それが日常   作:はなみつき

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リインさんとユニゾンした理由は特にない。
強いて理由を挙げれば最近しゃべって無かった気がしたから。


自然とハーレムと76話

 おれは草木が青々と茂っている森の真ん中に立ち、耳を澄ます。静かにしていると、今まで気にしていなかった自然の音が聞こえる。

 

 耳元を通り過ぎる風の音。

 風に揺られる枝の音。

 風に揺られて葉同士が擦れる音。

 鳥の甲高い鳴き声。

 虫のか細い鳴き声。

 竜の体全身がビリビリするような鳴き声。

 そして、腹の虫の鳴き声。

 

「腹が減ったな。飯にしよう」

(黙って立っていれば絵になっていたのに、その一言で台無しだな)

 

 おれの何気ない呟きに突っ込んでくるリインさん。今日は珍しく仕事以外でリインさんとユニゾンしている。

 本来なら、おれがリインさんとユニゾンするのははやてが動くことが出来ず、かつ人手がどうしても足りない時か、おれが先天的に体にハンデを持って居る人の治療をする時だけだ。

 では、何故今日は特に理由もなくリインさんとユニゾンしているのか? それには色々と事情があるのだ。

 

「しかし、まさかはやての病気が再発するとはな」

(……思い出させないでくれ)

 

 ああ、別にはやての足がまた動かなくなったという訳ではないので心配はいらない。はやての病気……それは……

 

「で、感想は?」

(相変わらずの指使いだったとだけ)

 

 乳揉みである。

 そう、乳揉みである。はやての乳揉み癖は中学の時にピークを迎え、時間が経つにつれて他人の乳を揉みしだくようなことをすることは少なくなった。少なくとも人前では。

 六課での役目を終えたはやては再び海と陸を渡り歩きながら、密輸物や違法魔導師関連の捜査指揮に取り組み始めた。それだけなら、六課で部隊長をやる以前と変わらない。だが、大きな事件を解決した部隊の部隊長であったはやての評価は爆上げ。それによって、今まで以上に管理局のお偉いさんと話す機会が増えて行ったのだ。

 それによって、はやてのストレスは有頂天。そこで、ストレスのはけ口を乳揉みに見出したと言う訳だ。

 

「はやても大変なんだ。一日くらいその胸貸したらいいのに」

(マサキ、君は勘違いをしている。私とて、主の心労を癒すためならいくらでもこの身を捧げるつもりだった)

「それなら……」

 

 そのはやて好みのおっぱいを差し出せ、と言おうとしたおれの台詞は遮られる。

 

(三日分だ)

「え?」

(今日までの四日間の内、主が私の胸を揉んでいた総時間は約72時間、三日分に相当する)

 

 ど、どんだけ……

 

(主が部屋で一人、仕事をしているときなどは、右手にペンを左手に胸をの状態だった。寝るときも私を抱き枕にしつつ揉んでいた)

 

 リインさんが言ったことが本当だとしたら流石にドン引きせざるを得ない。

 リインさんははやてのユニゾンデバイスであるという都合上基本的にいつもはやてと一緒に居る。そのせいでリインさんははやての主目標となり、揉まれまくったのだろう。

 

「家でリインさんやシグナムさんの胸が揉まれてたのは知ってたが、仕事場でもそんなだったとは思わなかった」

 

 おれもはやてが疲れた様子だったらしばしば疲労抜きをしていたが、やはりおれの能力は精神的な物に対してはあまり効果がないな。

 

「なるほどね。それならリインさんがおれにユニゾンしたくなるのもわかるわ」

 

 何故リインさんとおれがユニゾンをしているのか? それは、はやてに乳を揉まれ過ぎたリインさんは精神肉体共に限界を迎えたため、おれの中で回復するのを望んだからだ。

 

(主のユニゾンデバイスとして、とても情けないことだが……その……流石にもう限界でな……)

 

 よしよし、おれはリインさんの苦労を分かってあげるぞ。

 おれにユニゾンを頼んできたときの緊迫感はリインさんと初めて会って、助けを求められた時と似たものがあったからな。

 

