ブラウンシュヴァイク公が転生したけど、転生先はフォーゲルだった件   作:ひいちゃ

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※感想にも書きましたが、まずこの話の前提として、ブラ公とシュザンナは、前世でも今世でも、幼いころは幼馴染だったけど、長じてから、門閥貴族のあれやこれやで引き離されて疎遠になっていて、原作でのような関係になった、という設定があります。


第12話『閑話・転生提督の事件簿~グリューネワルト伯爵夫人暗殺未遂事件』

 その日も、わしは秘密の通信室にて、その知らせが来ないことを祈っていた。

 もう時期的には、あれが起こってもおかしくないはずだが、わしとしてはそれが起こらないことを切に願っていたのだ。

 

 その事件とは……

 

 グリューネワルト伯爵夫人暗殺未遂事件。

 

 皇帝陛下が、ミューゼルの姉のグリューネワルト伯爵夫人アンネローゼにご執心なのに嫉妬した、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナが、その寵を取り戻そうと、彼女を暗殺しようとした事件だ。

 

 前世において、この暗殺計画は、ミューゼルの幕下たちの活躍によって阻止され、シュザンナはその罪を問われて死を賜る結果になった。

 

 この転生後の世界においても、やはり皇帝陛下はグリューネワルト伯爵夫人に首ったけのようで、ベーネミュンデ侯爵夫人がそのことに不平不満を抱いている、という噂は、わしの耳にも届いている。

 

 だがわしとしては、彼女にそのような事件を起こしてほしくないし、事件が起きたとしても、最悪の結果を生まないように力を尽くすつもりだ。

 

 その理由はいくつかある。

 

 一つ目は、グリューネワルト伯爵夫人についてだ。

 わしも、前世で何度かお目にかかったことがあるし、転生してからもやはり一、二回見たことがあるが、本当に美しい。輝かしさの中にも儚さもあって、それが見事な調和を見せているのだ。今世で最初にお目にかかった時は、女神様かと一瞬目を疑ったほどだ。

 

 また彼女は美しいだけではなく、本当にお優しい。ミューゼルが、彼女を慕っていたのも、そして皇帝陛下が彼女にご執心なのもよくわかる。どんな人たちにも、分け隔てなく、その陽だまりのような温かさを向けておられるのだ。

 そんな姉君が皇帝陛下に奪われたら、そりゃあミューゼルも、打倒帝国に燃えるってものだ。わしだって、そんな素敵な身内が皇帝陛下に奪われたら、やっぱり燃える。

 

 そんな彼女だからこそ、宮廷のごちゃごちゃに巻き込まれて、危険な目にあってほしくはなかった。みんなだってそう思うだろう。なあ!?

 

 そしてもう一つは、黒幕であるベーネミュンデ侯爵夫人のことだ。

 彼女は確かに、嫉妬によって、グリューネワルト伯爵夫人という素晴らしい方を殺害するという、許されざることをしようとした。それは事実だ。

 だが、彼女が犯行に及んだのは、別に私利私欲ではなく、皇帝陛下の心をグリューネワルト伯爵夫人に奪われたという嫉妬によるものだ。いわば彼女も、宮廷内のごちゃごちゃ……貴族社会の歪みの犠牲者と言える。

 やはり彼女が貴族社会の歪みの犠牲になって命を落とす結果になるのは、回避したいというのが、わしの偽らざる気持ちだ。前世でその貴族社会の、しかもその頂点近くにいた身としてはさらに。

 

 それにわしは知っている。彼女は今でこそああなってしまったものの、本当は清楚で可憐な女性だったのを。そんな彼女が貴族社会の歪みの中で、その素敵な心を汚され、そのまま死んでいくのは、わしとしては我慢ならなかった。そうならないように力を尽くすが……もし命を失うような結末が避けられなかったとしても、最期はせめて、清楚で可憐な彼女に戻って逝ってほしいし、できれば清楚で可憐なその心を取り戻して生きてほしい。そう思うのだ。

 

 さて、今日は大丈夫だろう……と思ったその時、受信機の一つから物音が聞こえた。どうやら、物音がしたのは、フレーゲルめの部屋のようだ。前世でわしが、使用人どもの陰口を盗聴するために仕込んでおいた盗聴器や隠しカメラが、こんなところで役に立つとは思わなかったわい。

 フレーゲルは、周囲を気にすると、そのまま部屋を出て行った。時刻は深夜。こんな時間に外出するのは、やはり悪いことをたくらんでのことに違いあるまい。

 わしはスマホのスイッチを入れて、電話をかけた。

 

