Show by Dream!! ~ セカイと音色と少女の円舞曲   作:津梨つな

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方針

 

 

 

 CiRCLE。夕日。凹む桜恋。つつくシアン。

 ――遅い。

 

 

「や、いくら何でも遅すぎでしょ。」

「うん……。」

「アンタは落ち込みすぎね。」

「だってぇ……。」

「後でちゃんと謝っときなよ。」

「うん……。」

 

 

 結局のところ、機嫌がよかろうが悪かろうが、元気だろうがそうでなかろうが面倒くさいのだ、瀬川桜恋という女は。

 さて、そろそろ本格的に焦らなきゃいけないかも。勿論練習が――というのもあるけど、今日の一番の目標は情報収集にあるんだから。それに、恐らく身寄りもなく行くところのないシアンの宿泊先も探さなきゃいけない。

 …まだまだやることは山積みなのだから。

 

 

「ごめんシアン。ウチのメンバー、何だかんだでいつもルーズでさ。」

「にゃ、あたしは全然、だいじょぶだにゃ。」

「ん。」

 

 

 あまり手掛かりという手掛かりも見つけられず、ただ只管に連れ回してしまっているのが現状だ。大丈夫とはいいつつも、疲れだってきっとあるはずだし。

 黙っていても仕方ないので、予約を入れたというメンバー――結夢に電話をかける。

 1コール…2コール…3コール………延々と鳴る呼び出し音が途切れることはなく、その聞きなれた声が聞こえてくることはない。

 あいつめ。

 

 

「……出ないにゃ?」

「うん…。ま、今更期待もしてないんだけどさ。」

 

 

 結夢が電話に出ないのはいつものこと。何を聞いているんだか、いつもイヤホンやらヘッドホンやらで耳を塞ぎ、ぼーっとした視線で歩き回る変な奴。

 連絡手段が専らメールやチャットになるのも、そのあたりが関係してるんだろうし。シアンには悪いけど、もう少しは待ちの状況で――

 

 

「……あ、いらっしゃーい。」

 

 

 諦めてスマホをポケットにしまいかけた時、まりなさんの元気な声が響く。個室スタジオの防音扉からはAfterglowの面々が奏でる音が漏れ出している上、店内BGMも流れているというのによく通る声だと思った。

 私自身声が通りにくく、飲食店での注文さえ苦労する身なので非常に羨ましい…と、そんなことを考えつつ店の玄関に目をやれば。

 

 

「ぁ……まりなさぁん、こんにちはぁ。」

「何だか久しぶりだね!最近忙しいんだって??」

「そうなんですぅ。先月は丸々参加できませんでしたぁ…。」

「ふふっ、人気者は辛いねぇ。」

「もぉ、そんなじゃないですよぉ…。」

 

 

 そこだけ空気が甘く柔らかいようで。しかしすっかり見慣れた光景。

 本人の言う通り、集まっての練習には久々の参加となるバンドメンバーが彼女だ。

 

 (ゆずりは)穂歌(ほのか)――

 どうやら地毛らしい淡い桃色の髪はふわりとエアリーな癖毛で、あまり目立たない革製のチョーカーをいつも身に着けている彼女は、ウチのバンドのメインボーカル。

 今のバンドを組む前、中学生の頃から音楽活動を続けているらしく、件の結夢とは相方という関係にあるようだ。

 スリムで背も高く、どこかほんわかとした雰囲気に独特のおっとりオーラ。これでもかというくらい世の男性陣を味方につける子だけど、不思議と女子からも嫌われていない……そんな子だ。

 

 

「今、誰が来てますかぁ?」

「えっとね、月渚ちゃんと桜恋ちゃんだけかな!…ほら、あそこのテーブル。」

「……ぁ!」

 

 

 話し方もふわふわとした穂歌が、まりなさんの指す指を追うように視線をこちらに向ける。ぱぁっと花が咲くように微笑んだ彼女に、いつものように左手を軽く振って応えた。

 そのまままりなさんに会釈し、とてとてと近づいてくる。どうでもいいことではあるが、まりなさんがこちらを指す前に桜恋は何処かへ行ってしまった。トイレか何かだろう。

 

 

「月渚さぁん、こんにちはぁ。」

「ん、おつかれ。ガッコ、終わったんだ?」

「はい。今日は廊下の掃除担当だったんで、割と早く来れましたぁ。」

「そ。……結夢から何か聞いてない?あいつまだ連絡もつかないんだけど。」

「ぁ……そういえば、どこかに寄ってから来る…みたいなことを、お昼にお電話で言ってましたぁ。」

「…そういうのは全員に連絡しろっつの。まいいや。神無子ももうじき来るだろうし、先に紹介しとくね。」

 

