ブラウンシュヴァイク公が転生したけど、転生先はフォーゲルだった件   作:ひいちゃ

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さぁ、いよいよ貴族軍との最終決戦ですぞ!
そして、この物語も、いよいよこの話を入れて2話で、(第1期は)完結!


第16話『黄金樹は倒れました、本日~ブラウンシュヴァイク星域の決戦』

 わしが回線を開くように命じると、すぐに通信スクリーンに、ミューゼル討伐軍総司令官の姿が浮かび上がった。

 

「奴らの主力を蹴散らすことには成功したが、肝心のブラウンシュヴァイクを逃したのは痛いな」

「はい。このままガイエスブルグに籠られると厄介なことになると、小官は考えます」

 

 わしの言葉に、ミューゼルもうなずく。

 

「向こうにはガイエスハーケンがあるからな。しかもあちらにはまだ、無傷のリッテンハイム艦隊も残っている。無理に攻めているところに、ガイエスハーケンを撃ち込まれ、そこに奴らの艦隊の攻撃を受けたら、これまでの勝利が無になりかねん。卿はどう思う?」

 

 ミューゼルがわしに意見を求めてきたことに、内心喜びを感じながら、わしは先ほど思っていたことを進言する。

 

「はっ。やはりアルテナに攻め込んで、そこで決戦するのは分が悪いと存じます。とりえる策は二つ。アルテナを包囲して、兵糧攻めに持ち込むか、あるいは、奴らをブラウンシュヴァイク星域におびき出して……」

「艦隊決戦に持ち込むか、か……。卿の意見も、私と同じようだな」

「そうですな。ガイエスブルグに手を触れずに決着をつけるとなれば、おのずとこの二点に方向は絞られましょう」

 

 わしがそう言うと、ミューゼル司令はまたうなずいた。

 

「そうだな。だが、叛乱軍の動きも気になるし、兵糧攻めで時間を費やすわけにもいかぬ」

「とすると、やはりブラウンシュヴァイク星域での決戦で」

「うむ。それで、激戦の末で済まぬが、あえて卿に命じる」

「なんなりと」

「卿の機動艦隊群は一度リッテンハイム星域に戻り、奴らをけん制せよ。奴らをおびき出す作戦については、策定し次第通達する」

「了解しました。それで、もし奴らがこちらに向けて動き出したときには……」

「うむ。その時は、卿の判断で動いてかまわぬ。卿の帝国軍人としての責務を全うせよ」

「御意」

 

 そして通信は切れた。

 

* * * * *

 

 それから一週間経つが、何事も起こらなかった。

 さすがに貴族軍も、ガイエスブルグに籠っていたほうが有利だというのをわかっているのだろう。あるいは、参謀どもがそう考え、主君たちの出撃を押しとどめているのか。

 だが、こうして持久戦をしているわけにもいかない。ここが膠着状態に陥っていれば、その間に叛乱軍が攻め込んでくる可能性があるからだ。ミューゼルや統帥本部が何か対策を打っている可能性もあるが、早く決着させるに越したことはあるまい。

 

 そして二週間が経過した。やはり何事も起こらなかった。それまでの間、討伐軍総司令部からの通達もなかった。きっと時間をかけて作戦を立てているのだろう。

 

 だが、わしは気をもみながらも、どっしり構えていた。この後の展開は、前世での記憶から予想がつくからだ。

 きっとミューゼルは、ガイエスブルグの門閥貴族どもを侮辱し、艦隊決戦の場に引きずり出すだろう。そして艦隊決戦の末、門閥どもは惨敗し、貴族軍の完全敗北が確定する。決戦の場が、アルテナかブラウンシュヴァイクになるかの違いだけだ。

 

 わしはリッテンハイム星域の惑星キュストリンに設営された、臨時の艦隊群司令部でお茶を飲みながら、総司令部からの作戦を待っていた。

 

「こう何事も起こらないでいると、退屈で仕方ないな」

 

 臨時司令部のサロンで、わしと共にお茶を飲んでいるヒルデスハイムがそう言った。

 

