もし騎士くんが素性騎士の灰の人だったら 作:アストラの直剣
前編後編になります。
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青空
空抜けるような澄み切った蒼さ、雲ひとつない冴え渡り乾いた清冽な空気の流れがひとしき身体をすり抜けるように、そっと爽やかな風が吹いた。それに釣られるように生い茂った草木が囁くような葉音をたてる。
「今日は本当に良き日でございますね」
自然の奏でる草木と風の音楽を歩く耳の長い十を超えたばかりの小さな子供は身の丈に合わない畏まった口調で静かに微笑んだ。彼女の名前は『コッコロ』かつて繁栄し現在は衰退したエルフ族の生き残りであり、幼くして遠くの故郷を離れ父より信仰するアメスの託宣の使命を果たすべく遠方より遥々やって来たのだ。
「コッコロよアメス様より告げられた託宣、しかと成し遂げるのだぞ」
故郷で敬愛する父に言われた言葉を思い返しコッコロは今一度忠義の気持ちを強くなった。
火のない灰と呼ばれる人物に仕える
不思議な名前をしたお方……
アメス様からの託宣を初めて聴いたとき失礼とは感じたが今後生涯仕える主に対して想った気持ちはそれが最初だった。
いったいどんな方なのでしょうか。
絵物語に出てくる勇者のような勇ましい方でしょうか?それとも聡明な智力のある魔術師のような方?それとも剛腕の力を持つ屈強な体の持主?未だ出逢えることの出来ない主に対してコッコロは日々に胸の踊る気持ちと僅かばかりの不安の気持ちはまるで白馬の王子と逢うことを待ち焦がれる一人の乙女のような感情だった。
「いけません、主さまに粗相のないように身嗜みはシッカリとしておかなくてはいけませんね」
陽光の反射する近くにある水場で水面に映る自身の姿を観て問題のないことを確認した。そして地図を確認し託宣された丘の上に辿り着き坂道となった丘を登り終え草木の鳴く丘の頂上に着くとそこには独りの騎士が静かに鎮座していた。
この方が…………私の主さま。
灰に塗れ浅黒さが残る銀色の甲冑に地面に置かれた傷だらけの鞘に収まった剣と不思議な紋章の描かれた古めかしいボロボロの盾。お世辞にも目の前に鎮座している騎士の身嗜みは汚く粗相ある格好であったが、鎧や武具には至る所に擦傷や火傷の跡が深く残っており纏っている赤色の
はっ!いけません、自身の考えに耽って初対面の主さまに挨拶をしないのは従者失格。キチンと挨拶終え侍従の誓い結び主さまに決して御無礼のない挨拶をいたしましょう。コッコロは脳内で幾度となく繰り返しシュミレーションした主さまとの初めてのご挨拶を思いだしつつ勇気を持って声を上げた。
「初めまして、私の主さ……」
コッコロの声を聴く前に灰の騎士はまるで重力に吸われるように地面に仰向けで倒れ伏した。辺りをよく見ると腕やら脚に二匹の獰猛な犬が怨敵とも云わんばかりに鋭い歯で噛みつき激しく振り回していた。
「キュッ!?あ、主さまああ!?」
コッコロは狂った犬によって倒れた主の元へ武器を片手に大急ぎで駆け寄った。
◇
「初めまして火のない灰」
「あたしは…………まぁ、アメスとでも名乗っておきましょうか」
「突然で本当に悪いけれど貴方にはこれからあるモノを捜し出して欲しいの」
「それは記憶よ。ある少年の失われた記憶の欠片をほんの少しでもいい、これから向かうアストライア大陸で貴方には見つけ出して欲しいの」
「その子はある出来事によって昏睡状態に陥っていて肉体は無事だったけど精神が深く欠けてしまったの。元に戻すには記憶の欠片を見つけ出すほかないの」
「あたしまだ自己修復を終えてなくてこの世界に干渉出来ない、けれど貴方なら出来るかもしれない。火の時代を救った
《了承する》←
「……………ありがとう。初対面の名前も顔も知らないあたしを信じてくれて、本当にありがとう」
「あたしの代わりと言ってはなんだけどあっちの世界だと貴方は独りぼっちになっちゃうからガイド役を派遣しておいたわ」
「え?独りの旅は慣れている?というか常に独りの時が多かった?…………良いのよ強がらなくても?」
「ガイド役の子はとってもいい子だから安心して貰って大丈夫よ!なにせ稀にみるとっても賢くて可愛くて優しい娘なんだから!っと、もうこんな時間か。もっと貴方とお話したかったけど夢はいつまでもみてられないもんね」
