それが日常   作:はなみつき

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すまんな、風呂までたどり着かんかった(´・ω・`)

##この話は修正されました##


親と帰省(前編)と58話

 

 

「海鳴よ、私は帰って来たー!」

 

 と、大声で叫んだ気持ちでおれは海鳴の商店街の真ん中に立っている。こんな場所で大声を出したら迷惑なうえに、かなり恥ずかしいからな。

 

 はやてとの大論争の成果として許可が下りた有給の日数は3日間。おれはこの3日間を使って海鳴に帰って来たのだ。ミッドから地球へ行く手段は大きく分けて4つある。一つめは、次元航行艦に乗って地球まで連れて行ってもらうこと。普通に考えてこの方法は使えない。二つ目は個人の魔法で転移すること。無許可の次元間転移は禁止されていることだし、「帰省するので許可ください」と、言っても許可が下りるわけはないのでこれも現実的ではない。3つ目は事故でロストロギアを使ってしまって、偶々地球に転移していまうこと。常識的に考えてこの方法もあり得ない。そして、最後の方法は地球の3か所に設置されたポートを利用して転移することだ。地球のポートはアリサさん、すずかさん、リンディさんの家に設置してある。今日はリンディさんの家のポートを使わせてもらった。

 

「よし、じゃあひとつずつ回って行こう」

 

 今回の帰省の目的は買い物。新作ゲーム、漫画の新巻、趣味のプラモデル等々が標的だ。ミッドチルダでもゲームや漫画もあるし、プラモデルだってある。しかし、おれが欲しいのは地球の、日本のゲーム漫画プラモデルなのだ。これらをゲットするためには業者に頼んで輸入してもらうか自分で買いに行くしかないので、おれは里帰りもかねて自分で買いに来たというわけだ。

 

「それにしても、里帰り……ね」

 

 自分で言っておいて何なのだが、おれにとってこっちの世界の海鳴が自分の帰る場所になったというわけなのかな。この世界に来てからなんだかんだで10年だ。改めて考えると、色々と思うところがあるね。まあ、色々思ってもおれにはどうすることもできないんだけどな。

 

「よーし、今日でミッションをコンプリートしてなのはさんの家に行こう」

 

 地球に来るのなら寝泊まりははやての家ですればいいのだが、おれが地球に帰ることを知ったなのはさんが「大きな家で一人は寂しいでしょ?」と、言って士郎さんと桃子さんに話を通してくれたのだ。おれはガキかっちゅうの。しかし、八神家と言う大家族に慣れきってしまったおれは、一人で寝泊まりすることに対して少々寂しく感じるのは否定しない。なのはさんまじなのはさん。

 

 おれはなのはさんに心の中でこっそりと感謝しつつ一個一個標的を集めて回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、ミッションコンプリート。余は満足じゃ」

 

 おれはすべての買い物を終わらせ士郎さん達と合流するために翠屋に向かっているところだ。

 

「む?」

 

 おれは見つけてしまった。ヨレヨレの白衣を着、男にしては長めの紫色の髪。こちらからは後ろ姿しか見えないが、おそらく彼の瞳は金色でオレンジ畑を耕していそうな声をしているだろう。そして、その隣にはこれまた紫髪で、後ろ姿からとてつもない秘書感をにじみだしている女性。

 

「おーい、スカさーん、ウーノさーん」

「……うむ、これであとは彼女たちが……ん? この声は」

 

 

 おれの呼びかけに気づいたスカさんとウーノさんがこちらを向いてくる。

 

「や、やあ、公輝くん。奇遇だね」

「おや? 先生じゃないですか、こんにちは」

 

 そこにいたのはミッドでの友人のスカさんとウーノさんだった。

 人通りの多い道ではないとはいえ、天下の往来でもその白衣姿で歩き回るスカさんは流石としか言いようがない。

 

「スカさんはこんなところで何やってるんだ?」

「え? ははは……いやぁ……ちょっと落し物をしに……」

「は?」

 

 「落し物をしに」ってどういう状況だよ。「落し物を探しに」と、いうのを聞き間違えたのか? 

