追記
インターミドルで賞金は出ないという指摘をいただき修正しました。
裏通りで黒づくめの腹ペコ少女を保護したおれは人目につかない場所を選びながら無事に家につくことが出来た。
「こちらハムテル。目標地点に到着……なんちて」
スニーキングミッションをするが如く行動していたため、気分は蛇だ。
「とはいえ、問題はここからだな」
家の中に入ればはやてを始め、ヴォルケンズの特にヴィータとシグナムが今のおれの状況に対して説明を求めてくるだろう。上手く伝えることができなければ、はやてに誘拐犯として管理局に突き出されかねない。とはいえ、あいつらとてちゃんと話せばわかってくれるはずだ。そう思うと気も楽になるってものだ。
おれはドアを開けるためにお姫様抱っこしていた少女を肩で俵を担ぐように担ぎ直し、片手をフリーにする。
「ただいまー」
「おかえりー」
リビングの方から聞こえてきたのははやての声。きっとまだダラダラと休日を楽しんでいることだろう。
おれは手を使わずに足だけで靴を脱ぎ、みんながいるリビングへと向かう。万が一のことを考え、おれは先手を取ることにする。
「みんな、ちょっと聞いてくれ」
リビングに集まっていたみんながこちらに注目する。
みんなが注目しているうちに、おれはさっき有ったことをみんなに説明しよう。
「さっ……」
「ヴィータ、判決は?」
「ギルティ」
「ちょっ!?」
ヴィータがおれに有罪判決を下してからのヴォルケンズの行動は早かった。いつの間にか後ろに回り込んでいたシグナムさんが肩に担いでいた少女を確保し、シャマルさんがおれにバインドを仕掛ける。狼状態のザフィーラさんが後ろからおれに突進することで、おれはバランスを崩しうつ伏せに倒される。最後にヴィータがおれの背中に乗って行動を封じる。
詰みである。
「弁護の機会すら無しかよ」
「まあ、せやな。確かにちょっといきなり過ぎたとは思うけどな。客観的にさっきのハムテルくんのことを見ると、『中学生? やろな……中学生をハイエースしてダンケダンケしようとする誘拐犯』そのものやったで」
い、言い逃れできない……そして、はやての使う隠語を理解できることが残念過ぎて困る。
「なあ? ハイエースしてダンケダンケするってどういう意味だ?」
「ヴィータは知らんでええんやで?」
「え? なんでだ? なあ、なんでだ? シグナム」
「私にもわからぬ」
ヴィータが他のヴォルケンズに意味を尋ねているが、皆首をかしげている。
どうやらヴォルケンズはこの意味わからないらしいな。わからなくていいよ、こんな意味。
すると、さっきまで静かにしていたドゥーエさんが立ちあがり、おれの方に歩いて近づいてくる。
「同志マサキ……」
「な、なんだよ」
なんだ? おれに何を言う気だ。
「その……マサキがどんな趣味嗜好であろうと、同志マサキは私の同志だからな?」
「やめて! そんな、『君がどんな人であろうと私たち友達だよ』みたいに優しく言わないで! へこむから……」
ドゥーエさんの事だからおちゃらけた感じで弄って来ると思っていたので想定外だ!
「んん……なんや……ここ? どこや?」
「む? 目を覚ましたか。安心して良い、もう大丈夫だぞ」
「?」
おれ達がぎゃーぎゃー騒いでいた所為だろうか、おれが連れてきた少女が目を覚ましたようだ。そして、シグナムさん。その言い方は誠に遺憾である。
☆
「ハムッ……ハムハムハムッ……」
「ゆっくり食べるんやで」
少女のお腹減った発言を聞いたはやては状況を理解してくれたようで、すぐに作ることでが出来る簡単な料理を作ってくれた。メニューは炒飯だ。
「美味しい……ほんまに美味しいです!」
「そうか? そう言ってもらえると嬉しいわ」
腹ペコ少女とはやてはどうやら打ち解けたようで、良い雰囲気で話している。そう言えば、腹ペコ少女の話し方は、はやての関西弁特有のイントネーションの影響を受けたミッドチルダ語とよく似ている。それもあって、シンパシーを感じているのだろうか?