「はい、こちらナイゼバッハですが」

「今、フレーゲルがブラウンシュヴァイク邸から出て行ったと思うが」

「わかりました。ただちに追跡を開始。どこに向かったか、分かり次第お知らせします」

「頼むぞ」

 

 それから数十分ほどして、再びナイゼバッハから連絡が入った。

 やはり、フレーゲルは、ベーネミュンデ侯爵邸に向かったという。その報告を聞き、わしは一つため息を吐いた。

 

 やっぱり、この世界でも事件は起こるのか……。となれば、わしにできる最善をしなければな。

 わしは、ミューゼル邸のキルヒアイス大佐の私室に、電話を入れた。

 

* * * * *

 

 その翌日。ラインハルト・フォン・ミューゼルとジークフリード・キルヒアイスの姿は、グリューネワルト伯爵邸……つまり、アンネローゼの屋敷にあった。

 本当は、大将とはいえ、一貴族が気楽に訪れることができない場所……そこになぜ二人が入れたのか。その裏にあったものを二人は知らない。

 

 その二人の元に、アンネローゼがお料理をのせた皿を持ってくる。

 

「はい、ラインハルト、ジーク。アンティチョークとレンズ豆のシチューができましたよ。たくさん食べてね」

「ありがとうございます、姉上。今まで、あまりおいしい料理を食べていなかったので、とてもありがたいですよ。なぁ、キルヒアイス」

「そうですね。本当に感謝しかありません」

「ふふふ、どういたしまして。でも、二人がここを訪れるなんてびっくりしたわ」

 

 アンネローゼがそう言うと、ラインハルトは首をひねって答えた。

 

「えぇ、俺もなぜここに入れたのか、不思議でたまりません。キルヒアイスが『最近働きすぎですから、たまにはアンネローゼ様のところで骨休めしましょう。手配はしてあるようですから』というので、半信半疑で来てみたのですが……。キルヒアイス、もしかしてお前、何か裏を知ってるんじゃないのか?」

 

 ラインハルトにそう聞かれると、キルヒアイスはわずかにうろたえて答えた。

 

「い、いえ。私もフォーゲル提督が手配をしてくれる、ということまでしか聞いてませんので……あっ」

「フォーゲル提督が? 本来なら伯爵の一軍人が来ることのないこの邸に入れるように手配できるなんて、あの男、一体何者だ……?」

「まぁまぁ、ラインハルト。あんまり考え込んでいると、シチューが冷めてしまうわよ。そんなことを考えるのはあとにしましょう」

「えぇ、ラインハルト様。私たちがここに来ることで、何か陰謀が起こるとは思えませんし。深いことは考えないほうがいいと思いますよ」

「むぅ……そうだな。今は姉上の料理に舌鼓を打つことにしよう」

 

 そう言って、笑顔でアンネローゼの作ったシチューを食べているラインハルトを見て、キルヒアイスは、自分たちのために手配してくれたフォーゲル提督のことについて考えていた。表情や態度に出さないようにしながら。

 

(近日中に、アンネローゼ様の身に何か起こるかもしれないから、彼女の傍にいたほうが良いと助言をもらったので、ここに来たのですが……。何か起こる可能性があることを知ってることといい、この手配ができることといい。あのフォーゲルという御仁、本当に何者なのでしょう……? まぁ、こうして温かい食事にもありつけましたし、ここにいることでアンネローゼ様に降りかかる難を払えるというのなら、ありがたいことですが)

 

* * * * *

 

 と、ミューゼルとキルヒアイスが温かい団らんを過ごしている様子を、わしはグリューネワルト伯爵邸の近くにある森から双眼鏡で見ていた。ヒルデスハイム伯と一緒に。なぜか、森の別の地点に、ビッテンフェルト大佐が歯噛みしながら隠れているが、それは見なかったことにしておく。

 

「今のところ、何事もないな。よしよし」

「しかしわからんのだが、こうしてあの二人に姉君と団らんさせることが、本当に伯爵夫人への企みを阻止することになるのか?」

「うむ。少なくとも、彼女のそばに頼りになる護衛がいることは、よからぬことをたくらんでる輩への抑止力にはなろうさ」

「そういうものか」

「そういうものだ」

 

 わしは疑問を投げかけてきたヒルデスハイム伯にそう答えたが、わしの思惑はもう一つある。

 わしの前世の記憶では、ベーネミュンデ侯爵夫人は、ミューゼルが事故にあったと嘘をついて、グリューネワルト伯爵夫人を連れ出し、誘拐したという。

 だが、こうしてここに二人がいれば、そのような手を打つことはあるまい。いくらなんでも嫉妬に狂ってるとはいえ、当の本人が一緒にいるのに、その本人がどうのこうのと、頭の悪いオレオレ詐欺をしかけるほど馬鹿ではないだろう。

