追記
自動車学校で二輪免許を取るために路上教習は無いと教えて頂きました。ああ、恥ずかし。
ま、公輝くんはミッドの車校に通ってるから(小声)
ほら、ミッドでは仮免でも一人で公道を運転できて、教官は魔法を使って危険があった時対処してるんですよ(震え声)
「はやて……世界がおれを殺しに来ているよ……」
「ほう、とうとう機関に狙われてしもたか」
ある日の昼下がり、おれは家へ帰ってそうそうこたつに入ってうなだれる。そして、そんなことを言うおれにはやてが突っ込む。しかし、はやてはどんだけおれを患者にさせたいんだ。この間のストラトスちゃんじゃあるまいし。
「今日、車校で二輪免許の卒検だったんだけどさ」
「うん」
車校とは自動車学校のことだ。おれはスカさんがいずれ完成さしてくれるであろうDホイールを乗りこなすために、免許取得を目指して暇があれば車校に通っていたのだ。今日はその練習の成果を試す卒業試験、つまり卒検の日だった。
「路上教習の時は何の問題も無く順調だったのに、今日という日に限ってばあちゃんが飛び出して来てもう少しで引きそうになったんだよ」
「はー、そりゃ危ないな」
「それが危険行為で一発失格ですよ」
「そりゃ災難やったな。やけど、偶々やろ? また受けたらええやん」
どうやらはやてはただ単におれの運が無かっただけだと思っているようだ。確かに、これだけだったらおれも特に気にしてはいなかっただろう。
「今日で卒検受けるの四回目なんだよなぁ」
「落ちすぎやろ」
自分でもそう思う。
「毎回じいちゃんかばあちゃんが突然飛び出して来てそこで失格なんだよ。これは車校とじいちゃんばあちゃんがグルで、生徒から受験料を巻き上げているに違いない」
こういう話はネット掲示板でよく聞く話だ。試験を受ける前に教官に菓子折を渡しておかないと不自然な老人の飛び出しで試験不合格になるという。
「そんなんハムテルくんが教官さんに黄金色のお菓子わたさへんかったからやん」
「えっ……」
え? 嘘だろ? そんなことがまかり通っているのか? 流石にネタだと思っていたけど、管理局でそこそこの地位に居るはやてが言うと洒落にならないぞ。ミッドで自動車免許を交付しているのは管理局だから、はやてが言うんだったらまさか……
「嘘や! 嘘。流石にそんなんある訳ないやろ」
「だ、だよな! うん、そんなことあっちゃいけないよな」
あー、びっくりした。
「少なくとも私が知っとる限りではな」
「えっ」
それは、可能性はない事はないかもしれないという事なのか。
「まあ、仮に車校とじっちゃんばっちゃんがグルやったとして、それはこれから自分一人だけで車やバイクを運転せなあかん初心者ドライバーが予期せぬ出来事に冷静に対処できるように、じっちゃんばっちゃん達が体を張って教えてくれとるんや」
「そうなのか……?」
じゃあ、まあ……そう言うことにしておくか……
あそこで突然飛び出してくるじいちゃんとばあちゃんに対して冷静に対処する、いや、飛び出すことすらも予測し、あらかじめ止まるくらいできるようになって初めてドライバーになる資格が手に入るのか。うーむ、Dホイーラーへの道のりは長い。
「あ、そうや。Dホイールで思いだしたわ」
はやてがそう言ったかと思うと、どこかへ行き、すぐに戻って来た。その手にあるのは
「お! 決闘盤じゃないか! やっと管理局から返却されたんだな」
「そういうこと」
決闘盤はスカさんからおれが貰った物であったが、あの事件の直後管理局に没収されていたのだ。スカさん謹製の何かと言うこともあって、管理局に今の今まで取り上げられていた。それが今日ようやっとおれの手元に戻って来た。
「管理局としては、「盤上に置いた何かを読み取ってそのソリッドビジョンを投影するだけの物。中の記憶領域には信じられへん数のAIの感情データが保存されとるだけで、特に危険性はないだろうから返却を許可する」やて。どうも、このAIを一つ一つ精査したからえらい時間が掛かったみたいやな」
「それはご苦労なことだ」
しかし、決闘盤の有用性を正しく理解できないとは、管理局もまだまだだな。まあ、遊戯王というカードゲームが流行っているわけでもないミッドでそれは仕方のない事だが。
「よし、それなら早速これで遊ぶとしようじゃないか!」
「わくわく」
どうやらはやても決闘盤に興味があるらしい。流石は一流の
おれははやてから受け取った決闘盤を左腕に装着し、腰に付けたデッキケースからおれの魂の分身たるデッキを決闘盤に差し込む。
え? 何でデッキを常に身に着けているかだって? いくらおれがカード手裏剣すら満足に使いこなせない二流の決闘者とは言え、これくらいの心得はデュエリストとして当然さ。同じようにはやてとヴィヴィオちゃんもいつも身に着けている。
「決闘盤をメンテナンスモードで起動!」
メンテナンスモードは使用者がモンスターの召喚条件や発動条件を無視してモンスターを召喚したり、魔法や罠カードを発動したりするモードだ。このモードの目的はその名の通り、決闘盤が正常に動作するかを確かめるための物。
