それが日常   作:はなみつき

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SSX聞きました。
聞いた結果、どう自分の小説に組み込めばいいか思いつかなかったのでカット!
想像以上にシリアスだった……


覇王とアヘ顔と81話

 時の流れが早く感じるようになったのは歳を取ったせいだろうか? いつもと変わらない日常を過ごしているだけでさっさと一年が過ぎていく。今年は新暦0079年、JS事件から四年もの時間が経ったことになる。

 そういえば、おれが長期出張で別の世界に行っている間にマリアージュ事件という物が起こっていたそうで、中々大変だったみたいだ。マリアージュと言う人型兵器が殺人事件を起こしまくったり、黒幕がティアナさんの補佐官だったり、マリアージュの製作者の少女は実は良い娘だったり。

 その女の子は事件の後、深い眠りについてしまい、いつ目を覚ますかわからない状態になってしまったそうだ。なんでも、不完全な目覚め方をしたため機能不全に陥り、そのせいで活動し続けることが出来くなってしまったとか。彼女がまだ起きる事が出来たうちにおれが何とかしてやれば、彼女は今も元気にしていたのかと思うと非常に残念だ。こんなときに限って月単位の出張が入るのだから困ったものだ。これがなければ、ヴィータに「お前は大事な時にいつもいないな」なんて言われなくて済んだだのに。

 

「しっかし、天気予報は当てにならないな」

「まあ、ええやん? 備えあればなんとやらって言うしな」

 

 今日も今日とて管理局で仕事をこなして家へ帰る途中だ。途中で偶然帰宅途中のはやてと出会い、一緒に家へ向かっている所だ。

 

「確かに、雨が今にも降りそうな空模様だったらおれも許せる。しかし、雲一つない程の快晴になると、持ってる傘が何とも物悲しいじゃないか」

「わからへんでもないけど、しゃーないって。予報はどこまで行っても予報やで」

 

 今日の朝のニュースのお天気キャスターは「午後から大雨、傘必須」と言っていた。しかし、何のことは無い。実際は雨が降る様子など微塵もなかった。ミッドの街を歩いてるほとんどの人は傘を持ってなかったことを考えると、あのテレビ局の天気予報士は解雇した方が良いな。

 

「まあいいか。今日の晩御飯は?」

「今日はハンバーグやで」

 

 よっしゃ! ハンバーグは二番目に好きな料理だからとてもうれしい。とてもうれしい。とてもうれしい!

 

「23にもなってその喜び方はどうなん?」

「つい、喜びが体からにじみ出てしまったよ」

 

 人通りの少ない細い道とは言え、公共の場で踊りだすのはやり過ぎたか。でも最近は学校でダンスを習うほどダンスで表現する能力が必要らしいから別に良いんじゃないかな?

 ……そう言えば、おれももう23歳か……そろそろ結婚を……いや、その前に彼女を作らないと……

 そんなことを考えて、自然と白目になるおれを誰が責められようか。責める奴は爆発すべき。

 

「管理局のマサキ・サカウエさんとお見受けします」

「なんだ?」

 

 白目になりながら歩いていると、突然声を掛けられた。声の持ち主はおれ達の前方に立っている。

 おれもはやても会話に意識を割き、光源はポツポツある街灯と月明かりだけで薄暗いということもあり、前にいる相手に声を掛けられるまで気が付かなかった。

 

「貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が」

「なんです?」

 

 話している相手に意識を向ける。声の様子から女性で間違いないだろう。バイザーを装着しているため、顔は分からないが、身長から察するに10代~20代、もしくは30代~40代、または50代以上の女性だろう。

 

「聖王オリヴィエの複製体と、冥府の炎王イクスヴェリア。貴方は、2人の所在をご存知ですか?」

 

 聖王オリヴィエの複製体? それってヴィヴィオちゃんのこと……で、良いんだっけ? 確かそんな話を聞いたような気がする。覚えてない。それでもって冥府の炎王なんて言う中二病的二つ名は知らないが、イクスヴェリアの名前は知っている。イクスヴェリアはさっき話した眠ってしまった女の子の名前だ。彼女は今聖王教会に保護されているはずだ。