 

 なお、ミューゼルたちをグリューネワルト伯爵邸に行かせるにあたり、グリンメルスハウゼン子爵に助力をお願いした。彼は、わしが転生したと聞いて驚いておったが、それを信じてくれると、心から助力を約束し、そのコネを活かして宮廷に働きかけて、彼らが伯爵夫人に会えるように取り計らってくれたのだ。本当にありがたい。ヒルデスハイムではこうはいかなかっただろう。

 こんなこともあろうかと、グリンメルスハウゼンの周囲……従者たちや彼の元に食品を納入している業者、彼が通っている病院etc.……に注意とお金を配り、健康と長寿を維持できるように骨を折ったかいがあったというものだ。おかげで、前世ではかなり早くに亡くなっていた子爵が、今まで長生きしているのだからな。

 グリンメルスハウゼンが、周囲にわしの転生をばらす可能性? それは考えてない。子爵はもともと口が堅いし、周囲からは耄碌じじいとみられている。そんな彼が転生のことをバラしたところで、「ボケじじいの妄言」としか扱われないだろう。

 

 もっとも、連れ出すことはこれで抑止できるが、そうなると今度は、あの邸に手の者を送り込み、直接彼女を殺そうとすることも考えられる。そちらのほうもちゃんと対策はしてあるが―――というか、こちらはしっかりと対策しなければならない。もし未遂とはいえそれを許してしまったり、このことが明るみに出てしまったりすると、もはやわしがいくら望んでも、彼女を死から救うことは不可能になってしまう。

 

 と、そこで、またスマホが鳴った。見ると、ナイゼバッハからだ。

 

「私だ」

「ベーネミュンデ侯爵邸の裏口から黒ずくめの男たちが数人出てきました。彼らはいずれも暗殺用の装備や武器を持っていたので、ご命令通り、即、全員射殺しておきました」

「そうか。官憲には気づかれてないな?」

「はい」

「ミューゼルの手の者にも気づかれてないな?」

「無論です」

「そうか、ご苦労。引き続き、侯爵夫人の動きに注意をはらってくれ」

「了解です」

 

 さて、ではいよいよ解決編といきますかね。

 

* * * * *

 

 その数日後、わしはバルトハウザーを連れて、ベーネミュンデ侯爵邸を訪れた。強引に中に入り、夫人の私室に入ると、そこには案の定、ベーネミュンデ侯爵夫人シュザンナと、フレーゲルの奴がおった。大方、襲撃失敗に対しての相談をしていたのだろう。

 

「これは侯爵夫人と男爵閣下。何かよからぬ相談ですかな?」

 

 二人はやはり驚いておったが、やがて血相を変えて言ってきた。

 

「何の用があって、この屋敷に入るか! ここは由緒あるベーネミュンデ侯爵の屋敷ぞ!」

「そ、その通り! ましてやよからぬ相談をしてるなどとぬれぎぬを……」

 

「黙らぬか、この痴れ者が!!」

「ひっ!」

 

 おっと、見苦しい言い逃れをしようとする我が甥に、つい堪忍袋の緒が切れてしまって、普段心がけてるフォーゲル中将の口調ではなく、素であるオットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵としての口調で怒鳴りつけてしまった。やはりというべきか、わしがブラウンシュヴァイク公の口調で怒鳴りつけたことに、フレーゲルは混乱したようだ。もっとも、それはシュザンナも同じようだが。

 

「な、なぜ貴様が叔父上の口調を……。しかも、そんなに完璧に……」

 

 これは思わぬ失態だったな。わしはドアの外で待機しているバルトハウザーに声をかけた。

 

「バルトハウザー」

「はっ」

 

 そして、ドアのカギ穴から毒針が飛んできて、フレーゲルめは爆睡した。それを確認したわしは、バルトハウザーを呼ぶ。

 

「バルトハウザー、このバカを頼む」

「はっ。ここでの出来事の記憶を抹消せよ、ということですな? お任せください」

 

 そしてバルトハウザーは、我が愚かな甥を革袋に入れて部屋の外に持ち去っていったのだった。

 

 さて……改めて、わしはベーネミュンデ侯爵夫人……いや、シュザンナに向きなおった。

 

「そ、そなたは……いえ、あなたは……まさか……?」

 

 うろたえながらも聞くシュザンナに、わしはうなずいた。

 

