BLEACH ―Out of Bounds― 作:百式(ももしき)
──
「すみません!うちの隊長見かけませんでしたか?」
「ん~、今日はうちには来てないね」
俺、
「瀞霊廷に居ないとなると…あそこか。まったく、面倒くさいな」
頬を伝う汗を拭い、悪態をつきながら目的地へと向かって駆け出した。
──瀞霊廷の外側、
周囲には太陽光を遮る遮蔽物も無く、暖かい日射しと心地よい風が流れるこの場所は、男にとってのお気に入りの場所であった。
携帯灰皿に吸殻を捨て、男は瞼を閉じて一眠りを始める。
不意に瞼に陰が落ちたため、眼を開けると男にとっては見慣れた顔が自分のことを見下ろしていた。
「おう、奥真」
「探しましたよ、一心さん」
声を掛けられた男、志波一心は悪びれた様子もなく屈託のない笑みを浮かべながら顔を上げた。
「なんだ、もう見つかっちまったのか。やれやれ、んじゃもう一本吸わせてくれよ」
こちらの返答も待たずに一心は煙草に火を点け吸い始め、お前もどうだと煙草を差し出してきた。正直、探し回って喉が渇いていたので、水が飲みたい気持ちの方が強かったが、あいにく手持ちもなく、ただ待つのも手持ち無沙汰なのでそれに応じることにした。
「じゃあお言葉に甘えて。でも、この一本吸ったら絶対戻ってくださいよ」
一心は「へいへい」と言いながら煙草とマッチを渡してくる。受け取った煙草に火を点け、肺に空気を送り吐き出す。煙から香る独特の匂いが辺りを包みこんだ。
暫く無言で煙草を嗜んでいると一心が口を開いた。
「そういや、あの件は進んでるのか?」
「姉の事ですか?…全然、収穫無しですよ」
「そうか、そうなるとやっぱ現世にいるんじゃねえか?」
「一応、現世の駐在任務の時も探してはいるんですけどね」
俺は元々現世で暮らしていた人間だったが、五十年程前に現世で
現世で死んだ魂は、死神に魂葬されるとこの世界に送られる。その時に現世の記憶は失われる筈なのだが、何故か俺は記憶を残していた。と言っても、残っていた記憶は断片的な物で、自分の名前や、双子の姉が居たことを憶えているぐらいのものだ。
俺が殺されたあの日、姉も一緒に殺された。俺の脳裏に最も色濃く残る記憶だ。
俺を庇う姉の身体を貫く刀──
朱に染まった世界──
崩れ落ちる姉を見下ろす人影──
俺に振り下ろされる刀──
まるで昨日のことのように思い出せる最後の記憶。しかし、誰に殺されたのか、何故自分達が殺されなければならなかったのか、その理由については思い出せない。
ズキン、と頭に痛みを覚える。
「誰がお前達を魂葬したかは解らないのか?」
「他の隊士に聞いたり、記録室で調べたりしてるんですけどね、何でか当時の記録が無いんですよ」
尸魂界に送られた俺が、記憶の中の面影を頼りに姉を探して十年程経った時、一心さんと出会った。どうやら俺には霊力があるらしく、死神にならないかと勧誘に来たらしい。こちらの事情について知っているらしく、死神になることで姉を探す手段が増えると言われた俺はその話に飛び付いた。それから二十年経ち、死神になり今に至る。
「普通はそういった記録は残ってるもんなんだがな。悪いな、当てが外れちまった」
「そんなことないですよ。現世へは死神にならないと行けなかったわけですし。っと、話し込んじゃいましたね。煙草吸い終わったでしょ。もう戻りますよ」
気付けば煙草の葉の部分は燃え尽き、フィルタの部分しか残っていなかった。
「え、もうちょっと良いだろ?…ダメ?」
「ダメです。仕事残ってるんですから早くして下さい」
駄々をこねる一心の身体を引っ張り起こさせる。一心は渋々といった表情でそれに応じ、二人は瀞霊廷へと戻っていった。
──十番隊隊舎に着き、執務室の扉を開くと、書類仕事をしている少年と、その少年に話し掛けている女性が此方に顔を向けた。
「あら、奥真、おかえり。隊長連れ戻してくれたのね」
「奥真さん、お疲れ様です」
「ただいま。松本さん、冬獅郎」
書類仕事を黙々とこなしている少年は『日番谷 冬獅郎』。天才と呼ばれる神童で、俺より後に死神になったが既に第三席に属している。ちなみに俺は六席だ。
女性の方は『松本 乱菊さん』。副隊長ではあるのだが自由奔放な性格で、一心さん程ではないがよく仕事をサボっている。男性死神の多くから好意を寄せられている美人である…あとエロい。
「おう冬獅郎、仕事はどうだ?」
「あらかた終わらせましたよ。残ってるのは隊長の確認印が必要な書類だけですよ」
「お!さすが冬獅郎だな!」
本来であれば、自分が片付けなければいけない仕事を殆ど終わらせていた冬獅郎の頭をわしわしと撫で、一心は自席に腰を下ろし、印鑑を書類へポンポンと押していく。書類の内容を確認してないような気がするが、気にしないでおこう。
「それじゃあ、俺も自分の部屋に戻りますんで」
そう言って部屋から出ようとした時、コンコンと扉をノックする音が響き、執務室の扉が開かれた。
「失礼します。シロちゃんいますか?」
「あら、雛森じゃない。冬獅郎なら居るわよ」
開かれた扉から顔を覗かせたのは、五番隊に所属する死神『雛森 桃』だった。小柄な体型の美少女であり、冬獅郎の幼馴染とのことだ。彼女も俺の後輩で、霊術院時代から親交がある。
「何か用か、雛森。またサボりか?あと、その呼び方はやめろって言ってんだろ」
少し顔を朱くしながら幼馴染にぶっきらぼうにそう答える冬獅郎に対して、雛森は頬を膨らませた。
「もう!そういう意地悪言わないでよ!折角美味しいお饅頭持ってきたんだから、少し休憩しようよ。志波隊長もどうですか?」
時計を見ると午後3時を少し回っていた。
「お、もうこんな時間か。よし、休憩するぞ!」
「いや、一心さんはさっきまでサボってたでしょ!」
三人が同時に一心に突っ込みを入れるが、事情を知らない雛森だけはきょとんとした顔をしていた。
──とある場所。研究室のような部屋で二人の男がコンソールに表示された映像を見つめている。画面には全身が白い人の様な物体が培養液に浸されているのが映し出されていた。
「ふむ、漸く安定したようだね。もうじき完成と見ていいのかな?」
映し出された映像を見つめたまま片方の男が質問を投げる。
「はい、後数日もすれば外殻も固着されるので、そうなれば直ぐにでも投入可能です」
もう一方の白衣を着た男も、満足げな表情を浮かべながら答える。
「あの試作品に名前はあるのかい?」
「…ええ、名前はありますが、試作品と言うのはお止めください。あれは今までのとは次元が違うのですから」
「…そうだったね。すまない」
僅かに語気を強め抗議する白衣の男に対して謝罪する。
「いえ、私の方こそ申し訳ありませんでした。あれの名前は『ホワイト』。初の死神の魂を元に創りあげた虚です」
ここから数日後、物語は動き出す──