それが日常   作:はなみつき

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朝と通信と90話

 陸戦試合が終わり、ティアナさんから絶え間ないジト目攻撃を受け続けていたが彼女がスバルさん達と一緒に風呂に行ったことでなんとか切り抜けることが出来た。

 ふぅ……もう少しで新しい扉が開かれるところだった。危ない危ない。

 

 危機を乗り越えたおれは特に予定もないのでとりあえずちびっこ達を冷やかしに行くことにした。なのはさんとメガーヌさんは談笑しているし、フェイトさんは自身の子供たちと団らん中、他の大人組はお風呂タイム。逆に言えば行く場所がそこしかないのである。

 そこでは昼間の試合で気力を使い果たした少女たちがグロッキーになっていた。

 

「おじさーん……たすけてぇ……」

「せんせー……」

「うー……」

「……動けません……」

「限界超えて張り切りすぎるからだよー」

 

 ルーテシアちゃんの言うとおりである。

 

「そうだな、ヴィヴィオちゃんはおれの事をお兄さんと呼んでくれたら疲労を抜いてやろう」

「あ、じゃあいいです……」

 

 ヴィヴィオちゃんの頑ななおじさん呼びはまじでなんなん? そんなにおれの事をお兄さんと呼ぶのが嫌か。嫌なのか!? おれはまだおじさんと呼ばれるような歳では……まあ、19の時とは違って自嘲で自身のことをおじさんと呼ぶことは最近多くなってる気がするが……

 とりあえずヴィヴィオちゃんにはこのまま疲労と仲良くなってもらうことにしよう。

 

「じゃあみんなと一緒にそこで転がってるんだな」

「あうー」

 

 

 少女たちの話は進み、話題は今年のインターミドルシップチャンピオンシップへと移っていく。何やら今年はみんなも参加資格を得るから参加するらしい。みんな元気だな~。おじさんが10歳の頃は体を動かすよりゲームしてる方が好きだったよ。

 

 百合の間に挟まる男……ではなく幼女達の間に挟まるおじさんじゃね? なんて思考も一瞬沸いて出てきたがそんなものは吹き飛ばして彼女たちの話に相槌をうつ。

 

 しばらくして栄養補給の甘い飲み物を持ったなのはさんとメガーヌさんも加わり、本格的にインターミドルについて話す。

 

「あ、そういえば参加資格の方は……」

「年齢と健康面は問題なくオッケーよね」

「何かあっても公輝君が何とかしてくれるよね?」

「うん? おう、次元世界一と謳われたおれに任せておくがよいぞ?」

「なはは……公輝君が言うと冗談に聞こえないね」

 

 まあ、実際に管理局の偉い人にそう言われたしな。世間じゃ伝説の三提督なんて言われてるが、話してみると気のいいじいちゃん、ばあちゃんだったわ。

 

「あともう一つ……これ今も変わってないわよね? 安全のためクラス3以上のデバイスを所有して装備する事」

「デバイス……持ってないです」

 

 おや、どうやらアインハルトちゃんはデバイスを持っていないらしい。そう言えば彼女がデバイスらしきものを持っているところは見たことが無いな。

 

「あら、じゃあこの機会に作らなきゃ」

「その……でも、真正古代(エンシェント)ベルカの端末(デバイス)は作るのが難しいと……」

 

 アインハルトちゃんの覇王流は現在普及しているミッド式でも、近代ベルカ式でもなく古代ベルカ式。今は失われた技術が必要になるためその辺の技術者では太刀打ち出来ないだろう。

 

「フッフッフ、私の人脈を甘く見てもらっちゃー困りますねぇー」

 

 ルーテシアちゃんが意味深に呟く。

 

「私の一番古い親友とその保護者さんってば、次元世界にその名も高いバリッバリに真正古代ベルカな大家族!」

 

 なんと! ルーテシアちゃんには当てがあるらしい。侮れないな、ルーテシアちゃんの人脈。

 感心感心。

 

「あのぉー、マサキ先生は何感心してるんですか」

「え?」

 

 え? 

 

「その人は先生の一番身近な人じゃないですか」

「……ああ」

 

 はやてのことか。

 確かに、よく考えればはやて達は真正古代ベルカ由来の歩くロストロギアみたいなもんだったわ。そう考えると、リインさんとかクラス9999999くらいありそうだな。伝説のデバイスみたいなもんだし。ていうかデバイスのクラスって何さ。

 

「もしかして、はやてさんですか?」

「そうそう、あんなんでも真正古代ベルカ、夜天の主様だからね」

「あんなんって……」

 

 なのはさん、あんなんはあんなんだよ。

 

「そういえば夜天の王とか呼ばれたりもしてたな」

 

 あ、今アインハルトちゃんが『王』って聞いてピクッってなった。この子の王様フェチも相当だな。フェチじゃないか。本人に言ったら殴られそうだ。殴りかかってきたらまたアヘらせたるけどな。

 

「それじゃあ先生、八神司令に連絡お願いできますか?」

「オッケー」

「今ミッドは早朝だからメールとかで」

 

 そういえば時差が7時間くらいあるんだったな。

 ……うん。

 

「ピッポッパッっと」

「え!?」

 

 アインハルトちゃんはルーテシアちゃんの言葉を秒で無視して電話をかけ始めるおれに驚きを隠せない様子。

 ふん! おれを大変な目に合わせたはやてには丁度いい。今日はちょっと早起きしてもらおうか! 