 

「ああ、イクスちゃんなら、せ……」

「そんな人等の居場所なんて知らへんで」

 

 おれがヴァイザーの娘に質問の答えを返そうとしたところ、はやてがおれの言葉を遮る。

 

(ハムテルくん、たぶんアレは最近話題の通り魔や)

(通り魔? それは穏やかじゃないな)

(そんな奴に教えることは無いで)

 

 はやてがおれの言葉を遮った理由を念話を使って教えてくれる。確かに、そんな奴にわざわざ欲している情報を与える必要はないな。

 

「……サカウエさん、それは本当ですか?」

「オ、オウ。シラナイゾ」

「……」

 

 バイザーの人はおれのことを見つめてくる。バイザーによって目線は分からないが、すごい疑った目でこっちを見てる気がする。大丈夫だろうか?

 

「……そうですか。では、この件については他を当たることにして、もう1つ確かめたいことが」

 

 お! なんとか誤魔化せたっぽいぞ。そして、彼女はもう一つ知りたいことがあるそうだ。何であろうと答える気はないぞ!

 

「あなたの拳と私の拳。いったいどちらが強いのかです」

 

 ……何?

 

「あなたは医務官でありながら、武装局員が捕まえることが出来なかった犯罪者を無傷で取り押さえたという話を聞きました。そんな芸当ができると言うことは、あなたは格闘技の相当な使い手なのでは?」

 

 なるほど。おれが武装局員が手間取った犯罪者を無傷で取り押さえたという事実は確かにある。しかし、それはリインさんとユニゾンし、体の操作をリインさんに全て任せていた時である。つまり、本当の使い手はリインさんである。

 ここは丁重にお断りしよう。

 

「おこと……」

「流石名だたる格闘家相手に喧嘩を売りまくっとる通り魔やな! そう、何を隠そう、ここにおるハムテルくんはストライクアーツの派生武術、ストリートアーツの使い手や」

「ストリートアーツ……それは一体……」

 

 おいィ? 何ではやてが話進めてるんだ! そして、バイザーの人もはやての言葉を信じて話を進めるんじゃないよ!

 

「ストリートアーツ……それは街中やここみたいな細い道で最大の力を発揮する武術。その場に落ちているあらゆるものを利用し、傘を利用した剣術を得意とする武術や」

「なるほど……それで、こんな晴れた日でも傘を持っているのですね」

 

 傘を持ってるのはそんな理由があってじゃないよ……

 バイザーの人ははやての適当な設定に対して得心が言ったといった風にうなずいている。

 ちらっと見えたはやての顔。それはにやけ顔。はやての奴……通り魔は通り魔でも凶悪な犯罪者じゃないってことを知ってたな。おそらくバイザーの人は格闘家経験者に対してゲリラ的に試合を申し込んでいるのだろう。確かに通り魔的ではあるが、所謂通り魔と言う訳ではない。

 そんな相手を使ってはやてはおれを遊んでやがる。

 

「バイザーの人よ。こいつが言ってることはほとんど嘘だぞ」

「え! 嘘なのですか?」

 

 この人……すごい素直だ。詐欺とかに遭わないか心配になるレベル。

 

「あ、名前……失礼しました。私はカイザーアーツ正統。ハイディ・E・S・イングヴァルト。覇王と名乗らせて頂いてます」

 

 バイザーの人改め、イングヴァルトさんはバイザーを外して自己紹介をする。素性を隠すためのバイザーじゃなかったのか……仮面の下は若い女性。おそらく16~20歳といったところだろうか。

 ていうか覇王を自称するとはなかなか気合の入った中二病だな。まあ、それはどうでもいいか。

 

「おれの名前はご存知の通りマサキ・サカウエ。医務官なのに犯罪者を取り押さえたのも間違いじゃない」

「それでは……」

 

 イングヴァルトさんが言い切る前にしっかりと補足を加える。はやてに何も言わないように目で伝えることも忘れない。

 

