それが日常   作:はなみつき

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みなさん、メリーよいお年を明けまして今年もよろしくお願いいたします。
今年もぐでーっとまったり行きましょう。


vivid
雷帝と執事見習いと84話


 ノーヴェさんが最近話題の通り魔に襲われた。

 犯人の性別は女。特徴は碧銀の髪と右が紫で左が青の虹彩異色の瞳。バイザーで顔を隠していると思ったら何のためらいもなく外し、自身のことを覇王と称したそうだ。おれの推理が正しければ、きっとその犯人はアヘ顔の似合う人物だ。

 

「どう考えてもアインハルトちゃんです。本当にありがとうございました」

 

 やはりというかなんというか、おれ達がアインハルトちゃんにであった時に注意しなかったのはマズかっただろうか。きっとこれまでと同じように強そうな人に勝負を挑んだのだろう。全く……はやてにはもうちょっとしっかりして欲しいものだ! だって、おれがしっかりしてないからな。

 とは言え、その事件のすぐ後にアインハルトちゃんはティアナさんに保護され、管理局できっちりこってりお話をしたようだ。おそらくこれからアインハルトちゃんは通り魔なんてすることは無くなるだろう。彼女は真面目そうだから、人からの注意を無視するということは無さそうだし。

 そういえば、アインハルトちゃんとなんやかんやあって仲良くなったとヴィヴィオちゃんが嬉しそうに報告してくれたな。色々な共通点があるから二人はいい友達になることだろう。それはもうなのはさんとフェイトさんのような関係に……う、うーん……あの二人みたいにとなると……ちょっとユリっぽい関係に……胸が熱くなるなぁ。

 

「……ん?」

「ぅぅ……」

 

 今日も今日とて考え事をしながら歩いていると、河川敷で気持ちよさそうに昼寝をしているように見えて実は空腹に喘いでいる真っ黒い少女を見つけた。

 

「やあやあジークリンデちゃん。ちょっとその辺(家)でお茶でもどうだい?」

「行きます! 行きたい……けどもう一歩も……動けないん……よ……」

 

 ジークリンデちゃんはそう言ったかと思うと力尽きたかのようにピクリとも動かなくなった。

 腹ペコチャンピオンは今日もお腹がすいて力が出ないご様子。

 彼女とは今日みたいな感じに出会うことが稀に良くあるのだ。おれはそんなジークリンデちゃんを見つけるたびに家へお持ち帰りして餌付けを敢行している。おれの彼女に対する印象は猫みたいな女の子。そんな子に定期的に餌付けしていればいいことがあるかもしれないなんて考えてないぞ!

 

「そんじゃ、ま、行きますか。よっこいしょっと」

「あーうー……せめて、せめておんぶでー……」

 

 これまたいつもの通りにおれはジークリンデちゃんを俵持ちにする。腹ペコで力が入らないジークリンデちゃんをおんぶすると、すぐにずり落ちちゃうから面倒なんだよな。そこで、安定して、多少重いものでも楽に運ぶことが出来る俵持ちを採用したわけだ。流石に普通の抱っことかお姫様抱っこで街中を歩くのは中々キツイものがある。ジークリンデちゃんが幼女だったら抱っこでも大丈夫なんだが……まあ、この場合の欠点は誘拐だと思われたら一発でタイーホされるという事だ。

 その点、女の子を俵持ちにするのは不自然すぎて逆に怪しまれない! やはり俵持ちが至高だな!

 

「待ちなさい!」

 

 おれが自分の家へ向かおうとした時、後ろからそんな声を掛けられた。

 

「あなた、一体ジークをどうするつもり?」

 

 後ろを振り向くと、そこには金髪の長髪にリボンを付け、お嬢様然とした女性がそこに立っていた。

 

「ハッ! あなたまさか……誘拐犯ね!」

「んん?」

 

 誘拐? 誘拐だって!? まさかおれの近くでそんな事件が起こっているなんて! 大事件じゃないか! おれは金髪お嬢様が見ているであろう方向に目をやってみる。しかし、そこには河川敷の原っぱが広がるばかりで誘拐事件なんて起こってはいない。一体どういうことなのだろうか?

 

「あなたですわ! あなた!」

 

 金髪お嬢様が指をさしているのはおれ。

 えっ……おれ!

 そんなバカな。一体おれのどこをどう見れば誘拐犯なんだ! 女の子を俵持ちしているなんて「あ、こいつら友達なんだな」って逆に考えるだろ!

 ……逆に考えなければ普通に怪しいんだろうか。

 そして、今気付いた。ジークってジークリンデちゃんのことだったのか。なるほど納得。

 

「雷帝ダールグリュンの血をほんの少しだけ引いているこの私が、あなたを成敗して差し上げますわ!」

 

 雷……帝……だと!?

