それが日常   作:はなみつき

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あと1話で無印は終わりかな

##この話は修正されました##


母と時計と42話

 

 

 

「やっと着いたよ。ていうかこの扉でけー」

 

 時の庭園をアリシアちゃん、フェイトさんの案内の元で歩いて約10分。10分歩く家って一体なんなんだろう。そこら辺の大学と同じくらいの大きさなんじゃないだろうか。バカかと。

 

「……よし」

「ねぇ、フェイト」

 

 馬鹿でかい扉に手を掛けて入ろうとしたフェイトさんにアリシアちゃんが待ったをかける。

 ちなみに、メガネからレンズを取り外し、片方をフェイトさんに渡してあるので、フェイトさんはいつでもアリシアちゃんと会話できる。

 

「……フェイト、ごめんね……」

「どうしたの姉さん?」

 

 フェイトさんはアリシアちゃんのお願いによりアリシアちゃんのことはお姉ちゃんと呼ぶことにしたそうだ。

 

「ママがフェイトに酷いことしていたのは全部知ってる。私は止めたかったけど、こんな体だから声を聴いてもらうこともできなくて……」

「うん、わかってる。姉さんは何も悪くないよ。それに、母さんはちょっと一生懸命過ぎただけだから」

 

 う、うーん。こういう空気はあまり得意じゃないなー

 

「それじゃ、開けるよ」

 

 そう言ってフェイトは扉を押して開ける。

 

「……誰かしら? 正式な手段で入って来たからあの子かと思ったけど」

「……母さん」

 

 あれがフェイトさんのお母さんか。こんなだだっ広い部屋に椅子を一つ置いただけ。その椅子に魔王のごとく座っているプレシアさん。こう言うのはちょっと憚られるんだが、プレシアさんはもしかしなくてもバカなんじゃないだろうか。何? どういうセンスなの? ここはリビングには見えないし、一体何をする部屋なんだろうか。

 

「母さん? そうやって呼んでいいのはこの世界でただ一人だけよ。さっさと失せなさい」

「フェイトです、フェイト・テスタロッサです」

「フェイト? あの出来損ないにしては少し大きいわね」

「っ!」

「ママ! そんな言い方ないじゃん!」

 

 話には聞いていたがこれはきついな。プレシアさんがフェイトさんの名前を聞いてからフェイトさんを見る目が鋭くなったのがわかる。出来損ないという発言を聞いてフェイトさんがたじろぐのが目に見えて分かる。当然、メガネをかけていないアリシアちゃんの言葉はプレシアさんには聞こえていない。今回の作戦は何とかして精霊メガネ(仮称)をプレシアさんに掛けさせてアリシアちゃんの話を聞かせることだ。さて、どうするか。

 

「わ、私は未来から来ました。もう一度あなたと話をしたいと……」

「未来から? 時間跳躍……その技術があればあの事故より前に戻って……」

「もう! ママ! 私はここにいるよ!」

 

 フェイトさんの発言を受け、プレシアさんが時間跳躍の技術、つまり時のオカリナに興味を持っているようだ。オカリナ欲しいのか? おれはあげても良いぞ。そもそもこんなことになった元凶だしな。

 

「さあ、フェイト。あなたはどうやって過去へ跳んだの? その方法お母さんに教えて頂戴」

「か、母さん……あの……」

「けど、その前に邪魔なゴミを掃除しちゃいましょう」

 

 え? ゴミ? 誰のことです? 

 

「はっ! 公輝!」

(公輝! 後ろに大きくジャンプしろ!)