 

 話に参加するタイミングを窺っていたのか、きょろきょろと会話のキャッチボールに合わせて視線を動かしていたカワイ子ちゃんを紹介することに。

 私の言葉にビクッと体を震わせ、慌てて姿勢を正す姿なんかもう……可愛すぎて辛い。

 

 

「にゃっ…。」

「にゃ……??ねこちゃんですかぁ…?」

「この子、シアンっていうんだ。昼間知り合ったばかりだけど、いろいろあって連れてきた。」

「し、シアンです…にゃ。よろしく、お願いしますっ。」

「あはは~、可愛いお洋服ですねぇ。」

「シアン、こっちのふわふわしてんのは穂歌。私と、同じバンドの子。」

「穂歌っていいまぁす。シアンちゃん、よろしくお願いしますねぇ。」

「にゃにゃっ、覚えたにゃ!……ホノカは、ルナよりもお姉さんなのにゃ?」

「う"…。」

「あはは~。」

 

 

 シアンの言いたいことはなんとなくわかる。何せ私に比べ穂歌は背が高い。おまけに漂う雰囲気もどこか大人っぽいし、物腰も柔らかい。

 要するに"全体的なお姉さん"なのだ。

 穂歌的には、背ばかり大きくなって、声や内心が縮こまってしまっているのがコンプレックスらしいけど……外見は完全に勝ち組だし、何言ってんだって感じだよね。

 や、別に羨ましいとか、そういうわけじゃないけどね。

 

 

()()はぁ、月渚さんの一つ後輩さんなんですよぉ。」

「にゃんと…。」

「悪かったね、子供で。」

「にゃ!そ、そんなつもりはないにゃぁ!」

「ふーんだ。」

「にゃぁああ!!ルナぁ!!」

「あはは~、仲良しさんですねぇ。」

 

 

 穂歌は自分のことを"ほの"という。飽く迄普段使いの話だけど、基本的にはちょっと痛い印象さえある子なのだ。

 でも私の方が子供に見えるんだよなぁ……くそぅ。

 シアンを弄って遊んでいると、制服で両手を拭き拭き、すっきりした表情の桜恋が戻ってくる。ドリンクバーのコーナーまで来たあたりで穂歌に気付き、嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

 

「あ、穂歌(ユズ)ー!!来てたんだ!!」

「桜恋さぁん、こんにちはぁ。」

「すっごい久しぶりよね!はぁー、何か感動!!」

「大袈裟ですよぉ。…どこ行ってたんです?」

「トイレ!!すっきりしたよ!!」

「桜恋、元気に下品なのやめな。」

「えーいいじゃん。出るもんは出るんだし。」

 

 

 何はともあれ、機嫌が直ったようでよかったけども。

 一つの丸テーブルを囲む4人。こうしてみると、ある意味では壮観かも知れない。

 シアンを除いたとしても皆違う制服。いくつかのガールズバンドに知り合いこそいるが、皆跨いでいてもいい所ニ校。三つの学校の生徒でバンドを組んでいる私たちは、ただでさえ集まる機会が少ないといっても過言ではないだろう。

 因みに穂歌が通っているのはこの辺でも有名なお嬢様学校で、私や桜恋じゃ到底釣り合わないような上品なところだ。名前…なんだっけな。月とか森とか、そんなだったような。

 

 

「ユズ、結夢に何か聞いてる?遅くなる~とか。」

「桜恋、その(くだり)もうやった。」

「……じゃ、じゃあ、そっちのネコミミの子!紹介するとか――」

「それもやった。」

「うそ!!あたしされてない!!」

「アンタ蘭に絡みに行ってたからでしょ。」

「止めてよ!!」

「にゃにゃ、あたし、シアンって言うにゃ――」

「シアン、今じゃない。」

「にゃぅ……」

 

 

 ああもう。全然手に負えない。

 ご覧の通り、落ち込んでいても元気でも面倒なのやつなのだ、桜恋は。

 外見は整っているだけに、本当に勿体ない。

 

 

「あは~。ところで、もう入っちゃいませんかぁ?」

「ん。」

「スタジオ。時間始まっちゃってますよねぇ?」

 

 

