それが日常   作:はなみつき

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栄養ドリンクと若返りと91話

 アインハルトさんのデバイスに関する相談を終えた頃には時間は正午になろうとしていた。その後は昨日出来なかった釣りに今度こそ行き、訓練とは程遠いまったりとした時間を過ごしたのだ。

 

 やはり、おれはこういう時間を満喫する方があっているな。

 ドゥーエさんと一緒に無心で糸を垂らしていたら一日なんていうものはあっという間に過ぎるもので、その日は夕食、風呂、そして就寝となった。

 

 

 

 ☆

 

 

 合宿四日目。

 とうとう色々あった合宿も最終日である。

 今日の昼頃にはミッドに帰る次元船に乗り込まなければいけないので、午前中は朝練以外は特に予定は無しだ。

 え? おれ? 朝練に出るほど熱心な局員ではないので当然朝はゆっくりである。まあ、朝食を食べ損ねるくらい惰眠を貪ることもないけどね。 

 

「よく寝た……ん?」

 

 今日の朝ご飯は何だろうかと考えながらボサボサになった髪の毛を手櫛でなだめていたところ、昨日ベッドに入る前には無かったはずのものが目に入った。

 

「……ダンボール?」

 

 ダンボールだ。まさか、誰か中に隠れている? 

 

 ! 

 

 ってそんなにでかいサイズではない。密林さんに小物を頼んだ時に使われるくらいのサイズ感だ。両手にすっぽりと収まるくらい。

 誰かがおれが寝てる間に置いたのか。そんなことする意味あるかね? 

 

「あ。名前が書いてある」

 

 よく見たら箱の下側に送り主と思われる名前が書かれていた。

 

「女子小学生……スカさんか」

 

 女子小学生(JS)はスカさんがおれになにか物とか手紙とかを送ってくるときに使うハンドルネームみたいなものだ。相変わらずひどいハンネである。それに、なんでおれの居場所が家ではなくここだとわかったんだろうか。少し怖い。

 ていうか、スカさんが収容されてる監獄ってめちゃくそ厳しい監視があるって話だが、意外と緩いのかね。まあまあの頻度で俺に何か送り付けて来て、彼が作った試作品の試用をお願いしてくるんだが。

 

 と、スカさんの事は置いておいて、今回の発明品は何かな? 

 なんだかんだ言ってスカさんは稀代の天才。三回に一回はとても使える物が送られてくるので結構楽しみにしている。

 ……まあ、前回送られてきた炭酸に入れてもシュワシュワならないメントスは微妙だったな。メントスを炭酸に入れる奴なんて今時YouTuberくらいしか居ないっての。

 

 さてさて、今日の中身は何かな~? 

 

「ふむ、液体が入った瓶。飲み物かな」

 

 遮光性の高い茶色い瓶に何かが入っている。容量は100ml程だろうか。

 

「あ、いつも通り取り説が入ってるな」

 

 スカさんが送ってくる試作品には決まってミッド語、ベルカ文字、日本語の三カ国語で書かれた取扱説明書が入っているのだ。無駄に凝っている。

 

「何々、名称は『マサキ君でも効果があるかもしれない栄養ドリンク』?」

 

 ふむふむ、なるほどね。普段から元気一杯なおれがさらに元気になるとどうなるのかという事を確かめてみたいらしい。

 確かに、おれは自分が知っている自分の健康を実現している。しかし、もし、それ以上のものがあるとするなら気になるものである。

 

「使い方は……とりあえず飲めばいいんだな、よし」

 

 単純でよろしい。

 

「よし、それではグイっとな」

 

 ……うっ!!?? 

 

 そこでおれの意識は途絶えた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「わー今日も美味しそうです!」

「もうお腹ペコペコだよ~」

 

 ヴィヴィオちゃんやリオちゃんをはじめにテーブルを囲むみんなが今日の朝食に期待の目を向けている。

 

 うっ……階段が降りにくい……。

 おれも早く朝飯食いたいのに……。

 

「冷めないうちに早く食べようよ!」

「あれ? マサキ君がまだ来てないみたい。寝てるのかな?」

 

 なのはさん、ちょっと待って。今転ばないようにゆくっり階段降りてるから。もうすぐそっち行くから! 

 

「マサキの事だから、夜更かしして起きられなかったんじゃない?」

 

 ちょっと、フェイトさん。そんな小さい子みたいに言わないでよ。

 ……まあ、ある意味では間違っていない状況ではあるんだが。

 

「え?」

 

 よし、やっと階段を降り終えたぞ。

 そんなおれに一番に気が付いたのはヴィヴィオちゃんだ。

 うん、言いたいことは分かるが、今は何も言うな。

 

「おはようさん。みんな、とりあえず今は何も聞くな。冷める前に朝ご飯食おうぜ」

「えっ? え……ぅ……」

 

 滅茶苦茶話を聞きたそうにうずうずしているヴィヴィオちゃんをステイさせ、この合宿期間中自身の定位置となっているイスに……うぐ……イスに……座りにくい。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 今日の朝ご飯もおいしゅうございました。

 なんだかいつもよりお腹が一杯だ。

 

「「「「マサキ先生!」」」」

「公輝君!?」

「「マサキ!?」」

 

 ああ、うん。わかってる。そんなみんな一斉にこっち向かないでくれ。ちょっと怖いじゃないか。

 

「「「「なんで縮んでるの!!」」」」

「色々とあったんだ」

 

