ブラウンシュヴァイク公が転生したけど、転生先はフォーゲルだった件 作:ひいちゃ
さて、敵艦隊が一時撤退した後、我が艦隊は一足先に帝都オーディンに帰還させてもらった。もちろん、ティアマト会戦の指揮をとるミュッケンベルガー元帥の許可を取ったうえで。
何しろ、我が艦隊は中将のわりに戦力が少ない。分艦隊が、旗艦分艦隊を含めて三つしかないのだ。これでは、戦場で十分な活躍はできにくい。それで、一度オーディンに帰還して再編成してもらおう、という考えだ。
なお、この提案を聞いた副官が、一部失礼な表現を交えながら感嘆したのは言うまでもない。
その帰還の途上。
「提督、ティアマトに、再び叛乱軍(自由惑星同盟軍)が来襲。その迎撃戦の末、エルラッハ提督の艦隊が壊滅したそうです」
「そうか、エルラッハが……いい奴をなくしたな」
わしの中のフォーゲルめの記憶を探り、エルラッハはフォーゲルと仲が良かったことを思い出し、わしは奴に哀悼の意を表した。すると。
「いえ……エルラッハ提督はなんとか、脱出に成功したそうですが」
脱出に成功したのか、よかった。奴の葬式に出なくて済んだことは、まさに不幸中の幸いだ。
と、そこでわしは一つ思い当たった。
ティアマトに展開している帝国の艦隊は、いずれも階級からすると戦力が不足しているものばかりだったような。ここは彼らも、一度帰還させて再編成させたほうがよかろう。
何度も思うが、前世のわしでは思いつかなかったことだ。これも、フォーゲルの頭の小チート、何かの大きなチートの二つのチートがなされたおかげであろうか。
「副官。オーディンの統帥本部に回線をつないでくれ。一度、作戦を中断し、艦隊を撤退させるべきであると直訴する」
「は? 提督。それではティアマトが……」
副官がまた「大丈夫かこのおっさんは」という顔をしてきたが、こちらにはちゃんと考えあってのことだ。
「今のままで迎撃し続けても、向こうが完全な戦力を出してきたら守りきれないだろう。それなら、ティアマトは一度叛乱軍にくれてやり、こちらが全部再編成できたうえで出陣し、取り返せばいい」
「な、なるほど! 今までの提督とは思えぬ……もとい、見事なお考え、この副官、感服いたしました!」
「……そうか。ともあれ、回線を開いてくれ」
そしてわしの意見を心をこめて直訴した結果、統帥本部総長のシュタインホフ元帥はその意見を受け入れてくれた。
作戦中止が発表され、ティアマトに展開していた艦隊は順次星域を離脱していった。
* * * * *
そしてわしらの艦隊がオーディンに帰還したころ、旗艦から脱出したエルラッハの奴も、オーディンに帰還してきた。しかも奴は、ティアマトで奮戦した功績により、中将に昇格した! フォーゲルの中に入っているわしとはつながりのない者じゃが、それでも宿主であるフォーゲルの親友である彼が昇格したのはなんかうれしい。
「昇進おめでとう、エルラッハ提督。これで私と同等だな」
「あぁ。これで対等に肩を並べられる。これからもよろしく頼む、フォーゲル提督」
その一方、ミューゼル艦隊旗艦・ブリュンヒルトから降りてきたミューゼル提督とその副官・キルヒアイスを憎々しげに見つめる二人の人物がわしの目に留まった。
見間違えるはずはない。わしとわしの甥の姿だからだ。
そう、ブラウンシュヴァイク公爵と、その甥のフレーゲル男爵。この周回での彼らも、やはりいかにも門閥貴族というような、よろしくない空気をまとっていた。
まぁ、彼らは今回の周回でもミューゼルめにしてやられるだろうとは予想がついた。なんとかしてやりたい気もするが、前世のわしがそうだったからわかるが、外野が何を言ったところで、彼らは狭量と傲慢さとで拒絶するだけだろう。転生していくらか丸くなったわしがイレギュラーなのだ。
さて、帰還したわしは、さっそく艦隊の編成案を練ることにした。戦艦を増量し、ついでに工作艦と強襲揚陸艦も入れることにしよう。工作艦があれば、戦力の消耗を抑えられるし、惑星の占領に揚陸艦は欠かせない。惑星の占領は、功績が大きいのだ。
ついでに、幕僚も迎えることにしよう。少しでも我が艦隊の力を高められるように、有能な幕僚がほしい。
かくして、我が艦隊に三人の幕僚が迎えられた。
「ナイゼバッハ少将です。よろしくお願いします」
「バルトハウザー大佐です。突然本領を発揮させるようになったフォーゲル中将の幕僚に迎えられて光栄であります」
「……素直に『突然有能になった』と言っていいのだぞ、バルトハウザー大佐」
わしが苦笑いを浮かべつつ、ちょっと意地悪そうに言ってやると、バルトハウザー大佐は慌てて言いつくろった。
「い、いえ、そんな本当のこ……もとい、失礼なことは言えませんっ。それに、中将はもともと素質があったのでしょうからっ。今まではそれが眠っていただけで……」
その様子がおかしくてわしは思わず笑ってしまった。そしてそのまま大佐に言ってやる。
「気に入ったぞ、バルトハウザー大佐。卿にはわしの副官を任せる」
「わ、私が!? こ、光栄であります!」
そのバルトハウザーの後ろで、元の副官がしょんぼりしておるな。彼にも何かフォローしてやらねばなるまい。
「そんな顔をするな、ランテドルフ大佐。卿には我が艦隊の次席参謀を任せる。わしの戦術や戦略をうまくフォローしてくれ。期待している」
「はっ、ありがとうございます」
元副官改め新次席参謀となったランテドルフ大佐が胸をなでおろしたような顔をしている。もしかして、わしが彼を艦隊から放りだすと思っていたのか?
