ブラウンシュヴァイク公が転生したけど、転生先はフォーゲルだった件 作:ひいちゃ
この第1期の最終章『リップシュタット戦役編』、いよいよスタートですよ!
皇帝陛下崩御―――。その凶報は銀河帝国を駆け抜け、戦慄させた。
前世通りであれば、貴族どもは、幼帝を担ぎ出さんとするリヒテンラーデ侯爵に対抗せんと、反乱を起こし、挙兵する。それにあたって、軍も、門閥貴族どもに加担する者と、リヒテンラーデ候に加担する者とに分裂することになる。
もっとも、もし門閥貴族どもからの誘いが来ても、わしの腹は既に決まっている。どっちに味方するのか、な。
今は、できることをするだけだ。
わしはさっそく、機動艦隊群の提督たちを呼び出した。
イゼルローン要塞、その中のわしの自室に並んだ提督たちに、わしはさっそく切り出した。
「卿らも知っての通り、皇帝陛下が崩御なされた。じきに、帝国では、新皇帝を擁立する者と、それに反対する者との間で内乱になる。卿らには、その時が来た時、どのようにでも対処できるよう、艦隊の準備を整えておいてもらいたい」
わしの言葉に、ファーレンハイト提督、アイゼナッハ提督、ミュラー提督の目が丸くなる。まぁ、そりゃそうだ。それが間違いなく起こると断言してるような言い方だったからな。
「凶報は存じておりますが、皇帝陛下がお亡くなりになられたばかりというのに、そのように判断するのは早計なのでは……?」
ファーレンハイト提督の言葉に、わしは首を振る。
「いや、間違いなくこれは起こる。少なくとも、私はそう見ている。いや、私だけではないな。今頃はミューゼル提督も、事が起こることを見越して対応を練っているはずだ」
「それでフォーゲル提督、その時に備えることはわかりましたが、もしそうなった場合、我が艦隊群はどちらに味方するのでしょう? 新皇帝側か、それとも反対派側か」
ミュラー提督の質問に、わしは既に決めていた答えを、諸将の前で改めて口にする。決意を固める意味も込めて。
「決まっているだろう。我々は帝国軍だ。帝国……つまり、新皇帝陛下側について戦う。それ以外に何がある」
新皇帝側につくには別の理由もあるがな。
* * * * *
さて、わしがイゼルローン要塞で、艦隊の準備を整えていると、通信士から連絡が入った。
「フォーゲル閣下。巡航艦が一隻、要塞に接近しております。特使が乗船しており、ブラウンシュヴァイク公領のアンスバッハと名乗っておりますが……」
アンスバッハか。懐かしい顔がやってきたな。やってきた理由は予想がつく。
迎え入れてやりたいが、こんなご時世だ。変な疑いをもたれたらかなわん。
「入港は許可できん。用事があれば一時間後、通信で受ける、と伝えろ」
「了解しました」
用事が済むと、わしは私室に戻った。そして報告を受けたら一時間ぴったりに、再び通信が入った。アンスバッハからだ。本当に、律儀な奴だ。
『通信を受けてありがとうございます。ブラウンシュヴァイク家の執事・アンスバッハと申します』
「フォーゲル機動艦隊群司令・フォーゲル中将だ。いきなりで済まないが、卿らの期待には応えかねる」
『な……!』
用件を見抜かれるとは思わなかったのだろう、アンスバッハが彼らしくもなく、驚愕の表情を浮かべる。
「卿らの用件はわかっている。幼帝を傀儡として擁立せんとする奸臣、リヒテンラーデを討つ為に挙兵するので、力を貸せ、というのだろう」
『それがわかっているなら……』
「私たちは帝国軍だ。帝国を守るために戦う義務がある。それが何故、幼帝に弓引く奴らに加担しなければならん。私の言うことは間違っているか?」
『それは……』
ここで素に戻るか。過去に引導を渡し、決意を新たにするためにもな。