「そうだな。だが仕方ない。策もないままガイエスブルグに突っ込んでも、ガイエスハーケンの餌食になるだけだからな。卿も、ガイエスハーケンで塵にされるのは嫌だろう?」

「まぁな。一瞬で死ねるなら、それは選ばれし貴族である私にふさわしい死にざまではあるが、私はまだまだ生きたいからな。はっはっはっ!」

 

 ヒルデスハイムがそう高笑いする。なんとも彼らしいとわしも苦笑いする。

 

「しかし、このままずっとティータイムを楽しんでいるわけにもいきますまい」

 

 そう言うのはミュラー提督だ。それに、ファーレンハイト提督もうなずいて同意する。

 

「ミュラー提督の言う通りだ。内乱で隙だらけの現状を、叛乱軍どもが黙って見ているわけがあるまい。奴らが動き出す前に、早くカタをつける必要があるな」

 

 気をもんでいるのは、ミュラー提督も、ファーレンハイト提督も、同じようだ。アイゼナッハ提督のまま腕を組んだまま何もしゃべらないが、表情からすると、やはり気をもんでいるようだ。

 

 一方のわしは、確かに気をもんでいるが、あまり深くは考えていない。前世での記憶から考えても、また、アルテナにガイエスブルグがある、という現状から考えても、艦隊決戦に持ち込む、という骨子は変わらないと判断しているからだ。そして、一度艦隊決戦に引きずり出せば、数で勝るこちらの勝利は確定、となる。あとは、どう戦うかという作戦と、どうやって奴らを引きずり出すか、だけだ。

 

 と、そこに、サロンにバルトハウザーがやってきた。

 

「来たか」

「はい。司令、作戦室にお越しください。ミューゼル討伐軍総司令閣下が、貴族軍に対する最終作戦を説明するそうです」

「うむ、わかった」

 

 そうわしが立ち上がったところで……。

 

「チェックメイト」

 

 アイゼナッハ提督から聞こえたその声に、その場にいる全員が振り向いた。

 彼、話すことができたのか。

 

* * * * *

 

 そして、ミューゼルから、貴族軍に対する最終作戦の説明がなされた。

 骨子は前世の通り。ミューゼルが門閥貴族どもに、通信で彼らを侮辱し、出撃するように仕向ける。あとは艦隊決戦だ。

 

 そして艦隊決戦での詳しい作戦だが、ミューゼル率いる討伐軍主力艦隊が、正面から敵艦隊に相対する。その間に、我が艦隊群が星系をぐるりと回り、ブラウンシュヴァイク星域とアルテナ星域との連絡路に布陣し、逃げ崩れてくる奴らを討ち果たす、というものだ。

 全艦隊を正面からぶつける正面決戦という手もあるが、それだと、貴族軍の敗色が濃くなりアルテナに退却を開始した時、討ち逃して、ガイエスブルグに逃げ込まれる可能性が高い。

 この作戦は、まさにそれを防ぐことを考えた、理にかなったものだとわしも思う。

 

 だが、わしは、その作戦案が伝えられた後、少しながら異を唱えた。

 

「作戦案は了解しました。ですが、一つだけお願いしたいことがあります」

『? 何かな、フォーゲル提督?』

「奴らと最初に砲火を交える正面攻撃担当を、我が艦隊群に任せてほしいのです」

『ほう……なにゆえだ?』

 

 不思議そうな顔をして聞いてきたミューゼル提督に、わしは細かいことや、自分が転生者であることは伏せて、正直な思いを伝えることにした。

 

「詳しいことは申せませんが……。小官も、門閥どもが今までにしてきたことが許せないのです。討伐司令官閣下と同じく、小官も、門閥どもをこの世から抹消してやりたいと思っています。そして……この手で、奴らの命を刈り取ってやりたい。奴らの命を断つその最初の一刀を我が手で放ちたい、というのが小官の素直な気持ちです」

『ふむ……よかろう。そこまで言うのなら、正面攻撃は、卿の艦隊群に任せよう』

「はっ。ありがとうございます。そのついでで申し訳ありませんが、討伐司令官閣下の演説の後、小官も奴らに侮蔑の言葉を投げかけてやりたいのですが、よろしいでしょうか? 小官も言いたいことが山ほどありますので」

 

 わしがそう言うと、ミューゼル提督は少し表情を緩めた。

 

