ハイスペック退屈少女と陰キャで淫乱な黒い猫   作:カボチャスパークリング

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#4 初めての銭湯

「銭湯……ですか?」

 

タクシーに二人で乗り込むと、すぐ近くに銭湯があるがどうでしょう?、とドライバーに勧められた。銭湯とは確か公衆浴場のことだったはず。

温泉には友人に連れられて行ったことがあるが、銭湯はまたそれとは趣が違うものなのだろう。もう半年くらいこの辺に住んでいるがそんな施設があったとは知らなかった。

自宅にお風呂があるのに態々銭湯にまで足を運ぶメリットもないし、特に気にしていなかったからだ。

 

「銭湯……」

 

隣で暁さんが目を輝かせていた。これは、友人が何かイタズラを仕掛けてくるときと同じ表情。わくわくが止まらない、というような雰囲気だ。

 

「猫屋敷さん、銭湯、行ってみませんか?」

 

キラキラした目。

そもそもこうなった原因は私であるし、何より、そういう目で見られると昔から断れない。

 

「そうですね」

 

私が頷くと、タクシーは走り出す。

初めての銭湯、私も少しだけ楽しみだった。

 

 

 

 

 

銭湯に来たは良いが、替えの服がない。絶望しかけたが、コインランドリーが併設されていた。

下着は売店で購入し、無料で貸し出している浴衣に着替える。後は濡れた衣服を洗濯機に入れ、起動。乾燥含めて終了まで一時間程あるので、その間にお風呂に入れば完璧、というわけだ。

 

 

「わ、肌白っ……」

 

「あの、あまり見られると……」

 

脱衣所で服を脱いでいると、暁さんからの視線を感じて少し恥ずかしくなる。別に見られて困るものでもないが、そうじろじろと見られたいものではない。

温泉に行った際、友人に、ツッキー、高級なホワイトアスパラガスみたいだね!と言われてショックを受けて以来、それなりに鍛えてはいるものの、人に見られることを想定しているわけではないからだ。

 

「ご、ごめんなさい!あんまりスタイルが良いから、つい」

 

顔を真っ赤にしてワタワタとする暁さんは年上に失礼かもしれないが悪戯を見つかった子供みたいで可愛い。

 

「ふむふむ、暁さんも中々良いと思いますが」

 

「ふぇ!?」

 

私の中の小さな嗜虐心が、ひょいっと顔を出す。じっくりと暁さんの裸体を爪先から徐々に上へと観察していくと、暁さんはみるみる紅くなり、ついには謎の言語を発して座り込んでしまった。ぞくぞくする。

 

「さあ、こんなところに座り込んでいては邪魔になりますし、風邪をひきますよ」

 

「だ、誰のせいですか!」

 

立ち上がるのに手を差し伸べたのだが、ぷりぷりと怒る暁さん。年上の拗ねた姿ってこんなに可愛いのか。いや、暁さんだから可愛いのか。彼女は、もう!とそのまま先にお風呂へ向かってしまった。可愛いな。

 

「おぉ……」

 

初めての銭湯。

脱衣所と浴場を隔てていた扉を開けると、湯煙が立ち上る中、鮮やかに浮かび上がる富士が視界いっぱいに広がった。

利用者は中途半端な時間だからか、誰もいない。暁さんも初めてらしく、周囲をキョロキョロと見回して感嘆の声を漏らした。

タイル張りの浴場は、正面に大きな湯船があり、その背面に巨大な富士と桜が描かれていた。シンプルでありながらどこか落ち着く雰囲気は、不思議な解放感と安心感という、ある種、矛盾した性質を併せ持つ特異な空間を演出している。

なるほど、これは風呂が広く普及した現代でも通う人がいるわけだ。自宅での入浴とは、その根本からして違うものがここにあるのだと理解した。

 

銭湯という独特な空間に感動していたが、いつまでも裸で突っ立っているわけにはいかない。

 