「まったく……みんなが話聞かないからえらい目に遇ったぜ……」
「すまなかったな、疑ってしまって」
腹ペコ少女が目を覚ましてから彼女の証言と共におれが説明することによってヴォルケンズとドゥーエさんは納得してくれた。
おれ、なんでこんなに信用されていないのだろうか……それとも近い人に対する時特有の軽い冗談なのだろうか? そうだと信じたい。
「仕方ないからヴィータの分のおいしい棒はおれによってボッシュートです。シャクシャクシャク」
「あー! 私のおいしい棒! この野郎! なんで私だけ!」
ヴィータはおれの首元を掴んでグワングワン揺らしてくるが、気にせず口に含まれた二本のおいしい棒を噛み続ける。
親しいが故の軽い冗談……さ。
「……楽しそうなご家族ですね」
「そうやろ? 自慢の家族やで」
はやて、その言葉信じていいんだな? 疑わしきは罰せよの理念で罰せられたおれもその中に含まれているって信じていいんだよね!
「ところで、フードは取らんの? 食べづらない?」
「あ、すんません! 失礼しました」
そう言えば、少女は今までジャージのフードをしっぱなしだな。
腹ペコ少女がフードを外すと、その中から立派なツインテールと可愛い顔が露わになる。そのツインテールはどうやってしまっていたんだ……ん? いや、そんなことよりこの娘……
「あ」
「あっ!」
「あー!」
それは、さっきまでテレビでインターミドル・チャンピオンシップを熱心に見ていたおれ、はやて、ヴィータの声である。
「「「チャンピオン!」」」
「えっ……あ、あはは……」
今おれ達の目の前にいる腹ペコ少女は、腹ペコ少女改め十代女子の次元世界最強のエロいチャンピオン、ジークリンデ・エレミアちゃんだったのだ。
ジークリンデちゃんはおれ達の反応に恥ずかしそうにしている。……今の状況に恥ずかしがるような娘がよくあんなデザインのバリアジャケットを着て居られるな……
「あれ? でも十代女子限定とはいえ次元世界最強なら、色んな大会で優勝して賞金たくさんもろうとるんちゃうん? なんで行き倒れなんかに?」
「えっと……それは……あはは……」
ジークリンデちゃんは何とも微妙な表情をしながら笑ってごまかした。余り聞かれたいことではないのだろうか。
「まあ、それはええか。あ、私としたことが自己紹介がまだやったな。私は八神はやて。よろしゅうな」
「はい、よろしくおねがいします!」
はやても何かを察したようで、まだやっていなかった自己紹介をすることにしたようだ。
「ほんで、あっちにいるのが君を連れてきたハムテルくんこと公輝くん」
「よろしくね」
はやての紹介のバトンを受け取って挨拶する。
「この度は、どうもありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
ジークリンデちゃんはおれに対してお礼を言ってくれる。とても礼儀正しい娘のようだ。大変よろしい。
その後はヴォルケンズとドゥーエさんの紹介をしてから、おれがミルクティーをジークリンデちゃんに振る舞ってあげた。
幸せそうに飲んでもらえるとおれとしてもうれしい限りである。
☆
「ほんまにええんか? もう遅いからハムテルくんに送って行ってもろたらええのに」
「ええですええです! これ以上迷惑かけられませんから」
食後のデザートを食べ終わった頃には結構な時間になっていた。そのため、ジークリンデちゃんは家に帰ることになったので、おれも付き添って行こうとなったのだが、ジークリンデちゃんが遠慮して断ったのだ。
「
「確かに、次元世界最強と比べてもたら家のハムテルくんは大したことないわな」
「しょぼーん」
確かに正しいのだが、何となく傷つく。
「そうか? ほんならまあ、またお腹減ったら家に来たらええで。いっぱい食べさせたるから」
「え……でも……」
「また倒れとってハムテルくんが見つけた時、また上手いことジークリンデちゃんを家に連れ込めるとは限らんしな。途中で局員にでも見つかったら面倒やし」
本当にな……ジークリンデちゃんを運んでる時の緊張感と言ったらそれはもうすごかった。スニーキングごっこをして気を紛らわせないとやってられないくらいに。
「おれも君が来るのは大歓迎だよ」
「また来てええんですか?」
「もちろんや!」
ジークリンデちゃんとまた来るという約束を交わし、今日の所はこれでお開きとなった。
ジークリンデちゃんが帰ってからしばらくして、はやてがこんなことを言ってきた。
「普通人が倒れ取ったら自分の家やのうて、病院とか警察、ミッドやと管理局とかに連れて行くやろ」
「……ハッ」
普段人を助けるときおれだけで物事が完結していたからそういう施設を利用するという考え全くなかった。今度から困った時はそうしよう。自分からそれらの施設に行けば気を失った人を担いでいても何の不思議もないしな。
そんなことを考えながらも、今日の出会いも何かの縁だろうと思う。
そんなこんなで休日は終わった。
はやてのジークの呼び方を教えて頂けたら作者は嬉しいです。
今回は初対面だからこれでいいこととします。