それが日常   作:はなみつき

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ダイコンがダメコンに見えたおれは提督の鏡

##この話は修正されました##


健康診断と再会と49話

「はーい、次の人どうぞー」

「はい!」

 

 今日も今日とてお仕事です。今日のお仕事は第四陸士訓練校に新しく入校する予定の子の健康診断だ。え? 医学的な知識も何もないおれに健康診断なんてことできるのかって? はい、できません。でも、やりようはあるのだ。

 

「では問診しますね。先天的に何か疾患はありますか?」

「ないです」

「では次に触診しますんで、手をこの台に置いてください」

「? はい」

 

 この訓練校には男の子だけではなく女の子も多数入校する。そんな女の子たちに触診と称してムフフなことをしたいところだが、そんなつまらないことをしてクビになっては何の意味もないので勿論そんなことはしない。おれは差し出された女子訓練生候補の腕に手を当てる。その状態のまま一分間過ごす。訓練生は何をしているのかわからずそわそわしている感じだがそんなことは気にしない。

 

「はい、健康診断は終わりです。状態異常は特になし、健康ですね」

「は、はい。ありがとうございました?」

 

 訓練生候補は腑に落ちない様子だったが椅子から立ち上がり健康診断を行っている救護室から退出する。医学的な知識が何もないおれには健康診断によって訓練生候補たちのどこが悪いかを判断することはできない。しかし、健康と言うことを判断することはできる。何故なら、おれが触った時点でその人は健康なのだから。もしここに先天的に問題がある新訓練生が来たとしても今日はリインさんとユニゾンして来ているので本来なら落とされていたはずの人を入校させることができるのだ。

 ちなみに、この仕事の依頼人は陸の実質的なトップであるレジアス・ゲイズ氏。戦力の乏しい陸の戦力をできるだけ多く、確実に入れるために入校前の検査なんかで貴重な陸士希望の人材を落とさないようにしてくれと依頼されたのだ。

 

(しかし、まあ、なんだ……マッチポンプ……とは違うな。出来レースというのか? こういうのは)

「何も悪いことしてないしいいんじゃない? 言うとすればみんなが1番のレースだな」

 

 マッチポンプとか出来レースとか、あんまりイメージの良い言葉ではないな。その点みんなが一番。実にいいことではないか。こっちはゆとり教育のイメージがあるが。

 

「じゃ、次の人どぞー」

「は、はい!」

 

 こういうわけで今回の健康診断は担当の先生がおれ一人しかいないのでちゃっちゃと済ませないと終わらないのだ。問診触診合わせて一人40秒だ。

 

「では問診しますね。先天的に何か疾患はありますか?」

「あっ……ないです」

「では次に触診しますんで、手をこの台に置いてください」

「あの! もしかして、空港の火災の時私を助けてくれた麦わら帽子の人ですか?」

 

 うん? 火災の時に助けた? おれは一応渡された訓練生たちのカルテで今前にいる子の名前を確かめる。この訓練生候補の名前はスバル・ナカジマ。ああ、ナカジマ氏の娘さんじゃないか。流れ作業的に健康診断(仮)を行っていたため顔をしっかり見ていなかったから気づかなかった。

 

「そうだよ、確かにそれはおれだね」

「やっぱり! あ、あの時は助けてもらってありがとうございます!!」

 

 スバルちゃんは立ち上がりおれにお辞儀をしながら感謝の意を述べてくる。いやはや、いつまでたってもこうやって感謝されるというのは慣れないものである。

 

「どういたしまして、ナカジマ訓練生候補。あれから大丈夫だった?」

「はい! なのはさ……ああ、いや、高町二尉に救護テントまで運んで頂きました! 姉も無事でしたし、何事もありませんでした!」

「うむ、そいつはよかった」

 

 あれだけの事故だったというのに死者が誰もいなかったというのは本当に奇跡としか言いようがないな。だが、今はそれより

 

「とりあえず健康診断を済ませよう。後ろの人たちの帰りが遅くなってしまうからね」

「あ……す、すみません!」

 

 うんうん、しっかり謝れるというのはとても大事なことだと思うぞ。

 

「じゃあ触診しますねー」

「はい」

 

