ブラウンシュヴァイク公が転生したけど、転生先はフォーゲルだった件   作:ひいちゃ

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さぁ、さっそうと登場したビュコック爺さん!

今回はこれまでの借りを返すかのように、爺さんの策略が炸裂しますよ!


第11話『老将再び』

「どうやら、なんとか間に合ったみたいじゃな。ルグランジュ提督の艦隊と、パストーレ提督の艦隊はどうだ?」

「はっ、なんとか秩序を保ったまま、ティアマト外縁に向かっております」

 

 副官ファイフェルの言葉に、老将・ビュコックはうなずいた。

 

「よし、ではかかるとしようか。ムーアの奴がわしを目の敵にしておるのは知っているが、見殺しにすると夢見が悪いからの。敵左翼の艦隊を急襲。敵の動揺を誘い、ムーア艦隊の脱出を支援する。それと、例の準備はできておるか?」

「はい、万全です」

「よし、では始めるぞ」

 

 かくしてビュコック提督の艦隊は、帝国軍右翼・ファーレンハイト艦隊に襲い掛かる。背後からの不意の一撃を食らったファーレンハイト艦隊のいくつかの艦がたちまち、大きな火球と化した。

 

「くっ、思わぬ横やりが入ったか。仕方あるまい。時計回りに移動しながら回頭。敵艦隊に向きなおるぞ!」

 

 さすがは百戦錬磨のファーレンハイト提督。彼はその場で回頭する愚を避け、時計回りに移動しながら方向転換し、敵艦隊に向きなおり、態勢を立て直した。

 だがこれにより、ムーア艦隊への圧力は弱まった。かの艦隊は陣形を細い針のように編成し、残りの力をぶつけるかのように、ミュラー艦隊へ突進したのだ!

 

「いかん! 全艦、密集体形を取れ! 敵の突破を許すな!」

 

 ミュラー艦隊も密集体形を取り、ムーア艦隊の突破を阻もうとする。だがここである不運が訪れる。ムーア艦隊とミュラー艦隊の位置の関係で、ちょうどレンネンカンプ艦隊の射線が、ミュラー艦隊に阻まれる形になったのだ。今砲撃を続行すれば、友軍のミュラー艦隊まで蹴散らしてしまう。

 

「く、なんて不運な……。砲撃やめ!」

 

 これによって、ムーア艦隊への砲撃はさらに弱まった。ムーア艦隊は後ろを我がフォーゲル艦隊に追われ、前方をミュラー艦隊にふさがれる形になったが、勢いを弱めることなく、そのままミュラー艦隊を突破しようとする。ミュラーはなんとか、それを阻もうとするが、やはり数が違いすぎる。かなりの損害を受けたとはいえ、ほぼ半壊状態の旗艦分艦隊だけのミュラー艦隊とはくらべものにならないのだ。

 

「ミュラー提督、もういい。それ以上は卿の艦隊のほうが壊滅しかねん」

「わかりました。無念です……」

 

 かくして、ムーア艦隊は我が艦隊を突破した。そして急速に星域外縁部に向かい、そしてワープでティアマトを離脱するのだった。さて、後はあのビュコック艦隊だが……。

 

「提督、敵艦隊は徐々に後退しているようです。どうやらまともに戦うつもりはないようですな」

「ということは、あの艦隊の目的は、ティアマト侵攻艦隊の援護だった、ということか」

「おそらく」

「だが、このまま逃すわけにはいかん。奴らの矛先が惑星に向かんとも限らんからな」

 

 わしがそう言うと、ナイゼバッハはそれに同意するかのようにうなずいた。後退するように見せかけて、他の惑星を占領する、それは今さっき我が艦隊がやったばかりのことだ。あの艦隊がそれをやらない保証はない。

 

「よし、全艦隊、陣形を再編。あの艦隊を追い詰めるぞ」

「ははっ」

 

 かくして我が艦隊は、ミュラー提督の艦隊を後方に残し、ビュコック艦隊を追撃にかかったのだった。

 

* * * * *

 

 一方そのころ、同盟軍ビュコック艦隊旗艦・リオ=グランデ。

 

「提督、予定通り帝国軍は、こちらを追撃にかかりました」

「うむ。後退ルートに、敵の伏兵の存在はないな?」

 

 ビュコック提督の質問に、ファイフェル中佐がうなずく。

 

「はい。半壊状態の艦隊を後方に残し、残りの艦隊のすべてが、我が艦隊の後方から追ってきております」

「それはありがたい。よし、引き続き艦隊を後退。敵を誘導しながら所定ポイントに向かうのだ」

「了解」

 

 戦略スクリーンを見ながら、ビュコック提督は撤退戦の最中だというのに、笑みを浮かべる。

 

「さて、わしの一世一代の大芝居、果たしてどうなるかの……? 奴さんが引っかかってくれればいいのだが」

 

* * * * *

 

 それからも敵艦隊は、我が艦隊と本格的にやりあうつもりはないようで、微妙な距離を保ちながら、後退していた。

 それはまるで、我々をどこかに誘導するようだった。敵が罠を張っているのではないかと思ったが、こちらは四個艦隊、向こうは一個艦隊だ。多少の罠があったところでどうということはないと思い、わしは再び追撃を指示した。

 

 と、その時。ある点でその敵艦隊がぴたりと後退を停止した。しかも、その艦隊はこちらに転回することなく、ただ停止したまま。

 

「ぜ、前進停止!」

「提督?」

「あの艦隊が停止したのは、とても不自然すぎる。もしや何か罠が……」

 

 我が指示のもと、全艦隊が行動を停止する。一人、「突撃ー!」と喚く奴がいたが、それは睡眠薬の針で黙らせた。

 

 と、その時だ!

