それが日常   作:はなみつき

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あー忙しい忙しい

追記
ノック四回って言っときながら三回しかしていなかったの修正

##この話は修正されました##


中将とマッサージと51話

 

 

 コンコンコンコン

 

 ノックは4回。今から入る部屋はトイレではなく、親しい人の部屋でもないのだからノック4回は必然である。

 

「入れ」

「失礼します」

 

 扉の向こうから聞こえてきたのは腹に響くような低いおっさんの声。今から入る部屋の主はミッドチルダの治安維持を一手に担う陸の長、レジアス・ゲイズ中将の執務室である。

 

「貴様がマサキ・サカウエ二尉か。貴様の功績は儂の耳にも入っているぞ」

「ありがとうございます」

 

 一介の二尉ごときでは中将と一対一で面会するなんてことは不可能なのだが、これまでの仕事で築き上げた無駄に洗練された無駄のない無駄なコネを使って中将との面会のアポを取ったのだ。

 

「それで、本題はなんだ? 儂は忙しいから手短にな」

「はい、一つお願いがあるのです」

「お願いだと? ふざけるな……と、言いたいところだが、貴様には借りがあるからな。とりあえず言ってみろ」

「はい」

 

 そう、今日おれがこんな場所に来た理由はお願いが一つあるからだ。この度、はやてが作る新しい部隊に入ることになったのだ。しかし、一つ問題が浮上した。ここで問題になってくるのはおれの立場だ。現在おれは管理局において区分されている陸海空三つの枠組みのどれにも属していない状態なのである。そんなおれが特定の一部隊に属してしまうと、おれは全くそんな気はなくても実質的にその部隊が属している区分に属すと取られてしまうのだ。

 

「この度八神はやて二等陸佐が新設する古代遺物管理部機動六課の施設を自分の主な活動場所に変えさせて頂くのを認めてほしいのです」

「何!? ふざけるな!!」

 

 結局ふざけるなって言うのかよ。

 

 部隊長であるはやての所属は陸。新部隊の施設はミッドチルダに設置されるし、部隊の所属も陸に区分される。自分で言うのもなんであるが、おれがある特定の派閥に属するというのはそこそこ大事なことなのである。では、何故陸のトップであるゲイズ氏はおれが陸の部隊に実質的に所属するというのに、こんなにもキレッキレなのか? それは古代遺物管理部機動六課という部隊の特徴と、管理局の情勢が問題なのである。

 

「あんな犯罪者の小娘の下に貴様をつけるわけにはいかん!」

 

 まず問題としては隊長であるはやての身の上である。事情を知っている人ならはやてのことを犯罪者なんて言う目で見る人はいない。しかし、表面的な情報だけではやてのことを見ると、はやては危険なロストロギアを無断で所持し、闇の書の封印を解除しようとした犯罪者として見られてしまうのである。そして、このゲイズ氏ははやての事情は表面的なことしか知らず、さらに犯罪者と言うものを問答無用で嫌悪の目で見るタイプの人なのである。ゲイズ氏から見て元犯罪者で近頃頭角を現しだした小娘というのは面白くないのだろう。

 

「それに、何やら本局の奴らともつるんでいるそうじゃないか」

 

 だが、本当の問題ははやてではない。それは管理局の体質と関係してくるのだ。ここで、管理局について少し説明しようと思う。管理局と言う組織は大きく分けて二つ、強いて言えば三つの派閥に分けられる。ミッドチルダの治安維持を担当し、ミッド内で起きた事件解決を担当するのが陸。ここにははやてが所属している。次に、管理局本局を中心に活動し、次元世界の監視、管理世界の治安維持などを担当するのが海。ここにはフェイトさんの保護者だったリンディさんが所属している。最後に、本局直属の少数精鋭部隊であり、危険度の高い任務をこなすことも多いエリート部隊の空。ここにはシスコンのヴァイスさんやシスコンのティーダさんが所属している。シスコン二人が相当やり手の局員ということが所属を見るだけでよくわかる。

