それが日常   作:はなみつき

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この模擬戦の話、めっちゃ書きたかったけど着陸点が全く思いつかずに2年くらい悩んでました


模擬戦と逆転の女神と89話

「んが?」

 

 目覚め。二度目の人生を始めてからすっきりしない目覚めを経験したことがないのは密かな自慢だったりする。

 

「……今日の午前は自由行動だったな」

 

 おれは三日目の日程を思い出す。え? 二日目はどうしてたかって? おのれはやて、許さん。

 

 

 ☆

 

 

 合宿二日目

 

 

「公輝君? どこ行くの?」

「川釣りでもしようと思ってね」

 

 おれは手に持つ釣竿とバケツをなのはさんに見せつける。ここは自然豊かであり、近くを流れる川には多くの魚が生息していることは確認している。……昨日の少女たちによる遊び(水切り)に巻き込まれた魚たちには同情を禁じ得ない。

 

「え? これから陸戦試合だよ!」

「え? うん。それはまあ知ってるけど」

 

 陸戦試合(りくせんエキシビジョン)

 合宿参加者を2チームに分けてのチームバトル。相手チームを全滅させた方が勝ちの全力バトルだ。

 前回の合宿ではヴォルケンズ、リイン姉妹、アギトちゃんを全員引き連れたはやてチームが大暴れしたのを覚えている。戦闘要員ではないおれは当然参加していない。おれが生粋の武装局員たちがガチンコする戦場にノコノコ出て行ったら瞬ころである。

 

「今回は公輝君も出るんでしょ?」

「はい?」

 

 初耳だが。

 

「はやてちゃんが言ってたよ? 今回は公輝君も参加するからしごいてやってや、って」

「は~や~て~」

 

 ウインクしながら舌をペロっと出したはやてが脳裏を過る。

 

「おれが参加しても邪魔にしかならないでしょ」

「そんなことないよ! フェイトちゃんと一緒に公輝君の役割もちゃーんと考えたから!」

「えぇ……」

 

 おれが知らない間におれの予定が決められている。

 

「たまにはいいんじゃない? ね?」

「いい……のか?」

 

 う~ん、正直そんなとんでもない訓練に付き合いきれる気はしないが、折角なのはさんとフェイトさんが色々考えてくれたのに断るというのも気が引ける。なにより、なのはさんにそんな風に言われたら断れないじゃないか。

 

「んじゃ、ちょっと準備してくるわ」

「うん、待ってるね」

 

 そう言うとなのはさんは集合場所へと向かっていく。さてと、俺も準備してくるか。

 必要な道具を取りに部屋へと戻る。

 

「同志マサキ。どうされたのですか?」

「あ、ドゥーエさん」

 

 おれと一緒に釣りに行く予定だったドゥーエさんだ。涼しげな白いシャツにキャップをかぶって熱中症対策万全といった感じの釣り師の格好である。

 ……いい事考えたぞ。

 

 

 ☆

 

 

「えー……ルールは昨日伝えた通り、赤組と青組6人ずつのチームに分かれたフィールドマッチです。ライフポイントは今回もDSAA公式試合用タグで管理します。後は皆さん怪我のないよう正々堂々頑張りましょう」

「「「はーいっ」」」

 

 ノーヴェさんのルール説明も終わり、これから試合が始まろうとしている。

 ……の前に、なのはさんがルールの補足を行う。

 

「今回は公輝君が参加するので特別ルールがあるよ」

「え!? おじさんも参加するの?」

 

 ヴィヴィオちゃんがおれの参加を知り驚いた表情をする。ね? びっくりだよね。おれが一番びっくりしてるんだわ。

 

「試合開始5分後にフィールド内に公輝君が参加します。フィールのどのどこかに居る公輝君を捕獲もしくは撃破した人はライフを1000ポイント回復しまーす」

「おー」

 

 おれは回復アイテム扱いか。

 

「想定してる状況としては、第三者勢力の妨害が入ってくるって設定。特にスターズのみんなはこのことに留意してね」

「ライトニングのみんなもね」

「「「はい!」」」

 

 なのはさんとフェイトさんの言葉に管理局所属組は元気に返事をする。

 

「ちなみに公輝君には護衛としてドゥーエさんが付くので注意してね」

「どうも」

 

 全体の説明が終わり、各チームごとに細かい作戦の話し合いが行われる。そうしたら両チームとも開始ポイントに待機する。

 

「それではみんな元気に……試合開始~!」

 

 メガーヌさんの開始宣言と共にガリューが銅鑼を鳴らす。それを合図として試合が始まった。

 

 

 スバルさんのウイングロード、ノーヴェさんのエアライナーによるバトルフィールド形成から始まる。空を巡る魔力の道を通って両チームの前衛が衝突する。

 

「ひえ~。やっぱりおれは場違いだよな」

「皆さんをぎゃふんと言わせるんでしょう? 頑張りましょう」

 