通信回線を機密モードに切り替えた。これでこの先の通信は、このイゼルローン側の通信ログにも、向こう側の通信ログにも残らない。内容を覚えているのは、わしと彼だけになる。おまけに、傍受される心配もない。
「まぁ、それは建前だが……アンスバッハ」
『!! そ、その口調は……威厳は……まさか……』
「おっと、それ以上は言うでないぞ。もし言ったら、お前を雷神の槌(トゥール・ハンマー)で塵にしなくてはならんからな」
『は……』
「久しぶりだな、といってもこの世界では初めましてだが。わしはお前の知っているブラウンシュヴァイク公オットーではない。前の世界において、帝国内戦に敗れ、そして自害したブラウンシュヴァイク公が転生した者だ」
『……ではなぜ、公でありながら、我らに助力なさらないのです』
「賢いお前のことだ。既にわかっておるのではないか? 貴族どもがいくら力を合わせても、あの金髪の孺子……ラインハルト・フォン・ミューゼルには勝てぬと。絶対に勝てない相手と敵対するほど、わしは愚かではない。そんな真似をするのは、前世だけでたくさんなのでな」
『……』
「それに、わしは軍人として新たな生を受けてから今まで見てきた。『わし』が目覚める前も、目覚めてからも。門閥どもが人々を踏みにじり、自分たちの利益のために、多くの罪なき人を煉獄に叩き込んできた様をな。前世のころは何も感じなかったが、今ならわかる。それがどんなひどいことか、許されぬことかを。わしのよく知る者も、危うくその犠牲になるところであったしな」
『……』
「わかるか。もう、貴族たちの時代は終わるべきなのだ。これからは、誰もが皆、奪うことも奪われることもなく過ごせる時代が来るべきなのだ。そんな時代がもたらされるなら、わしはその時代をもたらす者について戦うさ。例え、それがラインハルト・フォン・ミューゼルであろうともな。ヒルデスハイム伯の言葉ではないが、貴族としてのプライドなど、ブラックホールの中に投げ捨ててやるわ」
『……わかりました』
「うむ。すまぬな。ご期待に沿えないで。ああ、アンスバッハ、もう一つ」
『?』
かつてのこいつの主だった者として、これだけは言ってやらねばなるまい。
「わし……オットー・フォン・ブラウンシュヴァイクは、お前によって殺された。毒ワインを飲まされてな」
『……!』
「いや、それを責めるつもりはない。本題はこれからだ。それからお前は、わしの遺命を果たすため、ミューゼルの命を狙い、結果命を落とすことになっただろうが……。そんなことは考えるでないぞ』
『閣下……』
「お前の有能な才が、そんなつまらぬ男への忠誠のために失われるのは大きな損失だ。世界のためにも、お前のためにもな。いいか。決して、そんなつまらぬ男のつまらぬ命に縛られるではないぞ。お前の才能は、もっと開明的な方向に向けられるべきなのだからな」
『は……』
そうして通信は切れた。
* * * * *
そして、ついにその時は来た―――!!
要塞ガイエスブルグから、帝国全土に向けて、全周波で決起を知らせる通信が流れた。
決起の題目は、やはりというべきか、幼帝を擁立し、帝国を私せんとするリヒテンラーデ侯爵を討つというものだった。ミューゼルの名前が出ていないのは、この時点でミューゼルはまだ伯爵で、大きな影響を持つ存在ではないからだろう。ミューゼルがリヒテンラーデと組んだ、という話も聞いてないしな。
だが、わしは門閥貴族の後ろに並ぶ軍人たちの列を見て、愕然とした!
我が宿主、フォーゲルの友人であるエルラッハ中将と、何よりメルカッツ大将の姿があったのだ!
我が宿主、フォーゲルの友人であるエルラッハ中将と、何よりメルカッツ大将の姿があったのだ!
我が宿主、フォーゲルの友人であるエルラッハ中将と、何よりメルカッツ大将の姿があったのだ!
