聖王教会でのお勤めとオットーさんのための紅茶教室を終え、帰宅の途に就いた。着替えるのも面倒だったので祭服のまま帰って来てしまった。
「ただいま」
八神家のリビングのドアをゆっくりと開きながら、折角なので出来る限りのジョージボイスで帰宅を宣言してみる。リビングやキッチンなどから「おかえり」というみんなの声が聞こえてくる。
「声変わりもしてないのにあの声の再現は無理があるやろ。おかえり」
「は? ジョージさん舐めてんのか? ぶっ飛ばすぞ。おかえり」
ジョージ過激派のヴィータが怖すぎる。
「ごめんて」
「許さねぇ」
謝っても許されなかった。
「随分遅かったやん。なんや、夜遊びでもしてたん?」
「そうそう、友人たちとカラオケに……って、違うよ」
今の時刻は7時を回ろうとしている。仕事が忙しく、普段から残業をしがちのはやても流石に家に帰って来ている時間であった。
「オットーさんと紅茶談議が捗ってね。あの人おれの弟子だから」
「とうとうハムテル君も弟子をとるようになったんやなぁ」
そんなことをしみじみと言いながら「うんうん」とうなずいているはやて。一体彼女はどんな立場の人間なのだろうか?
それにしても、オットーさんの淹れるお茶も美味かったなぁ……。おれはミルクティーが好きだからそれを淹れる回数が多いが、彼女はレモンティー、オレンジティーのようなさっぱりとしたフルーツ系のものを好むようで、それらは断然おれのものよりも美味かった。
「おれからオットーさんへ、オットーさんからまた誰かへと。こうしておれの系譜がミッドチルダの紅茶史に侵食していくのだ」
「ばい菌か何かなん?」
「でも、マサキはばい菌もなんもかんも消しちまうじゃん」
「ていうことは、ハムテル君は自分で自分の系譜を潰すことになるんやな」
人の系譜をばい菌呼ばわりとは失礼な奴らである。
そう言う君たちもおれの紅茶の虜になってしまっていることを忘れているようだな。
「今日の二人のお茶は色の付いたお湯でよろしいか?」
「「ごめんて」」
「もっと、自分から船を降りたけどやっぱり仲間のままでいたかった男っぽく言って」
「え、やだ」
普通に拒否するヴィータ。
駄目じゃないか。はやては滅茶苦茶熱が入った感じで「ごべええええええええん!」って言ってるじゃん。ていうか、迫真過ぎてビビるわ。
ヴィータにはこれくらい素直になって欲しいものである。ヴィータの今日の紅茶は色はついてるけど味はミッドの美味しい水道水のお湯に決まった瞬間である。
「近所迷惑だぞ、マサキ」
「え? 今騒いでたのははやてじゃん」
ソファに座って新聞を読んでいたシグナムさんが何故かおれに対して苦言を呈してくる。
「原因はお前だろ」
「はい」
言い訳も何もできない圧倒的真実なので何も言い返せねぇよ。
「マサキ君も帰ってきたことですし、ご飯にしましょー」
キッチンから現れたシャマルさんがそう言う。一瞬、今日の晩御飯はシャマルさんが作ったのかと身構えたが、少し遅れてドゥーエさんもキッチンから出て来たので安心した。
シャマルさんが一人で料理すると未だに味の怪しい料理を作ったり作らなかったりするから油断ならない。
「今日の献立は炒飯と麻婆豆腐です」
「わーい」
別にこんな格好をしているからという訳ではないが、炒飯も麻婆豆腐も普通に大好きだ。
☆
「炒飯と言えば、チャーハンメテオだけどさ」
「いや、その認識はおかしい」
みんなで食卓を囲み、やたらパラッパラの炒飯をれんげを使ってぱくついていると、唐突にそんな事が思い浮かんできた。
「炒飯よりも麻婆豆腐みたいなとろみがあって熱々の物の方が攻撃力は高そうじゃん?」
今度はれんげで麻婆豆腐をすくって口へと運んでいく。
あっつぅ。火傷しそう。
「確かにとろみがある食べ物程、人に火傷をさせるために効率化された物はないやろなぁ」
まあ、食べ物を粗末にするのはあかんけどな、と言いながらもおれの意見に賛同するはやて。
「常々考えてるんだよ。リインさんとユニゾンする機会が少なくなって、おれの攻撃力が下がった問題」
「それでマーボーメテオかいな」
そういうこと。
ミッドチルダは比較的治安の良い世界だ。しかし、それでも人通りの少ない通りを歩けばならず者に襲われる可能性がないわけではない。実際、襲われたことあるし。
「とはいえ、いちいち片栗粉を水に溶かして沸騰させたものを持ち歩くのは面倒だ。今度友人に無限とろみ熱々お湯射出機でも作ってもらおうか」
リアルな銃型にしちゃうとまずいから、見た目は水鉄砲で。
「それは質が悪いな」
渋い顔をしながらシグナムさんはそう言う。
その状況を想像したのか、シャマルさんはれんげにすくった麻婆豆腐を見ながら固まっている。
「それって、質量兵器扱いされるんじゃねぇの?」
「ダメかな?」
「ダメやろ」
ダメかぁ……。
質量って感じはなさそうだけど……。そもそも質量兵器の定義ってそういうもんじゃないしな。
「残念だ。おれ強化計画は白紙になってしまった。仕方ないから護衛としてシャマルさんの料理を連れて歩くことにしよう」
「それって、私の料理が兵器ってことですか!?」
「間違っちゃねーだろ」
「うむ」
「……」
どこからも否定の声が挙がらないところに全おれが泣いた。
悲しいね……シャマルさん……。
真に人々が判り合うなんてことはできないけれど、飯が美味い/不味いってことについては判り合えるんだな……って。
ちなみに、宣言通りヴィータの食後のお茶だけ色付きお湯にして飲ませてから「愉悦ッ!」って言ったらぶっかけられた。
くっそ熱かった。
図らずともおれの作戦の有効性を示してしまった。
おかわりを汲み始めたヴィータを見て「ごべええええええええん!」と言うしかなかったおれであった。
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∧,,∧ て 。・゚・。・゚・
(; ´゚ω゚)て //
/ o━ヽニニフ
しー-J 彡