「猫屋敷さんって地毛ですか?」

 

シャワーを浴びて、やっとベタベタとした不快感から完全に解放され、二人並んで体を洗っていると、ずっと気になっていたのか、暁さんがそう切り出した。

 

「ああ、私、日本とロシアのダブルなんですよ。なのでこれは地毛です」

 

「へぇー、スッゴい綺麗ですよね」

 

「ありがとうございます」

 

人と違うこの髪を褒められるのが昔は苦痛だったが、今では素直に嬉しいと思えるのだから私も随分変わったものだ。猫のように気まぐれで、鳥のように自由で、恩人であり、友人である彼女の影響は計り知れない。

 

「そうだ暁さん、敬語でなくて良いですよ。恐らく私の方が年下ですから」

 

「えっ、おいくつなんですか?」

 

「17になります」

 

「17!?」

 

こんなに驚かれるとちょっと傷つく。初対面だといつも二つ三つは歳上に思われるし、そんなに老けてるのかな私。

友人からも、ツッキーはちょっと落ち着き過ぎだね、もっと遊ばないと、と良く言われる。世界一落ち着きがなく、遊び過ぎな友人に言われても説得力がなかったが、一考するべきなのかもしれない。

 

「あ!別に悪い意味じゃなくて、猫屋敷さん落ち着いてるし、大人っぽいから」

 

私の表情や間から、私のショックを感じ取ったのかフォローが入るが、言い方が変わったところで意味合いは同じである。学生の制服着たらキツイとか言われそう。うん、自分で言ってて落ち込んだ。

 

「……それに私の想像する17歳とあまりに差が」

 

これで燦と同い年……とか、燦が幼すぎるだけか、一部以外……とか、何を言っているのか良く聞こえなかったけど、何やら小声でぶつぶつと言いながら百面相する暁さん。

一見、クールそうに見えるが、意外に陽気というか、フレンドリーというか、とにかく楽しい人である。

私がそんな様子をじっと見ていたことに気がついたのか、暁さんは再び顔を紅くして、「ち、違うの!私、いつもはこんなんじゃないからね!ね!?」と何かを誤魔化すような雰囲気でわちゃわちゃ慌てていた。私は愉快な人だな、と思いながら頷いたのだが、暁さんは本当に違うのにー!と何やら涙目。良く分からないけど、可愛いので良し。

 

「わ、私のことは湊で良いから。ほら、暁さんってちょっと呼びにくいし」

 

「では、私のことも月華と。猫屋敷というのも長くて呼びにくいですから」

 

暁さんが唐突にそんなことを言ってきたので、遠慮なく湊さんと呼ばせて頂くことにして、私も名前呼びを提案した。

猫屋敷、こそ堅苦しく長いので中々に呼びにくい名字だ。

 

「月華ちゃんってカラオケは良く行くの?」

 

「いえ、実は初めてで――」

 

 

その後、ゆったりとおしゃべりをしながら銭湯を堪能した。大きな湯船を二人占め、反響する私たちの声が心地よい。

湊さんは、私のような口下手と話すのも得意らしく自然と会話を楽しむことが出来た。友人からは、ツッキーは斜め上のコミュ障だよ、と言われたことがあるがやはりそんなことはなかったか。

そうでなければ、湊さんがコミュ障の扱いに慣れているだけということになってしまう。

 

「ん、美味しい!体に染み渡るね!」

 

「はい、美味しいです」

 

銭湯では、お風呂から出た後に牛乳を飲むのがルーティンらしいので、湊さんはシンプルな牛乳、私はフルーツ牛乳を飲んでみた。

文字通りフルーティーな甘さは爽やかで、甘ったるいという程ではなく、火照った体に染み渡って、心地よい爽快感がやってきた。

 

入浴後は体内で水分が少なくなりやすい。

銭湯ではつい長風呂をしてしまいそうであるし、実際、私達もおしゃべりをしていて自宅での入浴よりもずっと長い時間、湯に浸かっていただろう。このルーティンは理に適った素晴らしいものだ。

