BLEACH ―Out of Bounds―   作:百式(ももしき)

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小説って難しい…


第2話 灰の空の下で君を想う

 

 

 

 

 

「シロちゃん、いつもこれだけの量の仕事をしてるの?大変だね」

 

「だから、その呼び方は止めろって言ってるだろ。…今日は一心さんだけじゃなく松本さんも居ないからな。手伝って貰って悪い、雛森」

 

 十番隊隊舎の執務室。冬獅郎は最早日課となりつつある山のように積まれた書類を黙々と片付けている。この日は一心の他に乱菊の姿も無く、代わりに乱菊の机に雛森が座り、積まれた書類を整理していた。

 

 

「休みの日なのに本当スマン…今度何か埋め合わせするから」

 

「じゃあ今度新しく出来た茶店に一緒に行こっか。そこのあんみつがすっごい美味しいんだって!」

 

 ばつが悪そうな顔をする冬獅郎に、雛森は笑顔で応える。そんな彼女の笑顔に冬獅郎の顔も少し緩んだ。

 甘いもんばっか食ったらまた太るぞ、と冬獅郎の照れ隠しの言葉に雛森は顔を真っ赤にし、太ってないもん!と反論をする。そんな他愛のないやりとりをしながら、二人はせっせと仕事を終わらせていった。

 

 昼休憩の時間になり、隊舎にある食堂で二人並んで食事を取る。食後のお茶を飲みながら、雛森は今朝の話を蒸し返していた。

 

 

「でも、いきなり乱菊さんから伝令神機(でんれいしんき)で仕事手伝って!って呼ばれたからビックリしちゃった。それに、その乱菊さんも居ないんだもん」

 

「今日はあの人が一心さんを探しに行ってるからな。てか、探すのに何時間経ってんだよ…」

 

 まさか、ミイラ取りがミイラになったかと冬獅郎は頭を悩ませる。

 

「ねえ、志波隊長っていつも仕事を抜け出してるの?」

 

「いつもって訳じゃ無いんだけどな」

 

 そう言われた冬獅郎はため息を吐く。雛森は隊長ともあろう者がそんな頻繁に業務を抜け出すことが信じられなかった。こと、自分が所属している五番隊の隊長である藍染 惣右介(あいぜん そうすけ)はそんなことは絶対にしないと断言できる。

 

「あれ、今日は片桐さんは居ないの?いつも志波隊長を探しにいくのは片桐さんのお仕事だよね?」

 

「いや、別にそういう仕事は無いんだけどな。奥真(おうま)さんは現世の駐在任務に行ってるんだよ。その間は他の隊士で一心さんを探してる」

 

「現世に?そっか、お姉さんを探してるんだっけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ──現世『鳴木市』

 

 

 

 

 市内を上空から哨戒していた奥真の元に、伝令神機(でんれいしんき)から(ホロウ)発見の知らせが届いたため、急ぎ現場へ向かっていた。

 

 虚が現れたのは歓楽街にある陽の当たらない路地裏だった。

 

 肉眼で確認した虚は、ある一点を見据え、何かをしきりに叫んでいるようだった。こちらの存在に気付いていない様なので、瞬歩で一気に虚の背後に接近し、すれ違いざまに腰に差した刀を横薙ぎに一閃する。

 

 

「ッ!?グオオォォォォ──ッ!」

 

 一瞬の出来事に虚は成す術もなく地面に崩れ去る。倒れた虚の身体が光に包まれ、徐々に消えていく。

 

「よし、一丁あがり」

 

 虚が完全に消え去ったことを確認し、奥真は刀を鞘に収める。虚が見ていた先に目を向けると、何かが震えているのが見え、微かに霊力も感じられた。

 

「お~い、もう大丈夫だぞ」

 

 薄暗い路地裏の奥で、小さな影が顔を覗かせた。

 

「あ、あの化け物は?お兄さんがやっつけたの?」

 

「ああ、もういない。出てきて良いぞ」

 