 言われて改めて時計を見上げる。……うん、遅れている人間を待たなきゃいけない義務はない。時間は有限なのだ。

 が、今ここにいるメンツで練習が成り立つかと聞かれたらとてもじゃないが首を縦には振れまい。何しろ――

 

 

「??何よミル、おっかない目で見て。」

 

 

 瀬川桜恋。馬鹿担当…もといドラム担当。譜面どころか数分前の自分の機嫌すら覚えていられないばぶちゃん。

 

 

「あはは~、月渚さん目つきがヤンキーさんですよぉ。」

 

 

 楪穂歌。我がバンドのヴィジュアル担当。……兼、メインボーカル&ピアニスト。これもう属性詰め込みすぎてわかんねえな。

 

 

「……に、にゃぁ??あんまり見ないで…ほしいにゃ…。」

 

 

 シアン。超絶あざとい可愛さ担当。いやまあ、うん、ウチのメンバーじゃないから頭数に入れるもんじゃないけど、ギターの腕はかなりのものだと思う。声もかわいい。

 

 

「……。」

 

 

 そして私。ベース担当。

 ……演奏が成り立たない、という訳でもないけど。グルーブ面を意識して考えるなら、結局の所個人練習にしかならないだろう。

 自分ひとりじゃ気づけ無いことを突き合うのが関の山だ。

 

 

「ま、確かにユズが言うとおりだよねー。入っちゃおっか、スタジオ?」

「んー……シアン、それでもいい?」

「んにゃっ!?…あ、あたしは、その……ルナにおまかせするにゃ。」

 

 

 鞄からスティックを取り出してやる気に満ち溢れた様子の桜恋。念の為を思ってシアンに振ってみるも、ある程度予想した通りの反応が返ってきた。

 付き合わせてしまうようで申し訳ないけど、元より少しでも情報が集まればと思いやってきたここ、CiRCLEだ。メンバーが揃い次第近況でも聞いてみようじゃないか。

 

 

「ん、そっか。」

「決まりね!…()()()()()、あたし達の演奏、痺れるから覚悟しときなよ?」

「……シアちゃん?」

 

 

 無駄に綺麗な緑髪を振り乱して、テーブルに身を乗り出す桜恋。相変わらずの早さで呼び名を決めたらしい彼女に、思わず反応してしまった。

 

 

「そ。シアン、だからシアちゃん。」

「えぇ…何その中途半端な短縮。寧ろむずむずするような。」

「ミルは感覚がズレてるからそう感じんのよ。……ね、いい呼び名だよね、ユズ?」

「あはは~、ほのはわかりませぇん。」

「ほら、ユズは否定しないじゃん!」

 

 

 ドヤ顔されても。

 基本的に穂歌には意見や感想を求めても無駄なのだ。ふわふわしているというか、どこか風に靡く暖簾のような、手応えのない子だし。

 その性格故か、穂歌の周りでは基本的に問題も揉め事の類も起きることがない。起きたとしても、そのコミュニティを穂歌が去った後になる。

 上手に生きている、いや、事なかれ主義なのか。

 

 

「にゃ……ホノカは何も考えていないにゃ?」

 

 

 こらシアン。色々遠回りな表現を探してるっていうのに、私の苦労を無駄にしないの。

 

 

「あはは~、よく言われちゃいますねぇ。」

 

 

 アンタも、否定しなよ。

 

 

 

* * *

 

 

 

 再びカウンターの方に戻ってきていたジョウくんをチラ見しつつ、スタジオへと入る。

 すっかり通い慣れた個室。他バンドの子が言うにはそこそこ年季の入ったライブハウスらしいが、メンテナンスが行き届いているのか設備は良好、自宅での音楽活動が難しい昨今の若者にとっては最適な場所だった。

 CiRCLEには練習用の個室スタジオが数個あり、ここG-2番ルームは私達のバンド仕様にセットアップされていた。というのも、楽器構成が特殊だったり、運搬が難しい楽器を扱うバンドの相談に乗ってくれる…というのがここの方針であるからで、そもそもここに通い出したのもその話を聞きつけたからだった。

 確か他の個室スタジオだと、DJ用の設備が常設されていたり、ダンスを練習するための鏡付きスペースが設けられていたりと、バンド毎の特色が垣間見える構成の部屋もあった。勿論通常の、特に何も置いていないスタジオスペースもあるのだが。

 

 

「さてと、そんじゃ取り敢えず20分くらい目処で各自アップね。それから――」

 

 