「うむ、わしじゃ。ブラウンシュヴァイク公オットーだ。もっとも、今生きている彼ではない。前の世界で死に、この姿に生まれ変わってきたオットーなのだよ。久しぶりだな、シュザンナよ」

「まさかそんなことが……? でも、確かに口ぶり、雰囲気、まさにブラウンシュヴァイク公、そしてオットー……」

 

 まだかすかに動揺しているが、シュザンナはとりあえずわしの言うことを信じてくれたようだ。

 

「でも、そのあなたでも許されることと……」

「許されないことがある、か? お前がたくらんでいたグリューネワルト伯爵夫人暗殺以上に許されないことがあるとは思えないがな」

 

 わしがそうズバリ指摘してやると、シュザンナの顔色があっという間に変わった。それこそが彼女がこの企みを企てていたという証拠だ。

 それでも彼女は言い逃れをしようと試みる。

 

「な、なにを証拠にそんなこと……」

「証拠だと? それならあるぞ。わしの部下が、この邸から武器を持った黒ずくめの男たちが出ていくのを発見し、そいつらにしかるべき対処をした。証人として一人確保もしてある。なんなら、男たちが出てきた写真を見るか?」

「……っ」

 

 証人を確保した、というのは嘘だ。襲撃者どもは、ナイゼバッハとその部下たちが全員射殺している。しかし、シュザンナの態度から、本気で言い逃れられるとは思ってないのがわかるし、最後の一押しをするという点でも、言っておいて損はないだろう。

 すると、わしの考え通り、シュザンナはへたり込み罪を認めた。

 

「私の負けよ……。それで、私をどうするつもりなの?」

「どうもしないさ。今はまだ、な。まずはわしに付き合ってもらおうか」

 

* * * * *

 

 そしてわしがシュザンナを連れ出したのは、帝都オーディンの、中央都市のはずれにある公園だ。ここは景色が良いうえに空気もおいしく、おまけにおいしい屋台が多いので、よくわしも訪れさせてもらっている。

 

 さて、ここにやってきたシュザンナは、やはりというべきか、わしに訝しげな視線を向けた。

 

「ここに何をしに……? もしかして、処刑前の穏やかなひと時を?」

「……」

 

 わしは苦笑をすると、無言のままシュザンナを連れて、行きつけの屋台の一つに向かった。

 

「お、中将さん。いらっしゃい!」

「ご主人、元気そうで何よりだ。さっそくだが、いつものを二人前ほどいただけるだろうか?」

「あいよ。じゃがバターだね」

 

 そしてわしは、屋台の主人から、じゃがバターの皿を二つもらうと、シュザンナに手渡した。

 

「安心するがいい。毒は盛っておらん。ここのはこの帝都一、いや、帝国一だと思っているのだ」

「こ、こんな庶民の食べ物なんて……」

「庶民の食べ物だっておいしいものはあるぞ。あのヒルデスハイムだって、芋の塩煮やじゃがバターを気に入っているのだからな。ほれ、とにかく食べてみよ」

「……」

 

 不服そうながらも、彼女はプラスチックのフォークでじゃがバターを一つとると、それを口に運んだ。

 すると。

 

「まぁ、おいしい! こんなおいしいものがあったなんて!」

「であろう? ……お?」

「え、なんですの、オットー?」

 

 いや、それは声もあがるさ。なんたって……。

 

「今の笑顔、とてもきれいだったぞ。まるで花もほころぶような可憐な笑みだった」

「え、か、からかわないでくださいっ。私はもう30台ですよ」

 

 ……いや、本心から言ったのだがな。

 

* * * * *

 

 それからもわしらは、オーディンの街中を遊びまわった。公園はもちろん、映画館で映画を見たり、アニメショップで、一緒に好きなラブラ〇ブのグッズを見たり、遊歩道をともに歩いたりと……。

 

 最初こそ、いささか緊張していたシュザンナだったが、やがて気を許してきたのか笑顔が多くなってきた。

 そして……。

 

「楽しかったですわ。こんなに楽しく遊んだのって久しぶり。ありがとうございます」

「それはわしの台詞さ。まだわしらが若かったころの、清楚で可憐なお前を見ることができたからな」

「え……」

 

 そこまで言うと、わしはシュザンナの手に頭をのせた。

 

「お、オットー……?」

「今までつらかったのだろう? 宮廷のごたごたで疲れ果て、皇帝陛下の寵愛を失うかもしれない、という恐怖に苛まれて」

「……っ」

 

 わしがそう指摘してやると、シュザンナの目に涙が浮かび、表情がたちまち崩れていく。

 そして彼女はわしにしがみついた。

 

「そうよ! 不安だったの! 不安で、それで憎らしかったのおおおおおおおおお!!」

 

