ハイスペック退屈少女と陰キャで淫乱な黒い猫 作:カボチャスパークリング
「ありがとうございます。ではそれで進めてみます」
数少ない友人との通話を終え、私は配信の準備を始める。
――咎月 荊。
私がバーチャルミャーチューバーとして活動するために作ったアバター。つまりはもう一人の私。
「く、黒猫さんに褒められてしまった」
基本的に休眠している私の表情も緩むのではないかと思うくらい、ふわっとした気持ちが胸に溢れる。
すぐにでもやりたい気持ちを抑え、1ヶ月程準備したかいがあったというものだ。
黒猫燦。
私がバーチャルミャーチューバーをやろうと思ったきっかけであり、私のイチオシ。
収益化記念ということでコメントをしたのだが、まさか私のことを知ってくれているとは。
昨日の配信もとても良かった。可愛い。動物の特徴を併せ持ったキャラクターの何が良いのかと思っていたが私が愚かだった。あの猫耳と尻尾こそ、人類の大発明なのだ。あれがあることで、感情表現がよりダイレクトに伝わり、その愛しさを何倍にも膨れさせている。人類は皆、猫耳と尻尾を付けるべきなのかもしれない。
さて、いつまでも、この幸せな余韻に浸っていたいが、今日はそういうわけにもいかない。
「あと準備するものは……」
前回の配信で次の配信日時は告知している。
黒猫さんをリスペクトするならば遅刻するべきかもしれないが、他人の真似をしているだけでは何事もいけないものだ。
幸いなことに友人から、配信のアドバイスを受けることが出来た。私も黒猫さんのように、皆を楽しませることが出来るはず。
私は準備を整えて、配信開始のボタンを押した。これを押したとき、私は切り替わる。
猫屋敷月華から、咎月荊に。
この瞬間が、私は堪らなく好きだ。
――自分ではない誰かになれた気がするから。
◆
#咎月荊
【初挑戦】メントスコーラやります【咎月荊】
チャンネル登録者数 22,434人
ダボッとした真っ黒な猫耳パーカーをすっぽり被り、大きなファスナーの付いたハイネックで口許は隠されている。
肌は白く、パーカーから覗く黒髪の、マゼンタのメッシュはやけに明るく映えていた。
「メントスコーラやります」
その銀色の瞳でカメラを真剣に見つめながら、私、咎月荊は右手に持ったコーラと、左手に持ったソフトキャンディを掲げる。
やります( ・`д・´)
唐突ww
何故にメントスコーラ?ww
↑ほんと草
挨拶とかないのねww
3Dは?
「前回、3Dで配信したのは自慢するためです。もう黒猫さんに褒めて貰えたので良いかなと」
自慢(挑発)
最新技術を飽きさせる黒猫
これは黒猫のせい
燃えろ黒猫よ
2Dもクオリティ高くないか?
企業勢と遜色ない
むしろ動きは断然良い
「まあ、前回は3Dの動作確認も含めたテスト配信でしたので。今後、状況次第で3Dも使っていきますよ」
前回は、正常に動作し、配信することが出来るのか、それを確認するために3分程の動画だった。
3Dは準備も大変で疲れるため、ここぞという時に使っていこうと思っている。
テスト配信であの完成度は企業も涙目
本当に個人勢なんですか?
「バーチャルミャーチューバーの企業に属さない、という定義では個人勢ということになります」
スポンサーがいるとか?
見た目に反して話し方堅いのすこ
↑ギャップ清楚という新属性
「趣味でやっておりますので、活動に必要な資金は全て私のポケットマネーで賄っております。活動に縛りが生じてしまいますので、今後もスポンサー等の契約は考えておりません」
ポケット(四次元)
石油王かな?
自己紹介とかしないんですか?
「自己紹介……?そういえば黒猫さんもやってましたね。初回配信では名乗ったくらいで詳しくやってませんし……やりましょう」
目に留まったコメントに対して答えていたのだけど、こんなにも質問が溢れるのはやはりまともな自己紹介をしていなかったからだろう。
あるてまの二期生のようにプロフィールなどを用意しておくべきだったが、気持ちがはやり過ぎてその辺が疎かになっていた。
バーチャルミャーチューバーという世界では私は素人も素人、こうしたコメントから学んでいかなければ。
「趣味でバーチャルミャーチューバーをやっております、咎月 荊です。先日、初配信をして今日が二回目になります」
ついに謎のベールが……!
ワクワクo(*゚∀゚*)o
「…………」
焦らすねぇ
こんだけ溜めて何がくるっ?
「…………それで、後は何をすれば」
www
やりましょう(キリッ)←数分前
↑小馬鹿にするな、俺も笑ったけどww
これはポン
クール系ポンコツは俺に刺さる
一気に加速したコメントに、まだ流れる文字を読むのに慣れておらず追い付けていないが、何となく馬鹿にされている気がする。
「どうやらもう自己紹介は不要のようですね」
拗ねたww
少しムッとしてるの助かる
これは清楚な可愛さ
推せる(迫真)
ズボン脱いだ
↑穿け
別に何とも思っていないが、全く特別な意図はないが、何となく自己紹介を区切る。
あれだ。あまり時間をかけていると、冷蔵庫から取り出しておいたコーラが温くなってしまいそうだったからだ。
「――では、本題のメントスコーラをやります」
コメントも読まずに、当初の目的であるメントスコーラへ話題を移す。自己紹介なんてもういい。これで視聴者の心を鷲掴みにしてやる!
「ツッキー本当にメントスコーラやってるww」
この時私は知らなかった。
メントスコーラを提案した友人がお腹抱えて私の配信を見ているということを。
続きます。