 ゴトゴトとドラムセットの位置取りを微調整しながら桜恋が指示を飛ばす。あんなんでも一応リーダーなるポジションに居座る彼女もまた、音楽に魅了された一人なのだ。

 特に誰も返事をしないが、共に音を奏でる仲間として信頼の置ける人間であることは分かっている。バンドメンバーとしては、だが。

 

 

「結夢ちゃん達いつ頃来ますかねぇ。」

「さーね。遅いときはとことん遅いし。」

「神無子さんも、遅くなるんですよねぇ?」

「ん。あいつはほら、こころの面倒見なきゃだし。」

「それもそうですねぇ。」

「ほんと、よくやるよね…。」

 

 

 家系的な繋がりがあるとはいえ、毎日弦巻こころと過ごすなんて想像もできない。

 頭に浮かんだあの太陽のような笑顔を振り払うように、チューニングを始める。

 チューナーを取り付けて、いつものように4弦から弾く。体に響き、染み込むような相棒の音色。同時に浮かぶ高揚感。この胸にズシンと来るような低音域が、私はたまらなく好き。

 

 

「……よし。」

 

 

 そういえばシアンが静かだ。手持ち無沙汰だしろうし、ざっと合わせ終えたらちょっかいでも出しに行こうか…と入口の方を見やれば、ドアのすぐ近くに貼られたポスターの前で固まっていた。

 3弦がややフラット気味だなと思いながら眺めていれば、ピコピコと耳が動いているのが見えた。かわいい。やはり本物の耳なのだ。

 にしても何をそんなに熱心に見ているのだろう。

 

 

「シアちゃーん。何か面白いポスターでも見つけた?」

 

 

 あ、くそ。桜恋に先を越された。

 あまりどやどやと詰め寄るのも可愛そうだし、一先ずチューニングに集中するふりをして耳だけ会話に傾けることにする。

 

 

「にゃ…この、ポスター……。」

「……ああ、再来週にある野外フェスかぁ。……気になるの??」

「にゃぅ…こ、この子たち、知ってる子達なのにゃ。」

「え"」

 

 

 なんだって?

 桜恋が潰れたヒキガエルのような音を喉から発すると同時に、思わずそちらに振り返ってしまった。ここに来る途中のCMの件もあるけど、もしかすると案外この世界にはMIDICITYへ繋がるヒントが散らばっているのかも知れない。

 だってこんな、地元の人に少し人気があるだけの小さなライブハウスにすらあるのだから。

 

 

「や、やだなぁシアちゃん、急なジョークでびっくりしちゃったよ!」

「ぅ??ジョークじゃ、ないにゃ。」

「だ、だって、この子たちって少し前に電撃デビューで有名になったアイドルグループだよ?」

「にゃん。」

「……そりゃ、シアちゃんも芸能界で通用するくらい可愛いけど……え、実はアイドルだったりする?シアちゃん。」

「にゃにゃ!?どうしてそうなったにゃ!?」

 

 

 確かに可愛い、可愛いよシアン。

 だがしかし、少し前に電撃デビューしたアイドルグループ、と言えば…。

 

 

「どうしたんですかぁ、桜恋さぁん。」

「どうもこうも、シアちゃんがこの子達と知り合いだって言うからさぁ!!」

「んぅ~??……ああ!今話題ですよねぇ、名前は確か――」

 

 

 お喋りが気になってか、穂歌が駆け寄っていく。興奮した様子で現状を伝える桜恋。

 何故そんなにムキになっているのかと思えば、そういえば桜恋はアイドルとかそういうの大好きだっけ。"可愛いものと綺麗なものは世界を…ひいてはあたしを救う!!"とか高らかに言ってたっけな。

 勿論、それほどのアイドル大好き人間ではない穂歌も、そして私でさえも存在を知っている少女たちがそのポスターに写っていて。

 

 

「「"クリティクリスタ"!!」」

 

 

 桜恋と穂歌の声が重なる。

 出身地や本名、経歴など全てのバックボーンが謎に包まれていることで一躍有名になったアイドルバンドグループが、彼女たちなのだ。

 4人のメンバーでなるガールズバンドだが、その4人にはもっと分かりやすい共通点がある。

 皆、耳や尻尾などの"動物"を彷彿とさせるアクセサリーを身に着けていること。そして、本当に同じ人間なのか疑わしいほどの愛らしさがあること。

 

 

「クリティ…クリスタ。」

「にゃにゃ!?ふたりとも、知ってるのにゃ!?」

 

 

 一体、何が起きていると言うの?シアンって、クリティクリスタって、何者?