『ふ……面白い。よかろう。それも許す。卿の内にたまった物を、奴らにぶつけてやるがよい』

「はっ、ありがとうございます」

 

* * * * *

 

 そして作戦は始まった。我が艦隊群は、ブラウンシュヴァイク星域・惑星ツォンドルフの1時方向6光秒(180万km)の位置に布陣した。

 ミューゼルの指揮する主力艦隊は、星域を時計回りに移動し、所定ポイントに移動中だ。その後は艦隊を伏せ、貴族軍が我が艦隊と交戦状態に入ったところで、退路を防ぐように布陣する予定である。

 

 そして、移動しながら、ミューゼル提督は奴らに最大級の侮蔑を投げつけた。その言葉は一言一句間違いなく、前世のものと同じであった。今頃ガイエスブルグでは、貴族たちの血液が沸騰しまくっていることだろう。

 さて、次はわしの番だ。とどめの一撃を放ってやろうではないか。

 

「聞こえるか、門閥貴族の豚ども。私は、帝国正規軍・フォーゲル艦隊群司令・フォーゲルだ。さて、門閥ども。庶民から今まで貪って満足したか? まだ食い足りないか? だが残念ながら、これから諸君らを処分場に連れていく時間だ。

 貴様らは自分を高貴な者と自負しているだろうが、さにあらず、貴様らは所詮、豚以下、ただ貪ることしか知らぬ下等な生命体に過ぎん。ウィルスのほうがまだ高等なくらいだ。

 今まで帝国はそんな貴様らを放置していたが、それももう終わりだ。貴様らのような奴らを処分するのはめんどくさいが仕方ない。屑は処分しなければ、帝国はきれいにならんからな。貴様たちのような者を処分するのに、手間をかけてもらえることをありがたく思うがいい。

 違うと言い張るか? それなら、ブラウンシュヴァイク星域に出陣し、我らと決戦するがいい。そうすれば、少しでも輝かしい散りざまを用意してもらえるだろう。仮に我らに勝てば、少しは貴様らを見直してやってもいいぞ。

 それもできず、ガイエスブルグに籠っているなら、貴様らは私が言った通り、人間以下、豚以下の屑。低能という言葉すらも生ぬるい存在であると知れ」

 

 そして通信を切る。

 

「ふぅ、言ってやった。少しはすっきりしたな」

 

 そのわしに、バルトハウザーが微笑みながら言った。

 

「お見事でした、司令。小官もすっきりしました」

「そうか。……どうした、ヒルデスハイム伯? もしかして気分を悪くしたか?」

 

 わしがそう聞くと、ヒルデスハイムは顔をしかめてうなずいて言った。

 

「当たり前だ、フォーゲル司令。わしも一応は門閥なのだが」

 

 そんな彼に、わしは笑って言ってやった。

 

「誤解するな、ヒルデスハイム伯。卿は既に門閥貴族ではない」

「は?」

「わしについて正規軍で戦ってくれた卿は、もはや門閥貴族という下等生命体ではない。我らとともに新時代を築くことを許され、またそう宿命づけられた選ばれた者だよ。ヒルデスハイム伯」

 

 そう言ってやると、ヒルデスハイム伯は、機嫌を直し、笑顔になった。

 

「そうか、やっぱり私は選ばれた者なのだな。はっはっはっ!」

 

 そう言って明るく笑うヒルデスハイム伯を、(生)暖かく見守るわしのもとに、ナイゼバッハがやってきた。

 

「司令、漫才をしているところ済みませんが、貴族軍が来襲してきました。怒涛の勢いで接近してきます」

「少し侮蔑が効きすぎたかな……? 数は?」

「はい。索敵の結果、盟主ブラウンシュヴァイク公の艦隊が6000隻。副盟主リッテンハイム伯の艦隊が8000隻。シュターデン提督の艦隊が5000隻の計19000隻です」

「こちらは28000隻だから、なんとか受け止めることはできるな。だが、奴らは怒り狂っているだろうからな。奴らの狂乱に任せた攻撃がとんでもない事態を招くかもしれん。気を引き締めなければなるまい」

 

 そう言ってうなずくわしに、またヒルデスハイムが言った。

 

「問題はない。選ばれた者たる我らに恐れる者はなーし!」

「卿の気楽さがうらやましいよ。さて、始めるとするか。全艦、砲撃用意。敵を撤退させず、ここで撃滅させるつもりでいくぞ!」

 

 わしの号令一下、全艦隊が攻撃態勢を整えていく。その間も、貴族軍は怒涛の勢いで我が艦隊に突っ込んでくる。

 そして―――。

 

「撃て(ファイエル)!!」

 

 ここに、帝国正規軍と貴族軍との最終決戦、ブラウンシュヴァイク星域会戦は始まった!