 その声に恐る恐ると姿を現したのは、小さな少年だった。

 

「怖かったな、もう安心だぞ」

 

「うん、お兄さん凄く強いんだね!あんな化け物を倒せるなんて!」

 

 そう言って顔を輝かせる少年に、奥真は何とも言えない複雑な表情をする。

 

「こんな所に居たら、また怖い思いをするぞ。…安全な場所に案内してやるよ」

 

「でも、お母さんを待ってなきゃ…絶対探しに行くから、ここで待ってろって言われたんだ…」

 

「…お前の母ちゃんなら、俺が先に見つけて安全な場所に避難してもらってる。だから、お前もそこに連れていくよ」

 

「え!?そうなの?良かったぁ…なら、僕も連れてって!」

 

 コロコロと表情の変わる少年に笑いながら、奥真は刀の柄尻を少年の額に押し付ける。すると少年の身体は先程の虚と同じ様に光に包まれ、次第に消えていく。

 

「ありがとう、お兄ちゃん。バイバイ」

 

 消えゆく少年が笑顔で手を振る。奥真も手を振り返し、少年の姿が消えたのを確認してから伝令神機を手に取った。

 

 

「報告のあった虚は討伐完了。──ああ、一緒にいた子供も魂葬したよ。尸魂界(あっち)で会えると良いけどな」

 

 

 報告も終わり、伝令神機の通話を切る。

 次にまた指令が届くまでは自由時間だ。奥真は地面を蹴り、上空へと舞うと個人的な用事を始めることにした。

 

 奥真が現世への駐在任務を率先して受けているのは、任務の合間に駐在地で姉の行方を探すためだ。

 といっても自分達がどこで生まれ、育ったのか憶えてないので、ただ闇雲に探しているだけである。

 時々、何故自分はそこまでして姉を探すのだろう、会って、どうしたいのだろうと考えることがある。失った記憶を取り戻したいのか、それとも別の理由か、とにかく彼女に会わなければならないという想いが心の底から溢れてくる。明確な答えは解らないまま、心の声に従い当てもなく探し続ける日々を送っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──奥真が現世に赴任してから、一週間が経過した。

 

 この日は朝から雨が降っていた。空は灰色に染まり、陽の光も届かない日は虚も活発になるのだろうか、今日はやけに虚の発見報告が奥真の元へ入ってくる。昼が過ぎ、夕方になって絶え間無く続いていた虚発見の報告は止み、ようやく一息つけた。

 雨はまだ止む気配はない。雨に濡れることに抵抗は無いが、何となく見つけた公園にあった大きな木の下で、休憩がてら雨宿りをすることにした。

 

 

「…雨、か」

 

 昔、まだ人間として生きていた頃の記憶がふと頭をよぎる。記憶の中の俺は今より幼くて、姉と二人で今のように雨宿りをしていた。子供の頃の俺は、雨が嫌いだった。どんよりとして、じめじめして、暗い気分になると姉に愚痴っていたことを憶えている。

 そんな俺に、姉は笑ってこう答えた。

(私は雨は好きだなぁ。雨が降った後の夜空は綺麗に星が出るんだよ。それを考えると雨も好きになれるよ。──そうだ!今夜、雨が止んだら一緒に星を見ようよ!約束ね!)

 

 

 記憶に残る幼い自分と姉が話した内容を思いだし、ふっと笑みがこぼれる。そうだ、姉を見つけることが出来たら、一緒に夜空を見よう。…約束だもんな。

 

 

 

 そろそろ休憩を止めて、見回りでもしようかと気を引き締め直した時、異様な霊圧を全身で感じ取った。つい先程までは何も感じられなかったのに、突然現れたそれに奥真は全身に鳥肌が立つような悪寒を感じた。

 

「なんだ、この霊圧は…」

 

 今まで感じたこともない強大な霊圧に嫌な予感がしつつも、発信源を確かめるべく霊圧が感じられる方へ向かうことにした。

 