 

「先生、私たちはこの世界まで買い物に来ていたのですよ。しかし、ドクターが財布を落としてしまったので探していたところなのです。幸い財布は先ほど見つかりました」

「あ、やっぱり落し物を探してたのね。見つかって何よりだ」

 

 ていうかスカさんが落し物か。男がドジっ子アピールしてもなぁ……落としたのがウーノさんなら……ドジっ子ウーノさんか……普段とのギャップがすばらしいね。まあ、そんなことはどうでもいいか。

 

「じゃあ、おれはもう行くわ。さよなら、スカさん、ウーノさん」

「うむ、また会おう」

「失礼します」

 

 それにしても、あの二人は一体地球まで何を買いに来たのだろうか? ミッド在住の人が地球に関心を寄せることと言えば、今イケイケの管理局員のなのはさんやはやてに関してだろう(フェイトさんを地球組としていいのかは微妙なところなので除外しておく)。そして、彼女たち関連で地球にまで買いに来るものという事は……

 

「翠屋のケーキか……」

 

 はやて要素は全くないが、その二人に関係があって、地球にまで買いに来るものと言うのはそれくらいしか思い当たらないから仕方ない。

 

「とうとう、翠屋も次元進出かー。とんでもない喫茶店だな」

 

 そうつぶやきながら、おれはミッドチルダにまでその名を轟かす翠屋に向かって歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、まさかこんなところで公輝くんと遭遇するとはね」

「ドクター、不測の事態が起きても慌てないで対処してください。あれではわざわざ遠くの次元世界まで落し物をしに来る変人でしたよ」

 

 予期せぬ知り合いとの遭遇。今行っていることをその知り合いに知られてしまうと色々と不都合なことになっていただろう。

 

「ああ、助かったよ。流石は私の助手だ」

「はい、私はあなたの助手です」

 

 優秀な助手がいると助かるな。

 

「私が居ないとドクターは本当にダメダメなんですから……もっとしっかりしてください」

「……はい」

 

 最近ウーノが厳しいのは気のせいだろうか。きっと気のせいだろう。

 

「まあいい、これで彼女たちがここ、第97管理外世界に出てくるはずだ。彼女たちがミッドを留守にしている間にやるべきことを済ませておこう」

「はい、ドクター」 

 

 私たちは転移の形跡を辿られないようにラボへ帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです士郎さん、桃子さん、美由希さん。三日間よろしくお願いします」

「久しぶりだね公輝くん、こちらこそよろしく」

「自分の家だと思ってくつろいでね?」

「ゆっくりしていってね~」

 

 おれの挨拶に続き、士郎さん、桃子さん、美由希さんが返してくれる。美由紀さんはなのはさんのお姉さんだ。高町家には恭也さんと言うなのはさんのお兄さんもいるのだが、恭也さんは今ドイツに行っているためいない。

 

「それにしてもすごい荷物だね。今日は疲れたろ? 先に風呂に入ってから夕食にしよう」

「ありがとうございます。それではお先に」

 

 士郎さんがおれの持っている戦利品を見ながらそう言ってくれる。こっちに来てからゲーム屋、本屋、ホビーショップを回りまくったために溜ったおれの疲れを見抜いたのだろう。時刻ももうすぐ午後6時という事もあり、ちょうどいい時間だ。風呂に入って体と心を洗濯するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ご馳走様でした」」」

「お粗末様でした」

 

