それが日常   作:はなみつき

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マリアージュ事件……
vividの前にそういうのもあるんですね。


保健室と小学生と75話

「うえーん!! 痛いよー!!」

「よしよし、泣かない泣かない。おっとこのこだろ」

 

 今日も今日とてはりきってお仕事をしている。ただし、今回のお仕事はいつものように管理局の施設で治療をしているわけではない。

 

「痛いの痛いの飛んでいけ~」

「わーん! ……ん? あれ? 痛くない? 痛くないよ!」

 

 今相手をしているのは日本で言えば小学生に当たる男の子だ。

 St.ヒルデ魔法学院。その初等科の保健室が今おれがいる場所である。

 St.ヒルデ魔法学院は巨大宗教団体、聖王教会系の学校なのだ。管理局でも大きな発言権を持つ聖王教会との関係を向上させるために管理局がおれを聖王教会に貸し出したのだ。協会に派遣されたおれは教会での上司であるカリム・グラシアさんにSt.ヒルデ魔法学院で保健室の先生をやるように頼まれた。

 ちなみに、このカリム・グラシアさんははやての友人でもあり、リインちゃんの製作にも協力してくれた人である。

 

「先生! ありがとうございました!」

「どういたしまして。また安心して怪我して来い」

 

 そう言い残して男子生徒は走って保健室を出て行ってしまった。うむ、やはり子供は元気が一番である。

 保健室と言う場所は人によっては縁のない場所であるが、怪我をした時や学校で発病してしまった子たちのために絶対必要な場所なのである。そんな大事な場所を預からせてもらっているので、おれは真面目に働いている。

 男子生徒が出て行って静かになったところだが、保健室にドアをたたく音が鳴り響く。再びの来訪者だろう。今は授業中でどこかのクラスが体育の授業をやっているらしく、保健室に来訪者が絶えない。一体どんな授業をやってるんだろう。

 

「おじさん、こんにちはー!」

「おじさんではない、お兄さんだ」

 

 そう、ここSt.ヒルデ魔法学院初等科にはヴィヴィオちゃんが通っているのだ。事件の後、ヴィヴィオちゃんの希望によって学校に通うこととなった。

 おじさんと呼ばれることは諦めてはいるが、無駄だろうとわかっていながらもお兄さんと呼ばせるのは止められない。

 

「失礼します、マサキ先生」

「おや、コロナちゃん。いらっしゃい」

 

 ヴィヴィオちゃんの次に入って来た子の名前はコロナ・ティミルちゃん。ヴィヴィオちゃんの親友でとても礼儀正しいいい子である。何より彼女はおれのことをおじさんと呼ばないしな!

 だが、彼女の名前の「コロナ」なのだが、かつておれが自動車学校で乗っていた車種がコロナだった。なので、心の古傷が……いやだ! もう路上は嫌なんだー! でも、スカさんにDホイール作ってもらうまでに二輪の免許取らないといけないなぁ……

 

「で、二人ともどうしたんだ? どこか怪我でもしたか?」

 

 ここは保健室。用がなくてくる場所ではないはずだ。まあ、中には仮病を使って保健室で授業をさぼるけしからん奴もいるが、彼女たちはそんなタイプではない。

 

「あ、そうだった。コロナがね、手首を捻挫しちゃったからおじさんに治してもらおうと思って」

「お願いします」

 

 どうやら今回の患者さんはコロナさんで、ヴィヴィオちゃんは付き添いだったようだ。

 

「捻挫か。それじゃ、捻挫した場所を出してください」

 

 コロナちゃんは右腕を差し出してくる。おれはコロナちゃんの右手首に触れて捻挫の治療に入る。

 

「そういえば、今君たちは何の授業をしてるんだ?」

「組体操です」

 

 おれの質問にコロナちゃんが答えてくれる。そうか、組体操か。それだったら今日の怪我人がやけに多いのも納得できる。組体操はかなり危険な種目だからな。

 

「今は帆掛け船って技をやってるよ!」

「帆掛け船!?」

 