山札から引いた五枚のカードの中にいた、この場にふさわしいカードを決闘盤の盤面にあるカードを収める五つの枠の内の一つに叩きつける。もちろん、カードを傷めないように紳士的にだ。
「ブラック・マジシャン・ガールを召喚!!」
「おー!」
カードの名前を宣言すると、決闘盤はカードの絵柄を読み込む電子音を鳴らし、ソリッドビジョンシステムを司る部分の機械が唸りをあげる。
目の前に魔法陣が出現し、その場所にソリッドビジョンの像が結ばれて行く。
ウィンクを一つして現れたのは、時代を先取りした魔法使いの帽子を被り、魔法使いのステッキを持ち、中々際どい衣装を着た金髪の魔法少女。
「すごいぞーカッコイイぞー!!」
「ブラック・マジシャン・ガールキター!!」
目の前にアニメや漫画で見たブラック・マジシャン・ガールがそのまま表れておれとはやてのテンションが上がりまくる。
「あ! マスター! はじめまして!」
素晴らしい笑顔でおれのことをマスターと言ってくれるブラック・マジシャン・ガール。
素晴らしい……これは素晴らしいな……
「ん? もしかして、これってカードの精霊を再現しとるんか?」
「その通り。流石はやて」
遊戯王には大切にされたカードには精霊が宿るという伝説がある。決闘者ならば一度は自分のデッキのお気に入りカードに精霊が宿っており、その精霊と面白おかしく楽しむという妄想をしたことがきっとあるだろう。その妄想をこのスカさん印の決闘盤は完全再現しているのだ。
「ははーん、決闘盤に記録されとる謎の大量のAIはそれぞれカードの精霊の人格に対応しとるんやな。そういえば声もアニメの声と同じやな」
はやての言う通り、大量のAIはカードの精霊の人格を再現するもの。決闘盤の製作をスカさんに依頼した時、同時に現在発売されている遊戯王のDVDを全巻プレゼントしてあげた。そこからアニメで精霊として登場したカードの人格を参考にし、また声もそこからサンプリングして用いているのだろう。ちなみに、アニメで精霊として描かれていないカードは、全てではないがスカさんの独断と偏見によって精霊化されている。
これは余談だが、決闘盤の開発に年単位の時間が掛かったのはスカさんが原作を全て見たり、大量の人格を作成したり、オリジナルの精霊の声をサンプリングするために色んなジャパニメーションを見ていたらはまってしまって色々なアニメに手を出したからだったりする。
「うん、こっちこそよろしく。ブラック・マジシャン・ガール」
「はい!」
スカさんに渡された仕様書によると、この決闘盤には年季システムという物が搭載されている。カードの印刷に使われているインクの劣化具合や表面の傷の具合などを読み取り、そのカードがどれだけ使われているかを判別する。それによって、よく使いこまれていれば使いこまれているほど、カードのAIはそのマスターに対してより大きな信頼を寄せるのだ。このシステムによって、よりカードの精霊を再現している。
「それにしても、ほんまにリアルやな。特におっぱいなんかごっつええ感じや」
「ど、どこ見てるんですかー!」
衣装の性質上がっつりと見えている大きな胸によってできる大きな谷間を隠すようにして腕で隠すブラック・マジシャン・ガール。その素晴らしい眺めを何とかしてみようとするはやて。
「その辺のことは完全再現するようにってスカさんに頼んだからな」
「ちょっとマスター! 何してるんですかー!」
仰向けになってブラック・マジシャン・ガールのスカートの中を覗こうとしていたおれ。そんなおれに気付いて恥ずかしそうな声を出しながら足を閉じて、スカートを押えるブラック・マジシャン・ガール。
チッ、はやてが良い感じにブラック・マジシャン・ガールの気を引きつけて居たから、もうちょっとで見えそうだったのに。何がって? もちろんヴァルハラですよ。
「ふっふっふ……スカさんのソリッドビジョンは完璧だ……」
おれは意味が無くなった仰向け状態をやめ、立ちあがる。
ところで、今行っているメンテナンスモードは決闘盤が正常に動作するか確かめるためのモード。しかし、それはただの口実。実際は使用者が目的のカードのソリッドビジョンをよく観察(意味深)するための物だ。
そして、カードのAIは使用者をマスターとし、その命令は通常のデバイスと同じように遂行してくれる。つまり……
「ブラック・マジシャン・ガール……」
「はい?」
こんなこともできるってわけだ!!
おれは高らかにある命令を宣言する。
「君のパンツを見せるのだ!」
「え? 嫌ですよ」
……
「そりゃ、リアルの女の子やったらそういう反応するやろな」
おれの足は力を失い、崩れてしまう。
膝をついて四つん這いになる。
そして、思わずこう呟いた。
「こんなはずじゃ……」
「世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりなんやで」
はやての言葉がおれの体を貫いた気がした。
その後、同じ決闘者であるヴィヴィオちゃんを家に呼んで、おれ、はやて、ヴィヴィオちゃんの三人でダイナミックな決闘を楽しんだのだった。
私も霊使いといちゃいちゃしたーい。
ダルクは……まあ、うん。