 覇王を自称する女の子の次は雷帝の子孫を自称する女の子か。どうもミッドチルダには中二病患っている子が沢山いるみたいだ。まさか……あのお嬢様っぽい格好と仕草も中二病発症に伴う発作なのか……

 なんだかそう思うと途端に可愛く見えてきたんだが。

 

「? 何を黙っていらっしゃるの? さあ、早くジークを離しなさい」

 

 そうなると、彼女の目から見るとおれは友人を誘拐しようとしている機関のエージェントに見えている訳だな? だから、誘拐なんて言う突飛な発想が出て来ているんだ。

 そうと分かれば、彼女のために話を合わせてあげようじゃないか。やはり、(中二病の)先輩として彼女に協力してあげようと思う。

 どれ、ちょっと付き合ってあげてジークリンデちゃんは彼女に渡してしまおう。

 

「ふっふっふ……この娘は頂いて行く。星の屑成就のために」

「なっ! まさか……あなたエレミアの神髄を狙って!」

 

 エレミアノシンズイ? いいねいいね。なんだか古代文明の財宝みたいな響だ。さしずめジークリンデちゃんはその財宝にたどり着くために必要なキーパーソンで様々な機関に狙われているのだろう。

 

「そうはさせませんわ! あなたを倒してジークを取り返す!」

 

 ふぅ。まあこんなもんだろう。そろそろお嬢様も満足しただろうし、ジークリンデちゃんを彼女に渡してしまおう。

 

「だが、今日の所は……」

「素直に渡さないというのなら……力づくで!」

「え゛っ」

 

 おれがジークリンデちゃんを引き渡そうとした瞬間、お嬢様はどこからか斧と槍を足したような武器を展開させてこちらに向けてくる。恐らくはデバイスだろう。

 

「消えッ!?」

 

 今の今までそこにいたはずのお嬢様がいつの間にか消えてしまったかと思うと、おれは後ろから首の辺りに衝撃を感じたのだった。

 

 

 

 

 

「あー痛かった」

 

 おれはどこぞのプロデューサーのごとく首を手でさする。

 

「一体マサキさんは何をしたかったん?」

 

 ジークリンデちゃんがおにぎりを食べながら半目でおれを睨んでくる。

 

「全く……本当に何を考えていらしたのかしら?」

 

 優雅にティーカップを傾けながらそう言うのはさっきおれが対峙していたお嬢様。名前はヴィクトーリア・ダールグリュン。

 ダールグリュンさんはお嬢様(カリ)ではなくお嬢様(ガチ)だったのだ。びっくりだよ。

 ダールグリュンさんに首を強打されておれは意識を失った……かの様に思われた。しかし、そこは流石のおれの能力。「あ~意識飛びそう」と、一瞬感じたとたんにそんなことは無かったとばかりに意識がはっきりした。もちろん、痛みも一瞬の内に消えてしまう。 

 しかし、突然の出来事に固まってしまうおれ。まさか何事もなかったかのように起き上がるとは思っておらず、思わず動きを止めてしまうダールグリュンさん。

 数秒のにらみ合いの末、ジークリンデちゃんが最後の力を振り絞って彼女におれのことを説明してくれて今に至る。ちなみに、現在はダールグリュンさんのお屋敷にお邪魔している。

 

「ははは……」

 

 不幸な行き違いって……あるよね……

 おれは二人のジト目を伴う追及を避けるために適当な笑みを浮かべながら出してもらった紅茶を一飲みする。

 

「ッ!!」

 

 その時、おれの体に電流が走る。

 

「ん? どうしたん、マサキさん?」

 

 ジークリンデちゃんはおれの様子がおかしいことに気が付いたのだろう。

 おれは紅茶を一口含んでからワナワナと震えている。

 

「こ……この紅茶を淹れたのは誰ですか!」

「私ですが」

 

 名乗りを上げたのはダ-ルグリュンさんの後ろに立って控えていた執事のエドガーさんだ。

 キッチンにいるであろうコックさんか、エドガーさんのどちらかが淹れたのだろうとは思っていたが。そうか、彼がこの紅茶を……

 ならば!

 

「エドガーさん! おれを弟子にしてください!」

「はい?」

 

 繊細で香り高いダージリンの王道の香り。

 秒単位で管理された蒸らし時間による薄すぎる事も無く、渋すぎる事も無い程よい風味。

 甘いのが苦手の人でも甘党の人でも美味しく飲むことが出来る具合の砂糖の量。

 シンプルだからこそ淹れ手の力量がはっきりと出るダージリンのストレート。

 ごちゃごちゃと言ってきたが、おれが言いたいのはただひとつ。

 うますぎる。

 そんな、今まで経験したことのない紅茶を飲んだおれはそう言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 その後、呆れた様子の女性陣を無視してエドガーさんに紅茶の淹れ方を教えてもらうために全力でお願いして、無事執事見習いとなったのだった。


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