 スバルちゃんの腕に手を当て今までと同じように一分間過ごす。

 

「はい、健康診断は終わりです。状態異常はなし、健康ですね」

「はい! ありがとうございました!」

 

 そう言ってスバルちゃんは退出する。あの子は本当に元気のいい子だな。

 

(世界というのは広いようで狭いな。それにしてもあの泣いていた子が陸士を志望していたとはな)

「いや、あの子の力(物理)は陸士として武器になるだろうな」

 

 陸とは主にミッドチルダにおいて活動する管理局局員の組織である。陸士はミッドでの警察のような役割を果たすことが多いので腕っぷしの強さは重要な要因の一つなのだ。あの歳でおれの腰に悲鳴を上げさせるほどの締め付けを見せたのだから、将来有望である。

 

「次の人ー」

(公輝、だんだん雑になっているぞ)

 

 同じことの繰り返しというのは結構辛いのだ。これくらいの変化はさせないとつまらない。

 

「はーい」

「ちょっと、お兄ちゃんが返事したら意味ないじゃない!」

 

 え? お兄ちゃん同伴? その発想はなかったわ。

 

「失礼します! ん? なんだ、男か」

 

 なんだ、貴族か。とでも返せばいいのか? モンペならぬ、モンブのヨカーン。

 

「いくら先生とは言え、僕のかわいい妹には男である限り触らせないぞ!」

「ちょっとお兄……兄さん! 何恥ずかしいこと言ってんの!」

 

(随分と兄妹仲が良いようだな。いいことじゃないか)

 

 いいことなんだが、この場で兄妹仲の良さを発揮されても困るのだが。

 

「先生、誰か女性の先生と交代して……ん? よく見たらマサキ先生じゃないですか」

「えっ! マサキ先生ってあの麦わらの!」 

 

 え? また知り合いかよ。んー……ああ! ティーダさんじゃないか。妹がいるから死ねないって言ってた人だ。じゃあこの子が自慢の妹か。

 

「あの! サカウエ先生ですよね! 兄の命を救って頂きありがとうございました。ずっとお礼に行きたいと思っていたのですが、申し訳ございません」

「あーいえいえ、そんな気にしないでいいですよ。どういたしまして。」

 

 今日はよく感謝される日だな。

 

「むむむ……マサキ先生なら……いいか……。マサキ先生が担当なら僕は特別にティアの健康診断をするのを許可します。しかし! ティアに触れるのはティアの許可を取ってからですよ!」

「わかってますってー」

 

 シスコン? シスコンなのか? 重度のシスコンっておれ初めて見るなー。

 

「それでは問診しますね。先天的に何か疾患はありますか?」

「ないです!」

「兄さんには聞いてない! ないですよ」

 

 ティーダさんってこんな人だったんだな。一度死にそうになってシスコンをこじらせたんじゃないか?

 

「じゃあ触診しますねーそこの台に腕を置いてください」

「何! だが、ぐぎぎ……」

「わかりました」

 

 ティアナちゃんの腕に手を当ててしばらく待つ。

 

「マサキ先生、何をやっているんですか! はっ! まさか、そうやってティアの柔肌を味わって……」

「兄さんちょっと黙ってて」

 

 ティアナちゃんにたしなめられたティーダさんは何も言うことが出来なくなり、四つん這いになりうなだれてしまった。

 

「はい、お疲れ様でした。何の問題も無い健康体です」

「ありがとうございました。先生もお疲れ様です」

 

 そう言い残してティアナちゃんは退出した。いやー、おれを気遣ってくれるとはティアナちゃんはいい子だな。

 

(世の中にはこれほど仲のいい兄妹と言うのは本当にいるんだな)

「ああ、おれの知ってる兄妹ってやつはいつも妹が兄を毛嫌いして、兄は妹を無視するパターンだったから今回のパターンは新鮮だったな」

 

 仲良きことは美しきかな。良い言葉だな。

 

 

 

 

「ティーダさん、もうティアナ訓練生候補は帰っちゃいましたよ。後、ずっとそこにいられると流石に邪魔です」

「……」

 

 仲……良い……よね?

 

 




orz←ティーダ

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