 そう。巻き込まれるにしてもただで巻き込まれる気はない。ここはドゥーエさんと協力して第三者チームを優勝へと導くつもりだ。

 

「ところでドゥーエさん。みんなの中なら誰に成りやすい?」

「姿形だけなら誰にでも。しかし、彼女らの特筆すべき戦闘能力や特技までとなると厳しいですね。例えば、私は召喚魔法などは使えせんし」

「シューターとかはどれくらいいけます?」

「なのは程の非常識なものは無理ですが、ある程度なら」

 

 なるほどなるほど……

 成り替わりの難易度が比較的低く、成り代わりのタイミングがあり、そのうえ生存確率が高い人物……

 

「そうなると、狙うは……」

 

 

 

 ☆

 

 

 

(居た)

 

 おれの目線の先にはビルの上から戦場を俯瞰しているティアナさんが居る。

 前線指揮官のティアナさんは前に出ずに後ろから指示を出すこともある。多くの人の目から外れるそのタイミングこそが狙い目だ。

 ティアナさんは何かを考えて居るからか、はたまた辺りに散布された魔力に紛れたおれの小さすぎる魔力量を感知できないからか、理由は不明だがあちらはまだおれの存在に気が付ていない。

 

(今ッ!)

 

 リインさんとユニゾンしていた6年間。その間になんだかんだ自分の身体を使って荒事を解決することもあった。強者のリインさんの動きを直接体感していたおれは足捌きなどをある程度再現することが出来る。

 足音を消して限界まで近づいたところで一気に駆け寄る! 

 

「なっ!? マサキ先生!?」

 

 そこでティアナさんも俺の存在に気が付いたようだがもう遅い! 

 想定外のおれの突撃にティアナさんの判断が遅れる。

 

「はーいよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

「ふへっ!?」

 

 数々の悪漢どもを腰砕けにしてきた高速なでなでによってティアナさんを落とす。

 いい歳の女の子の頭をなでなでするのはちょっとどうかと思うが、ここは戦場。何が起こるか分からないということで勘弁してもらおう。

 顔を上気させ、息を乱しながら仰向けに倒れるティアナさんを見下ろしながら、懐から短冊状の紙を取り出してティアナさんの顔に張り付ける。

 その紙にはこう書かれていた。

 

『死亡』

 

「はい、これでティアナさんは死にました」

 

 たぶん後10分は満足に動けないだろう。

 この試合ではDSAA公式試合用タグとやらでライフポイントを管理しているため、おれのなでポでそれを0にすることはできない。むしろポイントが増えるまであるかもしれん。

 しかし、今回の作戦においてティアナさんの体力を0にするわけにはいかない。ドゥーエさんがティアナさんに成りきるためには必要だからな。

 

「ドゥーエさん、よろしくね」

「はい。任せてください。腕が鳴ります」

 

 ティアナさんが持っているタグを回収してドゥーエさんに手渡す。そうすると彼女の姿はティアナさんと寸分たがわないものになる。

 

「いや~、はやてに変身してた時も思ったけど、すごいねこれ」

「ふふふ……これこそ私のインヒューレントスキルよ」

 

 ティアナさんの顔でニヤリと笑うとすごい違和感がある。口調はティアナさんロールをもう始めているのに端々でドゥーエさん味が見え隠れするな。

 

「さて、それじゃあ作戦を最終段階に進めよう」

「ええ、任せて。私の射撃能力だとなのはに歯が立たないから頼むわね」

「おうよ」

 

 ドゥーエさんはビルから飛び降りながら、レッドチームの面々にティアナさんとして指示を出していく。

 

「さて、行くかな」

 

 遠くに空飛ぶ要塞と化しているなのはさんを見つけた。

 

「……とりあえず、ビルから降りないと」

 

 リインさんが居ないと碌に魔法を使えないので、自身の足を使って次のポイントへと赴く。

 

 

 

 ★

 

 

 

(ティアナの姿が見えない。それに、まだ公輝君とドゥーエさんの発見報告もない。なんだか色々と不安なんだけど……)

 

 色々と不安はあるが、ここらで一気に攻める! 

 

「青組各員! 作戦通達! 収束砲で一網打尽にします!」

 

 向こうも同じ考えなのか、全体の戦況が大きく動く。

 2on1の状況を作り出し、狙った相手を速攻で潰す。

 

「あら?」

 

 フルバックのルーテシアちゃん、ウイングバックのリオちゃんがやられてしまったみたい。で~も。

 

「へうーっ!!」

「!!」

 

 二人に打ち勝ったキャロの後頭部にシューターをぶつけて撃墜、コロナちゃんはチェーンバインドで捕獲する。

 

「えーー! なのはさんいつの間に!?」

「勝ったと思った時が危ない時!! 現場での鉄則だよ~!」

 

 コロナちゃんに指摘した後、射撃体勢に移る。

 

(私の魔力も多くはないけど、分割多弾砲(マルチレイド)で一網打尽!)