 おれはヴィヴィオちゃんの補足に驚かずにはいられない。

 帆掛け船とは、二人組で行う組体操ものである。一人は膝を立てて仰向けになる。仰向けになった人はペアの肩を支える。そのペアは手を仰向けになっている人の膝の上に置く。その後、上になる人は仰向けになる人の上で倒立を行うのだ。この技、失敗すると上の人の頭が下の人の腹部にクリーンヒットする大変怖い技である。

 おれもやったことあるが、高校に入って初めてやった技である。そんな技を小学生がやるというのはどうなんだろう。

 だが、冷静に考えて見たら、おれの周りの小学生は9歳で魔法戦闘をしていたし、この世界の小学生は帆掛け船程度余裕なんだろうか……末恐ろしい子供たちやで……

 

「そろそろ痛くなくなったかな?」

「うーん、はい! ばっちりです!」

 

 コロナちゃんは手首を回して痛くないか確かめている。どうやらしっかり治ったようだ。

 

「そうだ二人とも、こっち向いて」

「ん? 何?」

「はい?」

 

 おれは机に置いていたカメラを手に取り、二人に向ける。

 

「いえい!」

「ピース!」

「Baby」

 

 二人がポーズをとったところでシャッターを押す。

 

「なのはさんに頼まれててね。ヴィヴィオちゃんの写真を撮って来てくれって。もちろん、後でコロナちゃんにもあげるね」

「ありがとうございます!」

 

 まったくなのはさんも困った人だ。自分の子供に対して厳しく躾ながらも、愛情たっぷりの親ばかである。

 

「それじゃあ、私たちは授業に戻るね。バイバーイ、おじさーん!」

「ありがとうございました! 失礼します!」

「おじさんではなーい」

 

 おれの反論は空しく保健室に響くだけで、さっさと出て行ってしまったヴィヴィオちゃんには届かなかったことだろう。

 

 まあヴィヴィオちゃんのことは置いておいて、やはり小学生の女の子は可愛いな。今が一番素直でお父さんとしては楽しい時期だろう。おれは残念ながら子供は居ないのでその気持ちは分からない。しかし、この職場で少なからずその気持ちの一端を味わえた気がする。

 だけど、このまま成長して中学生くらいになると「お父さんの服と一緒に洗濯するの嫌!」とか言われるようになるんだろうなぁ……やっぱり、女子小学生はかわいいな。

 

 まったく、小学生は……

 

 コンコン

 

 おれが他愛もない事を考えていると、再びドアを叩く音が聞こえた。やれやれ、やはり今日は患者が多いな。

 

「入るでー、ハムテルくん」

「え? はやて? なんでここに?」

 

 なんとはやてだった。ここはSt.ヒルデ魔法学院初等科の保健室。まさか……

 

「はやて……まさかもう一回小学生を……やるのか? 流石にその身長じゃ無理があるだろ」

「んなわけあるかい。ちゅうか、そう言う問題やないやろ」

 

 初等科の制服着たはやて……十年前ならぴったりだったかもな。

 

「カリムにハムテルくんが初等科の学校で働いとるって聞いてな? 私はハムテルくんの仕事ぶりを見に来たんや。私の予想やと、そろそろ女子小学生の良さに気が付いて「まったく、小学生は最高だぜ!! 」とか考え出す頃やと思ったから来たんや」

 

 ……は、はは……そんなまさか……はは……

 

「ソンナワケ、ナイジャナイカー。ハハハ」

「ほんま、昔から分かり易いやっちゃな」

 

 なん……だと……

 

「とにかく、流石に小学生はあかんで? 私も身内から性犯罪者は出したくないからな」

「当たり前だよ!」

 

 全く、恐ろしいことを考えるようになったものだ。はやても小さかった頃はもっと素直でかわいい子だったような気がするんだがな。

 

「ほんなら、私は帰るわ。今日の夕飯はカレーやで」

「よーし、頑張って働くぞー!」

 

 おれはカレーが大好きだあああああぁぁぁぁ!!

 

 はやてが帰った後も怪我をした生徒たちが何人か来たが、全員全力全開にして今日の職務を全うした。

 

 もちろん、はやてのカレーは言うまでもなくギガウマである。




結論:まったく、小学生は最高だぜ!!

追記
後書きの結論が「まったく、小学生は生が最高だぜ!!」に見えなくもなかったのを修正。

酷い誤字を見た。

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