 

* * * * *

 

 先に言おう。わしが言った通りになった。

 我が艦隊群は猛然と突っ込んでくる貴族軍艦隊に猛攻撃を加えたが、奴らはそれにひるまず、その勢いのまま突っ込んできたのだ!

 

「うーん、これはやはり侮蔑が効きすぎたかな?」

「司令、そんなことを言っている場合ではありません。奴らの前進と攻撃の勢いはすさまじく、下手すれば陣を突破されそうな状況です」

「むぅ……」

 

 門閥どもめ、狂乱のせいとはいえ意外とやるではないか。少しばかり評価を改めるべきかな。……とそんなことを考えている場合ではないな。どうにか、手を考えなくては。

 とはいえ、ミューゼルの主力艦隊は、貴族軍の撤退を防ぐ役割があるため、動かすことはできない。ここにある我が艦隊群だけでどうにかするしかないのだ。むむぅ……。

 

 その時だ。ふと思いついたことがあった。

 陣を突破される。陣が裂かれる。紙が裂かれたらどうする? 裂かれたものを再び別々に利用する手もあるが、それをくっつける手もあるな。……ん?

 

 そうだ、この手はいけるかもしれない。

 

「よし、後衛のミュラー艦隊は、一応のために後方に大きく下がれ。残りの艦隊は左右に散開せよ」

「それでは、奴らに突破されてしまいますが……?」

 

 そう聞き返してくるナイゼバッハに、わしはつづけて返す。

 

「かまわない。奴らが陣を突破した後に、艦隊は再び集結して奴らに向けて急速転回。その尻を叩く」

「な、なるほど!」

「そのまま奴らがミュラー艦隊に襲い掛かるようなら、我らはそのまま奴らの背後から追撃をかけ、ミュラー提督の艦隊と挟み撃ちにする。彼の力なら、そう簡単に突破されることはあるまい。もし、こちらに転回するなら、それは奴らを撃滅するチャンスだ!」

 

 転回中は全くの無防備となる上に、陣が崩れ混乱することもある。そこを敵艦隊に突かれれば艦隊はひとたまりもない。下手すればそれで壊滅することさえある。これが、艦隊戦において、安易に敵前回頭をしてはならない、と言われている理由だ。

 

「これがこの戦い最大の賭けになる。これがうまくいくかどうかで、この戦いの結果が決まる。急げ!」

「了解!」

 

 わしの命令を受け、まずミュラー艦隊が方向を変えず、そのまま後方に大きく後退する。もちろん、後退の途中で貴族軍に食いつかれないように、その間、残りの艦隊が少しずつ左右に散開しながら、敵を受け止め、食い止める。

 もちろん、その間も、奴らの猛攻は続いているので、双方の艦がすさまじい勢いで、どんどんと火の玉になっていった。わしの旗艦・シェルフスタットの周囲の艦も、いくつかが撃沈された。

 そして、受け止めている我が艦隊と、奴らの戦力差がかなり少なく……ほぼ同数に……なったところで、ミュラー艦隊は所定のポイントまで後退した。

 

 よし、いまだ!

 

「よし、各艦隊、左右に散開!」

 

 わしの号令一下、艦隊群は、まるで紙が左右に裂かれるように左右に散開していく。そして散開していった艦は次々と後方に転回していく。その動きは、貴族軍艦隊のボンクラな動きとはくらべものにならないことは言うまでもない。

 

 そして貴族軍艦隊は、我が艦隊群を通過していった。よし、作戦は成功せりだ!