「あれ? じゃあ今のはやてのストレスのはけ口は? リインさんが居ないとはやて発狂するんじゃね?」

(そこは問題ない。代わりに烈火の将に代理を頼んだ)

 

 シグナムさんは犠牲になったのだ……

 

「まあ、今日はおれの中でゆっくりしたらいいさ」

(うむ、そうさせてもらおう)

 

 そう言ってリインさんは眠ってしまったようだ。

 

「さて、じゃあおれも本題を済ませるとするかね」

 

 今おれがいる場所はミッドチルダでも地球でもない。何番目の世界だったかはちょっと忘れてしまったが、一般的に辺境世界と呼ばれる場所である。ここには、豊かな自然や珍しい動植物が多数生息している。そのため、管理局の外部組織である自然保護隊がそれらの自然や動植物の保護、各種の探索、密猟者対策等をしているのである。

 この部隊には現在キャロちゃんとエリオくんが所属している。その二人がおれに手伝ってほしいことがあるという事で、おれは今日この世界へ来ている。

 

「さっき竜の声が聞こえたからもうすぐ迎えが来るかな?」

「マサキせんせーい!」

「お久ぶりですー!」

 

 噂をすれば影。

 なにやら大きな影通り過ぎたと思ったら、件の二人の声が空の上から聞こえてきた。何の影かと思い見上げて見ると、そこには二人を乗せたでかい竜がいた。その竜の特徴を見るに、おそらくあの竜はフリードだろう。

 手綱を握ったエリオくんはフリードをおれの傍に着陸させ、二人は地上に降り立った。

 

「やあ、二人とも久しぶりだね。エリオくんは少し背が伸びたか?」

「そ、そうですか?」

 

 男子三日会わざれば刮目して見よと、言った所だろうか? いや、少し意味合いが違うか。それでも、やはりこの年頃の男の子と言うのは成長がとても早い。それに、エリオくんのことだから六課が解散してからも鍛錬は怠っていないだろうから、あながち間違いではないだろう。

 

「キャロちゃんもまた可愛く……いや、美人さんになったんじゃないか?」

「えぇ! えっと……ありがとうございます?」

 

 成長しているのはエリオくんだけではない。むしろ、この年頃の子は女の子の方が成長が早い。やはり、キャロちゃんもエリオくんに負けないくらい成長している。

 

「それに、フリードも大きくなったな?」

「それは何か違うような……」

 

 キャロちゃんが苦笑いしながら答えてくれる。そう、フリードの本当の姿はこのでかい竜の方なのだ。おれは見るのは今日が初めてなので、中々びっくりした。

 

「おーフリードー、よーしよしよしよし」

 

 小さいフリードにやっていた時の様にフリードをなで回すと、フリードも目を細めて気持ちよさそうにしている。ただ、そのでかいバージョンの低い声でゴロゴロ言われても怖いだけだ。

 

「あれ? 先生の瞳って赤色でしたっけ?」

「ああ、今はリインさんとユニゾンしてるんだ」

 

 おれの瞳の色の変化にエリオくんが目ざとく気付く。

 

「え? 先生がリインフォースさんとユニゾンを?」

「あー、うん。色々あってな。今リインさんは寝てるよ。申し訳ないけど、起こさないでやってくれ、死ぬほど疲れてるから……」

「? 分かりました」

 

 リインさんは本当に疲れてるんだ……

 

「それで、おれに手伝ってほしいことがあるとか」

「はい、今絶滅が危惧されている希少動物の個体調査をしてるんです。ですけど、その子はすっごい警戒心が強くて中々出て来てくれないんですよ」

 

 キャロちゃんの説明に合槌をしながら聞く。

 

「そこで、先生にはその子にこのチップを取り付けてほしんです」

 

 キャロちゃんの説明にエリオくんが補足の説明を入れる。なるほど、おれにしてほしいことは分かった。

 

「おーけーおーけー。おれのやることは分かった。で、それはどういう動物なんだ」

「この子です」

 

 おれはキャロちゃんからその目標が写った写真を受け取る。そこに映っている動物は簡単に言えば、銀色の狼だ。遠くから取った写真のようだから写りはあまり良くないが、なかなかかっこいい奴だという事は分かる。

 

