それが日常   作:はなみつき

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##この話は修正されました##


休日と護衛と64話

「へー、じゃあ今日はフォワード陣はお休みなんだな」

「せやで。あの子たち、ここに配属されてからずっと訓練訓練出動訓練やったからな。息抜きは大切や」

 

 おれは部隊長室ではやてとなんてことない世間話をしているところだ。

 ……よし、この流れならいける!

 

「じゃあおれも有給とって息抜きしようかな」

 

 そう言いながらはやてに有給休暇申請用紙を差し出す。

 

「却下や」

 

 差し出された用紙をスムーズな流れで破り棄てやがった。

 

「なんてことするんだ。紙を破り捨てるなんて資源の無駄じゃないか」

 

 おれはもう一枚の申請用紙をはやてに差し出す。

 

「そう思うなら用紙こっちに渡すのやめーや。それと時間も無駄にしとるで」

 

 受け取った瞬間にぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に投げ入れられてしまう。

 

「いやほら、フランクルだって余暇によって人生を意味あるものにすることが出来るって言ってたじゃん?」

 

 最後の申請用紙をはやてに差し出す。

 

「フランクルさんは自分のできることをやれる範囲でこなすことでも人生を意味あるものにできるとも言っとったやろ。良いから働け」

 

 最後の申請用紙も無残に散り散りにされてしまう。そして、おれの大学受験用付け焼刃の倫理の知識にしっかりついてこられるあたり、流石である。文学少女の名は伊達ではないという事か。

 

「はやて~頼むよ~」

「だめったらだめ」

 

 ちぇー

 

「主、失礼します」

「どうぞー」

 

 そんなやり取りをしていると、部隊長室の扉の外側からリインさんの声が聞こえてきた。リインさんの管理局での立場はリインちゃんとは違い、はやて個人の戦力とされている。そのため、管理局の位は持っていない。ザフィーラさんと同じようなものだ。

 

「高町から書類を預かって参りました。ん? 公輝もいたのか」

「おう、はやてがお休みくれなくて困ってるんだ」

「ハムテルくんは休み過ぎやで」

 

 いやいや気の所為だって。確かに人より有給の数は多いけど毎日休んでるわけじゃないし。

 

「休みですか……主も偶にはお休みになってはどうでしょう? ここの所働きづめではないですか」

「え? 私は大丈夫や」

「またまた~なのはさんみたいなこと言っちゃって」

 

 おれの周りの女性は強がりさんばかりで困ったものだ。いや、実際強いんだけどね。

 

「でも仕事が……」

「ロングアーチの人達に協力を要請しますから」

「ある程度階級の高い人やないとできん仕事もあるから……」

「そこに暇してる二佐殿がいるじゃないですか」

 

 ……おれ!? おれに書類仕事をやれというのか! ミスが多発しても知らんぞ!

 

「うーん、でもやなー……」

 

 なおも渋るはやて。確かに、部隊長と言う立場は責任ある重大な役職ではあるが、無休と言うわけではあるまい。はやても少しくらい休むべきだとおれも思う。

 

「はやて、休息も重要だぞ」

「ハムテルくんに言われると説得力があるような無いような感じやな」

 

 それはおれが有給取りまくってることを皮肉っているのか? それともおれの能力のことを言っているのか?

 まあ、そんなことはどうでもいい。とりあえず、肉体的な疲労だけならおれが何とでもしてやることが出来るが、精神的な物は難しい。やはり、休息は必要だろう。

 

「もう……分かった。ほんなら、今日一日休みもらおうかな」

「そうしてください。私は皆に仕事を代わってもらうようお願いに行きますので同行できません。ですので、公輝を護衛として連れて行ってください」

「護衛なんていらんと思うんやけどな」

「備えあればなんとやらです」

 

 あのー、本人抜きで話進めるのやめてもらえませんかねぇ。別にいいけど。

 

「じゃあちょっと準備するから六課の入り口で待っとってや」

「へいへい」

 

 こうして、今日の休暇ははやてと一緒に過ごすこととなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 はやての指定した場所に向かってみるとそこには、エリオくん、キャロちゃん、そして、二人を送り出そうとしているフェイトさんが居た。

 

「おーでかーけでーすか?」

 

 レ~レレ~のレ~っと。

 

「あ、マサキ。うん、二人が街に行くの」

「公輝先生、こんにちは!」

「こんにちは!」

「はい、こんにちは」

 

 エリオくんとキャロちゃんに元気にあいさつしてもらう。こうやって先生って言われながら挨拶されると、おれが小学校の先生になったみたいだ。なかなか嬉しく思う。小学校の教員というのもいいものかもしれないな。

 

 まったく、小学生はゲフンゲフン

 

「フェイトさんは行かないのか?」

「私は仕事が残ってるから」

「フェイトさんも息抜きした方が良いぞ?」

「うん、考えとくよ」

 

 ああ、この人も自分では休み取らないタイプってはっきりわかるな。

 

「ちゃんと休めよ」

 

 おれはそう言いながらフェイトさんの肩にポンと手を置く。

 

「うん、ありがとう」

 

 本当に困った奴等が多いこと。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってきますね、フェイトさん」

「行ってらっしゃい」

「気を付けてな」

 

 そう言い残してキャロちゃんとエリオくんの二人は街の方へと向かっていった。

 

「そういえば、マサキもどこか行くの?」

 

 フェイトさんはおれが持ってきた自転車を一瞥して尋ねてくる。

 

「これから休暇を兼ねたはやての休暇の護衛だ」

「それってつまり……デート?」

 

 デート……

 その発想はなかったな。確かに、女の子のショッピングに一緒に行けばそれはデートなんじゃないか? あれ? いや、何か違う気がする。デートだったら付いて行くだけでなく、おれも楽しまなければいけないのか。果たして護衛中に楽しむことが出来るだろうか? 答えは否。ならば、これはデートではないのだろう。

 

「たぶん違うと思う」

「えー……まあ、楽しんできてね」

 

 たぶんおれは無理だろうけどな。

 

 それだけ言うとフェイトさんは隊舎に戻って行った。

 

「おーい、ハムテルくん待たせたね」

「いや、そうでもないさ」

 

 現れたはやての姿はさっきまでの機動六課の制服ではなく、私服だ。白のブラウスに黒のミドルスカートというシンプルだがかわいらしい服装だ。

 

「ほな、行こか……って、なんやのそのママチャリ」

「おれの愛車、ブラックイーグル号だ。はやく後ろに乗れ」

「どう見ても銀色なんやけど、そのネーミングはネタか? ネタなんやな」

 

 見事なセミアップハンドル、前にはカゴ、後ろにはダンボールなどを運ぶときに便利な荷台。そして、全体は鈍く銀色に輝くステンレス製。ミッドのホームセンターでイチキュッパで買ったおれの愛車だ。

 ちなみに、ミッドでは自転車の二人乗りは禁止されていないので問題はない。

 

「もうちょっと他に無かったん? 大型バイクとか」

「何を言ってるんだはやて。おれは免許を持っていない」

 

 地球はもちろん、ミッドでも自動車、自動二輪に乗る場合は免許が必要だ。しかし、おれは免許を取っていないので中距離の移動は決まってこのブラックイーグル号だ。

 

「まあええけどな」

 

 そう言ってはやてはクッションを巻き付けてある荷台にまたがり、おれの腰に手を回してくる。

 

「ほんなら、ミッドの市街地まで全速力や!」

「おっしゃ!」

 

 おれは三速しかないギアを巧みに使いながらミッドの市街地に向けて走り出した。


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