 

 

「すっかり遅くなっちゃった――燦、怒ってるかな

 

 

身綺麗になり、カラオケ店に帰って来た私達。

 

銭湯で仲良くなったので、湊さんとは連絡先を交換した。

彼女はこの後、友人と夕食を食べに行くらしいのだが、そのお友達は人見知りらしいので私は遠慮した。

 

そもそも当初の目的は歌の練習だ。

初めてのカラオケに戸惑いつつ、数時間練習し、何曲かを仕上げることが出来た。次の配信では格好いいところを見せられると思う。いつまでもメントスコーラに敗北したままではいられないのである。

 

前回配信は諸事情(・・・)により突然の終了となり、次回の告知も出来ていないため、そのためのSNSアカウントも作るべきか。趣味でやっているのだから宣伝の必要はないと考えていたが、やはり沢山の人が見に来てくれた方が嬉しい。

 

「店員さん、今帰りなんですか?」

 

帰ったらアカウントを作ろうか、と考えつつ、受付で料金を支払い、店の外へ出ようとしたところで、スタッフルームから、私服の店員さんが出てきた。湊さんのお知り合いらしい、あの店員さんだ。

話を聞いてみると、やはり帰りだったらしいので、一先ず謝罪した。

 

「本日はお手数お掛けしまして申し訳ありませんでした」

 

「いえいえ、仕事ですから」

 

仕事とはいえ、突発的に余計なことをさせてしまったことは間違いない。それに湊さんのお知り合いなのだから仲良くしてもらいたい。

 

「どうです、この後お食事でも」

 

「へ?あ、その、よろしいのですか?」

 

「はい、ご馳走しますよ」

 

今度、菓子折持ってお礼に来ようと思っていたところだ。ここで会ったのも何かの縁。

店員さんも丁度夕食を食べに行くところだったようなので、私がご馳走することにした。

 

折角ご馳走するなら張り切らなくては。私は早速お気に入りの店に電話をして予約。タクシーも手配した。

急なお願いだったが快く席を用意してくれたので感謝だ。随分慌ただしそうな様子だったが、繁盛している様で何より。とても美味しいのできっと店員さんも喜んでくれるはずだ。

 

 

 

 

こうしてこの日、私のプライベートな連絡先に二人分の名前が追加された。

 

それが嬉しくて、気分の良かった私は、カラオケの影響もあって、もしかしたら鼻歌なんてものすら歌っていたかもしれないくらい楽しい気分だったわけだが、実は私が不在の間に、家でとんでもないことが起きていたと知るのはもう少し後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

数時間前、猫屋敷月華の家にて。

 

「ツッキー元気かーい!って……いない?引きこもりマスターのツッキーが外出している……だと!?んふふっ――やるか♪」

 

自由の化身、襲来。

 

 

 

 

 

 

 

▼おまけ▼

 

 

 

――とあるDisRoadより抜粋。

 

 

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#XXXX

23:20 十六夜桜花  黒猫さん

23:20 十六夜桜花  謝らせてほしい

23:20 十六夜桜花  ときめいてしまった

23:20 十六夜桜花  でもそれは美しいものを美しいと愛でるようなものなんだ……

23:21 十六夜桜花  確かにときめいたけど、一番は黒猫さんなんだよ!浮気じゃないんだよ!

23:21 十六夜桜花   今度二人で食事に行こう。きっとボクの気持ちが伝わるはずだから

23:21 十六夜桜花  本当に黒猫さんが一番な気持ちに嘘はないんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜桜花へメッセージを送信

 

 

「なんだこいつ?なんのことだろ?まあいいや、寝よ」




次話、友人の正体がついに……!(棒)

原作キャラと絡ませたい欲に負けた結果、リアルが続いていますが、物語の下準備的なものなので仕方ない(言い訳)。
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