 

* * * * *

 

 貴族軍総旗艦・戦艦ベルリン。

 その艦橋で、貴族軍の盟主・ブラウンシュヴァイク公は高笑いをあげた。

 

「どうだ、愚かな帝国軍ども、我らの力を見たか! 所詮烏合の衆など恐れるに足らん!」

 

 だが、その高笑いも、オペレーターの一言で驚愕に変わることになる。

 

「か、閣下! 敵艦隊が我が艦隊の後方に再結集! こちらに砲撃を開始してきました!」

「な、なに!?」

 

 戦術スクリーンを見ると、突破され、分断されたはずの艦隊は、再び巨大な陣を再編成し、こちらの後方に展開し、攻撃を開始していたのだ。

 

「て、転回! ただちに転回して迎撃するのだ!」

「し、しかし、この場での転回は……!」

「えぇい、黙れぇ! とにかく転回するのだぁ!!」

 

 うろたえまくり、混乱して、そう喚き命令する主君の姿を、アンスバッハは複雑な表情で見つめていた。

 

* * * * *

 

 背後を撃たれた貴族軍艦隊は、愚かにも、その場で敵前回頭するという愚挙に出た。それはまさに、こちらが望んでいた瞬間! 願いかなったりだ!

 

「よし、総攻撃開始! 今までのうっ憤を、一気にぶつけてやれ!!」

 

 我が艦隊群の各艦は、貴族軍艦隊に向けて、怒涛の如くビームとミサイルを浴びせていく。その猛攻撃で、転回中の敵艦隊は反撃もできずに、次々と火の玉となっていく。先ほどまで、ほぼないと言っていいほどだった戦力差は再び開き始め、気が付くと、敵艦隊はこちらの5分の1ほどまで撃ち減らされていた。

 

「勝ったな……」

「あぁ、我が軍の大勝利だ。さすがはフォーゲル提督! 選ばれし者の私が見込んだだけのことはある!」

「あぁ、ありがとう」

 

 勝利を確信して、ヒルデスハイムにそう答え、力を抜いたわしだったが、それはまだまだ甘かった。大きく撃ち減らされた敵艦隊はここでの敗北は覚悟したが、ここで終わるつもりはなかったのだ。

 

「司令! 敵艦隊が再び集結を開始! 時計回りに大きく移動を開始しました!」

「なに、しまった! 退却するつもりか! そうはさせるか。我々もただちに追撃を開始せよ!」

「了解!」

 

 奴らの退路には、ミューゼルの主力艦隊が待ち構えているが、やはりこちらとしては、画竜点睛を欠くようなことは避けたい。わしは安易に気を緩めたことを反省し、追撃する態勢を整えたのだった。

 

* * * * *

 

 時は少し遡る。貴族軍旗艦ベルリンの艦橋で、アンスバッハが各艦に指示を飛ばしていた。主君であり総司令官であるブラウンシュヴァイク公は、パニックのあまり思考を停止し、指揮をアンスバッハに任せて、自室に引きこもっている。

 

「してやられたか……。さすがだ」

「准将!」

「だが、まだ終わりはしない……。生き残りの艦はただちに集結せよ! 大きく時計回りに移動しつつ、アルテナ星域に、ガイエスブルグに撤退する。急げ!」

「ははっ!」

 

 そう、まだ終わってはいない。艦隊は壊滅寸前にまで陥ったが、まだガイエスブルグ要塞がある。ガイエスブルグに撤退すれば、戦況をイーブンに持ち込める可能性がある。そうなれば、他にとれる選択肢も出てくるだろう。

 

 アンスバッハの指揮のもと、司令部が活気を取り戻す。それは、ブラウンシュヴァイク公が指揮を執っていた時とは大違いであった。兵も士官も、ただ怒鳴り散らすしか能がないブラウンシュヴァイクより、的確な指示を飛ばせ、また人望もあるアンスバッハが指揮するほうが良いと思っていたのだ。

 

 そして陣形を立て直した貴族軍艦隊は、時計回りに移動を開始した。ミュラー艦隊をかすめ、星域の外縁を通るようにして、アルテナ星域への撤退を図る。

 

