もし騎士くんが素性騎士の灰の人だったら 作:アストラの直剣
古い時代
世界はまだ分かたれず、霧に覆われ灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった
だが、いつかはじめての火がおこり、火と共に差異がもたらされた。熱と冷たさと、生と死と、そして光と闇、火の時代の到来
しかし時は過ぎ神々は消え今や、火はまさに消えかけ世界は火を継いだ薪の王たちの故郷ロスリックに流れ着いた
『火は陰り、王達に玉座なし』
継ぎ火が絶えるとき、鐘が響きわたり
古い薪の王たちが、棺より呼び起されるだろう
追放者───クールラントのルドレス
深みの聖職者───人喰らいのエルドリッチ
深淵の監視者───ファランの不死隊
罪の都の孤独な巨人───巨人ヨーム
おぞましい血統の末───ロスリック聖王
「5つの玉座に5人の王を。それは火継ぎの準備なのだよ。いよいよ陰り今にも消えんとする火を継ぎ再び世界を繋ぐため、最古の火継ぎを再現するために私は薪の王となったのだよ」
クールラントのルドレスを除く四人の薪の王達は再び玉座に座ることを拒み自身の故郷へと去っていた。世界を再び火で照らすべく彼等を今一度薪の王とするために一人の不死者、かつて使命の果てに潰えそして火を失った亡者、火のなき灰が目覚の鐘の音と共に灰の墓所より目覚める。
「灰の方、火をお継ぎください。薪の王たち、灰の方々、すべての火継ぎに囚われた者たちのために───はじまりの火をお継ぎください」
火継ぎの祭祀場にて瞳なき火防女は主なき灰に呟く。祭祀場には鍛冶屋や侍女、さらにはロスリックに囚われていた盗人や呪術師、聖職者や魔術師と素性を問わず多くの人々が火のない灰の使命を果たす為に支援を惜しまなかった。
「あんた、薪の王を探すんだろ?きっと強い武器が必要になってくる。俺にあんたの武器を鍛えさせてくれ」
「無事だったかねよかったよ。じゃあ、務めを果たすとしようか。欲しいモノがあれば、遠慮なく言ってくれよ?もっとも、出所の詮索はなしだけどな?」
「君が呪術を学ぶなら、私は師、君は弟子だ。昔からそういうものなのだよ。その気がなくても、まあ、老人をたてておきたまえ。呪術ならずとも、それが処世というものだぞ」
「点字聖書をお持ち頂けたのですね。これで、貴方に新しい物語をお聞かせできます。偉大な奇跡の物語は、少し長いかもしれませんが……」
「俺はヴィンハイムの隠密だったんだ。名ばかりの魔術師それでもいつか真っ当な魔術を学べると思っていた……この俺がここで魔術の秘に触れている。すべて、お前のおかげさ」
「貴公迷っているのだろう?だが道に迷う者は、道をゆく者に他ならぬ。 それは貴公が英雄であるという証だ。たとえ貴公が何を選ぶとも………私が貴公に感謝し抱く思いに何の変わりもありはしないよ」
そんな祭祀場なかに一人だけ地に伏せ全てを諦めた男が居た。
「ああ、お前も死に損ないか……俺もそうさ。火の無い灰、何物にもなれず、死にきることすらできなかった半端者だ……笑わせるよな。そんな連中に、薪の王たちを探し、カビた玉座に連れ戻せなどと……あいつらは皆、火を継いだ英雄様だぜ。俺たちに、何ができるものかよ」
男はかつて薪の王達の一人であるファランの不死隊に所属していた脱走者ホークウッド。彼は英雄達の正体がおぞましい存在でありどうしようもない存在であることを話した。
「お前は知っているのか?英雄様と呼ばれる薪の王たち、その正体を例えば、エルドリッチさ。聖職者だった奴は、反吐がでるような人喰いを繰り返し溺れた豚のように膨れ、蕩けた汚泥となり、深みの聖堂に幽閉された。そして、エルドリッチは薪の王となった。人品など関係ない、ただその力ゆえに……王とは、つまりそういうもの。そんなものに挑もうってのかい?」
火のない灰は己が課せられた使命を果たすべく幾度なくロスリックに赴く。道中には同じく火のない灰として使命を果たす者達も居た。共に手を取り合い、時に襲いかかる闇霊を倒しそして幾度の死を乗り越え迫り来る敵を切り伏せる。