 それで何が問題なのかと言うと、陸と海は心底仲が悪いのである。海はその管轄の広さから予算は多く、優秀な人材を多く必要とする。しかし、お金も人材も無限にどこにでもあるというわけではない。では、それをどこから持ってくるか? それは、管轄がミッドチルダだけと狭く、基本的には警察程度の武力で対応できる陸から持っていくのである。陸の予算が減ると陸の局員への給料は減る。陸の待遇に不満があり、優秀な陸の局員は海に引き抜かれる。残った陸の局員に抜けた人の仕事は振り分けられ、仕事はさらに大変になる。仕事が大変になると陸の局員は海に――っと、この悪循環が繰り返されるのである。これによって陸の局員は海に対して不信感を抱くようになる。陸の実情を知らない海の局員からすると「こっちはこっちで大変なんだ。そんなにグチグチ言うことないだろ」っと、こんな感じで陸に対して良い感情は持たない。これの繰り返しで管理局の陸と海の仲が悪くなったのだ。

 そして、はやての新部隊のコンセプトは陸海空に縛られない、フットワークの軽い部隊。陸において一番海に不信感を抱いているゲイズ氏にしてみれば、陸海空仲良し小良しの部隊は言語道断なのである。

 

「そんなことは認められんな」

「そうですか、まあ仕方ないですね」

 

 この返答は想定済みだ。むしろ許可されたら二度聞きする自信がある。

 

「なんだ、随分と聞き分けが良いじゃないか」

「いえいえ、そんな。ああ、そうだ。(棒)折角ですから肩もみやマッサージはいかがですか?(棒) きっと疲れが取れますよ(笑)」

「む、そうだな。では頼もう」

 

 ニヤリ

 

 自慢じゃないがおれのマッサージは有力者の中では相当有名だ。デスクワークの多い人たちにとって体の疲労が抜けるおれのマッサージは至高のひと時なのだそうだ。

 今回は念入りにマッサージさせてもらおう。念入りに……ね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あべべべべべべべべ」

「どんな感じですか~」

 

 まずは手始めに肩もみから始めた。ただ、肩もみをするときはずっと手を当て続けるのではなく、分からない程度に、揉むときに力を入れる時と抜くときの間に手を体から離して体を連打気味にした。顔がほてり始めたゲイズ氏を横にさせて肩甲骨から腰に掛けてのマッサージを開始する。しかし、この時も体に手を当て続けずに、わからない程度に手を体から離して当てるを小刻みに繰り返す。そうするとあら不思議、不思議な声で鳴くゲイズ氏の出来上がり。

 

「これ関係ない話なんですけど~自分、有給一年くらい溜ってるんですよね~。あれれ~一年って六課の試験期間と同じですね。ちょうどいいから有給まとめて取らせていただけますかね~?」

「な、何だと? そんなことととととと……で、できるわけけけけけ」

 

 ゲイズ氏の顔は赤くなっており、息も少し荒くなっている。そろそろ行ける頃合いだろう。おれはボイスレコーダーの電源を入れる。

 

「まあ、自分も社会人ですし、有給一年なんて取ったら同僚達にも悪いですしね。有給は少しずつ取るんで、活動場所を六課にすることに対して文句は言わないでもらえませんかね?」

「くっ……いたし方あるまいいいいいいぃぃぃぃ……儂はもう何も言わぬううううぅぅぅぅ」

 

 グッと隠れてガッツポーズ。おれはボイスレコーダーの録音を停止する。

 あれだけ頑なに拒んでいたゲイズ氏もおれのマッサージから始まる交渉術でイチコロだぜ。まず始めに普通にお願いしてみるが、これは失敗に終わるのは想定内だ。次に、おれの能力を生かしたマッサージでベロンベロンにしてやり、相手の思考能力を低下させる。この時に相手にとってメリットに思えるが当たり前な条件を提示しながらもう一度お願いしてみる。正常な状態ならこんな条件は飲まないだろうが、今は思考がぼんやりとした感じであるためハイハイ言ってしまうというわけだ。ちなみに、ここに来る前に海の上層部、空の上層部、管理局全体を総括する人たちや人事部の人たちともOHANASHIして来ている。

 

 

「それじゃあラストスパート行きまーす」

「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」

 

 

 

 その後、執務室ではため息をつきながらもいつもよりキビキビとした手つきで仕事をこなしていく中将がいたそうだ。

 

 


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