 はい。色々あって背が縮んでしまいました。色々と言っても原因は明らか。スカさんが送ってきた謎の栄養ドリンクだ。詳しい仕組みも書いてたけどさっぱりわからなかった。しかしまあ、なるほどね。おれの健康のさらなる健康とは若返りだったか。

 部屋にあった姿見で自分の格好を確認したが、おそらく10歳前後の頃の姿だった。今のヴィヴィオちゃん達と背丈はほとんど変わらないくらいである。

 

「おじさん! 詳しく説明してよ!」

 

 おれの適当な説明では満足できなかったのか、ヴィヴィオちゃんが食い気味に聞いてくる。しょーがないなー。

 

「おれは成人管理局局員、坂上公輝。幼なじみで同期の高町なのは、フェイト・テスタロッサと避暑地に遊びに行って……」

「いや、そういうのじゃなくて……」

「不思議な薬を飲んで、目が覚めたら体が縮んでしまっていた!!」

「え!? そこは本当なんですか!?」

 

 割と本当だから困るよね。

 

「拾い食いなんてしちゃだめだよ?」

「危ないと思ったらすぐぺってしなきゃ」

「おい、二人とも。おれの事をなんだと思ってるんだ」

 

 だから子供か! 

 一度なのはさんとフェイトさんの認識を改める必要を感じる。

 

「でも、変なものを口にしたんでしょ?」

「うーん……確かにそれは否定できない。けど、危険は無いはずだから」

 

 そもそも、危険があったとしてもおれを老衰以外で害するのはほぼ無理だろう。

 

「なんか半年もすれば勝手に戻るらしいよ。もしくはすぐに元に戻りたければ38℃以上のお湯に2時間浸かれば良いらしい」

「え? 解決方法は分かってるの?」

「うん」

 

 一緒に入ってた取説にその辺もしっかり載っていた。何やらスカさん製作のおれの健康に対する認識をずらす天然酵素が半年もすれば失活するそうだ。もしくは一定温度以上の環境が一定時間続けばそれでも酵素が失活するらしい。若干ぬるめの温度とは言え、二時間お湯につかり続けるのは地味に厳しいな。

 それにしても人工なのか天然なのか。黄金で出来た鉄の塊みたいな匂いを感じる。

 

「ま、これも珍しい体験だ。半年くらい懐かしの子供生活を楽しむのも良いじゃないか」

「そう? 公輝君がそれで良いなら良いけど」

 

 そうそう。おれが良いから良いのだ。

 

「あ! いい事思いついた!」

「うん?」

 

 そう言うと、イスから飛び降りたヴィヴィオちゃんはうさぎのぬいぐるみのセイクリッドハートを呼び出し、大人モードへと変身する。

 

「わーい、これでおじさんより大きくなったー!」

「むう……」

 

 ヴィヴィオちゃんと出会った時からおれの身長は大人のものであった。そう考えると確かに彼女にとってこの状況はとても珍しいものであるのは違いない。

 

「えへへー、こうやっておじさんの頭を撫でることが出来るのってなんだか不思議~」

「うむむ……」

 

 自分より年下なのに身長が高い少女に頭を撫でられるのは非常に複雑である。恥ずかしいんだが……

 

「私の事はお姉さんって呼んでも良いですよ?」

 

 今度はおれの脇に手を差し込んでそのまま持ち上げる。そうなるとおれは宙に持ち上げられるため、目線がヴィヴィオちゃんと合う。

 こういうところはなのはさんとよく似ていると不意に思う。

 

 ……ニヤリ

 

「そうか。確かに今はヴィヴィオちゃんの方が見た目上は年上だな。それじゃあ、ヴィヴィオおばさんで」

「……」

 

 おれの言葉を聞いたヴィヴィオちゃんは無言でニッコリ顔のままスッとおれを床に下ろす。

 

「いだいいだいいだい」

「お~ね~え~さ~ん~」

 

 脇から引き抜いた彼女の手はおれの頬へと移され、そのまま左右の頬を引っ張られる。結構痛いんですけど。

 

うわい(つまり)おえあいうおおえあおおえうおおあよ(それがいつもおれが思ってることだよ)。」

「む~~~~~~~ママあああああぁぁぁぁ」

「よしよし、公輝君は失礼だね~」

「ちょっと待て、それは普段のヴィヴィオちゃんにもよく言って聞かせるべき言葉なのでは?」

 

 なのはさん、ちゃんと教育しようよ! 

 

「まあ、悪い事が無いならいいんじゃないですか? そろそろ帰り支度を始めないと次元船に間に合わなくなりますよ」

 

 話がまとまったと見てティアナさんが声を掛けてくる。

 おお、そうだった。今日はミッドに帰るんだった。あ、そうだ。忘れてた。

 

「エリオ君、予備の服を貸してほしいんだが」

「良いですよ。今持ってきます」

 

 おれの背丈よりエリオ君の方が若干背が高い。しかし、今着ている服(元々おれが来ていたものを全力で裾を折ったもの)よりはましだろう。上の服に関して言えばでかすぎてTシャツがワンピースみたいになってしまっているのだ。これのせいで歩きづらいったらない。

 

 

 ……ん? 

 

「あ」

「どうしたの公輝君!?」

 

 何か異常があったと思ったのか、なのはさんが少し慌てながら聞いてくる。

 

「今のおれなら次元船に子供料金で乗れるじゃん! ラッキー!」

「……もう。ちゃんと大人料金で乗らないとダメだよ」

 

 ダメかな? 

 ダメかぁ……




スカリエッティとかいう万能キャラすき

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