 目の前にある謎は、解き明かすどころか深まっていく一方だったが、情報を見つけたのなら動くしかあるまい。相棒のチューニングもそこそこに、三人の輪の中に入っていった。

 

 

「シアン、知り合いだって?」

「およ、珍しいじゃん?ミルがこの手の話題に入ってくるなんて。」

 

 

 芸能関係に疎い私の参入に桜恋が目を丸くするが知ったこっちゃない。

 改めて真剣にポスターを見れば、確かにポーズを決めていたのはクリティクリスタだった。巷では"クリクリ"との愛称がつけられているらしい。

 

 

「にゃ、さっきの、カレーのCMに映っていたのもこの子にゃ。」

「まじかよ。」

「カレー?……ぁ、Michelleカレーですねぇ。ほのも、大好きですぅ。」

「出てるねぇ!ツキノちゃん、ご飯食べてる時のほっぺが凶悪的に可愛いんだよね!!」

 

 

 確かに知名度はすごそうだ。桜恋の興奮度合いを見ていてもわかるし、確かにこの子達はどこか人間離れした可愛らしさがある。

 何が、とは説明できないが視線が吸われるような、そんな危うい魅力が。

 ポスターの内容的には、野外フェスの開催とチケット情報を告知するものだったが、実際張り出されているのを見てからこっち特に気にしたこともなかった。

 

 

「……ふむ、"あのクリクリも出演!この夏最高の思い出を、音と熱に乗せて!!"…か。」

「お、何ミル。興味出ちゃった感じ??」

「……。」

 

 

 他にもずらずらとアーティストの名前が書き連ねてあるがどうでもいい。そもそもよく知らないし。

 だが、二列目の中央辺り、大御所っぽいアーティスト名に挟まれるようにして載っているクリティクリスタの文字に、私は釘付けだった。

 どうにかして、コンタクトが取れないか。頭の中ではこの一点だけを考えていたが。

 

 

「クリクリ、会えないかな。」

「はぁ!?…ちょ、ちょま、ミル、アンタもジョークとか言っちゃうタイプの人間だっけ!?」

「…………。」

「あ、わかった。睨まないで。……やっぱ、ジョークとかないよね、あんたは。」

 

 

 テンションの波が鬱陶しい。が、私の無言の間に色々察してくれたようで。

 しかし驚かれるのも当然だろう。相手は芸能人だ。私のような一般人がどう足掻いたところで、関わりを持とうなどとは夢物語。タチの悪い冗句か頭がおかしくなったと思われるか。

 

 

「シアンちゃんがお知り合いなら、会わせてもらえるのではぁ?」

 

 

 穂歌の提案。

 

 

「や、難しいでしょ。ここまで大々的に出てくるならフリーってこともないだろうし、事務所所属だとしたら徹底的にブロックされるだろうし…。」

 

 

 桜恋のもっともな意見。

 

 

「…えうぅ、難しいですぅ。」

 

 

 ……どうしたもんか。

 真っ向からアポイントメントを取るのは不可能だとして、芸能界にコネでもあればワンチャンス、光明は見えてくるかも知れない。

 

 

「……そうだ穂歌。昔、結夢と一緒にプロダクション所属してたんじゃなかったっけ。」

「ふぇ?」

 

 

 穂歌と結夢は中学1年生の頃に音楽活動をスタート。共に趣味の楽器演奏と歌を動画投稿サイト等で披露していた程度の始まりだったが、その才能に目をつけた音楽関係者にスカウトされたとかなんとか。

 ステージにも立っていたみたいだし、それなりにコネクションが見つかれば…と思ったんだけど。

 

 

「ぁー……えと、月ノ森(つきのもり)に進学するときに退所しちゃってぇ…。その、校則だったのでぇ。」

「校則?」

「はいぃ。月ノ森って、事務所所属とかNGなんですぅ。」

「へぇ…。」

 

 

 一流の人材を育成し社会に貢献することをモットーとしている月ノ森女子学園。穂歌からその事実を聞き後ほど調べてみたがどうやら本当らしい。

 よりよいステップへ進むために卒業まで特定の繋がりを持つことは許されないんだとか。そうまでして進学した目的はわからないが、どうやらこの策は失敗だ。

 

 

「……芸能界に繋がりでもあれば、と思ったけど。」

「す、すいませぇん、お力になれず…。」

「あいや、別に責めてるわけじゃないよ。私こそごめん。」

「にゃ、ルナ。」

「ん。」

「げーのーかいって何にゃ??」

 

 