「よし、お兄さんに任せなさい!」

「「ありがとうございます!」」

 

 そんじゃま、二人の頼みを遂行しましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 キャロちゃん、エリオくんと別れて一時間ほど経っただろうか。

 

「これは……所謂ハーレムと言う奴じゃなかろうか?」

 

 おれが背をもたれているのはかなりの大きさの熊のような動物。熊のような動物はおれの後ろで伏せの状態で、いつの間にか眠ってしまったようだ。

 右腕は狸のような動物をひじ掛けのようにして楽にしている。もちろん、右腕に体重は掛けていないし、右手で狸のような動物をワシャワシャするのを忘れない。

 左側は鷹のような動物がその羽をゆっくりと動かしておれに柔らかい風を送ってくれる。手持無沙汰な左手で鷹のような動物のお腹をなでなでしている。

 

「幸せなんだけど、何とも複雑な気分だ……」

 

 いや、モコモコに囲まれて幸せなんですけどね?

 

「と、どうやら本命のご登場だ」

 

 目の前の草むらが動いたと思ったら、そこから銀色の狼のような動物が現れた。

 

「ほーら、こっちにおいでー。こわくないよー」

 

 なんか、誘拐してる気分になるな……

 そんなことを考えながらも続けていると、狼のような動物はおれのすぐ傍まで近づいてくる。

 今だ!

 

「よーしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

 

 右手を狸のような動物から放してすかさず狼のような動物をなで回す。狼のような動物の注意が散漫になっている隙に、エリオくんから受け取ったチップを狼のような動物の毛に付ける。

 これでミッションコンプリートである。

 

「よしよし、良い子だな。それじゃ、おれはもう行くよ」

 

 そう言い残してエリオくん、キャロちゃんと合流することにした。

 

 

 

 

 

 

「おーい二人ともー。ミッションコンプリートだぜー!」

「あ、先生。お帰りなさ……いっ!?」

「お疲れ様です……って、えー!?」

 

 なんだか二人ともすごい驚いてるようだけど。何かあったのだろうか?

 

「「先生! 後ろ、後ろー!」」

「え? 後ろ?」

 

 二人に言われて後ろを振り返ると、さっきまで一緒に居た動物たちがついて来ていた。

 

「あらら……お前たちついてきちゃったのか」

「う、嘘……あの凶暴なゲフェーアリヒベーアとブルータルファルケが……」

「それに、フリーエンダクスとエングストリヒヴォルフが人前に……」

 

 ドイツ語だな。いや、確かベルカの言語がほとんどドイツ語と一緒だったからベルカ語か。危険グマに凶暴タカ、逃げタヌキに臆病オオカミって所か。

 え? なんでおれがドイツ語を知っているかって? あれは中学二年生、14歳の時だった……全ては語るまい……

 人生何が役に立つかわからないね。

 

「おう、みんないい子だぞ。そうだ、折角だから写真撮ろうぜ。カメラ持ってきてるから」

 

 おれは鞄からデジカメと超コンパクトに折りたたんでしまえる三脚を取り出してセッティングをする。

 

「フェイトさんに二人の写真を頼まれてるんだよ。ほらほら、みんなそこに集まって」

 

 おれの指示を受けて動物たちは二人を中心にするようにして集まる。

 

「それじゃあ撮るよ。はい、笑ってー」

 

 おれの合図に合わせてエリオくんとキャロちゃんはにっこりと笑う。うむ、良い笑顔だ。取り直す必要はないだろう。

 今度はカメラのタイマーをセットして、おれも二人の横に立つ。

 

「はい! チーズ!」

 

 おれのタイミングとぴったり合うようにカメラが自動的にシャッターを切った。

 動物たちに囲まれてみんな笑顔で写ったいい写真を撮ることが出来た。

 その後は二人に挨拶をして、動物たちを一撫でしてからミッドへ帰った。

 

 

 後日、二人を写した写真をフェイトさんに渡すと、とても喜ぶと同時に私もその場にいたかったと言って残念がっていた。

 フェイトさんもなのはさんに負けず劣らずの親ばかである。

 




ドイツ語に突っ込んだら駄目ですよ?単語を適当にくっつけただけですから。

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