 夕食で盛ってあった皿が並んでいるテーブルをおれたち4人が囲み、食事の後の挨拶をしっかりとする。桃子さんがつくるご飯はそれはそれは良いものだった。桃子さんの作る料理ははやての料理とはまた違った美味しさだった。言葉で例えるとするのなら、それは母さんの味。おふくろの味ではない、母さんの味だ。わかるかなー、この微妙なニュアンスの違い。わからないな。おれもわからない。そうすると、はやての味を言葉で表すとどうだろう? お袋の味? 彼女の味? ばあちゃんの味? ああ、ばあちゃんの味が一番近い気がする。

 

「お茶入れますね」

「お母さん、手伝うよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って桃子さんと美由紀さんは空の皿を持ちながらキッチンの方へ行く。何から何までやってもらって申し訳ないな。何か手伝った方が良いのだろうか……しかし、ホストはあっち。相手が友人なら何も考えずに手伝うのだが、桃子さんも士郎さんも自分より年上で目上の人だ。ゲストの自分が手伝うというのはホストに失礼に当たってしまう気がする。いや、一度手伝うという意思を示して断ってもらう方が良いのだろうか? もちろん、そこで手伝ってほしいと言われれば手伝えばいい。やはり、声を掛けるべきか……

 

「公輝くん」

「はい」

 

 おれがそんなことをつらつら考えていると、この場に残った士郎さんが声を掛けてくる。

 

「君と二人で話すというのは初めてだね」

「そういえばそうですね」

 

 士郎さんと話す時にはいつも桃子さんなり、なのはさんなりがそばにいたから士郎さんと二人きりで話すという機会はこれまでなかった。

 

「最近なのははどうだい? 無茶はしてないかい?」

 

 士郎さんがなのはさんについて聞いてくる。なのはさんが撃墜された原因は疲労が溜まったことによって敵に不覚を取ったことだ。再びそんなことが無いか心配なのだろう。

 

「そうですね……無茶はなくなってきてると思います。でも、頑張りすぎるところは変わってないですね」

「うーん、もうなのはのそれは変わらないだろうね」

「おれも気づいたらなのはさんの疲労を抜いてるんですけど、いつも一緒に居られるわけじゃないので余り役には立ててないですね……」

「いやいや、公輝君が気にかけてくれるだけでも大分違うよ。ありがとう」

 

 士郎さんがおれに向かって頭を下げてくる。おれは慌てて返す。

 

「そ、そこまでのことはしてませんよ」

「そんなことはないさ。君はもちろん、フェイトちゃんやはやてちゃんという良い友人がいてくれるおかげで、なのはは今も元気でやっていけるのさ」

「そうですかね……」

 

 面と向かってこういうことを言われると照れてしまう。

 

「親として、君たちにはいつも感謝しているよ」

 

 親……か……。

 

 成り行きでこの10年過ごしてきたけど、今頃母さんと父さんはどうしているだろう。大学合格と言う節目で親より先に死んでしまった親不孝な息子をどう思っているのだろう。悲しんでくれているだろうか? いや、きっと怒っているな。

 士郎さんと話しているとおれの両親について思い出してしまう。ただ一つ前世に未練があるとするのなら、初任給で二人に何か買ってあげたかったな……

 

「公輝くん? ぼーっとしちゃて、大丈夫かい?」

「え? あ、いや、ちょっと思うところがありまして」

 

 いけないいけない。つい物思いに耽ってしまったようだ。今のおれにはどうすることもできないことだ。天国に行ってから二人には全力で謝ることにしよう。

 

「そうだ士郎さん、マッサージしますよ? おれのマッサージって結構評判なんですよ。マッサージしながらなのはさんのこれまでの活躍をお話しします」

「お、そうかい? 最近仕事が忙しいから助かるよ。なのはの話も楽しみだな」

 

 話題を逸らすために士郎さんをマッサージすることを提案する。

 おれは士郎さんを全身マッサージしながらなのはさんについて沢山話した。

 

 

 

 マッサージが終わった後、士郎さんの体の調子が全盛期並みになったのは特に関係のない話。

 

 

 




なんでこんなしんみりしてるんだ……

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