 

 その艦隊の後方から、ビームが十数条、発射されてきたではないか!

 しまった、やっぱり罠か!!

 

 この不意打ちを受けた我が艦隊はたちまち、動揺し、混乱した!

 

「よし、まんまとうまくいったわい! 全艦隊、敵艦隊が混乱してるうちに急速離脱!」

「了解!」

 

 そして、あの艦隊は憎らしいことに、我が艦隊が混乱しているうちに全速力で逃げ出し、そしてワープでティアマトから離脱していったのだった。

 いや、それはもう憎らしいほど、鮮やかな手並みでしたとも!

 

 あとで調査したところ、その艦隊の背後には、惑星を守るための防御衛星が十数機展開してあって、それがビームを発射してきた、とのことだった。

 あらかじめこいつらを展開していた、ということは、ティアマトに来る前に、既にこの作戦を考えていたのだろう。本当に侮れぬ奴だ。

 ここにきて、とうとう現れた好敵手、ってやつか? ああ、そうだ。

 

「バルトハウザー大佐、向こうの艦隊に超高速通信を送ってくれたまえ」

「はぁ。それでなんと?」

 

「うむ。『卿の憎らしい戦術に敬意を表する。再戦の日まで壮健であられたし』だ」

 

* * * * *

 

 ダゴン星域、同盟軍ビュコック艦隊旗艦・リオ=グランデにて。

 

「―――帝国軍第9艦隊司令・フォーゲル中将、だそうです」

「そうか。あの将に憎らしいと言ってもらえて、とても光栄じゃな」

 

 ファイフェルが読み上げた電文を聞きながら、ビュコック提督は、コーヒーを飲みながら満足そうに微笑む。

 

「しかし、まさか正統派と評価されていた提督が、あのような奇手を打つとは思いませんでした」

「なぁに、種あかしをするとな。あの策は、わしのオリジナルではなかったのじゃよ」

「は?」

 

 ファイフェルがあっけにとられたように聞き返すと、ビュコックはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

 

「実はムーアたちの支援の任務を受けたさいにな、ヤンに相談していたのじゃよ。さすがは期待の若手じゃな。これまでのあのフォーゲル提督の戦いぶりを見て、三人が彼にまんまとしてやられる未来を言い当ておった」

「とすると、提督はそれを受けて、三人の脱出を支援する作戦を立てた、と?」

 

 ビュコック提督はうなずく。

 

「うむ。そしてそのついでに、彼に、無事に撤退するための奇策も聞いてきたのじゃよ。それがあの策じゃ。ヤンの奴は、その時にバツが悪そうに言っておったよ。『死せる孔明、生ける仲達を走らす』とな」

 

 『死せる孔明、生ける仲達を走らす』―――

 それは、地球時代、さらにその大昔、サンゴク時代のある戦いに端を発した言葉である。

 サンゴク時代、覇を競った国の一つ、ショクの諸葛亮((あざな)・孔明)は自分の死にさいし、ある秘策を部下に伝えたという。そして彼が死ぬとギの国の将軍・司馬懿(字・仲達)はこの機を逃すまいとショク軍に追撃をかける。

 だがそこで、ショク軍がその秘策にしたがって迎撃の構えをとったため、司馬懿は諸葛亮が生きていた(そしてギ軍をおびき出すべく死を装った)と誤解して、そこで追撃を停止、結果、ショク軍の撤退を許してしまった、という話である。

 

「つまり、我が軍がわざと後退を中止することで、帝国軍に罠かと疑わせ、動きを一瞬止めさせたわけですか」

「そういうことじゃな。なお、防御衛星の罠はわしが考えた。そうして罠かと疑った帝国軍に、何かもう一撃、奇襲をかければ、さらに混乱させられるのではないかと思ってな。あのフォーゲル提督への仕返しもあるが」

「なるほど。あ、提督。フォーゲル提督への返信はいかがなさいますか?」

「いや、送る必要はあるまい。あちらさんもそれを期待してはいないじゃろう」

 

 老将はそう言うと、窓の外から見える深淵をじっと見つめた。

 

「しかし、再戦の日まで壮健であられたし、か……。あってほしくはないが、その時に備えて、準備はしっかりしておかぬとな」

 




『同盟の大攻勢編(仮名』、これにておしまいです!
次回は、ちょっとラブロマンスっぽい閑話を一話やり、さらにこの先に続く話を一話やって、いよいよ(1期の)最終章である、リップシュタット戦役を始める予定です。

どうぞお楽しみに! それでは……

次回『転生提督の事件簿~グリューネワルト伯爵夫人暗殺未遂事件』

転生提督の歴史が、また1ページ
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