「だがしかし、今は訳あって当時のようなことは出来ない。君の望むような戦いをしたらおれは負ける自信がある。そこで、一つ提案があるのだが」

「提案ですか」

 

 イングヴァルトさんがただの犯罪者だったならはやてに任せて殲滅してもらうのだが、なんだか残念な感じがする人なのでちょっとサービスしてあげることにした。

 

「犯罪者達を沈めてきた技なら今のおれでも使える。それを君が耐えることが出来たら君の勝ち。出来なければ君の負けと言うのはどうだろうか?」

 

 よくある力試しみたいなものだ。

 

「君の知っている通り、この技は殴る蹴るのようなものじゃないから怪我の心配はしなくていい。ただ、そこに立って何かされるという心持ちでいれば良い。簡単だろ?」

「……なるほど、とても興味深いです。相手の一撃を受けきることも時には必要でしょう。分かりました。その勝負受けます」

 

 どうやらイングヴァルトさんは勝負を受けることにしたようだ。一体彼女は何のためにこんなことをしているのだろう?

 まあ、それは今関係ないな。とりあえず、彼女にはおれの全力を受けてもらうことにしよう。

 おれはイングヴァルトさんに手が届く位置まで歩いて近づく。

 

「心の準備は良いか?」

「いつでも来てください」

 

 ふっ、この勝負を受けたことを後悔すると同時に、感謝するが良い! 体力全快にしてやるよ!

 

「行くぞ!」

「ッ!」

 

 おれがそう言うと、イングヴァルトさんは身を固くする。

 おれはぶらんと下げていた右手をゆっくりと挙げる。

 その右手をイングヴァルトさんの頭部へ持って行く。

 

「ふぇ!?」

 

 突然頭に手を乗せられて驚いたような声を挙げるイングヴァルトさん。だが、まだまだこれからだ!

 

「ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ」

「えっ! あっ……あふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁ」

 

 全ての神経を右手の掌に集中させ、紙やすりを使って角材を丸くするが如く掌をこする。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

 擦る。擦る。擦る。

 今まで一番多く擦っている気がする。NPS(Nadenade Per Second)が史上最高だ。

 10秒だろうか、20秒だろうか。おれはイングヴァルトさんの頭をひたすらなでなでしまくる。

 

「とりゃあああああああああ!!」

「ハムテルくん」

 

 イングヴァルトさんの頭を撫でまくっていると、はやてがおれに声を掛けてくる。

 

「もうその人意識無いで」

「え?」

 

 その言葉に驚いて手を止めると、イングヴァルトさんは膝から崩れ落ちる様にして倒れ込む。膝を地面に着けると、耐え切れなくなったのかそのまま仰向け状態になる。

 イングヴァルトさんの顔は赤くなっており、目は虚ろ、口は半開き状態。体は痙攣してビクンビクンしている。これは……

 

「ハムテルくんが女性をアヘ顔にしよった」

「いや! 待って! 言い訳をさせてほしい!」

 

 久しぶりで加減が出来なかったんだ! 本当にごめんなさい!

 女性をアヘ顔にしてしまうという驚きの事態に陥り、オロオロしていると、イングヴァルトさんが突然輝きだした。

 

「なんや!」

「うおっまぶしっ」

 

 イングヴァルトさんを光源とする光が収まってから、何があったのか確認する。

 

「……」

「……」

 

 そこにはイングヴァルトさんが相変わらず倒れている。碧銀の髪に、右が紫で左が青の虹彩異色の瞳はイングヴァルトさんのものと同じものだ。ただ、一つだけ変わったことがある。

 

「小さい」

「小さいな」

 

 イングヴァルトさんの身長が大幅に縮み、大人びていた顔は子供っぽいものになっている。ギリギリ小学生か中学生と言った所だろうか。

 イングヴァルトさんの変化は年齢のみ。他に変わったところはない。つまり、それは……

 

「ハムテルくんが少女をアヘ顔にしよった」

「これは……言い逃れできないッ」

 

 そこに居るのはアヘ顔状態の少女だった。


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