「お前……薪の王を……不死隊を倒したのか。王を玉座に連れ戻すとはそういうことか……憐れなことだ。これが薪の王というわけか」
「ありがとう……貴公には助けられてばかりだな。だがお陰で古き旧友との約束を果たすことが出来た。貴公、我が友よ……無事に使命果たしたまえよ」
「貴方は強い人だ。ただ一人で、使命に向かっている。そして私もそうあろうと思います貴方の旅に、炎の導きのあらんことを…」
ついには三人の薪の王達を屠り、首を玉座に戻した灰の英雄は火防女に瞳を与える。
それは最初の火防女の瞳であるといわれる。後に全ての火防女が失う光そのもの。
それは瞳無き火防女に見るべきでないものを見せるという───火の消えた世界を……
「灰の方、瞳をありがとうございました。けれど火防女は瞳を持たぬもの。これは、禁忌です。私に微かな光を与え、恐ろしい裏切りを見せるのです。火の消えた世界を……貴方はそれをお望みでしょうか?」
『火の消えた世界を望む』←
『望まない』
「私は貴方の火防女。貴方の望みに従いましょう。そしてこのことは、固く秘しておきましょう。誰にも知られてはいけません。私は瞳無き火防女。いつか貴方が、すべてを裏切るその時まで」
ロスリック城の玉座にて居座る萎びた薪の王『ロスリック王子』そしてかつてデーモンを退治を行ったのち英華を喪った兄王子ローリアンを灰の英雄は倒した。
「灰よ……心しておくがよい。貴公もまた呪いに囚われているのだと」
王子ロスリックの言葉を胸に全ての薪の王を玉座に捧げ祭祀場の篝火に膝を着いた。5人の薪の王達から火を継ぎ、火防女通じた儀式の果てに最初の火の炉、そして世界の終着点『吹き溜まり』に火のなき灰は辿りつく。
降り積もった灰と色褪せた古びた武器が突き刺さった地の中心の篝火に佇む最期の王は螺旋の剣を持ち灰に立ち塞がる。鎧は焼け爛れ、兜は髑髏のような異形と化し、全身から火を放ちかつて火を継いだ英雄達の全てを継ぎ、はじまりの火護る為だけの存在……
『王達の化身』
異様な皆既日食の空は地を照らす
僅かに咲き誇る花は二人が動く旅に舞い震えそして散り散りと花は消えていく。轟轟と燃え盛る螺旋の剣は立ち向かう灰を抹殺するべく襲いかかる。剣で、槍で、杖で、曲剣で。
迫り来る卓越した技を躱し。投擲される雷鳴の響く雷の大槍を躱し。この世界のありとあらゆる術の極地を受けてなおも己の持ちうる朽ち果て折れられることを知らぬ強き意思のもと灰は王達の化身に立ち向かう。
「──────!!!!!」
王達の化身は灰の英雄の渾身の一撃を受けついに地に両足を伏せソウルとなり主なき器である灰の元へ帰還する。
はじまりの火が灯った篝火の前にて灰の英雄は祭祀場の火防女を召喚し、ついに火が火防女の手に包まれた。僅かに燃える火は陰り暗闇だけが世界を包み込んだ。篝火に佇む火防女の背中を視る灰は武器を取り出し残り火を奪おうとする私欲に囚われてしまう。
かつて名のない老婆は言った
名前もなく薪にもなれなかった呪われた不死。だからこそ灰は残り火を求めるものさね。
しかしいつ如何なる時もロスリックにて自身の使命を果たす為に何度も支えてくれた火防女の事を想うと否そのような非道など出来るはずもなかった。
「灰の方……はじまりの火が消えていきます」
火の消えた暗闇だけが拡がる世界で武器を地に捨て火防女の隣に座り彼女の小さな声だけに耳を傾ける。
「灰の方………私の声がまだ聴こえますか?」
彼女の手をそっと握り締め二人で火の時代の終幕、そして神々が畏怖した見果てぬ可能性に満ちたりた観測出来ない新たなる世、闇の時代の到来のはじまりをみた。そして火の時代を終わらせた灰の英雄と火防女は………………
「お目覚めですか?主さま?」
コッコロと名乗る幼子の声と共に灰の英雄は異なる世界で再び目を覚ました。新たなる使命を果たす為に…………
『もし騎士くんが素性騎士の灰の人だったら』