大切なことなので三回言いました。
エルラッハの奴が貴族軍に参加したのもショックだったが、あのメルカッツ提督が参加していたのはさらにショックだった。門閥貴族に参加するような愚かな人ではなかったと思うのだが……やはり、現世でもブラウンシュヴァイク公に人質を取られて参加したのだろうか。かつてブラウンシュヴァイク公だったわしとしては、なんとも申し訳ない気分だ。
だが、敵に回ったのなら仕方ない。わしは帝国を守る軍人として、貴族からの人々の解放を欲する者として、彼らと戦い、打ち倒すだけだ。
幸い、ミュラー提督やアイゼナッハ提督はもちろん、前世では貴族軍に組していたファーレンハイト提督もこちらについてくれた。これはありがたい。まぁ、彼は私の指揮下にいるし、事前に指示も出しているから当然か。
それより、ヒルデスハイム伯まで、正規軍に残ってくれたのは幸いだが意外だった。彼も門閥貴族だから、とっとと裏切って向こうにつくかと思っていたが。
と思っていると、そのヒルデスハイム伯がオフィスに入ってきた。
「フォーゲル提督、要塞の中央管制室に来てくれ。帝都から通信が来ているぞ」
「あぁ、わかった。それにしてもヒルデスハイム伯。良く貴族軍に寝返らなかったな」
「なに、提督が正規軍につくと言ったからな。提督が言うならこっちが勝つだろう、そう思ったのだよ。負ける側につくなどという愚かなことを、選ばれし貴族である私がするはずないのだ。はっはっはっ!」
「そうか。でも、そう言ってくれるならありがたい」
そう言葉を交わしながら中央管制室に行き、回線をつなぐと、そこに映ったのはミュッケンベルガー司令長官ではなく、ラインハルト・フォン・ミューゼルであった。
「私が、討伐司令官のラインハルト・フォン・ミューゼル上級大将だ」
「フォーゲル機動艦隊群司令のフォーゲル中将であります。討伐司令官というと、ミュッケンベルガー司令長官は?」
わしがそう聞くと、ミューゼルはうなずいて答えた。
「うむ。ミュッケンベルガー司令長官は、討伐司令官を私にお任せなされた。全て私に一任するとな。なおそれにあたり、私は上級大将に昇格した」
「なるほど」
そりゃそうだろう。今まではあまり目立ってなかったが、ミューゼルにはそれだけの力量がある。わしなどより、よほど討伐司令官にふさわしいと思う。きっと司令長官も、前から彼の秘められた軍才を見抜かれていたのだろう。
しかし、力量があるとはいえ、まだ一艦隊の指揮官でしかないミューゼル提督に、討伐司令官を任せるとは、司令長官も思い切ったことをなされたな。もしかしたら、この叛乱が終わったら、彼に司令長官の座を譲る腹積もりだったりするのだろうか。
「さて。我が軍はこれより、貴族軍の討伐を開始する。卿にもそのために手腕を振るってもらいたい」
「はっ。奴らを討伐し、帝国に安寧をもたらすため、粉骨砕身、働く所存であります」
「うむ。作戦は後に指示する。ただ、卿が最善と思えば、そちらの一存で動いてもらっても構わない。ただその場合でも、こちらからの作戦を優先させてもらうが」
「了解であります。しかし、基本的にこちらのフリーハンドでいいとは、大胆でありますな」
「まぁ、以前の卿のことを考えると、少し心配ではあるのだが、だがここまでの活躍、特に第六次ティアマト会戦での采配を見て、問題はないと判断した」
「……」
やっぱり心配なのね。うん、知ってた。まぁ仕方ない。
「了解しました。それではこれから我が機動艦隊群は、貴族軍討伐に着手します」
「うむ、卿の手腕に期待する」
そして通信は切れた。すぐさまわしは号令を下す。
「よし、全艦隊出撃! まずは、貴族軍が占領した星域の解放に着手するぞ!」
* * * * *
貴族軍が占領したのは、二大門閥ブラウンシュヴァイク公爵家と、リッテンハイム公爵家のおひざ元のブラウンシュヴァイク星域と、リッテンハイム星域、そして、奴らの拠点、ガイエスブルグ要塞のあるアルテナ星域の三星域だ。
わしらの機動艦隊群はさっそく、リッテンハイム星域の解放に乗り出した。
貴族軍の出足は遅く、リッテンハイムはいとも簡単に陥落。
だが問題はここからだ。常道では、この後はブラウンシュヴァイク星域、そして奴らの本拠・アルテナ星域と攻めていくべきなのだが、アルテナ星域にはあのガイエスブルグがある。あそこに籠られるととても厄介だ。果たしてどうするか……。
わしが悩んでいると、ある報告がわしにもたらされた。
貴族軍がフレイア星域に攻め込んだと!
わしは思考を中断し、フレイア星域に艦隊群を向かわせた。
やっぱり、状況がシリアスになると、物語の雰囲気もシリアスになっていきますねー……
さて、いよいよ次回から戦いが始まります!
次回『フレイア星域会戦』
転生提督の歴史が、また1ページ
-追記-
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