 

「のわあああ」

 

 リインさんの指示通り後ろに跳ぶと、おれが立っていた場所に魔力弾が一斉に襲い掛かってきていた。ここで余談だが、車に引かれそうな人がいた時その人にかける言葉は「危ない!」ではなく「走れ!」という具体的な指示なのだ。つまり、リインさんの忠告は最適。まあ、そんなことはどうでもいいことだ。

 

「危ないじゃないか!」

「あら、避けたのね。当たっていれば楽だったものを」

「母さん! なんでそんなことするの!」

「なんで? だってここに必要ないもの」

「うわっと」

 

 また魔力弾が跳んでくる。

 

「お兄さん大丈夫!?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 なんとか見てから避けることができるくらいの攻撃だからまだイケル。

 

「ん?」

 

 後ろを見ると壁。

 

「もう避けられないわね」

 

 そう行って、プレシアさんはさっきと同じように魔力弾をとばしてくる。

 

「公輝!」

 

 フェイトさんがこっちに飛んでくるのが見える。だが、この距離では間に合わないだろう。

 

「お兄さん!」

 

 アリシアちゃんがおれの前に盾になろうとしてくれる。しかし、アリシアちゃんがこっちを向いてるため色々と問題があるので目を瞑る。

 

(公輝! くそっ、こんな時に!)

 

 リインさんがおれの体の制御権を取って何とかしようとしているがおれの能力が邪魔をする。

 

 ちょっとした傷ならおれの能力であっという間に完治させることができるが、おそらく殺傷設定の魔力弾をこれだけ大量に一度に食らうと体がバラバラになってしまうんじゃないだろうか? バラバラになった経験はないのでどうなるのかおれにもわからない。

 

「おさらば」 

 

 そんな言葉がつい口から出てしまう。前方、左右から殺到する魔力弾。後ろが壁だとわかっていても反射的に後ろに飛んでしまう。

 

 当然壁に当たる。

 

 カチッ

 

 

 

 

 

 

 脳裏をよぎるのは前世と今世を合わせた喜んだり、怒ったり、悲しんだり、楽しんだりした時の記憶。ああ、これが走馬灯なんだな。話にはよく聞くが自分がこれを体験することになるとは思わなかった。ここで死んだらもう転生のラッキーには当たらないだろうなぁ。結局キャンパスライフをエンジョイすることもできなかったし、結婚なんて夢のまた夢だったし、孫に囲まれて息を引き取るという誰しもが夢見る夢をかなえることもできなかった。残念だ。

 

「……」

 

 あれ? おかしい。

 

 死の危機に瀕すると、人間の思考速度が加速するとは言うが、これはちょっと加速しすぎな気がする。もうそろそろ痛みを感じてもいいはずだが、一向にその痛みはやって来ない。

 

(これは一体……公輝、今度は何をやったんだ?)

 

 なんだその、いつもおれがなにかやらかしてるような言い方は! 確かに、おれの買った物の所為で過去に跳んだり、幽霊見たりしてるけどさ!

とりあえず、アリシアちゃんに配慮して瞑っていた目を開ける。

 

「どういうことなの?」

 

 目の前にあるのはおれの方に殺到していた大量の魔力弾。ただし、その魔力弾は動きを止めている。よく見たらプレシアさんやフェイトさん、アリシアさんも動きを止めており、ピクリとも動かない。

 

(公輝、後ろのポケットには何を入れているんだ? 壁に当たった時そこから何か音がした)

 

 そういわれておれはケツポケットからあるものを取り出す。

 

 ……ヤッサン、正直オカリナとメガネの件でもうヤッサンの店では何も買うまいって少し思ったけど、これからもヤッサンの店で物買うわ。

 

 

 それは、これまたヤッサンの店で買ったカッコいい懐中時計だった。

 

 

 

 

 

 

 かつて、「時間が止まった世界で自分だけ動ければ面白いことができるんじゃね?」という昔の人のちょっとした発想により、時を止めるマジックアイテム『時を刻まない時計』は誕生した。

 その時計には文字盤を覆うガラスの部分を保護する為の蓋が無いにもかかわらず、通常の蓋付き懐中時計にある蓋を開けるためのボタンが付いている。使用者はこのボタンを押すことによって世界の時の流れを止め、このマジックアイテムに触れているものだけが時を進める。一度ボタンを押すと使用者の時間で5分間時を止め続ける。時を止めるには『時を刻まない時計』に魔力を充てんする必要がある。

 

 

 

 

 

 




うーん

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