 もちろん、フォーゲル機動艦隊群も、そのまま逃がすほど甘くはない。執拗かつ激しい追撃をかけてくる。それに対し、アンスバッハは、損傷の大きい艦を殿に残すことで対処した。その都度、殿に残した艦が激しく抵抗してくることで、フォーゲル機動艦隊群はそれへの対処を余儀なくされ、なかなか追いつけずにいた。

 なお、この撤退戦の中、シュターデン提督と、リッテンハイム伯が戦死を遂げている。

 

 だが、そんなアンスバッハの努力も、むなしく終焉を迎える。まもなくブラウンシュヴァイク星域を抜けようというところで、貴族軍艦隊の目前に、ミューゼル討伐軍司令官率いる、無傷の主力艦隊が現れたのだ。

 

 アンスバッハは、前面の敵艦隊を見据えるとため息を吐いた。

 

「ふぅ……終わりだな」

「……」

 

 アンスバッハの言葉に、参謀たちやブリッジクルーたちは、無念そうに沈黙した。

 そんな彼らに、アンスバッハは言葉をかける。

 

「貴官らは投降しろ。ミューゼルも、ミュッケンベルガー司令長官も、自己の職責に忠実であっただけの者を斬りはすまい」

「准将は……?」

 

 そう聞く参謀の一人に、アンスバッハは、決意と疲れと安堵が入り混じった表情を向けて答えた。

 

「私にはまだすべきことがある。諸君らが私の指揮に従い、ここまでついてきてくれたおかげで、私の生き方が全て間違っていたわけではない、そう思うことができた。感謝する」

「准将……」

「壮健でな」

 

 そして、アンスバッハは、ベルリンの艦橋から立ち去った。

 

* * * * *

 

 ブラウンシュヴァイク星域とアルテナ星域の境界。ミューゼルの主力艦隊が待ち構えているポイントで、敵艦隊は動きを止め、投降を申し出てきた。

 画竜点睛を欠いたのは残念だが、とにかくこれで、こちらの勝利は確定した。わしが部下に、敵艦隊の武装解除と投降の受け入れを命令すると、ミューゼルから通信が入った。

 

「詰めを誤ったな、フォーゲル提督」

『はい。正面攻撃を自ら志願しておきながら、油断し、画竜点睛を欠いてしまったこの体たらく、お詫びいたします』

 

 しかし、ミューゼル……いや、ミューゼル提督は笑って許してくれた。その笑いには、悪意の1%も含まれていない……ように見える。

 

『気にすることはない。戦いは全て、作戦通りに進んだし、貴族軍も逃がすことなく敗北に追い込めたのだからな』

「そうですな。そう言っていただけると幸いであります」

『何より、卿の奮戦のおかげあって、この内戦は無事に、そして迅速に集結した。感謝する』

「そ、そんなとんでもありません。私のしたことなど微々たるものです。全ては総司令の力によるものであります」

 

 わしが、頭を下げたミューゼルに慌ててそう返すと、彼は微笑んで言った。

 

『卿の口からそのような言葉が聞けるとは、今日は悪くない日のようだな。それではこれで通信を終わる。引き続き、貴族軍の武装解除を進めよ。この後は、ガイエスブルグを接収し、そこで捕虜の引見を行う』

「わかりました」

 

 そして通信は切れた。……さて、わしの仕事を進めるか。

 

 ……アンスバッハは、どうしただろうか。ちゃんと未来への道を選んでくれていたらいいのだが。

 

* * * * *

 

 戦艦ベルリンの一室。そこでアンスバッハは無言で立ち尽くしていた。

 

 彼の足元には、先ほど彼に毒を飲まされて殺されたブラウンシュヴァイク公が、目を見開いて倒れている。

 

(閣下……。閣下の希望に添えないで申し訳ありません。ですが私はやはり、この道しか選べないようです……)

 

 そして彼は、近くにいた兵士にこう告げる。

 

「閣下の遺体を、艦の医務室に運べ。早くしろ」

 




さぁ、次回は内乱の後始末。

ガイエスブルグでの捕虜引見式……そう! あのキャラの死亡フラグがびんびん立っているあのイベントです!
果たしてこの世界ではどうなるのか……!?

次回『さらば、遥か遠き過去』

転生提督の歴史は今、最後のページへ……
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