずかしさを誤魔化そうとしている。
いまいちぱっとしない彼のリアクションに、AK-12は困ったように唇を指先を置いて考え込み――誘うように指揮官の舌で唇を湿らせて言葉を紡ぎ始める。
「わからなかったのなら仕方ないわね」
そういうと、AK-12は再び唇にチョコレートを咥える。極上の獲物を見つけた狼の紫眼を瞼から薄く覗かせながら。
「今度こそ、答えを聞かせてね」
AK-12は楽しむように声を高くし指揮官の頬に手を添えながら、再び唇ごとチョコレートを押し付けにいく。
――何が起こったかは理解しきれていないが、指揮官は彼女の答えはわかっていた。それこそ、彼女がこのゲームを仕掛けるまでもなく。こんなことになると容易に想像できるゲームを仕掛けてきた時点で彼女の想いは――
これから起きることを受け入れるように、指揮官の手はAK-12の肩を掴む。
二つのシルエットがまた一つになるまで瞬きする暇すら必要がなかった。
その後、AK-12の持ってきたチョコレートが無くなるまで『ゲーム』は続いたという。『ゲーム』の果てに指揮官がなんと答えたかは、二人のみが知ることだろう。
本当はDEFYみんなの分を書こうと思ってたのですが、AK-12の他にはAK-15しか思い浮かばなかったのと、ゲームが忙しくてAK-12しか書きあげることが出来ませんでした(小声)
AK-15のは余裕があったら書こうかと思います。