「これからよろしくね、灰の騎士さん。また夢で逢いましょう」
◇
【目覚めの丘】
「はじめチョロチョロ、なかパッパ。赤子泣いても……」
「あっ……お目覚めになりましたか主さま?」
「噛まれた箇所は……ほっ、お怪我がないようで何よりです」
「誰?っと言うお顔しておりますね。ふっふ、初対面であれ兜越しでもそのようにぼうっと立ち尽くされては誰でもわかってしまいますよ」
「それでは、自己紹介を。私偉大なるアメス様の託宣により主さまを御守りし、おはようからおやすみまで揺りかごから棺桶まで誠心誠意貴方さまに仕えることになりましたガイド役のコッコロと申します。よろしければ貴方さまのお名前を聴いても宜しいでしょうか?」
《火のない灰》←
《名前はない》
「火のない灰……間違いありません。貴方こそアメス様より言われた私の主さま。どうか私と従者の契りをお結び頂けないでしょうか」
《許可する》←
《許可しない》
「これより私は貴方さまに仕えるガイド役兼従者コッコロです。これから宜しくお願い致しますね、私の主さま♪」
「そうですね、よろしければこれを。私とのお近づきの記念としてお食べになって下さい」
[コッコロのおにぎり]
火のない灰の従者コッコロが愛情を込めた作った握り飯。生者と異なり不死人は食事を必要とせずその身が朽ち果てるまでただソウルを求める存在である。それ故食事は決して必要な物ではないが大切な者より受け取った食べ物は何よりも儚く尊い物だ。
お米は大事。噛めば噛むほど甘くなり、気持ちも弾むものだろう。
一定時間体力が小回復するようになる
「……どうでしょうか?えっ、美味しい?はい!それは良かったです。またお米が手に入りましたら主さまのため誠心誠意お作りいたしますね」
「はっ!後ろを主さま!」
◇
先程、主さまを襲っていた二匹の狂犬が再び現れました。興奮し体を震わせ涎を垂らし、血走った瞳はあらぬ方向に向いていますが姿勢は此方側を向けており今すぐにでも飛びかかって来そうです。私は今一度武器を取り出し、矛先を主さまに仇なす敵に向け呼吸を整え身体を闘いの姿勢に整える。
「主さまここはどうか私にお任せを」
しかしその言葉を言う前に主さまは古びた剣と盾を取り出し私の前に立ち塞がった。
「なっ!?主さまはお目覚めされてまだ早いですしきっと身体の調子も決して良くありま……キュッ!?」
主さまは私の口を優しく遮ると心配しなくても大丈夫と言わんばりに敵に振り返り大きな銀色の鎧の背中を此方に見せるのでした。
なんと優しくも逞しいお方。
コッコロは驚きと感動で一瞬言葉を失うが主を信じる。その言葉を胸にこれから起こる闘いに手を出さず静観することに決めた。
「主さま……どうかご武運を」
灰の騎士は古びた中盾を構え鞘から切先が鋭利に尖った直剣を抜き狂犬の前に固い決意あるしっかりとした足取りは地面を踏みしめ歩みを進めていく。
一歩、二歩、三歩。
その僅かな歩みを終えた刹那の瞬間。怨嗟の唸り声と共に半狂乱した二体の狂犬はすかさず灰の騎士に冷たく鋭い犬歯を当てるべく大口を開けて襲いかかった。成長した犬の顎の力は成人した人間の骨をも砕き、肉を断ちそして離れに離れた獲物の臭いを嗅ぎとりそして仕留める。犬とは獰猛な種族でありそして素晴らしき狩人でもあるのだ。
「主さま!!!」
灰の騎士は猪突猛進してくる狂犬に対してまず左に持つ盾で迎えうった。自慢の牙を盾に弾かれ怯んだ二匹の犬に右手に持つ直剣で即座に攻撃に転じる。振り下ろした剣は狂犬の生命を断ち、そして先の一撃で脚に致命傷を負ったもう一匹の狂犬に対してすかさず灰の騎士は再び剣を振り下ろした。頚椎を断ち切り狂犬は生命活動を停止した。慢心の欠片も一切の隙もなにもない、熟練の戦士が得られる完璧な勝利。彼の鎧や武具の傷は決してただの傷ではなく数多の敵を屠った勲章の傷だとコッコロは確信した。
「すごいです!主さま!」
コッコロは従者として主を精一杯褒めたたえた。倒した敵に対して灰の騎士は綺麗な一礼をしていた。それは憐れみそれとも慈しみか。
「それでは向かいましょうアストライア大陸の王都ランドソルへ」
灰の騎士と従者のエルフの少女は目的地へ草木の生い茂る地面を互いに踏み締め王都へと向かっていた。目覚めの丘を後にして。
「お腹が空きましたー!」
時を同じく遠く離れた場所にて一人の少女の声が虚しく青空に響いた。