 

 

 

「…あいつか?」

 

 奥真が目にしたのは、全身を黒い鎧のようなもので包み、胸の部分には肉の塊のようなものが埋め込まれた異質な存在だった。こちらに背を向けており、奥真の接近に気付いていないのか、微動だにしない。

 

 

 目の前に異様な霊圧を纏った者がいるのに、伝令神機からは何も呼び出しがない。

 尸魂界側では察知できていないのか?そう疑問に持ち、こちらから尸魂界へ連絡を入れようと奥真が伝令神機に手を伸ばした時、それは突然姿を消し、一気に目の前へ現れ刃と一体化した腕を振り下ろしてきた。

 

(──ッ!は、速っ──!)

 

 無意識のうちに抜いていた刀で何とか防ぐことは出来たが、衝撃で後方へ吹っ飛ばされてしまう。体勢を立て直し、襲撃者の方を向くが既に姿はない。瞬間、背後から強烈な殺気を感じられ、無我夢中で身を翻し刀を振るい、ガキンッと刃が重なる。

 鍔迫り合いの形となって初めて、奥真は襲撃者の顔を捉えた。その顔には白い仮面が取り付けられていた。

 

(―こいつ、虚なのか!?)

 

 押し退けようと力を込めるが、虚はびくともしない。寧ろ、こちらが力負けをして徐々に押し込まれていく。

 再び吹き飛ばされてしまい、虚も追撃のため猛スピードで後を追う。だが、奥真は冷静にその姿を捉え、眼前に迫る虚へ左手を突き出す。

 

「破道の三十一、赤火砲っ!」

 

 その手から巨大な火の玉が発射され、避ける間もなく虚に直撃し激しい爆発が起こった。詠唱破棄したとはいえ、かなりの霊力を込めた一撃だ。並の虚なら致命傷になる破壊力なのだが…

 

 

「まじかよ…」

 

 目の前の虚には傷どころか焦げ跡すら確認できない。何事も無かったかのように平然としている。しかし、その顔にはどこか怒りのような雰囲気を感じられた。

 

「オオォォォッ──!」

 

 虚は身が竦む程の雄叫びを上げる。その咆哮を真っ向から受けながら、奥真は刀を構え直し迎撃態勢を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奥真と虚が戦闘を繰り広げている場所より少し離れた位置に、黒い外套に身を包みフードを目深に被った三人の男が立っていた。そのうちの一人が、フードを僅かに持ち上げ戦いの行方を見ながら口元に笑みを浮かべる。

 

「片桐奥真…彼がここに居るとはね。これも何かの因果か」

 

「いかが致しますか?」

 

「予定外の事だが、少し様子を見ようか。彼が今どれ程の力を持っているか試すのも悪くない」

 

 その言葉に、他の二人も戦闘には介入しようとはせず傍観に徹することとした。

 

 

 

 

 

「──破道の五十八、闐嵐(てんらん)!」

 

 奥真の両手から、竜巻が巻き起こり、虚の身体を包み込むが、咆哮と共に竜巻は霧散する。だが、そうなることを読んでいた奥真はその隙に一気に距離を詰め、仮面目掛けて刀を振り下ろす。

 しかし虚は頭部より伸びた角で刀を受け、両腕の刃を交差させ奥真の腹を切り裂いた。奥真も(すんで)の所でそれを避ける。死覇装がバッサリと斬られたが、身体には届いていない。

 

(くそっ、こいつ強い!)