 びし、と勢いよく挙手するシアン。考えるのに手一杯であまり気にしてやれなかったと少し反省しつつ聞けば、文化の違いがここにも。

 どう答えたものか。

 

 

「え。シアちゃんってもしかして天然…?」

「にゃ??」

「…桜恋は取り敢えず放っといて、芸能界っていうのは……ええと…」

 

 

 やばい。上手に説明できない。

 桜恋はまた恨めしそうな目で睨んでくるし、助けを求める気持ちで穂歌を見れば……考えが伝わったのか、にっこりと笑みを返してくれる。

 

 

「ええとですね、シアンちゃん。お芝居とか、音楽とか、トークだとか…そういう、ヒトが表現として発信するものをぜーんぶ纏めて"芸能"って言うんですぅ。」

「にゃ、なるほど…。」

「その芸能…系の何かを、お仕事として頑張っている人たちの世界を、芸能界って言うんですよぅ。」

 

 

 さすが穂歌。纏めが上手い。

 シアンも納得したようで、次なる質問を飛ばしてくる。

 

 

「わかったにゃぁ。…それで、ルナは、げーのーかいにお友達が欲しいのかにゃ??」

「へ?……なんで?」

 

 

 今度の質問はより難しい。唐突すぎて意図がわからない類のやつや。

 

 

「ぅ…"芸能界に繋がりでもあれば"って…そういうことじゃないにゃ…?」

「……ああ、そういうことか。」

「…何だか、シアちゃんって驚くほどピュアで…いいね?」

「あ?」

「どうしてミルが睨んでくるかわかんないけど…言葉通り受け取るっていうか、発想が汚れてないっていうか。」

「あはは~、小さいこどもみたいですよねぇ。」

 

 

 確かに。実年齢は聞いちゃいないが、外見からしてそんなに離れた歳では無さそうだし。

 にしては純粋というか、本当に素直な感情を晒してくる感じ。少なくとも周囲には居ないタイプだし、可愛らしさの要因の一つも担っているのかも知れない。

 

 

「にゃ??にゃぁ???」

 

 

 本人は無自覚みたいだけど。

 

 

「ってかさミル。」

「なに。」

「芸能人を利用してクリクリとお近づきになろうとしてるんでしょ??」

「言い方。…いや間違っちゃない、けど。」

「居るじゃん。」

「は?」

「芸能人、居るじゃん。割と近くにさ。」

「…………。」

 

 

 あっけらかんと言い放つ桜恋の言葉は私が選択肢から外していた人を明確に指していて。

 できれば使いたくなかった手段を、もうそれ以外に無いと定義づける、無遠慮で無策な指摘だった。

 

 分かっている。そもそもコネクションを利用するという手段を思いついたきっかけにもなったのが()()()の存在なのだから。

 件のフェスの、参加アーティストの中にも名を連ねているガールズバンド……それもアイドルというクリクリとの共通点も持っている、彼女ら。

 

 

「もぉ、だめですよ桜恋さぁん。」

「え?」

「月渚さんはあの…ほら…。」

「……あー…。」

 

 

 Pastel*Palettes(パステルパレット)。アイドルでありながらガールズバンドとしても活動している、矢鱈と顔面偏差値の高い人気グループ。

 一部メンバーが自分と同じ花咲川女子学園高等部に属しているため顔見知りではある、とはいえ。

 私が苦手とする、白鷺(しらさぎ)千聖(ちさと)が居るあのグループに交渉を持ちかけるのは、どうにも気が進まないのだ。

 

 

 






オリジナル用語解説
・SB69シリーズ・バンドリシリーズ共に登場しない、本作オリジナル部分について軽く触れていくコーナーです。

◆楪穂歌
 :月渚と同じバンドで活動中。
  ふわふわしていて、いつも眠そうな喋り方をする。

◆CiRCLE
 :原典で詳しく描かれていない為に項目入り。
  所謂お得意さんに優しい話のわかるライブハウス。

◆クリティクリスタ
 :こちらもオリジナル要素のみ記載。
  こっちの世界では基本的にアイドルとして扱われるあざとさ集団。
  デビューのエピソードも相まって知名度は凄まじい、が、
  それでいいのか芸能界。

◆月ノ森学園
 :校則については完全オリジナル。
  ちなみに中高一貫なのは変わらないが穂歌は他中学から進学する形で入学。

◆芸能界
 :そんなざっくり説明できるほど簡単な業界じゃないことは分かっています。
  ええ分かっていますとも。だからこそのオリジナル要素。
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