 

 いつもより長めのコール音の後、向こうと通信がつながった。

 

「もしもーし」

『……………………帰ってきたらぶっ飛ばす』

 

 ブチッ

 

「……」

「あれ? 今の声って」

「ヴィータちゃんだったね」

 

 なのはさんの言う通り、通信に出たのは目的のはやてではなく、寝起きで声がガラガラのヴィータだった。通信に出た途端にぶっ飛ばす宣言とは穏やかじゃない。おそらく端末に表示されたおれの名前を見ての判断だろう。

 

「……合宿延長したい」

「私の家は別に良いけど、そうすると先生はもっと大変なことになるんじゃないですか?」

「なるかもしれん」

 

 なるかもしれん。

 仕事もあるしな。

 

「もう、そういう事しちゃ駄目だよ公輝君」

 

 なのはさんの苦笑いしながらの注意になんも言い返せねぇ。これはおれの自業自と……いや! 大元を正せばやっぱりはやてが悪いんじゃないかな!(責任転嫁)

 つーか、なんでヴィータははやて宛ての通信に応答してるんだ。いい加減自分の部屋で寝ろや。あいつは昔っからはやてと一緒に寝てるからな。

 色々と言いたいことはあるが、まあいいか。

 

 そう言ったところで二日目は終了となった。

 

「とりあえず、私からメール送っとくね」

 

 あ、うん。ルーテシアちゃんはしっかりした子だなぁ~。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 と、これまでが合宿二日目の内容である。

 そして、時は現在、合宿三日目に至る。

 ホテルの朝食みたいな豪勢な食事を済ませ、おれ、ルーテシアちゃん、アインハルトちゃんの三人ではやてにデバイスの件で連絡を取ろうとしていた。

 

「そういえば、アインハルトは八神司令と面識あったんだね」

「はい。えーと……まあ、色々とありまして……」

 

 そんなことを言いながらおれの事をちらちらと見てくるアインハルトちゃん。

 そうだね、色々あったね。おれ達とのファーストコンタクトで彼女はストリートファイターだったな、そういえば。

 

「あ、繋がった」

 

 昨日の音声のみの簡易通信ではなく、お互いの顔が見えるテレビ通話がはやての元とつながる。

 

『あ-、ルールー、オーッスー』

「おいーす、アギト」

『デバイスの件だよね?』

「うん、お願い」

 

 通信に出て来たアギトちゃんとルーテシアちゃんは挨拶をかわす。

 

『あ、マサキ』

「ん?」

 

 すると、アギトちゃんはルーテシアちゃんと一緒に移っているおれに目を向け呼びかけて来た。

 

『ヴィータがバチクソキレ散らかしてたけど、なにしたんだ?』

「気のせいだろ」

 

 うん、それはきっと妖怪のせいなのね。

 

『まあいいけど、それじゃあちょっと待ってて』

 

 アギトちゃんが画面から居なくなる。きっとはやてを呼びに行ったのだろう。

 しばらく待つと、画面の下からたぬきが生えて来た。

 

『はあーい。ルールー。お久しぶりやー』

「八神司令、お久しぶりです」

 

 それは何故かたぬきのお面を被って現れたはやてだった。

 

『あ、おいそこにおる早朝から通信送ってくるアホ』

「いきなりひでぇな」

 

 本当にひどい言いようである。間違ってないけど。

 

『ヴィータが、帰ってきたら楽しみにしてろ言うてたで』

「はて? 元はと言えばいたいけなパンピーを魔力弾飛び交う最終戦争の戦場に放り込んだたぬき妖怪のせいではないだろうか」

『ん? 今の世の中にもそんなけったいな妖怪がおるんか? 怖いなぁ~』

「お?」

『ん?』

「ちょっとお二人さん、話が進まないのでその辺で」

 

 ああ、そうだった。この通信はアインハルトちゃんのデバイスの相談をするためのものだった。

 

 ☆

 

 

「ですから、その……この子のような補助・制御型がいいなと」

 

 アインハルトちゃんの手にはヴィヴィオちゃんのデバイスであるうさぎのぬいぐるみ型のデバイス、セイクリッドハートが握られていた。

 

『なるほどなー。ほんならクリスの性能を参考に真正古代ベルカのシステムで組むのがええかな』

 

 はやてに加えてアギトちゃん、リイン姉妹も加わってアインハルトちゃんのデバイスの仕様がつつがなく固まっていく。

 なんだかんだと言ってもはやては自身でリインちゃんを作り上げている。真正古代ベルカ式デバイスの作成に関しては一家言あるのである。

 

『まあ、詳しい話も聞きたいから合宿が終わったら一度うちか本局に遊びにおいでー』

「はい」

『そやけど合宿ええなー。うちらもまた行きたいなー』

「またいつでもいらしてくださいー」

 

 二等陸佐。わかりやすく軍の階級で言えば中佐。組織の中でもかなり上の方に位置するはやてはいつも忙しくしている。

 そんな彼女が数日の休みをとるのはかなり厳しい。日程が合わないのも仕方がないだろう。

 まあ、おれはそんなはやてに合宿で楽しんでいることを自慢するように見せつけるのだが。飯も美味いし風呂もデカイ。近くの川では水遊びも魚釣りもできる。控えめに言ってサイコーなサマーバケーションである。

 

「いえーい、超楽しいぜー」

『ほーん、なら次はなのはちゃんに頼んでもっと訓練に参加してもらうようにするわ』

「え、ちょ」

『ほんならなー』

 

 はやてがそう言うと通信は切れてしまった。

 

 

 ……次の合宿は欠席しようかな。


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