 

 奥真の全身から汗が止めどなく吹き出し、徐々に息も切れ始めてくる。虚は直ぐに距離を詰め、攻撃の手を緩めないが、紙一重でそれを(かわ)し続けながら言霊を紡いでいく。

 

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ」

 

 疲労から身体の動きは鈍り、徐々に虚の攻撃が当たり始め、血飛沫が舞うが奥真は一歩も退かない。今自分に出来る最大の攻撃を確実に当てるためにも、今の間合いを維持しなければならない。

 

「──ッ!今だ!破道の七十三、双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)!」

 

 虚が両腕を振り上げた一瞬の隙を見逃さず、奥真は完全詠唱した鬼道を放つ。蒼白い炎が二つ、重なるように虚は向かい、先程とは比較にならない程の爆炎が虚を包んだ。爆炎の余波は奥真の身体を吹き飛ばし、距離を置いていた三人の元へも爆風が届いた。

 

 

 

 

 

「うは、凄い威力やなぁ~。あれ、やられてもうたんちゃいますの?」

 

 爆風ではためくフードを押さえながら、三人のうちの一人が笑みを浮かべながら残りの二人の方を向く。

 

「ホワイトはあの程度でやられはしない」

 

 二人のうち一人がそう言い放つと同時に、爆炎の中から虚が飛び出した。

 

 飛び出してきた虚への反応が遅れた奥真が咄嗟に出した右腕に虚は噛み付いた。虚の歯が肉を突き破り、骨を砕く音が辺りに響く。

 

「ぐあぁあぁぁ──っ!!」

 

 あまりの痛みに奥真は絶叫を上げてしまう。その叫びに虚は噛み付いたままニヤリと笑うと、二本の角の先に光を収束させていく。

 

(まさか…虚閃(セロ)!?)

 

 虚の中でも大虚(メノスグランデ)と呼ばれる者だけが使える技を放とうとしていることに奥真は驚愕する。この至近距離で食らってしまえば命は無い。

 奥真は渾身の蹴りを虚の腹へ放つ。ブチブチ、と嫌な音を立てながら虚が食らい付いていた右腕の部分が千切れる。その痛みに意識を失いそうになるが何とか堪え、射線上から逃れようとする。

 

 虚の角の先の光が、光線となって奥真に迫る。眩い光と轟音が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、ここまでか。期待外れだな」

 

 光と轟音が収まり、辺りに静寂が訪れたところで、フードの男が冷めた口調で戦いの終わりを告げた。

 

「もう少しやれると思ったんだが、どうやら未だ斬魄刀の解放には至っていないようだね。単純に彼の力不足か、それとも別の要因か…。まあいい。今日試すつもりは無かったことだ。また別の機会に確かめるとしよう」

 

「それと、ホワイトの方も始解も出来ない席官相手に手こずるようではまだまだ完成とは言えないな」

 

「解りました。帰り次第再調整を行います。片桐奥真の方はどうしますか?」

 

「そのままにしておこう。先程の虚閃でさすがに異変に気付いたのだろう。他の死神が近付いてきているようだ」

 

「ええんですか?あのままほっといたらあの子、死ぬんとちゃいます?」

 

 笑みを浮かべる男が指を指す。その先には、右腕は食い千切られ、右脚を虚閃によって吹き飛ばされた奥真が倒れていた。

 

「問題ない。…ほら、見たまえ」

 

 

 そう言われた男は、奥真の方を見ると驚愕する。奥真の身体から失われた部位が少しずつ修復されていく。ほんの数十秒で、腕も脚も元通りになっていた。

 

「…何ですの、あれ?」

 

「ふっ、()()()()()()()()()()()()()。もっとも、彼が望んだわけではないものだが」

 

 

 

 

「さて、邪魔が入る前に戻ろうか…(かなめ)、ギン」

 

「はっ…藍染(あいぜん)様」

 

 要と呼ばれた男は、尸魂界への扉、穿界門(せんかいもん)を開く。開かれた扉の中へ、ホワイトを引き連れた要とギンが入っていく。

 

 

「片桐奥真、君に与えた力はその程度ではない筈だ。早くその力の全てを私に見せてくれることを楽しみにしているよ」

 

 藍染は奥真の方を一度見下ろし、笑いながらそう呟くと穿界門の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、騒ぎを聞き付けた他の死神によって、意識を失った奥真は救助された。十番隊にその知らせが届いたのは次の日の朝になってのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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