「フォーゲル中将。なぜ先に下賤なる者たちに言葉をかけられるのか? それは我が伯爵家に対する挑戦かな?」
と、横からかけられる声。いかん。こやつのことを忘れておった。
「そんなことはありませぬぞ、ヒルデスハイム伯。よく言うではないか。本命はあとから登場するものと」
「そうか、おいしいところを私に残してくれたのだな。さすがフォーゲル中将。我ら門閥貴族の尊さをよくわかっておられる」
いかにも、キラキラと周囲に光るものが見えそうな彼に、わしは愛想笑いを向けた。アンスバッハも、前世のわしにこんな苦労を焼いていたんだな。今度奴にお菓子の詰め合わせでも送ってやるか。
さて。この通り、本当は入れたくなかったのだが、門閥貴族のヒルデスハイム伯も、幕僚として迎えたのだ。
もちろん、その戦術戦略能力を評価してのことではない。こいつが艦隊指揮官として無能なのは、前世において、アルテナ星域会戦での敗戦を知ってわかっていたことだ。当時のわしは、バカだったから深く考えなかったが、フォーゲルに転生した時にその敗戦の報告を思い返してみると、なるほどやはりこいつは無能だとわかった。
というわけで、わしはこやつに艦隊戦での働きを期待しているわけではない。わしがこいつに期待しているのは政治工作能力だ。こいつは門閥貴族だけあって、コネが広く深く、その政治工作力は、ブラウンシュヴァイク公爵家に匹敵する。
彼には、我が艦隊の運営に関する政治工作において、その力を発揮してもらいたいと思っているのだ。
だが懸念が一つ。こやつは無能な癖に門閥貴族なだけあって、出しゃばりすぎるのだ。前世でのアルテナ星域会戦の時も、出しゃばって、シュターデン提督にしつこく出撃を要請して、結果あのアルテナでの敗戦を迎えたという。おそらく今回もでしゃばるだろう。それで勝てる戦いをダメにされたらたまったものではない。
そこでわしは、バルトハウザーを近くに呼んだ。
「は? フォーゲル提督、何か?」
「うむ、貴官に副官の他に、大切な任務を任せる。詳しくはこの封筒の中を読んでくれ」
と、彼にある包みと封筒を渡す。これこそ、あのヒルデスハイムを黙らせる秘策なのだ。
これで、再戦にあたっての準備は整った……と思いたい。
* * * * *
帝都オーディンのブラウンシュヴァイク公爵邸
「なんじゃ、アンスバッハ、その包みは?」
「はぁ……なぜか、フォーゲル提督から、私個人に宛てられた贈り物のようで……」
「フォーゲル提督からだと? 中将とはいえ、一軍人からのものなど、大したものではなかろう」
「いえ、高級菓子店の品物のようです。もちろん、毒見も済ませておきました。なぜ私個人にかはわかりませんが……公爵もお食べになりますか?」
なぜ、ブラ公をきれいにするのかって?
ああいうすがすがしい悪役ほど、きれいになった姿を見たいものではないか!w
それでは、また次回!
追記
一応、この後登場を予定している事件や戦いとしては
・アスターテ会戦(確定)
・リップシュタット戦役
・同盟領侵攻作戦(できたらいいなぁ)
を考えてます。もちろん、史実とは違う展開を迎えることになりますがw
なお、同盟領侵攻作戦は、史実でのラグナロック作戦にあたりますが、今のところ、することになったら史実とは全く違うものになる予感。
※誤字報告、ありがとうございました!