 それからも彼女は泣きながら、胸の内をすべて吐き出してくれた。

 

 貴族社会の汚れた雰囲気に影響されて、自分の清楚で可憐な心が少しずつ汚れていく恐怖

 皇帝陛下の寵愛を失い、見捨てられるのではないかという不安

 その源たるグリューネワルト伯爵夫人に対する嫉妬と憎しみ

 よくないと心のどこかで思っていても、その嫉妬と憎しみに心を支配されていくのに対する恐怖と罪悪感

 

 それらを全て、シュザンナにわしに吐き出した。

 やがて、シュザンナは泣き止むとわしから離れ、清々しい笑みを浮かべた。

 

「ありがとうオットー。あなたのおかげで、私の中の淀みが全て消えたみたい。これで私は清らかな私に戻って、そのまま天上に行けるわ」

 

 そう言うと彼女は胸元に手を入れ……。

 

「おっと、お前が探しているのはこれかな?」

 

 わしが出して見せたのは、ペンダントヘッドの部分がとっても小さな薬瓶になっているペンダントだ。それを見たシュザンナは目を見張って驚く。なぜなら、それは彼女が持っているはずのものだからだ。

 いや、正確にはこれは彼女のものではない。あらかじめ、彼女が持っているものと同じ形のものをあらかじめ買っておいたのだ。

 

「い、いつの間にそれを……いえ、それよりどうして私が自決するのを止めようとなさるの!?」

 

 彼女にわしは苦笑して答えた。

 

「言っただろう? 今はまだ、と」

「え……?」

「グリューネワルト伯爵夫人と、その弟たちは、何も知らず団らんを楽しんでいる。お前が放った刺客どもは、官憲に見つかる前に処理した。だから、事件はそもそも発生してないし、このことが露見することもない。わしがこのことを胸にしまっていれば、全てはなかったことになる」

「オットー……」

「お前のところに赴き、そして連れ出したのは、別にお前を断罪したかったからではない。お前に戻ってもらいたかったからだよ。清楚で可憐だった幼き頃のシュザンナに。そして、そんなお前にずっと生きていてもらいたかったからだ。わしの幼馴染にして、大切な想い人だったシュザンナにな」

「……!」

 

 あれ? わし、何か変なこと言ったか? シュザンナの奴が目を丸くして、おまけに頬を赤くしてるんだが。

 まぁいいか。話を続けよう。

 

「一度、貴族社会から離れて、穏やかに過ごしてみたらどうだ? そうすれば、少なくとも、今までよりは幸せな人生が送れるだろうさ」

「オットー……時々は、私の元を訪れてくださる?」

 

 シュザンナがなぜか目を潤ませ、頬を染めて、そう聞いてくる。まぁわしは多忙な身ではあるが、大切な幼馴染の頼みなら断る理由などもないし、時々は彼女のところに行くのも悪くない。

 

「あぁ、もちろんだ」

「ありがとう……」

 

* * * * *

 

 それから。

 ベーネミュンデ侯爵夫人は自ら申し出、辺境の一惑星に隠棲することになった。

 そこはわしが事前調査して、隠棲に最適と勧めた星で、きれいな自然と、気立てのいい人々が取り柄の星だ。

 そこに彼女は、小さな邸宅を造ってもらい、住むことになった。

 清楚さと可憐さを取り戻した彼女は、料理を住人たちに振舞ったり、バザーに自分の作った洋服を出品したりするなどして人々と触れ合い、住民たちにとても好かれ、敬愛されているそうだ。

 その彼女からは、惑星の景色などが描かれた絵ハガキや、その日あった出来事などを綴った手紙が、時々送られてくる。どうやら、とても幸せに過ごしているようだ。

 時々は、「遊びに来てほしい」とか、「あの子供のころが懐かしい」とかいう手紙も来ることがあるのだが。(もちろんわしもそれに応えて、返事を出したり、休暇に彼女の星に遊びに行ったりもしている)

 

 そしてわしは、彼女が幸せな様子を見て、安心し、幸せな気持ちに浸るのだ。

 

 ……あ、この作品そのものは、まだ続くので、念のため。

 




今回の閑話・いかがでしたでしょうか?
書いてて、良いお話になったと自画自賛しているのですが……。

ただ……『ラインハルトの話』といっときながらこの体たらく……天上(ヴァルハラ)にてお詫びいたします……ごふっ!!(吐血

さて、次回、また話が少し動きますよ! ブラ公、まさかの出世!?

次回『フォーゲル機動艦隊群』

転生提督の歴史が、また1ページ
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