「分割多弾砲で敵残存戦力を殲滅、ティアナの集束砲(ブレイカー)を相殺します!」

 

 魔力を収束させ、一気に放出する! 

 

(?)

 

 ティアナの集束砲、なんだかいつもより魔力が少ないような気がする。

 何か考えがあるのだろうか。いや、ここは何にしても全力で撃つ! 

 モード《マルチレイド》によって私の周りにシューターを撃ちだすビットが形成される。これらのビットは私が持つレイジングハート本体の動きに同期して照準を付ける。

 

「スターライト」

 

 レイジングハートを大きく振り上げ、

 

『マスター!』

 

 振り下ろしてスターライトブレイカーを発射しようとした瞬間、相棒が声をあげた。

 

「ブレイ――ッ!」

 

 振り下ろそうとしたレイジングハートが何かに下から弾かれたために振り下ろしきれなかった。その結果、狙いは大きく外れ、ビットから放たれるブレイカーも含めてその射線は大きくずれてしまった。

 

(な、なんで!?)

 

 衝撃を受けた瞬間、何かが飛んできたような気がした。

 だが、それには魔力反応を感じなかった。つまり、物理的な何か。

 

 飛んできた何かの発生源へ視線を向けてみると……

 

(あ……)

 

 手を振り切った状態の公輝君がそこに居た。

 

 

 

 ★

 

 

「やったぜ」

 

 やっぱりカード手裏剣は強い。

 なのはさんに投げつけたカードを彼女のデバイス、レイジングハートにぶつけたのだ。

 本当はレイジングハートがリロードするとこに目掛けて投げて、カードを挟ませることでリロードを失敗させようとしたんだが、それだとなのはさんの砲撃を完全にとめてしまうことになり、レッドチームを消耗させることが出来なくなるのでやめておいた。おれの決闘者レベルがもっと高ければレイハさんを切断することもできたかもな。まあ、出来てたとしてもそんなことはしないが。

 ちなみに、今回使用のデッキは逆転の女神40積みデッキだ。我ながら逆転してぇという圧が強い。

 

 ティアナさんの全力砲撃程ではないが、ドゥーエさんによる全力砲撃に直撃したなのはさんチームの面々はほとんどが脱落。なのはさんの集束砲を大きくずらしたとはいえ、その余波によってティアナさんチームに大きな被害を及ぼしていた。余波とは……。

 

「おれとしては共倒れが一番だから、結果よし」

 

 残りはヴィヴィオちゃん、アインハルトちゃん、そしてドゥーエさんが扮するティアナちゃんのみ。

 

「お?」

 

 なんて色々考えてたらヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんは相打ちで決着がついた。

 

「勝ったな」

 

 さて、みんなの前でネタばらし&勝鬨をあげてくるとするか。

 とりあえず、まだ動けていないであろうティアナちゃんを回収しなきゃ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「試合終了~。青組、行動不能1名に撃墜5名。赤組、行動不能1名に撃墜4名。結果は赤組の勝利で~す! 試合時間は15分27秒でした」

 

 おれがティアナさんを回収して戻ると、ちょうどみんなが集まってメガーヌさんによる結果発表を聞いているところだった。

 ちなみにティアナさんは倒れたその場から動かず、すやすやと眠っていた。……この子も相当疲れ溜まってるな。全く……。

 

「ティア、お疲れ……え?」

「よっ」

 

 ティアナさんを囲んでその健闘を称えているところにティアナさんを背負ったおれが登場したのだ。みんな目を丸くして何も言えないでいる。

 

「お疲れ様、ドゥーエさん」

「え? ドゥーエ姉さん?」

「ここに至ってまだ気が付かないとは、ノーヴェもまだまだですね」

 

 ドゥーエさんはノーヴェさんに答えると同時に能力を解いて元の姿へと戻る。

 

「はっはっはー! つまり、最後まで戦場に立っていたのはおれとドゥーエさん。チーム回復アイテムの勝利だ!」

「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」

 

 おれの勝鬨に、みんな驚きを隠せない。

 うんうん、この顔を見られただけで似合わない模擬戦に参加した価値はあったかな。

 

 まあ、リインさんとユニゾンしていないおれを模擬戦に放り込んだはやてには今度罰ゲームを受けてもらう事は確定してるけどな。

 

 

 

 

 

 余談だが、次に行われた二戦目、三戦目では戦闘開始5分後のおれが参戦すると同時にティアナさんに親の仇のごとく付け狙われて瞬ころされ、彼女のマキシムトマトとしておいしく頂かれたのだった。




最初は戦闘開始前にスバルとすり替わらせるつもりでしたが、全く話が思いつきませんでした。

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